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化学実験Ⅰ
テーマ I
メチルオレンジ合成
実験日:6 月 23 日、28 日
学籍番号:21512058
作成者:篠原凜久
共同実験者:山崎優月
1
1. 目的
アゾ染料は芳香族アミンのジアゾ化によって生じるジアゾニウム塩を、芳香族アミンとのカ
ップリング反応によって結合させることで合成される。本実験では、pH 指示薬として用いら
れるアゾ染料であるメチルオレンジの合成を行うことを目的とする。
2. 実験準備
2-1 本実験の反応式について
本実験における反応式について図 1 にまとめた。以下に、図 1 を示す。
図 1 本実験の反応式
2
2-2 本実験の使用試薬について
本実験で用いた使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。
表 1 使用試薬について
試薬名 構造式
分子量
[g/mol]
融点
[℃]
沸点
[℃]
比重 [g/cm3]
スルファニル酸 173.19 288 - 1.485
炭酸ナトリウム Na2CO3 105.99 851 1600 2.54
亜硝酸ナトリウム NaNO2 69.01 270 320 2.17
塩酸 HCl 36.46 -59.0 108 1.098
ジメチルアニリン 121.18 2 194 0.956
氷酢酸 CH3COOH 60.052 16.6 118 1.049
水酸化ナトリウム NaOH 40.00 318 1388 2.13
食塩 NaCl 58.44 800.4 1413 2.16
3
2-3 本実験の使用器具について
本実験で用いた使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。
表 2 使用器具について
器具名 個数 [-]
100 mL ビーカー 4
300 mL ビーカー 1
3mL 駒込ピペット 1
ウォーターバス 2
ガラス棒 1
温度計(100 ℃) 1
はさみ 1
ゴム手袋 1
ヌッチェ 1
アスピレーター 1
吸引びん 1
20 mL メスシリンダー 1
スパチュラ 2
10 mL メスピペット 4
精密電子天秤 1
上皿電子天秤 1
ろ紙 適量
紙おむつ 1
薬包紙 1
撹拌・ホットプレート 1
3. 実験操作
3-1 本実験の実験手順
(1) 100 mL ビーカーに、スルファニル酸 1.0062 g をとり、そこに、4 % Na2CO3aq を 10.0
mL 加え、沸騰した水が入った 300 mL ビーカーの中で加熱溶解をした。
(2) (1)の溶液を室温まで放冷した後に、
4 % NaNO2aq を 10.0 mL 加え、
氷水で冷却した。
(3) (2)の冷却温度を 3 ℃から 5 ℃に保ちながら、6 M HCl を 3.0 mL 加えた。ただし、
加えるたびに温度上昇を伴ったので、少しずつかき混ぜながら、塩酸を投下するこ
とに注意した。
(4) ジメチルアニリン 0.85 mL と、氷酢酸 0.50 mL を試験管に準備し、(3)操作後に速や
かに(3)の溶液に加え、約 5 分間かき混ぜた。
4
(5) (4)操作後の溶液に対し、6 M NaOHaq を 4.00 mL 加えた。その後、NaCl を 2.02 g 加
えることで塩析を行った。
(6) (5)の操作で得られた結晶を吸引ろ過し、
ろ紙にはさみ充分に水分を除去することで、
粗結晶メチルオレンジ 1.7666 g を得た。
(7) (6)の粗結晶に対し、17.6 mL の水を加えて、加熱溶解をした。加熱溶解中にビーカ
ーが破損し、使用可能と判断された溶液の一部で以降の操作を行った。
(8) (7)の溶液に対し、熱時ろ過を行い、ろ液を得た。このろ液から結晶が析出するまで
放冷した。
(9) 結晶析出後、そのビーカーを軽く振ることで結晶の核を作った。
(10) (9)を水および氷冷水で冷やし、結晶を吸引ろ過することで再結晶メチルオレンジ
0.1862 g を得た。
3-2 本実験のフローチャート
3-1 を簡易的に表した本実験のフローチャートを図 2 にまとめた。
以下に、
図 2 を示す。
図 2 本実験のフローチャート
5
4. 実験結果
4-1 観察結果
⚫ スルファニル酸に対し、4 %Na2CO3aq を加えたときに発泡を伴い、溶解していた。
⚫ 氷水冷却しながら、塩酸を投下する操作において、塩酸投下前の溶液は少し黄色み
がかかっていた。塩酸投下後の溶液は、濃い橙色から薄い黄色、白と黄色の濁った
溶液といった色の変化をしていた。
⚫ ジメチルアニリンと氷酢酸を加えると、溶液は濃い赤紫色となり、しばらく放置す
る粘性の大きいと考えられる溶液となった。
⚫ 6 M NaOH を加えると、赤紫色の溶液は、橙色から黄色付近の色へと変化した。
⚫ NaCl を加えると、ドロドロとしたのり状の溶液となった。
4-2 粗結晶および再結晶メチルオレンジの収量と収率について
メチルオレンジの粗結晶および再結晶の収量と収率について表 3 にまとめた。以下に、
表 3 を示す。
表 3 粗結晶および再結晶の収量と収率について
メチルオレンジ 収量 [g] 収率 [%]
粗結晶 1.7666 92.89
再結晶 0.1862 9.791
表 3 の収率の計算
(1) 反応に関わる物質の使用量およびそれに対応する物質量
