金属銅の溶解と硫酸銅の合成
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本実験での使用試薬について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。
表 2.使用試薬
使用試薬名 原子量/分子量 量
エタノール C₂H₅OH 46.07 約 40mL
銅 Cu 粉末 63.55 約 2.50g
濃硫酸 H₂SO₄ 98.09 5mL
30%過酸化水素 H₂O₂水 - 約 7mL
濃硝酸 HNO₃ 63.01 約 2mL
4. 実験手順
4-1.金属銅の酸への溶解
4-1-1.希硫酸に対する反応性
(1) 上皿電子天秤を用いて薬包紙に約 2.0g の銅粉末を量り取り、その秤量値を記録した。
(2) 300mL ビーカーにイオン交換水に約 10mL 入れた。
(3) 専用の駒込ピペットで濃硫酸を 5mL 量り取り、50mL のビーカーに移した。
(4) (2)のビーカーに対し、(3)で量り取った濃硫酸を少しずつ全量加え、希硫酸を調整した。
このとき、ガラス棒を伝わせながら濃硫酸を少量ずつ入れることに注意した。
(5) (4)で調整した希硫酸のビーカーに対し、(1)で秤量した銅粉末を入れ、しばらく様子を観
察し、記録した。
4-1-2.希硝酸に対する反応性
(1) 上皿電子天秤を用いて薬包紙に約 0.5g の銅粉末を量り取り、その秤量値を記録した。
(2) 100mL ビーカーにイオン交換水を約 50mL 入れた。
(3) 濃硝酸を約 2mL 量り取り、(2)のビーカーに少量ずつ加え、希硝酸を調整した。
(4) (3)で調整した希硝酸のビーカーに対し、(1)で秤量した銅粉末を少量ずつ加え、様子を観
察し、記録した。
4-1-3.希硫酸+過酸化水素水に対する反応性
(1) 専用のメスシリンダーで 30%過酸化水素水を約 7mL 量り取り、50mL のビーカーに移し
た。
(2) 4-1-1 で希硫酸に銅粉末を加えた(5)のビーカーに、
(1)の過酸化水素水を駒込ピペットで、
1 滴ずつ、10 分~20 分程度かけてゆっくり加えた。過酸化水素を加えて始めてから、変
化の様子を観察し、記録した。
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4-2.硫酸銅の合成
(1) 4-1-3 で調整した溶液(希硫酸+過酸化水素水+金属銅粉末)を、
ガスバーナー、
三脚、
金網
を用いて弱火で穏やかに加熱した。
加熱直後の細かな泡立ちを観察し、
その後、
泡が消え、
普通の水のような沸騰になったところで加熱を終了した。
(2) 溶液を実験台の上で放冷し、
硫酸銅の結晶が成長していく様子を観察した。
体温程度まで
放冷した後、ビーカーの底を水道水で十分に冷やした。
(3) ガラスフィルターを吸引ビンにセットし、ガラスフィルターに(2)の結晶と上澄みを入れ
た。
(4) 水道水を出し、アスピレーターのホースを吸引ビンに繋ぎ、上澄みを吸引した。その後、
アスピレーターのホースを吸引ビンから外し、水道水を止めた。
(5) ビーカーにエタノールを 40mL 程度とり、
その半量で硫酸銅五水和物が付着したビーカー
から結晶を洗い出し、ガラスフィルターに回収した。その後、ガラスフィルター内の結晶
をかき混ぜて、結晶を洗った。
(6) (5)の結晶の洗浄を再度行った。
(7) ガラスフィルターから、エタノールを入れていたビーカーに結晶を移し入れた。
5. 実験結果
5-1.金属銅の酸への溶解
5-1-1.銅粉末の質量
4-1-1(1)で秤量した銅粉末の質量は 2.00g であった。
4-1-2(1)で秤量した銅粉末の質量は 0.500g であった。
5-1-2.各酸溶液に対する金属銅の溶解性
各酸溶液に対する金属銅の溶解性ついて、溶解したかどうか、色が変化したかどうか、気体
発生が観察できたかどうかの観点から、観察結果を表 3 にまとめた。以下に、表 3 を示す。
表 3.各酸溶液に対する金属銅の溶解性
酸溶液名 溶解 気体発生 溶液の色
希硫酸 溶解しなかった 観察できなかった 変化なし
希硝酸 溶解した 気体が発生した 青色になった
希硫酸+過酸化水素水 溶解した 気体が発生した 青色になった
その他、特徴的な観察結果を以下に示す。
・希硫酸+過酸化水素水との反応では発熱を伴っていた。
