信用スコアとは
概要、問題点、情報社会学的観点
庄司 昌彦 masahiko.shoji@cc.musashi.ac.jp
武蔵大学社会学部教授 / 国際大学GLOCOM主幹研究員
Open Knowledge Japan代表理事 / MyData Japan理事 / MIAU理事
1
シラキジくん©武蔵大学
概要:背景、仕組み、事例
2
(背景・仕組み)芝麻信用について
• 提供企業
– アリババグループのアントフィナン
シャル社(杭州市)
– 主要事業
1)支付宝(アリペイ)
2)余額宝:資金運用
3)浙江網商銀行(ネット銀行)
:小企業向けローン
4)芝麻信用
5)保険
6)金融クラウド:他社に提供
• 参考:網商銀行「301モード」融資
– 3分で申請資料が完成し、人の関与が
0で、1秒で結果が出る
– 取引記録、経営状況、申請理由の3
点をAIが分析し審査
– 主に短期貸付。農民が農機や種を買
うために借りるのが典型
3
(背景・仕組み)芝麻信用
• 芝麻信用
– アリペイ付帯機能として2015年開始
– スコアで個人の信用力を企業等に示せる
– これまで信用力を示せなかった個人のためにある
• スコア
– 350~950点の範囲で算出(550~699点が多い)
– スコアを信用するかは利用者に委ね責任を負わない
• 5つの要素(右図)
– 1)身元情報(学歴、職業等)
2)支払能力(金融資産、不動産等)
3)クレジット履歴(料金支払履歴等)
4)人間関係(友人の数や質等)
5)消費行為の傾向(購買履歴等)
– 例:安定的に家賃を払っていることは重要だが、
アリペイで多額の利用をしているかは関係ない
4
※罰金の滞納や裁判の履歴情報等の政府データを利用している
という日本語文献の情報はあるが、現地インタビューでは政府
との関係は強く否定された
(背景・仕組み)芝麻信用
消費者のメリット
• デポジット不要化
– 高スコアでデポジットが不要に
– シェアリングエコノミー
• 自転車、車、雨傘、本の貸出
– ホテル、病院、賃貸物件
• その他メリット(例)
– 金利優遇
• アント社の金融商品
– ビザ取得
• シンガポールやルクセンブルク
のビザが取得しやすくなる
5
• AirBnBはAPIで芝麻信用とシステム連携
• アカウントの信頼性向上が目的
• スコアをホスト/ゲストに示せる
https://www.airbnb.jp/help/article/1222/what-is-zhima-verified-
and-how-does-it-work
(事例)他の信用スコアサービス
• 騰訊信用(Tencent Credit)
• 騰訊遊戯信用
– テンセントのゲーム版信用スコア
– アカウント情報、ログイン状況、
ゲーム上の資産、安全への貢献、ペ
ナルティの状況から算出
• 小白信用
– 中国ECサイト2番手の京東が提供
– モールでのブラウジング、商品購入、
支払い、情報登録等に基づき算出
• J-Score
– みずほ銀行+ソフトバンク
– AIスコア・レンディング
– AIスコア・リワード
• Yahoo!スコア
– 4分野のスコアと総合スコア
– Yahoo! JAPAN IDを作成すると生成
(オプトアウト)
– パートナー企業へ提供
(オプトイン)
• ランサーズ、HELLO CYCLING
TableCheck、クラウドワークス
6
https://www.yahoo-
help.jp/app/answers/detail/p/533/a_id/155977/~/yahoo%21%E3%82%B9%E3%82%B3%E3
%82%A2%E3%81%A8%E3%81%AF
https://www.jscore.co.jp/lending/about/
問題点・情報社会学的観点
7
問題点・情報社会学的観点
• 個人の利点
– 信用力の弱い個人(若者、外国人、
低所得者、フリーランス等)を多
角的に評価しエンパワーできる
– 高スコアの人ほどメリットを享受
– 詳細データを提供しないで済む
(一時的で抽象的な指標)
• 企業の利点
– シェアリングなど人が介在する新
興サービスの社会基盤に
– 優良顧客の選別・優遇に使える
(航空会社の「ステータス」に応
じた優遇に類似)
– 企業は総合点と5つの観点で判断。
必要以上の情報を入手が不要
8
• 社会への効果
̶ 信用の社会基盤
̶ マナー向上など社会を方向付ける可能性(社会統制の可能性も)
̶ 多様な情報源や評価軸で算出するスコアが並立すれば、多様な人材の活躍
機会を作るかもしれない
問題点・情報社会学的観点
• 信用スコアを信用できるか
– 算出基準はブラックボックス
– 社会基盤になれば、SEO的最適化
とのいたちごっこは不可避か
– 高スコア化を目指しアリババグ
ループ依存度を高める可能性
– 情報源や連携サービスなど可能
な限り最大限の透明性や説明責
任が求められるのではないか
– そもそもユーザーの方を向いて
いるのか。法人を評価すべきで
はないか
• 政府との関係
– 政府の「社会信用システム」と
は(現在は)別物。将来は不明
– 混同した(意図的に混同させ
た)議論が少なくない点に注意
– ただし監視の官民統合に要注意
(例:香港で交通カード使用を
避けるデモ参加者)
(例:操作関係事項照会)
– 完全匿名でも生きていける余地
を残しておく必要があるのでは
9

信用スコアとは 概要、問題点、情報社会学的観点

  • 1.