図 1 に示した本実験の反応式に関わる物質の使用量およびそれに対応する物質量に
ついて表 4 にまとめた。
表 4 物質の使用量と対応する物質量について
物質名 使用量 対応する物質量 [mol]
スルファニル酸 1.0062 g 5.810×10-3
4 % 炭酸ナトリウム 10.0 mL 3.917×10-3
4 %亜硝酸ナトリウム 10.0 mL 1.258×10-2
6 M 塩酸 3.0 mL 1.800×10-2
ジメチルアニリン 0.85 mL 6.706×10-3
6 M 水酸化ナトリウム 4.00 mL 2.400×10-2
6
例)使用したスルファニル酸の物質量は次式によって求めることができる。
次式を式
①とした。
スルファニル酸の物質量 [mol] =
1.0062 g
173.19
g
mol
= 5.809 × 10−3
mol ①
他の物質も同様な方法で対応する物質量を求めた。
(2) 各反応の量論比から考えられる限定反応物の決定
(1)の結果と図 1 に示した反応式から、各反応①、②、③、④における量論比で考え
られる限定反応物を決定する。
反応①の場合の理論上の量論関係について図 3 にまとめた。以下に、図 3 を示す。
図 3 図 1 の反応①における理論上の量論関係
図 3 から、スルファニル酸が反応①における限定反応物であるとわかった。
同様にして、反応②の場合は、スルファニル酸のナトリウム塩が限定反応物であっ
た。
反応③の場合は、
塩化ベンゼンスルホン酸ジアゾニウムが限定反応物であった。
反応④の場合は、カップリング反応で生じた主生成物が限定反応物であった。
反応②、③、④の限定反応物はどれもスルファニル酸由来の物質であり、スルファ
ニル酸の物質量だけ生成されて、反応に使われていることがわかった。よって、全
てを合わせた反応式における限定反応物はスルファニル酸であると判断できた。
7
(3) 量論関係から求められるメチルオレンジの理論収量
(2)から限定反応物はスルファニル酸であり、
メチルオレンジを含むスルファニル酸
由来の物質とスルファニル酸との量論比は 1:1 であったことから、メチルオレンジ
の理論収量は、スルファニル酸と同物質量の値である 5.810×10-3
mol だけ合成され
たと判断した。
(4) 粗結晶および再結晶メチルオレンジの物質量
粗結晶メチルオレンジの収量が、1.7666 g、分子量が 327.33 g/mol であることを考慮
すると、本実験で得られた粗結晶メチルオレンジの物質量は次式によって求めるこ
とができた。次式を②とした。
粗結晶 [mol] =
1.7666 g
327.33
g
mol
= 5.397 × 10−3
mol ②
同様に、再結晶メチルオレンジの収量が 0.1862 g、分子量が 327.33 g/mol であるこ
とを考慮して、再結晶メチルオレンジの物質量は、5.688×10-4
と求めることができ
た。
(5) 粗結晶および再結晶の収率
(3)と(4)の結果から、
粗結晶メチルオレンジの収率は次式によって求めることができ
た。次式を式③とした。
粗結晶の収率 [%] =
実際の収量 [mol]
理論収量 [mol]
× 100 =
5.397 × 10−3
5.810 × 10−3
× 100 = 92.89 % ③
同様に、再結晶メチルオレンジの収率は、9.791 %と求めることができた。
以上の収率の計算手順により、表 3 に示した粗結晶および再結晶の収量と収率の結
果が得られた。
8
5. 考察
5-1 生成物の収率について
本実験の粗結晶の収率は 92.89 %であり、再結晶の収率は 9.791 %であった。再結晶の
収率が低い原因は、3-1(7)の加熱溶解操作時にビーカーが破損してしまったことにより、
結晶を含む溶液の 80%程度を失ってしまい、以降の実験操作は、元の溶液の 20 %程度で
再結晶操作を行ったことである。
粗結晶の収率が高い原因としては、溶解させるために使用した溶媒量を少なくしたこ
とが考えられる。溶媒量を少なくしたことで、溶媒へ溶けてしまう結晶が減り、析出す
る結晶の量を増やすことができたため、高い収率を得られたと考察した。
5-2 スルファニル酸と炭酸ナトリウムの反応について
4-1 の観察結果に示したように、スルファニル酸と炭酸ナトリウムの反応では、発泡を
伴っていた。この発泡は、生成物の二酸化炭素であると考察した。ここで、スルファニ
ル酸と炭酸ナトリウムの反応について図 3 にまとめた。以下に、図 3 を示す。
図 3 スルファニル酸と炭酸ナトリウムの反応式
確かに、スルファニル酸と炭酸ナトリウムを反応させると二酸化炭素が生成されること
がわかる。以上のことから、発泡の原因は、二酸化炭素の発生だと考えらえられる。
9
5-3 ジアゾ化操作を 3℃から 5℃の低温環境で行うことについて
実験操作の(3)では、塩酸を加える際に温度環境を 3℃から 5℃に保ちながら行った。こ
の操作はジアゾ化であり、温度環境を低温に保った理由は、ジアゾ化合物物の熱分解を
防ぐためであると考察した。ここで、低温環境に保たなかった場合の本実験のジアゾ化
合物の熱分解の反応機構について図 4 にまとめた。以下に、図 4 を示す。
図 4 ジアゾ化合物の熱分解の反応機構
ジアゾ化合物は不安定であり、熱の影響を受けやすいため、5 ℃よりも高い温度の環境
にさらされると、本実験であれば、図 4 のような熱分解反応が起きてしまい、p-フェノ
