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1
1. 目的
代表的な酸化剤である過マンガン酸イオン溶液を用いて滴定を行い、酸化還元反応の特徴を
つかむとともに、反応の推進力である溶液の電位差への理解を深める。
2. 原理
2-1.酸化還元反応
酸化還元反応(redox reaction)とは、一般には物質間で電子が移動する反応であると定義され
ている。物質が電子を失うか得るか、つまり酸化されるか還元されるかに着目して、それぞ
れ酸化反応(oxidation)、
還元反応(reduction)というが、
通常それぞれは単独では起こらず、
伴っ
て起こるものである。
次の2つの酸化還元対を考える。
Ox、
Red、
E゜はそれぞれ酸化体(oxidant)、
還元体(reductant)、
標準電極電位¹を表す。
Ox₁ + n₁e-
⇆ Red₁ E₁゜ (1)
Ox₂ + n₂e- ⇄ Red₂ E₂゜ (2)
n₁,n₂はそれぞれの酸化体(or 還元体)1分子が受容(or 放出)する電子の数であり、
価数と呼ぶ。
この2つの酸化還元対の間で電子の授受が行われるとき、一方の対から放出される電子数と
他方の対が受容する電子数は等しいことから、次のような酸化還元反応式が得られる²。
n₂Ox₁ + n₁Red₂ ⇄ n₂Red₁ + n₁Ox₂ E₁-₂゜= E₁゜- E₂゜ (3)
この反応はどちら向きに進むだろうか。E₁゜, E₂゜はそれぞれの酸化還元対が持つ電位
(redox potential あるいは単に potential)に関係しており、
Ox の酸化力(他の物質から電子を取り
除き、
自身に受容する力)の指標である³。
したがって、
E₁゜>E₂゜であれば、
酸化力は Ox₁>Ox
₂となり、Ox₁が酸化剤として作用する。つまり(1)の正反応を起こす力が(2)の正反応を起こす
力に勝るため、(3)の反応は右側に進むのである。このとき、Red₂は還元剤として作用してい
る。
₁「標準電位」
、
「標準酸化還元電位」などと表記されることがあるが、同義である。
₂(1)×n₂ - (2)×n₁から得られる。右辺と左辺を入れ替えると、E₁-₂゜も E₂-₁゜=E₂゜- E₁゜
になることに注意。
₃電子は電位の高い酸化体へ移動しようとする。
2-2。酸化還元滴定
いま、濃度 C₁(M)で価数 n₁の酸化剤 Ox₁ 溶液 v₁(mL)と濃度 C₂(M)で価数 n₂の還元剤 Red
₂ 溶液 v₂(mL)を混合し、どちらも過不足なく反応が完了したとする。Ox₁が受け取る電子は
n₁C₁v₁/1000(mol)、Red₂が放出する電子は n₂C₂v₂/1000(mol)であるから、
2
n1C1
v1
1000
= n2C2
v2
1000
当量点(equivalent point)におけるこの関係から未知濃度の酸化剤または還元剤の濃度を決定す
ることができる。実際の酸化還元滴定での終点の判定には、指示薬等の呈色や電位差滴定
(potentiometric titration)などが利用されている。
2-3.過マンガン酸を用いた化学的酸素要求量(COD)の測定
化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand,COD と略す。
化学的酸素消費量ともいう)とは、
試料水を一定条件下、強力な酸化剤で処理し、消費される酸化剤の量を求め、それに対応す
る酸素の量を換算したものである。これは試料水中の被酸化性物質の量の目安となる。被酸
化性物質としては、各種の有機物、亜硝酸塩、鉄(Ⅱ)塩、硫化物などが考えられるが、特殊な
水を除けば有機物が主要なものであって、COD を有機物量の相対的な尺度とみなすことがで
きる。
原理 KMnO₄は酸性溶液中で次式のように反応し強い酸化力を示す。
MnO₄- + 8H+ + 5e- ⇄ Mn2+ + 4H₂O
酸性にした試料水に一定量の KMnO₄を加え、一定条件で試料水中の被酸化性物質を酸化す
る。その後、一定過剰量のシュウ酸ナトリウムを加えて未反応の MnO₄-
を還元する。
ついで、過剰の C₂O₄2-
を KMnO₄標準液で滴定し、計算によって試料水中に含まれる被酸
化性物質と反応した MnO₄-
の量を求める。
求めた MnO₄-
の量から必要とされる酸素濃度を換算し、COD 値とする。
3. 使用試薬・使用器具
本実験での使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。
表 1.使用試薬
