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2020年4月13日(月)
18時~
A・ヴァーミュール
(吉良貴之 訳)
『リスクの立憲主義』
オンライン読書会
1
本日の進行
18時00分~30分
訳者(吉良)による本書の紹介レクチャー
18時30分~19時過ぎぐらい?
参加者とのフリーディスカッション
2
本の情報
エイドリアン・ヴァーミュール
『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年12月)
3500円+税、全328ページ
元の本は、
Adrian Vermeule, The Constitution of Risk,
Cambridge University Press, 2014.
3
著者の紹介
エイドリアン・ヴァーミュール(Adrian Vermeule)
1968年、アメリカ生まれ。
ハーバード・ロースクールを卒業後、
アントニン・スカリア判事のロークラークなどを務める。
1998年からシカゴ・ロースクールに着任、
2006年からハーバード・ロースクール教授(公法学)。
「制度論的転回」を主導し、保守的な論調で知られる。
4
本書のざっくりした内容
「立憲主義」の新しい理解へ
権力の暴走を予防的に縛るだけの予防的立憲主義から、
関連するリスクをすべて考慮する最適化立憲主義へ。
「予防」に偏りすぎると逆効果になってしまう、
という例がアメリカ憲法史の豊富な例で示される。
→ 権力な適切なパフォーマンスを引き出す憲法へ
5
6
・表紙の写真はアメリカ・ワシントンDCの憲法通り
・ワシントン記念塔のほうを向いている信号は、赤? 青?
基本的な論法
ハーシュマン『反動のレトリック』の三分類を
憲法の議論に応用。
1. 無益 (futility): 予防策が無駄になる。
2. 危険性 (jeopardy): 予防策が別のリスクを高める。
3. 逆転 (perversity): 予防策が逆に悪化させる。
【考えるべきこと】
・担当部署にはそのリスクに対応する十分な能力があるか?
・特定のリスクだけ強調され、他のリスクが見逃されていないか?
7
基本的な枠組み
• 「リスク」対応で問題になりそうなことは
公衆衛生、環境問題、テロ対策、金融政策……など、
どんどん多種多様になっている: 行政国家化
• こうした「一階のリスク」は本書の対象ではない。
• 政府部門のどこが・どのリスクを・どう対応するか?
という、制度設計に関心が向けられている。
→ 制度とリスクの組み合わせに失敗するリスクが
「二階のリスク」「政治的リスク」。
8
具体例 (1) 緊急事態条項
・アメリカ合衆国憲法には大統領の緊急事態権力について、
それほどたいしたことは書かれていない。
・ブルース・アッカマンの「特別多数決エスカレータ」案
→ 議会承認のハードルが2ヶ月ごとに上がっていく
→ 60%、70%、80%……
・強権的支配への厳しい民主的チェック
・緊急事態の長期化を防ぐ仕組み
9
よさそう
だけど…?
We the People 第1巻の翻訳が5月に
10
具体例 (1) 緊急事態条項
ヴァーミュールによる批判
・特別多数決エスカレータは、議員たちのインセンティヴ
構造と両立しない。
→ 後になればなるほど厳しいチェックがなされると
わかっていれば、いま目立つことはしたくない。
→ むしろ先延ばしのインセンティヴを与えるため、
緊急事態の長期化・常態化を招いてしまう。
★ 各制度のなかで動く人々のインセンティヴ整合性を
時間的幅でもって考えることが必要。
11
具体例 (2) 専門家の意見
• 行政は専門家の意見をどこまで尊重すべきか?
→ 専門家の意見が認知的に信頼できる条件を
考える必要がある。
→ 無条件の尊重は、専門家のインセンティヴを
低めるのでよくない。
【問い】
専門家委員会の全員一致の判断は尊重に値するか?
12
具体例 (2) 専門家の意見
著者の主張:
全員一致はむしろ認知的に最悪に疑わしい状態
・専門家たちの内部で同調が起こっていないか
・専門家の多様性は十分に確保されているか
→ 行政は一階のリスクについて専門的知識は持たない
かもしれないが、専門家たちの判断が信頼に値するか
どうかの二階の理由によって判断することはできる。
13
疑問:
行政権への縛りが無制約すぎる?
• 行政部門に対する、他部門や専門家による制約に
寛容すぎるのでは?
→ 司法審査などには確かにかなり懐疑的だが。
→ しかし無条件に行政権の集中を認めるもの
ではない。
→ 一階のリスクの性格に応じて、対応すべき
部門も変わってくる。
→ 行政権も最終的には民主的制約を受ける。
14
著者のその後
• 2020年3月31日に「原意主義を超えて」という論考
を発表、さっそく賛否両論の嵐に。
• 憲法解釈論としてはテクスト主義をとっていたものの、
本論考では、より積極的な「共通善立憲主義」を主張。
• 憲法の道徳的読解というドゥオーキン理論を保守的に
読み替える作戦?
• トランプ再選後の保守的な司法に期待?
• それとも、理論的な深化と考えられる?
15

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