ールスルホン酸、窒素、塩酸に分解されてしまう。よって、この熱分解反応を防ぎ、カ
ップリングを行うために低温環境に保ち、ジアゾ化を行ったと考えられる。
5-4 カップリング工程を速やかに行う理由について
5-3 と同様の理由で、速やかに行わずにジアゾ化合物を室温に放置したままにすると、
温度上昇に伴い、熱分解反応が起こると考えられる。以上のことから、ジアゾ化合物の
熱分解により、十分なカップリング操作が行えないことを防ぐために、速やかに入れる
必要があると考察した。
5-5 各精製操作における除かれた不純物について
上記に示した 3-1 の実験手順あるいは 3-2 フローチャートにおいて、精製操作に関わる
ところは、(6)吸引ろ過、(8)熱時ろ過、(10)吸引ろ過である。それぞれの不純物について
以下に、考察をした。
10
(6)の吸引ろ過における主な不純物について
(6)操作の前にジアゾ化を行っているため、熱分解反応が起き、ジアゾ化合物が、p-フ
ェノールスルホン酸、窒素、塩酸に分解されている可能性がある。これらの分解物を
取り除くための吸引ろ過であったと考えられる。以上のことから、主な不純物は、ジ
アゾ化合物の熱分解反応によって生じる物質であると考察した。
(8)の熱時ろ過における主な不純物について
(8)の操作前には、塩析を行っていた。熱時ろ過以降の操作に必要だったのは、ろ紙上
にあった結晶ではなく、ろ液であったことを考慮すると、塩析に使用し過剰に残った
塩化ナトリウムを取り除くための熱時ろ過であったと考えられる。以上のことから、
不純物は塩化ナトリウムであると考察した。
(10)の吸引ろ過における主な不純物について
(10)は再結晶操作であるため、溶媒と結晶を分離し、結晶を乾燥させるために行った
と考えらえられる。以上のことから、主な不純物はなく、溶媒から分離するための操
作であると考察した。
5-6 pH 指示薬の変色と私たちに見えている色について
多くの pH 指示薬に共通する構造の1つとして、多数の二重結合と単結合を繰り返した
共役二重結合系が挙げられる。この共役二重結合系では、基底状態と最低励起状態との
エネルギーの差が、
可視光が持つエネルギーの幅に包含されていることが知られている。
よって、本実験のメチルオレンジのような pH 指示薬は、光にさらされると、基底状態
から励起状態へ移るのに必要なエネルギー分に該当する可視光領域の色の光を吸収する
と考えられる。そして、私たちの目には、pH 指示薬が吸収することができなかった色の
光(補色)が見えていると考えられる。
11
5-7 メチルオレンジの色変化と構造について
ここで、
メチルオレンジの構造式および、
pH 変化に伴う構造と色の変化について図 5 に
まとめた。以下に、図 5 に示す。
図 5 メチルオレンジの pH 変化に伴う構造と色の変化
5-6 の pH 指示薬の変色について考察を踏まえて考えると、pH の値が 3.1 以下の場合、
私たちには補色として赤色に見えていることから、メチルオレンジ自身は緑色の光を吸
収しており、pH の値が 4.4 以上の場合、私たちには補色として黄色に見えていることか
ら、メチルオレンジ自身は青色の光を吸収していると考えられる。
12
6. 課題
6-1 1.0 g のスルファニル酸を出発原料としてメチルオレンジを合成するとき、必要な各試薬
の理論量を求めよ。
メチルオレンジ合成に必要な物質の量論比について表 5 にまとめた。以下に、表 5 を示
す。ただし、スルファニル酸を基準である1とした。
表 5 各物質の量論比(スルファニル酸の量論比=1)
物質名 量論比
スルファニル酸 1
炭酸ナトリウム 1/2
亜硝酸ナトリウム 1
ジメチルアニリン 1
6 M HCl 2
メチルオレンジ 1
ここで、次式によってスルファニル酸 1.0 g を物質量に換算した。次式を式④とした。
スルファニル酸 [mol] =
1.0 g
173.19
g
mol
= 5.77 × 10−3
≒ 5.8 × 10−3
mol ④
(1) 炭酸ナトリウムの g 数、モル数、4 %炭酸ナトリウム溶液の体積(mL)
表 5 と式④から、炭酸ナトリウムのモル数は次式によって求めることができる。次
式を式⑤とした。
炭酸ナトリウム [mol] =
1
2
× 5.77 × 10−3
= 2.88 × 10−3
≒ 2.9 × 10−3
mol ⑤
式⑤と炭酸ナトリウムの分子量から、炭酸ナトリウムの g 数は次式によって求める
ことができた。次式を式➅とした。
炭酸ナトリウム [g] = 2.88 × 10−3
mol × 105.99
g
mol
= 0.305 ≒ 0.31 g ➅
式➅と密度から、4 %炭酸ナトリウム溶液の体積は次式によって求めることができ
る。次式を式⑦とした。
13
4 %炭酸ナトリウム [mL] =
0.305 g
1.038
g
ml
×
4
100
= 7.36 ≒ 7.4 mL ⑦
以上のことから、必要な炭酸ナトリウムの g 数は 0.31 g、モル数は 2.9×10-3
mol、
体積は 7.4 mL であると求めることができた。
(2) 亜硝酸ナトリウムの g 数およびモル数
表 5 と式④から、亜硝酸ナトリウムのモル数は次式によって求めることができる。
次式を式⑧とした。
亜硝酸ナトリウム [mol] = 1 × 5.77 × 10−3
mol ≒ 5.8 × 10−3
mol ⑧
