医療の質改善に
「患者視点のQI」を
いかに活用するか
〜患者経験:PXの導入〜
京都大学大学院医学研究科 医療疫学分野
医療政策学修士(MMA)
日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医・指導医
医療の質・患者安全委員会 副委員長
青木 拓也
本スライドでお伝えすること
「患者視点のQI」の重要性、
活用の実際
キーワード
①「患者経験(PX)」
②「プライマリ・ケア」
「質」は元々産業界で誕生した概念です。
その本来意味するところは?
1. 製品の性能・サービスの内容が科学的に
優れていること
2. 製品・サービスが安全であること
3. 製造・提供が効率的であること
4. 顧客のニーズ・価値に適合していること
1. 患者経験 (PX)
医療の質は多元的
IOM. Crossing the Quality Chasm. 2001
医療の質
有効性
効率性
患者
中心性
適時性
安全性
公平性
患者中心性とは
 「患者の嗜好・ニーズ・価値に応じたケアの提供」
- 産業界で誕生した本来の「質」と同義
- 質とは顧客(患者)の嗜好・ニーズ・価値への適合
 従来の評価法は患者満足度
 しかし医療の質評価において、
これまでは軽視されてきた
質評価における患者中心性の軽視
 臨床的な質 至上主義
エビデンス、ガイドラインへの適合を重視
 情報の非対称性が存在する「裏舞台」の重視
裏舞台:専門的で患者が理解しづらい側面
 有効な評価法の不在(患者満足度の問題点)
(5=「とても満足している」〜1=「全く満足していない」)
比較が困難、具体的な課題が見えてこない
表舞台と裏舞台
 すべての事業活動には裏舞台と表舞台がある
表舞台と裏舞台
 裏舞台
- ケアの提供に必要な情報の蓄積・処理、トレーニン
グ、物品の準備等
- 患者が認識しにくい質⇒情報の非対称性が存在
 表舞台
- ケア提供者と患者のやりとり・関わり合い
- 患者が認識する質⇒情報の非対称性は存在しない
 患者が評価しづらい裏舞台だけでなく、
表舞台も重要!
Teboul. Service is Front Stage. 2006
患者経験(PX)
 定義
「患者が、ケアプロセスの中で認識・経験する事象」
 患者満足度に代わる患者中心性の評価法
- 表舞台の評価
- 計量心理学的特性が検証された尺度を用いる
- 患者の視点を測定可能なデータとして活用
質改善活動の具体的課題を特定
他施設との比較、経時的な比較
患者経験尺度の項目例
 医師とのコミュニケーション
(5=「とてもそう思う」〜1=「全くそう思わない」の5段階で評価)
「この医療機関の医師は、あなたにとってもっとも重要な
問題は何であるか知っていますか。」
「この医療機関の医師は、あなたが心配していることや問
題について話す時間を十分にとっていますか。 」
「この医療機関の医師は、あなたの病気のすべての経過を
知っていますか。 」
患者経験は患者の行動を左右する
Doyle et al. BMJ open. 2013
Anhang et al. Med Care Res Rev. 2014
健康アウトカム
臨床的な質 患者経験(PX)
患者の行動
・アドヒアランス
・セルフマネジメント
・医療資源の利用
我々の臨床研究で得た知見
 予防医療行動(がん検診)
- 良い患者経験を持っている女性ほど、主治医の推奨に従
い乳がん検診をきちんと受けている
 アドバンス・ケア・プランニング
- 良い患者経験を持っている患者ほど、主治医と終末期に
備えた話し合いができている
 ケアのバイパス
- 良い患者経験を持っている患者ほど、新しい健康問題が
生じた際に、他の病院に不必要な受診をしない
Aoki T et al. Asia Pacific Family Medicine. 2017;16(3).
Aoki T et al. Family Practice. 2017;34(2):206-12.
医療の質
Triple Aim(3つの大目標)
Institute for Healthcare Improvement websiteより引用
2. プライマリ・ケアの質評価
プライマリ・ケア
 なにか相談したい健康上の心配事ができた
とき、最初にかかる医療
関連用語
かかりつけ医、家庭医療、総合診療、地域医療
 プライマリ・ケアと患者経験には深い関係
プライマリ・ケアの効用
 地域でプライマリ・ケアが充実すると
①死亡率など健康指標の改善
②所得階層別の健康指標格差の減少
③地域住民当たりの平均医療費減少
 疾病構造、医療費負担、患者価値観等の変化
▼
諸外国はプライマリ・ケア中心の医療制度へ移行
果たして日本は‥
プライマリ・ケアとは
 発揮する機能(特性)によって定義される
Primary care is the provision of integrated, accessible health care
services by clinicians who are accountable for addressing a large
majority of personal health care needs, developing a sustained
partnership with patients, and practicing in the context of family and
community.