使用試薬名 化学式 濃度[mM] 使用量[mL]
シュウ酸ナトリウム溶液 Na₂C₂O₄ 12.5 125
過マンガン酸カリウム溶液 KMnO₄ 5 150
(1+1)硫酸 H₂SO₄ - 100
3
本実験での使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。
表 2.使用器具
使用器具名 規格[mL] 個数[-]
ビーカー 500 2
300 2
100 2
コニカルビーカー 200 3
メスフラスコ 250 1
メスシリンダー 100 1
ホールピペット 50 1
10 1
ビュレット 25 1
ビュレットスタンド - 1
ガラス棒 - 1
アスピレーター - 1
吸引びん - 1
ガラスフィルター - 1
ホットプレート - 1
秤量びん - 1
4. 実験方法
4-1.12.5mM シュウ酸ナトリウム標準溶液の調整
(1) 空の秤量びん(ふた付き)の重量を精密電子天秤で求めた後、110℃で乾燥してあるシュウ
酸ナトリウム 0.419g を上皿電子天秤を使ってはかりとった。その後精密電子天秤で再び
全体の重量を求め、差し引きからシュウ酸ナトリウムの正確な重さを求めた。
(2) シュウ酸ナトリウムをこぼさないように注意してビーカー(100mL)に移した。
秤量びんに
付着したシュウ酸ナトリウムは、洗浄びんから純水を吹き付けて流し込んだ。これに適
量の純水を加え、よくかき混ぜて溶かした。
(3) 溶液を 250mL メスフラスコに移し、ビーカーを純水で 3~4 回洗い、洗液もメスフラスコ
に流し入れた。メスフラスコに純水を加え、標線のわずか下まで純水を加えた。最後は
洗浄びんを用いて正しく標線まで純水を滴下した。共栓をして 2~3 回上下に倒立し、よ
く混合した。100mL ビーカーに溶液を移して使用した。
4-2.5mM 過マンガン酸カリウム溶液の調整
(1) 水道に接続したアスピレーターに、
ガラスフィルターをセットした吸引びんを接続した。
4
水道水を流して吸引びんを減圧し、過マンガン酸カリウム溶液をろ過した。
(2) ろ液をよく洗った褐色試薬瓶に移した。
4-3.5mM 過マンガン酸カリウム溶液の標定
(1) ビュレットに過マンガン酸カリウム溶液を入れた。
(2) シュウ酸ナトリウム溶液 10mL をホールピペットでコニカルビーカーにとった。これに
硫酸(1+1)約 10mL をメスシリンダーを用いて加え、さらに水を加えて約 50mL にした。
(3) この溶液にビュレット 0mL に合わせた過マンガン酸カリウム溶液を 1~2mL 程度滴下し
た。
(4) 溶液の色が消えるまで、1~2分程度加温した。
(5) (3)で減ったビュレットで過マンガン酸カリウム溶液を滴下した。
(6) 過剰の過マンガン酸イオンにより溶液がわずかに赤く着色した時点で終点とした。測定
の差が 0.2mL 以内となる3回の平均値を滴定量とした。
4-4.COD 測定
(1) 試料水 100mL をホールピペットを用いてコニカルビーカーにとり、
振り混ぜながら硫酸
(1+1)をメスシリンダーを用いて 20mL 加えた。
(2) 5mM 過マンガン酸カリウム標準液 10mL をビュレットを用いて加え、沸騰石を少量加え
た後、ただちにホットプレート上で 15 分加熱した。
(3) 加熱後ホットプレートから降ろし、
12.5mM シュウ酸ナトリウム標準液 10mL をホールピ
ペットを加え、よく振り混ぜた。
(4) 5mM 過マンガン酸カリウム標準液で滴定し、
溶液が無色からわずかに淡紅色になった点
を終点とした。
4-5.片付け
(1) ビーカー等のガラス器具はクレンザーを用いてブラシで中を洗浄した。
(2) ホールピペット等の値を正確に読み取る器具は、傷つくことを避け、ブラシを用いずに
洗浄した。
(3) マンガンを含むもの、硫酸は特定の廃液ビーカー、廃液タンクに処理をした。
(4) シュウ酸ナトリウム、試料水は水道に流した。
5. 実験結果
5-1.シュウ酸ナトリウム標準溶液の濃度
5-1-1.秤量結果
4-1(1)で測定した空きの秤量びんと秤量びん+シュウ酸ナトリウムから差し引いて求めら
れるシュウ酸ナトリウムの質量について表 3 にまとめた。以下に、表3を示した。
表 3.秤量結果
秤量びん(ふた付き)の重量[g] 16.1473
5
秤量びん+シュウ酸ナトリウムの重量[g] 16.5661
はかりとったシュウ酸ナトリウムの重量[g] 0.4188
5-1-2.シュウ酸ナトリウム標準溶液の濃度[mmol/L]
5-1-1 ではかりとったシュウ酸ナトリウムの重量の値から、