式⑧と亜硝酸ナトリウムの分子量から、亜硝酸ナトリウムの g 数は次式によって求
めることができた。次式を式⑨とした。
亜硝酸ナトリウム [g] = 5.77 × 10−3
mol × 69.01
g
mol
= 0.398 ≒ 0.40 g ⑨
以上のことから、必要な亜硝酸ナトリウムの g 数は 0.40 g、モル数は 5.8×10-3
mol
であると求めることができた。
(3) ジメチルアニリンの g 数およびモル数
表 5 と式④から、ジメチルアニリンのモル数は次式によって求めることができる。
次式を⑩とした。
ジメチルアニリン [mol] = 1 × 5.77 × 10−3
≒ 5.8 × 10−3
mol ⑩
式⑩とジメチルアニリンの分子量から、ジメチルアニリンの g 数は次式によって求
めることができる。次式を⑪とした。
ジメチルアニリン [g] = 5.77 × 10−3
× 121.18
g
mol
= 0.699 ≒ 0.70 g ⑪
以上のことから、必要なジメチルアニリンの g 数は 0.70 g、モル数は 5.8×10-3
mol
であると求めることができた。
14
(4) 6M HCl の必要とする量
表 5 と式④から、塩酸のモル数は次式によって求めることができる。次式を式⑫と
した。
HCl [mol] = 2 × 5.77 × 10−3
= 1.15 × 10−2
= 1.2 × 10−2
mol ⑫
式⑫と使用する塩酸のモル濃度が 6 mol/L であることを考慮すると、6M 塩酸の必
要とする量 [mL]は次式によって求めることができる。次式を式⑬とした。
塩酸の必要量 [mL]=
1.15 × 10−3
mol
6
mol
L
× 1000 = 1.92 = 1.9 mL ⑬
以上のことから、6M HCl の必要とする量は 1.9 mL であると求めることができた。
(5) メチルオレンジの理論収量
表 5 と式④から、メチルオレンジのモル数は次式によって求めることができる。次
式を式⑭とした。
メチルオレンジ [mol] = 1 × 5.77 × 10−3
≒ 5.8 × 10−3
mol ⑭
式⑭とメチルオレンジの分子量から、メチルオレンジの収量 [g]は次式によって求
めることができる。次式⑮とした。
メチルオレンジの収量 [g] = 5.77 × 10−3
× 327.33
g
mol
= 1.88 ≒ 1.9 g ⑮
以上のことから、
メチルオレンジの理論収量は 1.9 g であると求めることができた。
6-2 実験 1 で氷冷しながら 6 M HCl を加えるのは何故か。
6 M HCl は、中和反応およびジアゾ化の工程で加えている。不安定なジアゾ化合物は、
中和反応で生じる中和熱によって熱分解反応を起こす。よって、氷冷の役割は、このジ
アゾ化の熱分解反応を起こさずに、ジアゾ化および次のカップリング操作が期待通り進
行させるためである。
15
6-3 オレンジⅡは図 6 に示す構造を持つ。スルファニル酸をジアゾ化したものに、カップリ
ングさせる物質は何か。合成法を考えよ。
図 6 オレンジⅡの構造
カップリングさせる物質は、2-ナフトールが適切である。
ここで、オレンジⅡの合成法について図 7 にまとめた。以下に、図 7 を示す。
図 7 オレンジⅡの合成
図 7 に示した通り、カップリングさせた 2-ナフトールだけがメチルオレンジ合成と異な
る点であり、メチルオレンジ合成と同様の操作でオレンジⅡを合成することができると
考えた。
16
以上のことから、スルファニル酸から開始して、ジアゾ化、2-ナフトールとのカップリ
ング反応を経て、中和・塩析操作を行うことが、オレンジⅡの合成法であると考えた。
6-4 メチルオレンジ、
オレンジⅡ以外のpH指示薬として用いられるアゾ染料を一種類あげ、
構造を示せ。また、pH 変化に伴う構造と色の変化についても説明せよ。
メチルオレンジ、
オレンジⅡ以外の pH 指示薬として用いられるアゾ染料の 1 つとして、
メチルレッドが挙げられる。ここで、メチルレッドの構造式および、pH 変化に伴う構造
と色の変化について図 8 にまとめた。以下に、図 8 に示す。
図 8 メチルレッドの pH 変化に伴う構造と色の変化
図 8 から、メチルレッドの pH の値が 4.2 よりも小さい時、平衡は左側に傾き、構造の変
化とともに赤色を示す。また、pH の値が 6.2 よりも大きい時は、平衡が右側に傾き、構
造の変化とともに黄色を示す。よって、メチルレッドの pH の変色域は 4.2 から 6.2 まで
といえる。
17
7. 参考文献
閲覧日は全て 2023 年 7 月 3 日
JOHN McMURRY:
「マクマリー有機化学(下)第9版」
、東京化学同人(2017)
鵜沼英郎、尾形健明:
「理工系基礎レクチャー無機化学」
、化学同人(2011)
島田透:
「酸塩基指示薬の色と分子構造」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/68/10/68_426/_pdf
小畠りか、向井知大、大場茂:
「中和滴定と酸塩基指示薬の可視吸収スペクトル」
https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN10079809-2011093
窒素を含む芳香族化合物
https://sekatsu-kagaku.sub.jp/aromatic-compounds-including-nitrogen.htm