・希硫酸+過酸化水素水との反応で確認された気体は刺激臭であった。
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反応には直接関与しない NO₃-
を両辺に加えれば、組み立てられる化学反応式は(4)となる。
3Cu + 8HNO₃ ⇆ 3Cu(NO₃)₂ + 4H₂O + 2NO…(4)
以上が、金属銅と希硝酸の場合の溶解反応である。
・金属銅と希硫酸+過酸化水素の場合
①銅の溶解反応に関係する半反応式
Cu2+
+ 2e-
⇆ Cu +0.337V…(5)
H₂O₂ + 2H+
+ 2e-
⇆ 2H₂O +1.763V…(6)
②組み立てられる化学反応式
標準酸化還元電位の値が(6)>(5)であるため、
(5)は右から左へ、
(6)は左から右へ、
反応が進む。
電子数を合わせるために、(5)式×1、(6)式×1 とすると、反応式は(7)となる。
Cu + H₂O₂ + 2H+
⇆ Cu2+
+ 2H₂O…(7)
反応には直接関与しない SO₄2-
を両辺に加えれば、組み立てられる化学反応式は(8)となる。
Cu + H₂O₂ + H₂SO₄ ⇆ CuSO₄ + 2H₂O…(8)
以上が、金属銅と希硫酸+過酸化水素の場合の溶解反応である。
6-3.今回の実験では、いくつかの手順で気体(気泡や刺激臭)が発生した。それらが何の気体であ
るかを考察し、発生に関わる化学反応式を示せ。
本実験で気体の発生が確認されたのは以下に示す3つの場合であった。
(1)希硝酸に金属銅粉末を加えたとき
(2)希硫酸に金属銅を加えた後、過酸化水素水を滴下していたとき(刺激臭)
(3)ガスバーナーで加熱をしていたとき
(1)、(2)、(3)の場合、それぞれについて発生した気体について考えた。
(1)希硝酸に金属銅粉末を加えたとき
発生した気体は一酸化窒素 NO と考えた。NO の発生に関わる化学反応式は以下である。
3Cu + 8HNO₃ ⇆ 3Cu(NO₃)₂ + 4H₂O + 2NO…(9)
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このことから、金属銅と希硝酸の溶解反応の際に発生した一酸化窒素であると考えられる。
(2)希硫酸に金属銅を加えた後、過酸化水素を滴下していたとき(刺激臭)
発生した気体は二酸化硫黄 SO₂であると考えた。ここでのメインとなる反応は銅と希硫酸+
過酸化水素の溶解反応であり、化学反応式は以下である。
Cu + H₂O₂ + H₂SO₄ ⇆ CuSO₄ + 2H₂O…(10)
(10)の反応において、刺激臭を持つ気体発生しないため、SO₂の発生は副次的にいくつかの反
応が同時に起こったことで確認されたものであると考えられる。
副次的な反応は以下である。
2Cu + H₂O₂ → Cu₂O + H₂O…(11)
Cu₂O + 3H₂SO₄ → 2CuSO₄ + 3H₂O + SO₂…(12)
このことから、副次的な反応によって、発生した二酸化硫黄であると考えられる。
(3)ガスバーナーで加熱をしていたとき
発生した気体は酸素 O₂であると考えた。O₂の発生に関わる化学反応式は以下である。
H₂O₂ ⇆ H₂O + O₂…(13)
このことから、過酸化水素の分解反応が起こり、発生した酸素であると考えられる。
6-4.実験で確認した通り金属銅は希硫酸に溶解しない。一方、金属銅を空気中に放置すると表面
に酸化被膜(Cu₂O や CuO)が生成する。
「酸化被膜のついた銅板を希硫酸に浸した際に起こる現
象」を考え、金属銅表面の酸化被膜を希硫酸で溶解除去することができるかどうかを答えよ。
酸化被膜のついた銅板を希硫酸に浸した際に起こる現象について、
酸化被膜が主として、
CuO
と Cu₂O であるため、この2つが希硫酸と反応することが考えられる。
・CuO と希硫酸の反応
CuO は希硫酸に溶解する。化学反応式は以下である。
CuO + H₂SO₄ → CuSO₄ + H₂O
・Cu₂O と希硫酸の反応
Cu₂O は希硫酸に溶解し、
Cu+
を生成するが、
Cu+
イオンが水溶液中で安定ではないことが理由
で、いくつかの反応が考えられる。
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(1)SO₂が発生する反応