シュウ酸標準溶液の濃度を以下
の式を使用して求めた。
はかりとったシュウ酸ナトリウム量[g]
分子量: 134.0 [
g
mol
]
×
1
0.25[L]
=
0.418[g]
134.0[g]
×
1
0.25
= 0.01250149 [
mol
L
]
0.01250149[mol/L] = 12.50149 [
mol
L
] ≒ 12.5 [
mmol
L
]
よって、シュウ酸ナトリウム標準溶液の濃度は、12.5[mmol/L]であった。
5-2.過マンガン酸カリウム溶液の濃度 x[mM]
5-2-1.過マンガン酸カリウム溶液の標定
4-2(6)で測定した過マンガン酸カリウム溶液の滴定量3回分とその平均値について、表 4
にまとめた。以下に、表 4 を示した。
表 4.過マンガン酸カリウム溶液の標定結果
実験回数 滴定量[mL]
1回目 10.51
2回目 10.56
3回目 10.55
平均値 10.54
5-2-2.過マンガン酸カリウム溶液の濃度 x[mM]
過マンガン酸(MnO₄-
)の半反応式を以下に示した。
MnO₄-
+ 8H+
+ 5e-
⇄ Mn2+
+ 4H₂O
同様にシュウ酸(C₂O₄2-
)の半反応式を以下に示した。
C₂O₄2-
⇄ CO₂ + 2e-
上記の2つの半反応式より、シュウ酸と過マンガン酸の全反応式は以下となった。
6
2MnO₄-
+ 16H+
+ 5C2O4
2-
⇄ 2Mn2+
+ 8H₂O + 10CO₂
この式より、MnO₄-
:C₂O₄2-
= 2:5 であり、
よって、5[MnO₄-
]mol = 2[C₂O₄2-
]mol ということがわかった。
ここで、以下の酸化剤と還元剤の関係式を使用した。
𝑛1𝐶1
𝑣1
1000
= 𝑛2𝐶2
𝑣2
1000
※n1:過マンガン酸の価数、C1:過マンガン酸濃度[mol/L]、v1:過マンガン酸滴定量[mL]
n2:シュウ酸の価数、C2:シュウ酸濃度[mol/L]、v2:シュウ酸量[mL]。
上記の酸化剤と還元剤の関係式より、MnO₄-の濃度 x[mmolL]を求める式は以下であった。
5 × 𝑥 [
mmol
L
] ×
滴定量の平均[mL]
1000
= 2 × 12.50149 [
mmol
L
] ×
10[mL]
1000
5 × 𝑥 [
mmol
L
] ×
10.54[mL]
1000
= 2 × 12.50149 [
mmol
L
] ×
10[mL]
1000
𝑥 = 4.74439848197 ≒ 4.74 [
mmol
L
]
上記の式より、過マンガン酸カリウム溶液の濃度 x[mmol/L]は、4.74[mmol/L]であった。
5-3.過マンガン酸カリウム溶液のファクター(f)
過マンガン酸カリウム溶液のファクターf は以下の式を使用して求めた。
𝑓 =
𝑥[mM]
5[mM]
=
4.744
5
= 0.94887969639 ≒ 0.949
以上のことから、過マンガン酸カリウム溶液のファクター(f)は 0.949 であった。
5-4.COD 測定
5-4-1.過マンガン酸カリウム溶液の滴定量
4-4(4)で測定した過マンガン酸カリウム溶液の滴定量について、表 5 にまとめた。以下に、
表 5 を示した。
7
表 5.過マンガン酸カリウム溶液の滴定量
実験回数 滴定量[mL]
1回目 1.73
2回目 1.78
5-4-2.COD の算出
試料水 VmL を用いた場合に滴定に要した 5mM KMnO₄標準液の量を a mL として、
COD を
次式によって算出した。
COD (
mgO2
L
) = 𝑓 × 0.2 × a ×
1000
V
1回目の COD の算出
COD(
mgO2
L
) = 0.9488 × 0.2 × 1.73 ×
1000
100
= 3.282848 ≒ 3.28 (
mgO2
L
)
2回目の COD の算出
COD (
mgO2
L
) = 0.9488 × 0.2 × 1.78 ×
1000
100
= 3.377728 ≒ 3.38(
mgO2
L
)
上記の式より、算出することができた COD の結果について、表 6 にまとめた。以下に、
表 6 を示した。
表 6.COD の結果
実験回数 COD(mgO₂/L)
1回目 3.28
2回目 3.38
6. 考察
6-1.COD の結果にばらつきがあったことについて
実験結果 5-4 で求められた COD の値が1回目と2回目でばらつきがあった。1回目は
3.28(mgO₂/L)で、2回目は 3.38(mgO₂/L)であることから、0.1 程度のばらつきがあったといえ