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メチルオレンジの合成

  • 1. 化学実験Ⅰ テーマ I メチルオレンジ合成 実験日:6 月 23 日、28 日 学籍番号:21512058 作成者:篠原凜久 共同実験者:山崎優月
  • 3. 2 2-2 本実験の使用試薬について 本実験で用いた使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。 表 1 使用試薬について 試薬名 構造式 分子量 [g/mol] 融点 [℃] 沸点 [℃] 比重 [g/cm3] スルファニル酸 173.19 288 - 1.485 炭酸ナトリウム Na2CO3 105.99 851 1600 2.54 亜硝酸ナトリウム NaNO2 69.01 270 320 2.17 塩酸 HCl 36.46 -59.0 108 1.098 ジメチルアニリン 121.18 2 194 0.956 氷酢酸 CH3COOH 60.052 16.6 118 1.049 水酸化ナトリウム NaOH 40.00 318 1388 2.13 食塩 NaCl 58.44 800.4 1413 2.16
  • 4. 3 2-3 本実験の使用器具について 本実験で用いた使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。 表 2 使用器具について 器具名 個数 [-] 100 mL ビーカー 4 300 mL ビーカー 1 3mL 駒込ピペット 1 ウォーターバス 2 ガラス棒 1 温度計(100 ℃) 1 はさみ 1 ゴム手袋 1 ヌッチェ 1 アスピレーター 1 吸引びん 1 20 mL メスシリンダー 1 スパチュラ 2 10 mL メスピペット 4 精密電子天秤 1 上皿電子天秤 1 ろ紙 適量 紙おむつ 1 薬包紙 1 撹拌・ホットプレート 1 3. 実験操作 3-1 本実験の実験手順 (1) 100 mL ビーカーに、スルファニル酸 1.0062 g をとり、そこに、4 % Na2CO3aq を 10.0 mL 加え、沸騰した水が入った 300 mL ビーカーの中で加熱溶解をした。 (2) (1)の溶液を室温まで放冷した後に、 4 % NaNO2aq を 10.0 mL 加え、 氷水で冷却した。 (3) (2)の冷却温度を 3 ℃から 5 ℃に保ちながら、6 M HCl を 3.0 mL 加えた。ただし、 加えるたびに温度上昇を伴ったので、少しずつかき混ぜながら、塩酸を投下するこ とに注意した。 (4) ジメチルアニリン 0.85 mL と、氷酢酸 0.50 mL を試験管に準備し、(3)操作後に速や かに(3)の溶液に加え、約 5 分間かき混ぜた。
  • 5. 4 (5) (4)操作後の溶液に対し、6 M NaOHaq を 4.00 mL 加えた。その後、NaCl を 2.02 g 加 えることで塩析を行った。 (6) (5)の操作で得られた結晶を吸引ろ過し、 ろ紙にはさみ充分に水分を除去することで、 粗結晶メチルオレンジ 1.7666 g を得た。 (7) (6)の粗結晶に対し、17.6 mL の水を加えて、加熱溶解をした。加熱溶解中にビーカ ーが破損し、使用可能と判断された溶液の一部で以降の操作を行った。 (8) (7)の溶液に対し、熱時ろ過を行い、ろ液を得た。このろ液から結晶が析出するまで 放冷した。 (9) 結晶析出後、そのビーカーを軽く振ることで結晶の核を作った。 (10) (9)を水および氷冷水で冷やし、結晶を吸引ろ過することで再結晶メチルオレンジ 0.1862 g を得た。 3-2 本実験のフローチャート 3-1 を簡易的に表した本実験のフローチャートを図 2 にまとめた。 以下に、 図 2 を示す。 図 2 本実験のフローチャート
  • 6. 5 4. 実験結果 4-1 観察結果 ⚫ スルファニル酸に対し、4 %Na2CO3aq を加えたときに発泡を伴い、溶解していた。 ⚫ 氷水冷却しながら、塩酸を投下する操作において、塩酸投下前の溶液は少し黄色み がかかっていた。塩酸投下後の溶液は、濃い橙色から薄い黄色、白と黄色の濁った 溶液といった色の変化をしていた。 ⚫ ジメチルアニリンと氷酢酸を加えると、溶液は濃い赤紫色となり、しばらく放置す る粘性の大きいと考えられる溶液となった。 ⚫ 6 M NaOH を加えると、赤紫色の溶液は、橙色から黄色付近の色へと変化した。 ⚫ NaCl を加えると、ドロドロとしたのり状の溶液となった。 4-2 粗結晶および再結晶メチルオレンジの収量と収率について メチルオレンジの粗結晶および再結晶の収量と収率について表 3 にまとめた。以下に、 表 3 を示す。 表 3 粗結晶および再結晶の収量と収率について メチルオレンジ 収量 [g] 収率 [%] 粗結晶 1.7666 92.89 再結晶 0.1862 9.791 表 3 の収率の計算 (1) 反応に関わる物質の使用量およびそれに対応する物質量 図 1 に示した本実験の反応式に関わる物質の使用量およびそれに対応する物質量に ついて表 4 にまとめた。 表 4 物質の使用量と対応する物質量について 物質名 使用量 対応する物質量 [mol] スルファニル酸 1.0062 g 5.810×10-3 4 % 炭酸ナトリウム 10.0 mL 3.917×10-3 4 %亜硝酸ナトリウム 10.0 mL 1.258×10-2 6 M 塩酸 3.0 mL 1.800×10-2 ジメチルアニリン 0.85 mL 6.706×10-3 6 M 水酸化ナトリウム 4.00 mL 2.400×10-2