    信用スコアとは 概要、問題点、情報社会学的観点 庄司 昌彦 masahiko.shoji@cc.musashi.ac.jp 武蔵大学社会学部教授/ 国際大学GLOCOM主幹研究員 Open Knowledge Japan代表理事 / MyData Japan理事 / MIAU理事 1 シラキジくん©武蔵大学
  • 2.
  • 3.
    (背景・仕組み)芝麻信用について • 提供企業 – アリババグループのアントフィナン シャル社(杭州市) –主要事業 1)支付宝(アリペイ) 2)余額宝:資金運用 3)浙江網商銀行(ネット銀行) :小企業向けローン 4)芝麻信用 5)保険 6)金融クラウド:他社に提供 • 参考:網商銀行「301モード」融資 – 3分で申請資料が完成し、人の関与が 0で、1秒で結果が出る – 取引記録、経営状況、申請理由の3 点をAIが分析し審査 – 主に短期貸付。農民が農機や種を買 うために借りるのが典型 3
  • 4.
    (背景・仕組み)芝麻信用 • 芝麻信用 – アリペイ付帯機能として2015年開始 –スコアで個人の信用力を企業等に示せる – これまで信用力を示せなかった個人のためにある • スコア – 350~950点の範囲で算出(550~699点が多い) – スコアを信用するかは利用者に委ね責任を負わない • 5つの要素(右図) – 1)身元情報(学歴、職業等) 2)支払能力(金融資産、不動産等) 3)クレジット履歴(料金支払履歴等) 4)人間関係(友人の数や質等) 5)消費行為の傾向(購買履歴等) – 例:安定的に家賃を払っていることは重要だが、 アリペイで多額の利用をしているかは関係ない 4 ※罰金の滞納や裁判の履歴情報等の政府データを利用している という日本語文献の情報はあるが、現地インタビューでは政府 との関係は強く否定された
  • 5.
    (背景・仕組み)芝麻信用 消費者のメリット • デポジット不要化 – 高スコアでデポジットが不要に –シェアリングエコノミー • 自転車、車、雨傘、本の貸出 – ホテル、病院、賃貸物件 • その他メリット(例) – 金利優遇 • アント社の金融商品 – ビザ取得 • シンガポールやルクセンブルク のビザが取得しやすくなる 5 • AirBnBはAPIで芝麻信用とシステム連携 • アカウントの信頼性向上が目的 • スコアをホスト/ゲストに示せる https://www.airbnb.jp/help/article/1222/what-is-zhima-verified- and-how-does-it-work
  • 6.
    (事例)他の信用スコアサービス • 騰訊信用(Tencent Credit) •騰訊遊戯信用 – テンセントのゲーム版信用スコア – アカウント情報、ログイン状況、 ゲーム上の資産、安全への貢献、ペ ナルティの状況から算出 • 小白信用 – 中国ECサイト2番手の京東が提供 – モールでのブラウジング、商品購入、 支払い、情報登録等に基づき算出 • J-Score – みずほ銀行+ソフトバンク – AIスコア・レンディング – AIスコア・リワード • Yahoo!スコア – 4分野のスコアと総合スコア – Yahoo! JAPAN IDを作成すると生成 (オプトアウト) – パートナー企業へ提供 (オプトイン) • ランサーズ、HELLO CYCLING TableCheck、クラウドワークス 6 https://www.yahoo- help.jp/app/answers/detail/p/533/a_id/155977/~/yahoo%21%E3%82%B9%E3%82%B3%E3 %82%A2%E3%81%A8%E3%81%AF https://www.jscore.co.jp/lending/about/
  • 7.
  • 8.
    問題点・情報社会学的観点 • 個人の利点 – 信用力の弱い個人(若者、外国人、 低所得者、フリーランス等)を多 角的に評価しエンパワーできる –高スコアの人ほどメリットを享受 – 詳細データを提供しないで済む (一時的で抽象的な指標) • 企業の利点 – シェアリングなど人が介在する新 興サービスの社会基盤に – 優良顧客の選別・優遇に使える (航空会社の「ステータス」に応 じた優遇に類似) – 企業は総合点と5つの観点で判断。 必要以上の情報を入手が不要 8 • 社会への効果 ̶ 信用の社会基盤 ̶ マナー向上など社会を方向付ける可能性(社会統制の可能性も) ̶ 多様な情報源や評価軸で算出するスコアが並立すれば、多様な人材の活躍 機会を作るかもしれない
  • 9.
    問題点・情報社会学的観点 • 信用スコアを信用できるか – 算出基準はブラックボックス –社会基盤になれば、SEO的最適化 とのいたちごっこは不可避か – 高スコア化を目指しアリババグ ループ依存度を高める可能性 – 情報源や連携サービスなど可能 な限り最大限の透明性や説明責 任が求められるのではないか – そもそもユーザーの方を向いて いるのか。法人を評価すべきで はないか • 政府との関係 – 政府の「社会信用システム」と は(現在は)別物。将来は不明 – 混同した(意図的に混同させ た)議論が少なくない点に注意 – ただし監視の官民統合に要注意 (例:香港で交通カード使用を 避けるデモ参加者) (例:操作関係事項照会) – 完全匿名でも生きていける余地 を残しておく必要があるのでは 9