る。この COD のばらつきの理由としては2つの要因が考えられる。
1つ目としては、試料水に含まれる物質が1回目と2回目で異なっていたことである。試
料水は河川の水の一部であり、様々な種類の物質が含まれている。濃度や物質成分を調整し
ていない試料水だったため、1回目と2回目で体積は等しかったが、含まれている成分が完
8
璧に一致することはないと判断した。よって、含まれている物質が一致していない部分もあ
ったため、COD にばらつきがあったと考えられる。
2つ目としては、過マンガン酸カリウム溶液の滴定の終点を視認では正確に決めることが
できないことである。本実験では変色した地点を終点としているため、視認によって変色を
見極めなければならなかった。しかし、1mL 程度以下の滴定差で、色の変化を正確に判断す
ることは困難であると考えられる。よって、終点判断が視認では難しく、滴定量が異なって
いたため COD にばらつきがあったと考えられる。
以上の2つが理由で COD のばらつきがあったと考えられる。
6-2.自由考察<標準酸化還元電位から考える反応の進行性>
本実験では、過マンガン酸カリウム溶液が酸化剤として、シュウ酸ナトリウムが還元剤とし
て反応が進行していた。これを、標準酸化還元電位から正しかったのかを考察する。
過マンガン酸カリウムの半反応式は以下である。
MnO4
−
+ 8H+
+ 5e−
⇄ Mn2+
+ 4H2O … + 1.51V … ①
同様に、シュウ酸ナトリウムの半反応式は以下である。
2CO2 + 2e−
⇄ C2O4
2−
… − 0.49V … ②
標準酸化還元電位の値は、その値はその値が大きいほど、半反応式が左から右に進める方
向に傾くことを指している。
標準酸化還元電位の値が①>②であるから、①式は左から右へ、②は右から左へ反応が進む
ことがわかる。つまり、①では電子もらい、②では電子を与えているということがわかる。
この関係は、酸化剤と還元剤の関係と同じであり、①の過マンガン酸イオンが酸化剤、②の
シュウ酸イオンが還元剤として働いている。
以上のことから、標準酸化還元電位から考えても、確かに、過マンガン酸カリウムが酸化
剤として、シュウ酸ナトリウムが還元剤として反応が進行していた。
7. 結論
・目的に対する回答
本実験の目的は、
「代表的な酸化剤である過マンガン酸イオン溶液を用いて滴定を行い、酸
化還元反応の特徴をつかむとともに、反応の推進力である溶液の電位差への理解を深める」
というものであった。酸化還元反応の特徴として、必ず対で起こり、電子の授受によって説
明することができるとわかった。また、反応の推進力である溶液の電位差については、扱っ
た物質の標準酸化還元電位の値から説明することができるとわかり、どちらも理解を深め
ることができた。
9
・環境省の基準値にのっとった水質評価
今回測定した試料水の水質を環境省の基準値にのっとって、COD から評価すると、
「水産3
級、工業用水 1 級、農業用水及び C の欄に掲げるもの」という水質であるいうことが評価
できた。ここで、水産 3 級とは、
「コイ、フナ等富栄養湖型の水域の水産生物用」であり、
工業用水 1 級とは、
「沈殿等による通所の浄水操作を行うもの」である。
・考察のまとめ
本実験で測定した COD には 0.1 程度のばらつきがあり、ばらつきの要因としては1回目と
2回目で、
試料水に含まれている成分が完璧に一致してはいないことと、
過マンガン酸カリ
ウム溶液の滴定の終点を人間の目では正確に決めることができないことであると考えた。
また、標準酸化還元電位の関係から、本実験では確かに、過マンガン酸カリウムが酸化剤と
して、シュウ酸ナトリウムが還元剤として作用していることを考えられた。
・水質改善のための提案
本来、
河川や湖は自浄作用を持っているので、
水質の良くない状態の原因である汚れなどは、
そこに生息している微生物などによって分解されることで、ある一定の水質を保つことが
できるはずである。しかし、人間の生産活動において出てしまう工場排水や、家庭からでる
排水によって、
汚れが自浄作用のキャパシティを超えてしまうために、
水質が悪化してしま
うと考えられる。よって、水質の改善のためには、人間の生産活動における汚染された排水
を減らしていくことは重要である。以上のことから、大規模な水質改善の提案としては、下
水道設備を増築することなどが考えられ、小規模で家庭などでもできる水質改善の提案と
しては、食べ残しや食品くずを流さないことや、合成洗剤(シャンプーや洗剤)の過度な使
用をやめることなどが考えられる。