  • 7. 6 例)使用したスルファニル酸の物質量は次式によって求めることができる。 次式を式 ①とした。 スルファニル酸の物質量 [mol] = 1.0062 g 173.19 g mol = 5.809 × 10−3 mol ① 他の物質も同様な方法で対応する物質量を求めた。 (2) 各反応の量論比から考えられる限定反応物の決定 (1)の結果と図 1 に示した反応式から、各反応①、②、③、④における量論比で考え られる限定反応物を決定する。 反応①の場合の理論上の量論関係について図 3 にまとめた。以下に、図 3 を示す。 図 3 図 1 の反応①における理論上の量論関係 図 3 から、スルファニル酸が反応①における限定反応物であるとわかった。 同様にして、反応②の場合は、スルファニル酸のナトリウム塩が限定反応物であっ た。 反応③の場合は、 塩化ベンゼンスルホン酸ジアゾニウムが限定反応物であった。 反応④の場合は、カップリング反応で生じた主生成物が限定反応物であった。 反応②、③、④の限定反応物はどれもスルファニル酸由来の物質であり、スルファ ニル酸の物質量だけ生成されて、反応に使われていることがわかった。よって、全 てを合わせた反応式における限定反応物はスルファニル酸であると判断できた。
  • 8. 7 (3) 量論関係から求められるメチルオレンジの理論収量 (2)から限定反応物はスルファニル酸であり、 メチルオレンジを含むスルファニル酸 由来の物質とスルファニル酸との量論比は 1:1 であったことから、メチルオレンジ の理論収量は、スルファニル酸と同物質量の値である 5.810×10-3 mol だけ合成され たと判断した。 (4) 粗結晶および再結晶メチルオレンジの物質量 粗結晶メチルオレンジの収量が、1.7666 g、分子量が 327.33 g/mol であることを考慮 すると、本実験で得られた粗結晶メチルオレンジの物質量は次式によって求めるこ とができた。次式を②とした。 粗結晶 [mol] = 1.7666 g 327.33 g mol = 5.397 × 10−3 mol ② 同様に、再結晶メチルオレンジの収量が 0.1862 g、分子量が 327.33 g/mol であるこ とを考慮して、再結晶メチルオレンジの物質量は、5.688×10-4 と求めることができ た。 (5) 粗結晶および再結晶の収率 (3)と(4)の結果から、 粗結晶メチルオレンジの収率は次式によって求めることができ た。次式を式③とした。 粗結晶の収率 [%] = 実際の収量 [mol] 理論収量 [mol] × 100 = 5.397 × 10−3 5.810 × 10−3 × 100 = 92.89 % ③ 同様に、再結晶メチルオレンジの収率は、9.791 %と求めることができた。 以上の収率の計算手順により、表 3 に示した粗結晶および再結晶の収量と収率の結 果が得られた。
  • 9. 8 5. 考察 5-1 生成物の収率について 本実験の粗結晶の収率は 92.89 %であり、再結晶の収率は 9.791 %であった。再結晶の 収率が低い原因は、3-1(7)の加熱溶解操作時にビーカーが破損してしまったことにより、 結晶を含む溶液の 80%程度を失ってしまい、以降の実験操作は、元の溶液の 20 %程度で 再結晶操作を行ったことである。 粗結晶の収率が高い原因としては、溶解させるために使用した溶媒量を少なくしたこ とが考えられる。溶媒量を少なくしたことで、溶媒へ溶けてしまう結晶が減り、析出す る結晶の量を増やすことができたため、高い収率を得られたと考察した。 5-2 スルファニル酸と炭酸ナトリウムの反応について 4-1 の観察結果に示したように、スルファニル酸と炭酸ナトリウムの反応では、発泡を 伴っていた。この発泡は、生成物の二酸化炭素であると考察した。ここで、スルファニ ル酸と炭酸ナトリウムの反応について図 3 にまとめた。以下に、図 3 を示す。 図 3 スルファニル酸と炭酸ナトリウムの反応式 確かに、スルファニル酸と炭酸ナトリウムを反応させると二酸化炭素が生成されること がわかる。以上のことから、発泡の原因は、二酸化炭素の発生だと考えらえられる。
  • 10. 9 5-3 ジアゾ化操作を 3℃から 5℃の低温環境で行うことについて 実験操作の(3)では、塩酸を加える際に温度環境を 3℃から 5℃に保ちながら行った。こ の操作はジアゾ化であり、温度環境を低温に保った理由は、ジアゾ化合物物の熱分解を 防ぐためであると考察した。ここで、低温環境に保たなかった場合の本実験のジアゾ化 合物の熱分解の反応機構について図 4 にまとめた。以下に、図 4 を示す。 図 4 ジアゾ化合物の熱分解の反応機構 ジアゾ化合物は不安定であり、熱の影響を受けやすいため、5 ℃よりも高い温度の環境 にさらされると、本実験であれば、図 4 のような熱分解反応が起きてしまい、p-フェノ ールスルホン酸、窒素、塩酸に分解されてしまう。よって、この熱分解反応を防ぎ、カ ップリングを行うために低温環境に保ち、ジアゾ化を行ったと考えられる。 5-4 カップリング工程を速やかに行う理由について 5-3 と同様の理由で、速やかに行わずにジアゾ化合物を室温に放置したままにすると、 温度上昇に伴い、熱分解反応が起こると考えられる。以上のことから、ジアゾ化合物の 熱分解により、十分なカップリング操作が行えないことを防ぐために、速やかに入れる 必要があると考察した。 5-5 各精製操作における除かれた不純物について 上記に示した 3-1 の実験手順あるいは 3-2 フローチャートにおいて、精製操作に関わる ところは、(6)吸引ろ過、(8)熱時ろ過、(10)吸引ろ過である。それぞれの不純物について 以下に、考察をした。