IOM. Defining Primary Care: An Interim Report. 1994
プライマリ・ケアの特性
 近接性:かかりやすい
 継続性:医療者との人間関係を築きやすい
 協調性:保健・医療・介護・福祉分野と活発に連携
 包括性:幅広い内容の健康ニーズに対応する
 地域志向性:地域ニーズの把握、住民との協創
 家族志向性
日本PC連合学会 websiteから引用
総合診療専門医のコア・コンピテンシー
 人間中心の医療・ケア :継続性、家族志向性
 連携重視のマネジメント:協調性
 包括的統合アプローチ :包括性
 診療の場の多様性 :包括性
 地域志向アプローチ :地域志向性
 公益に資する職業規範
プライマリ・ケアの特性の評価
 医療の質評価において、特にプライマリ・ケアで
は患者経験(PX)が重要
- プライマリ・ケアでは、患者の価値観や個別性を
重視したケアが求められる
- 患者にとって医療のゲートに当たるため、患者が
認識する質がダイレクトに医療資源の利用に影響
する
 国際的に患者経験を用いる方法が学術的・実践的
に確立されつつある
患者経験の活用
 諸外国での活用例
- オランダ:診療報酬成果払い
- オーストラリア:プライマリ・ケア施設の認証基準
- 米国:Patient Centered Medical Homeの認証
専門医資格の更新
CAHPS (AHRQ)
- 英国:患者経験の結果を診療所単位で公開
専門医試験の一つである職場基盤評価
専門医資格の更新
GPPS (NHS)
 もちろん患者経験以外のインディケータも重要!
本日はプライマリ・ケアの話が
中心ですが‥
 在宅医療や介護の領域でも、患者経験(PX)・
顧客経験(CX)の活用が期待されている
- 米国:CAHPS Home Health Care
CAHPS Nursing Home
- オランダ:長期療養介護施設でのCQ-index
3. プライマリ・ケア質評価尺度
JPCAT
Japanese version of Primary Care
Assessment Tool(JPCAT)
 Johns Hopkins大で開発され、国際的に最も使用され
ているPrimary Care Assessment Toolをベース
 我が国のセッティングに合わせて開発・検証された初
の患者経験尺度
 近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性の5領
域、計29項目
 回答所要時間:5〜10分
Aoki T et al. Family Practice. 2016
JPCAT開発プロセス
1) 翻訳、逆翻訳
2) 研究班による項目レビュー
3) 専門家パネルによる検討(修正Delphi法)
4) 患者パネルによる検討(質的認識テスト)
5) 本調査
対象:住民基本台帳から無作為抽出した住民
構成概念妥当性の検証
因子的妥当性:探索的因子分析
基準関連妥当性:総合的満足度との相関係数
収束的・弁別的妥当性:多特性行列分析
信頼性の検証:Cronbachのα係数
JPCATの評価領域
=プライマリ・ケアの特性
 近接性:かかりやすさ
(時間的・心理的・地理的)
 継続性:医療者・患者間の深い相互関係
(対人的・時間的・情報的)
 協調性:保健・医療・介護・福祉分野と密に連携
 包括性:幅広い内容の健康ニーズに対応
 地域志向性:地域ニーズの把握、住民との協創
JPCAT項目例
 近接性
「診療時間外に体調がわるくなった場合、その医師の医療機関に電話
で連絡できますか。」
 継続性
「その医師は、あなたにとってもっとも重要な問題は何であるか知っ
ていますか。」
 協調性
「その医師または医療機関のスタッフは、専門医の予約をとる手助け
をしましたか。」
 包括性
「こころの問題に関する相談」 「自分らしい人生の終わり方の相談」
 地域志向性
「その医師は、医療が住民の要求をみたしているかどうかの調査をし
ていますか。」
JPCATの活用例
 プライマリ・ケアの現場での質改善
 プライマリ・ケアのヘルス・サービス研究
 第三者によるプライマリ・ケア機能評価
 プライマリ・ケア医に対する教育効果の評価
日本の一般診療所で
実施した患者経験調査
 セッティング:計28の医療生協・民医連診療所
(東北〜山陰エリア)
 対象者の選択:連続抽出
 調査項目:JPCAT自院評価版
 回答・回収:回答は無記名、院内または郵送で回収
 JPCATスコア:0〜100点(高得点ほど質が高い)
患者経験の施設間比較
 対象:全国28の医療生協・民医連診療所
質改善の優先度: Priority Matrix
患者経験を質改善の材料に
 Priority Matrixから優先順位が高い領域を特定
▼
 多職種で結果を共有
▼
 患者経験以外の情報(投書やインタビュー)も参考
▼
 取り組む質改善活動を具体化
実践例)A診療所のケース
 JPCATの結果:包括性と地域志向性が優先課題
▼
 多職種で質改善活動を具体化
① 75才以上の外来患者を対象としたアドバン
ス・ケア・プランニング活動(包括性)
② 親子カフェ(地域志向性)
ホームページ
http://www.primary-care-quality.com
公開から約1年で、すでに50以上の医療機関で活用
質改善活動への患者参画が促進
Take Home Message
 患者視点のQIである患者経験(PX)は、医療
(特にプライマリ・ケア)の質評価・改善に
有用である
 海外では在宅医療や介護領域でも活用
 Triple Aim(医療の質:3つの大目標)
患者経験
有効性
コスト(患者安全)
医療介護の質評価・改善に、
もっと患者の参画を!
おわりに
医療の質評価・改善の歴史は、医療者
の自発的な活動から始まり、発展
日本のプライマリ・ケアも!
今後プライマリ・ケアの質評価を目的とした
多施設調査を、さらに拡大する予定です。
ご関心ある方はjpcat204@gmail.comまで

医療の質改善に「患者視点のQI」をいかに活用するか〜患者経験:PXの導入〜