8. 設問
(1) 過マンガン酸カリウム溶液を標準溶液(本実験ではシュウ酸ナトリウム溶液)で標定する
必要があるのはなぜか。
過マンガン酸カリウム溶液をシュウ酸ナトリウム溶液で標定する必要がある理由は、
過
マンガン酸カリウム溶液の濃度を確定するためであると考えられる。
過マンガン酸カリウムは他の物質と比較して、強力な酸化剤としての性質を持ってい
る。強力な酸化剤としての性質を持っているということは、自身は還元されやすいとい
うことを意味する。つまり、過マンガン酸カリウム自身は還元され、二酸化マンガンに
なりやすい。使用前から、二酸化マンガンになっているものと過マンガン酸カリウムの
ものとが混在しているため、過マンガン酸カリウムの濃度が定まらないと考えられる。
よって、使用する過マンガン酸カリウム溶液の濃度を知るために、シュウ酸ナトリウム
で標定を行う必要があると考えられる。
(2) 硫酸酸性下で滴定を行ったが、他の酸(例えば塩酸や硝酸)ではどのような問題があると
考えられるか。
10
・塩酸の場合、塩酸自身が還元剤として働いてしまうという問題があると考えられる。
よって、過マンガン酸カリウムと以下のような、反応を起こし、正確な滴定を行えなく
なると考えられる。
2MnO4
−
+ 10Cl−
+ 16H+
→ 2Mn2+
+ 5Cl2 + 8H2O
・硝酸の場合、硝酸自身が酸化剤として働いてしまうという問題があると考えられる。
そして、目的物質が還元剤であるため、目的物質と反応を起こし、正確な滴定を行えな
くなると考えられる。
(3) 結果で COD を算出する際、f(ファクター)および 0.2 を掛けるのはなぜか。
COD(mgO₂/L)を算出する式は以下である。
COD (
mgO2
L
) = 𝑓 × 0.2 × (a − b) ×
1000
V
この式において、f(ファクター)と 0.2 を掛ける理由について考える。
・f(ファクター)を掛けるのはなぜか
f(ファクター)は濃度の補正係数のことであり、本実験では過マンガン酸カリウム濃度を
より正確にするために掛ける必要がある。調整したい標準液の濃度と実際に標定した濃
度が異なる場合(同じ場合はf=1)に、
ファクターを掛けることでその濃度差を埋めている。
・0.2 を掛けるのはなぜか
COD は、酸化剤を用いて一定条件のもとで酸化するときに消費される酸化剤の量を、酸
素の量に換算したものであるため、酸化剤と酸素の関係が重要であると考えられる。本
実験の酸化剤は、過マンガン酸カリウムである。
ここで、過マンガン酸カリウムの半反応式を以下に示す。
MnO4
−
+ 8H+
+ 5e−
⇄ Mn2+
+ 4H2O
半反応式より、過マンガン酸イオン(過マンガン酸カリウム):電子 = 1:5 である。
同様に、酸素の半反応式を以下に示す。
O2 + 4e−
⇄ 2O2−
半反応式より、酸素:電子 = 1:4 である。
以上のことから、過マンガン酸カリウムの量を酸素の量に換算するためには、同じ電子
11
量を受け取ればよいので、過マンガン酸カリウムの 5/4 倍であればよいことがわかる。
まず、使用した過マンガン酸カリウム溶液は 5mM であるから、1mL 当たりの過マンガ
ン酸カリウム溶液の物質量は以下の式によって求められる。
5 [
mmol
L
] ×
1[ml] × 1[L]
103[ml]
= 5 × 10−3
[mmol]
次に、酸素の物質量は上記の式の結果の 5/4 倍なので、以下の式で求められる。
(5 × 10−3)[mmol] ×
5
4
[−] = 6.25 × 10−3[mmol]
COD の単位は mgO₂/L より、上記で求めた酸素の物質量を以下の式で質量に換算する。
酸素の分子量を 32g/mol とする。
6.25 × 10−3[mmol] × 32 [
g
mol
] = 0.2[mg]
0.2[mg]が導出することができた。
以上により、0.2 を掛ける理由は、5mM 過マンガン酸カリウム 1mL の量が、酸素 0.2mg
に対応しているからである。
(4) 試料水に硫酸、KMnO₄の他に硝酸銀溶液を加えてから加熱分解処理を行うがそれはなぜ
か。
試料水には塩化物イオンが含まれている場合がある。硝酸銀は、この試料水中に含ま
れた塩化物イオンを取り除くために加えられると考えられる。
塩化物イオンが残存している場合、過マンガン酸カリウムと塩化物イオンが以下のよ
うな反応を起こし、
本来の正確な実験が行えなくなってしまう場合があると考えられる。
2MnO4
−
+ 10Cl−
+ 16H+
→ 2Mn2+