  • 11. 10 (6)の吸引ろ過における主な不純物について (6)操作の前にジアゾ化を行っているため、熱分解反応が起き、ジアゾ化合物が、p-フ ェノールスルホン酸、窒素、塩酸に分解されている可能性がある。これらの分解物を 取り除くための吸引ろ過であったと考えられる。以上のことから、主な不純物は、ジ アゾ化合物の熱分解反応によって生じる物質であると考察した。 (8)の熱時ろ過における主な不純物について (8)の操作前には、塩析を行っていた。熱時ろ過以降の操作に必要だったのは、ろ紙上 にあった結晶ではなく、ろ液であったことを考慮すると、塩析に使用し過剰に残った 塩化ナトリウムを取り除くための熱時ろ過であったと考えられる。以上のことから、 不純物は塩化ナトリウムであると考察した。 (10)の吸引ろ過における主な不純物について (10)は再結晶操作であるため、溶媒と結晶を分離し、結晶を乾燥させるために行った と考えらえられる。以上のことから、主な不純物はなく、溶媒から分離するための操 作であると考察した。 5-6 pH 指示薬の変色と私たちに見えている色について 多くの pH 指示薬に共通する構造の1つとして、多数の二重結合と単結合を繰り返した 共役二重結合系が挙げられる。この共役二重結合系では、基底状態と最低励起状態との エネルギーの差が、 可視光が持つエネルギーの幅に包含されていることが知られている。 よって、本実験のメチルオレンジのような pH 指示薬は、光にさらされると、基底状態 から励起状態へ移るのに必要なエネルギー分に該当する可視光領域の色の光を吸収する と考えられる。そして、私たちの目には、pH 指示薬が吸収することができなかった色の 光(補色)が見えていると考えられる。
  • 12. 11 5-7 メチルオレンジの色変化と構造について ここで、 メチルオレンジの構造式および、 pH 変化に伴う構造と色の変化について図 5 に まとめた。以下に、図 5 に示す。 図 5 メチルオレンジの pH 変化に伴う構造と色の変化 5-6 の pH 指示薬の変色について考察を踏まえて考えると、pH の値が 3.1 以下の場合、 私たちには補色として赤色に見えていることから、メチルオレンジ自身は緑色の光を吸 収しており、pH の値が 4.4 以上の場合、私たちには補色として黄色に見えていることか ら、メチルオレンジ自身は青色の光を吸収していると考えられる。
  • 13. 12 6. 課題 6-1 1.0 g のスルファニル酸を出発原料としてメチルオレンジを合成するとき、必要な各試薬 の理論量を求めよ。 メチルオレンジ合成に必要な物質の量論比について表 5 にまとめた。以下に、表 5 を示 す。ただし、スルファニル酸を基準である1とした。 表 5 各物質の量論比(スルファニル酸の量論比=1) 物質名 量論比 スルファニル酸 1 炭酸ナトリウム 1/2 亜硝酸ナトリウム 1 ジメチルアニリン 1 6 M HCl 2 メチルオレンジ 1 ここで、次式によってスルファニル酸 1.0 g を物質量に換算した。次式を式④とした。 スルファニル酸 [mol] = 1.0 g 173.19 g mol = 5.77 × 10−3 ≒ 5.8 × 10−3 mol ④ (1) 炭酸ナトリウムの g 数、モル数、4 %炭酸ナトリウム溶液の体積(mL) 表 5 と式④から、炭酸ナトリウムのモル数は次式によって求めることができる。次 式を式⑤とした。 炭酸ナトリウム [mol] = 1 2 × 5.77 × 10−3 = 2.88 × 10−3 ≒ 2.9 × 10−3 mol ⑤ 式⑤と炭酸ナトリウムの分子量から、炭酸ナトリウムの g 数は次式によって求める ことができた。次式を式➅とした。 炭酸ナトリウム [g] = 2.88 × 10−3 mol × 105.99 g mol = 0.305 ≒ 0.31 g ➅ 式➅と密度から、4 %炭酸ナトリウム溶液の体積は次式によって求めることができ る。次式を式⑦とした。