Cu₂O が希硫酸と反応し、刺激臭を持つ二酸化硫黄を発生させる。化学反応式は以下である。
Cu₂O + 3H₂SO₄ → 2CuSO₄ + 3H₂O + SO₂
(2)Cu+
の不均化反応
希硫酸による溶解で生じた 2 個の Cu+
が Cu2+
(CuSO₄)と Cu に分かれる反応が起こる。化学反
応式は以下である。
Cu₂O + H₂SO₄ → CuSO₄ + H₂O + Cu
この不均化反応は以下の半反応式から説明することができる。
Cu2+
+ e-
⇆ Cu+
+0.16V…(14)
Cu+
+ e-
⇆ Cu +0.52V…(15)
標準酸化還元電位の値が(15)>(14)であるため、(14)は右から左へ、(15)は左から右へ、反応が
進む。
これらの反応が Cu+
イオンの不均化反応と呼ばれ、
電気化学的反応により 2 個の Cu+
か
ら Cu と Cu2+
が生じる現象である。
以上のことから、Cu₂O と CuO は希硫酸によって溶解することができる。つまり、金属銅表
面の酸化被膜を希硫酸で溶解除去することができると考えられる。
6-5.本実験では、硫酸銅結晶の洗浄にエタノールを使用した。①結晶を洗浄する目的(主に何を取
り除くことを目的とした洗浄か)、②水およびエタノールに対する硫酸銅の溶解度を調べよ。ま
た、エタノール以外に使用できる溶媒を挙げよ。
①結晶を洗浄する目的
結晶に付着している希硫酸を取り除くことを主な目的とした洗浄であると考えられる。
洗浄が不十分であると、加熱の際に白煙が多量に発生する。
②水およびエタノールに対する硫酸銅の溶解度
水に対する硫酸銅の溶解度は、実験環境に近い 20℃で、20.3g/100mL である。
エタノールには不溶である。
➂エタノール以外に使用できる溶媒
結晶の洗浄においてエタノールが適切な理由は、エタノールに対する結晶の溶解性が低く、
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反応しにくいものであったからと考えられる。よってエタノール以外に使用できる溶媒も同
様の性質がなくてはならない。このことを踏まえて、例えば、1-プロパノール、2-プロパノー
ルが挙げられる。
7. 考察
・イオン化傾向と標準酸化還元電位の関係について
イオン化傾向と標準酸化還元電位の関係について表 5 にまとめた。以下に、表 5 を示す。
表 5.イオン化傾向と標準酸化還元電位の関係
K・Ca・Na・Mg・Al・Zn・Fe・Ni・Sn・Pb・H₂・Cu・Hg・Ag・Pt・Au
大きい ⇐陽イオンへのなりやすさ⇒ 小さい
大きい ⇐イオン化傾向⇒ 小さい
小さい ⇐標準酸化還元電位⇒ 大きい
標準酸化還元電位の値は、
その値が大きいほど、
半反応式が左から右に進める方向に傾くこと
を指している。例えば、イオン化傾向において、相対的に陽イオンになりやすい亜鉛 Zn と相
対的に陽イオンになりにくい Ag について考える。それぞれの半反応式は以下の通りである。
Zn2+
+ 2e-
⇆ Zn -0.76V…(16)
Ag+
+ e-
⇆ Ag +0.80V…(17)
標準酸化還元電位の値が(17)>(16)であるため、(16)は右から左へ、(17)は左から右へ、反応が
進むことがわかる。ここで、それぞれの反応が進行した結果に着目すれば、(16)は右から左へ
の反応なので、Zn2+
が生成され、(17)は左から右への反応なので Ag が生成されることがわか
る。つまり、イオン化傾向において、相対的に陽イオンになりやすい亜鉛 Zn が、標準酸化還
元電位の概念においても、たしかに陽イオンになりやすく、同様に相対的に陽イオンになり
にくい銀 Ag が、標準酸化還元電位の概念においても、たしかに陽イオンになりにくいこと
がわかった。以上のことから、イオン化傾向と標準酸化還元電位は、金属の陽イオンへのな
りやすさ(金属の酸に対する溶解性)について説明することもできると考えられる。
8. 結論
金属銅の酸への溶解の実験を通して、銅粉末が希硝酸、希硫酸+過酸化水素には溶解し、希硫
酸には溶解しないことがわかった。
溶解反応は、
酸溶液と銅粉末の標準電極電位標準電極電位
の関係から、説明することができた。また、標準酸化還元電位とイオン化傾向はどちらも金属
の陽イオンのなりやすさを示すものであることが考察から結論づけることができた。