+ 5Cl2 + 8H2O
そこで、硝酸銀(銀イオン)を加えることで、以下の反応が起こり、塩化銀(Ⅰ)の沈殿が
生成され、塩化物イオンを本来の反応系から除去することができる。
Ag+
+ Cl−
→ AgCl
以上のことから、塩化物イオンを取り除くために、硝酸銀を加えると考えられる。
12
(5) 4-5 に示される逆滴定によって COD 値を求めるのはなぜか。
通常の滴定ではなく、逆滴定を行う理由は2つ考えられる。
1 つ目は、終点の判別をよりわかりやすくするためである。逆滴定では、シュウ酸ナト
リウムを加えた後に、過マンガン酸カリウムで滴定を行う。つまり、溶液の色の変化と
しては、初めのシュウ酸の影響で無色であり、一定量の過マンガン酸カリウムが滴定さ
れると赤紫色になる。一方、通常の滴定では、過マンガン酸カリウムがはじめに存在し
ているため、溶液の色の変化は赤紫色から無色である。人間の視覚を考慮すると、溶液
の色が赤紫色から無色にするよりも、無色から赤紫色に変化した場合のほうが、終点を
判別しやすいため、誤差が少なくなると考えられる。よって、通常の滴定ではなく、逆
滴定を行っている。
2つ目は、過マンガン酸カリウムの酸化反応を完了させるためである。試料水中の有
機物は被酸化性物質であり、過マンガン酸カリウムによる酸化の影響を受けるが、本実
験のような短い滴定時間では、十分に酸化されていない場合がある。また、4-4(2)でホッ
トプレートを用いて時間をかけて加熱をし、反応を進めると、徐々に酸化反応が進行し
ていくが、この段階では酸化反応が完了したかどうか判別することが難しい。そこで、
加熱終了後に、過剰なシュウ酸を加えることで、過マンガン酸カリウムによる酸化反応
を完了させていると考えられる。ここで未反応となったシュウ酸については、4-4(4)で過
マンガン酸カリウムを滴定することで定量していると考えられる。つまり、過マンガン
酸カリウムの酸化反応を、ある時間で完了させるために、逆滴定を行っている。
以上のことから、終点を判別しやすくすることと、過マンガン酸カリウムの酸化反応
を完了させることが理由で、逆滴定によって COD 値を求めていると考えられる。
(6) 河川および湖沼における有機汚濁の一般的指標としては COD の他に BOD(生物化学的酸
素要求量)があるが、COD と BOD の違いについて記述せよ。
COD は、水中の有機物を酸化剤で酸化した際に消費される酸素の量であり、湖沼の有機
汚濁を測る代表的な指標であるのに対し、BOD は、水中の有機物が好気性微生物の働き
によって分解されるときに消費される酸素の量であり、河川の有機汚濁を測る代表的な
指標であるという違いがある。つまり、COD と BOD はどちらも有機汚濁を測る指標で
あるという共通点を持つが、
COD は湖沼における測定に優れ、
BOD は河川における測定
に優れるという違いがある。
(7) COD 値の結果から、今回測定した試料水の水質を評価せよ。
環境省が発表している湖沼の環境基準の一部ついて、表 7 にまとめた。以下に、表 7 を
示す。
表 7.環境基準(湖沼)について
項目類型 利用目的の適応性 基準値/化学的酸素要求量
13
(COD)
AA 水道 1 級、水産 1 級
自然環境保全及び A 以下
の欄に掲げるもの
1mg/L 以下
A 水道 2、3 級、水産 2 級
水浴及び B 以下の欄に掲
げるもの
3mg/L 以下
B 水産 3 級、工業用水 1 級
農業用水及び C の欄に掲
げるもの
5mg/L 以下
C 工業用水 2 級、環境保全 8mg/L 以下
今回測定した試料水の水質を評価する。本実験での COD の値は、1 回目が 3.28[mgO₂
/L]、2 回目が 3.38[mgO₂/L]であった。1 回目、2 回目ともに COD の値は 5[mgO₂/L]以下
であるため、表 7 における B「水産 3 級、工業用水 1 級、農業用水及び C の欄に掲げる
もの」に該当する。水産 3 級は「コイ、フナ等富栄養湖型の水域の水産生物用」であり、
工業用水 1 級は「沈殿等による通常の浄水操作を行うもの」である。
以上のことから、本実験で使用した試料水は農業用水として使うことができ、コイや
フナ等が生息することが可能であり、工業用水としては通常の浄水程度に使用できる水
質であったと評価できる。
9. 参考文献
別表 2 生活環境の保全に関する環境基準(湖沼)
https://www.env.go.jp/kijun/wt2-1-2.html
閲覧日:12/22 6:34
3.2.10 COD&BOD【指標の意義】