  • 14. 13 4 %炭酸ナトリウム [mL] = 0.305 g 1.038 g ml × 4 100 = 7.36 ≒ 7.4 mL ⑦ 以上のことから、必要な炭酸ナトリウムの g 数は 0.31 g、モル数は 2.9×10-3 mol、 体積は 7.4 mL であると求めることができた。 (2) 亜硝酸ナトリウムの g 数およびモル数 表 5 と式④から、亜硝酸ナトリウムのモル数は次式によって求めることができる。 次式を式⑧とした。 亜硝酸ナトリウム [mol] = 1 × 5.77 × 10−3 mol ≒ 5.8 × 10−3 mol ⑧ 式⑧と亜硝酸ナトリウムの分子量から、亜硝酸ナトリウムの g 数は次式によって求 めることができた。次式を式⑨とした。 亜硝酸ナトリウム [g] = 5.77 × 10−3 mol × 69.01 g mol = 0.398 ≒ 0.40 g ⑨ 以上のことから、必要な亜硝酸ナトリウムの g 数は 0.40 g、モル数は 5.8×10-3 mol であると求めることができた。 (3) ジメチルアニリンの g 数およびモル数 表 5 と式④から、ジメチルアニリンのモル数は次式によって求めることができる。 次式を⑩とした。 ジメチルアニリン [mol] = 1 × 5.77 × 10−3 ≒ 5.8 × 10−3 mol ⑩ 式⑩とジメチルアニリンの分子量から、ジメチルアニリンの g 数は次式によって求 めることができる。次式を⑪とした。 ジメチルアニリン [g] = 5.77 × 10−3 × 121.18 g mol = 0.699 ≒ 0.70 g ⑪ 以上のことから、必要なジメチルアニリンの g 数は 0.70 g、モル数は 5.8×10-3 mol であると求めることができた。
  • 15. 14 (4) 6M HCl の必要とする量 表 5 と式④から、塩酸のモル数は次式によって求めることができる。次式を式⑫と した。 HCl [mol] = 2 × 5.77 × 10−3 = 1.15 × 10−2 = 1.2 × 10−2 mol ⑫ 式⑫と使用する塩酸のモル濃度が 6 mol/L であることを考慮すると、6M 塩酸の必 要とする量 [mL]は次式によって求めることができる。次式を式⑬とした。 塩酸の必要量 [mL]= 1.15 × 10−3 mol 6 mol L × 1000 = 1.92 = 1.9 mL ⑬ 以上のことから、6M HCl の必要とする量は 1.9 mL であると求めることができた。 (5) メチルオレンジの理論収量 表 5 と式④から、メチルオレンジのモル数は次式によって求めることができる。次 式を式⑭とした。 メチルオレンジ [mol] = 1 × 5.77 × 10−3 ≒ 5.8 × 10−3 mol ⑭ 式⑭とメチルオレンジの分子量から、メチルオレンジの収量 [g]は次式によって求 めることができる。次式⑮とした。 メチルオレンジの収量 [g] = 5.77 × 10−3 × 327.33 g mol = 1.88 ≒ 1.9 g ⑮ 以上のことから、 メチルオレンジの理論収量は 1.9 g であると求めることができた。 6-2 実験 1 で氷冷しながら 6 M HCl を加えるのは何故か。 6 M HCl は、中和反応およびジアゾ化の工程で加えている。不安定なジアゾ化合物は、 中和反応で生じる中和熱によって熱分解反応を起こす。よって、氷冷の役割は、このジ アゾ化の熱分解反応を起こさずに、ジアゾ化および次のカップリング操作が期待通り進 行させるためである。
  • 16. 15 6-3 オレンジⅡは図 6 に示す構造を持つ。スルファニル酸をジアゾ化したものに、カップリ ングさせる物質は何か。合成法を考えよ。 図 6 オレンジⅡの構造 カップリングさせる物質は、2-ナフトールが適切である。 ここで、オレンジⅡの合成法について図 7 にまとめた。以下に、図 7 を示す。 図 7 オレンジⅡの合成 図 7 に示した通り、カップリングさせた 2-ナフトールだけがメチルオレンジ合成と異な る点であり、メチルオレンジ合成と同様の操作でオレンジⅡを合成することができると 考えた。
  • 17. 16 以上のことから、スルファニル酸から開始して、ジアゾ化、2-ナフトールとのカップリ ング反応を経て、中和・塩析操作を行うことが、オレンジⅡの合成法であると考えた。 6-4 メチルオレンジ、 オレンジⅡ以外のpH指示薬として用いられるアゾ染料を一種類あげ、 構造を示せ。また、pH 変化に伴う構造と色の変化についても説明せよ。 メチルオレンジ、 オレンジⅡ以外の pH 指示薬として用いられるアゾ染料の 1 つとして、 メチルレッドが挙げられる。ここで、メチルレッドの構造式および、pH 変化に伴う構造 と色の変化について図 8 にまとめた。以下に、図 8 に示す。 図 8 メチルレッドの pH 変化に伴う構造と色の変化 図 8 から、メチルレッドの pH の値が 4.2 よりも小さい時、平衡は左側に傾き、構造の変 化とともに赤色を示す。また、pH の値が 6.2 よりも大きい時は、平衡が右側に傾き、構 造の変化とともに黄色を示す。よって、メチルレッドの pH の変色域は 4.2 から 6.2 まで といえる。
  • 18. 17 7. 参考文献 閲覧日は全て 2023 年 7 月 3 日 JOHN McMURRY: 「マクマリー有機化学(下)第9版」 、東京化学同人(2017) 鵜沼英郎、尾形健明: 「理工系基礎レクチャー無機化学」 、化学同人(2011) 島田透: 「酸塩基指示薬の色と分子構造」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/68/10/68_426/_pdf 小畠りか、向井知大、大場茂: 「中和滴定と酸塩基指示薬の可視吸収スペクトル」 https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN10079809-2011093 窒素を含む芳香族化合物 https://sekatsu-kagaku.sub.jp/aromatic-compounds-including-nitrogen.htm