https://www.jswe.or.jp/publications/jutaku/wsi/pdf/seikasyu-003.pdf
閲覧日:12/22 5:12
多量の塩素イオンを含む場合の COD 測定法について(第2報) 松尾清孝、島田要、早坂孝夫
https://www.city.kawasaki.jp/300/cmsfiles/contents/0000015/15282/04-2-08.pdf
閲覧日:12/22 4:43
COD 測定に関する 2,3 の考察-水質総量規制の実施にあたって-大森正男
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jriet1972/8/6/8_6_589/_pdf/-char/ja
閲覧日:12/22 4:30

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酸化還元反応

  • 1. 1 1. 目的 代表的な酸化剤である過マンガン酸イオン溶液を用いて滴定を行い、酸化還元反応の特徴を つかむとともに、反応の推進力である溶液の電位差への理解を深める。 2. 原理 2-1.酸化還元反応 酸化還元反応(redox reaction)とは、一般には物質間で電子が移動する反応であると定義され ている。物質が電子を失うか得るか、つまり酸化されるか還元されるかに着目して、それぞ れ酸化反応(oxidation)、 還元反応(reduction)というが、 通常それぞれは単独では起こらず、 伴っ て起こるものである。 次の2つの酸化還元対を考える。 Ox、 Red、 E゜はそれぞれ酸化体(oxidant)、 還元体(reductant)、 標準電極電位¹を表す。 Ox₁ + n₁e- ⇆ Red₁ E₁゜ (1) Ox₂ + n₂e- ⇄ Red₂ E₂゜ (2) n₁,n₂はそれぞれの酸化体(or 還元体)1分子が受容(or 放出)する電子の数であり、 価数と呼ぶ。 この2つの酸化還元対の間で電子の授受が行われるとき、一方の対から放出される電子数と 他方の対が受容する電子数は等しいことから、次のような酸化還元反応式が得られる²。 n₂Ox₁ + n₁Red₂ ⇄ n₂Red₁ + n₁Ox₂ E₁-₂゜= E₁゜- E₂゜ (3) この反応はどちら向きに進むだろうか。E₁゜, E₂゜はそれぞれの酸化還元対が持つ電位 (redox potential あるいは単に potential)に関係しており、 Ox の酸化力(他の物質から電子を取り 除き、 自身に受容する力)の指標である³。 したがって、 E₁゜>E₂゜であれば、 酸化力は Ox₁>Ox ₂となり、Ox₁が酸化剤として作用する。つまり(1)の正反応を起こす力が(2)の正反応を起こす 力に勝るため、(3)の反応は右側に進むのである。このとき、Red₂は還元剤として作用してい る。 ₁「標準電位」 、 「標準酸化還元電位」などと表記されることがあるが、同義である。 ₂(1)×n₂ - (2)×n₁から得られる。右辺と左辺を入れ替えると、E₁-₂゜も E₂-₁゜=E₂゜- E₁゜ になることに注意。 ₃電子は電位の高い酸化体へ移動しようとする。 2-2。酸化還元滴定 いま、濃度 C₁(M)で価数 n₁の酸化剤 Ox₁ 溶液 v₁(mL)と濃度 C₂(M)で価数 n₂の還元剤 Red ₂ 溶液 v₂(mL)を混合し、どちらも過不足なく反応が完了したとする。Ox₁が受け取る電子は n₁C₁v₁/1000(mol)、Red₂が放出する電子は n₂C₂v₂/1000(mol)であるから、
  • 2. 2 n1C1 v1 1000 = n2C2 v2 1000 当量点(equivalent point)におけるこの関係から未知濃度の酸化剤または還元剤の濃度を決定す ることができる。実際の酸化還元滴定での終点の判定には、指示薬等の呈色や電位差滴定 (potentiometric titration)などが利用されている。 2-3.過マンガン酸を用いた化学的酸素要求量(COD)の測定 化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand,COD と略す。 化学的酸素消費量ともいう)とは、 試料水を一定条件下、強力な酸化剤で処理し、消費される酸化剤の量を求め、それに対応す る酸素の量を換算したものである。これは試料水中の被酸化性物質の量の目安となる。被酸 化性物質としては、各種の有機物、亜硝酸塩、鉄(Ⅱ)塩、硫化物などが考えられるが、特殊な 水を除けば有機物が主要なものであって、COD を有機物量の相対的な尺度とみなすことがで きる。 原理 KMnO₄は酸性溶液中で次式のように反応し強い酸化力を示す。 MnO₄- + 8H+ + 5e- ⇄ Mn2+ + 4H₂O 酸性にした試料水に一定量の KMnO₄を加え、一定条件で試料水中の被酸化性物質を酸化す る。その後、一定過剰量のシュウ酸ナトリウムを加えて未反応の MnO₄- を還元する。 ついで、過剰の C₂O₄2- を KMnO₄標準液で滴定し、計算によって試料水中に含まれる被酸 化性物質と反応した MnO₄- の量を求める。 求めた MnO₄- の量から必要とされる酸素濃度を換算し、COD 値とする。 3. 使用試薬・使用器具 本実験での使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。 表 1.使用試薬 使用試薬名 化学式 濃度[mM] 使用量[mL] シュウ酸ナトリウム溶液 Na₂C₂O₄ 12.5 125 過マンガン酸カリウム溶液 KMnO₄ 5 150 (1+1)硫酸 H₂SO₄ - 100
  • 3. 3 本実験での使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。 表 2.使用器具 使用器具名 規格[mL] 個数[-] ビーカー 500 2 300 2 100 2 コニカルビーカー 200 3 メスフラスコ 250 1 メスシリンダー 100 1 ホールピペット 50 1 10 1 ビュレット 25 1 ビュレットスタンド - 1 ガラス棒 - 1 アスピレーター - 1 吸引びん - 1 ガラスフィルター - 1 ホットプレート - 1 秤量びん - 1 4. 実験方法 4-1.12.5mM シュウ酸ナトリウム標準溶液の調整 (1) 空の秤量びん(ふた付き)の重量を精密電子天秤で求めた後、110℃で乾燥してあるシュウ 酸ナトリウム 0.419g を上皿電子天秤を使ってはかりとった。その後精密電子天秤で再び 全体の重量を求め、差し引きからシュウ酸ナトリウムの正確な重さを求めた。 (2) シュウ酸ナトリウムをこぼさないように注意してビーカー(100mL)に移した。 秤量びんに 付着したシュウ酸ナトリウムは、洗浄びんから純水を吹き付けて流し込んだ。これに適 量の純水を加え、よくかき混ぜて溶かした。 (3) 溶液を 250mL メスフラスコに移し、ビーカーを純水で 3~4 回洗い、洗液もメスフラスコ に流し入れた。メスフラスコに純水を加え、標線のわずか下まで純水を加えた。最後は 洗浄びんを用いて正しく標線まで純水を滴下した。共栓をして 2~3 回上下に倒立し、よ く混合した。100mL ビーカーに溶液を移して使用した。 4-2.5mM 過マンガン酸カリウム溶液の調整 (1) 水道に接続したアスピレーターに、 ガラスフィルターをセットした吸引びんを接続した。
  • 4. 4 水道水を流して吸引びんを減圧し、過マンガン酸カリウム溶液をろ過した。 (2) ろ液をよく洗った褐色試薬瓶に移した。 4-3.5mM 過マンガン酸カリウム溶液の標定 (1) ビュレットに過マンガン酸カリウム溶液を入れた。 (2) シュウ酸ナトリウム溶液 10mL をホールピペットでコニカルビーカーにとった。これに 硫酸(1+1)約 10mL をメスシリンダーを用いて加え、さらに水を加えて約 50mL にした。 (3) この溶液にビュレット 0mL に合わせた過マンガン酸カリウム溶液を 1~2mL 程度滴下し た。 (4) 溶液の色が消えるまで、1~2分程度加温した。 (5) (3)で減ったビュレットで過マンガン酸カリウム溶液を滴下した。 (6) 過剰の過マンガン酸イオンにより溶液がわずかに赤く着色した時点で終点とした。測定 の差が 0.2mL 以内となる3回の平均値を滴定量とした。 4-4.COD 測定 (1) 試料水 100mL をホールピペットを用いてコニカルビーカーにとり、 振り混ぜながら硫酸 (1+1)をメスシリンダーを用いて 20mL 加えた。 (2) 5mM 過マンガン酸カリウム標準液 10mL をビュレットを用いて加え、沸騰石を少量加え た後、ただちにホットプレート上で 15 分加熱した。 (3) 加熱後ホットプレートから降ろし、 12.5mM シュウ酸ナトリウム標準液 10mL をホールピ ペットを加え、よく振り混ぜた。 (4) 5mM 過マンガン酸カリウム標準液で滴定し、 溶液が無色からわずかに淡紅色になった点 を終点とした。 4-5.片付け (1) ビーカー等のガラス器具はクレンザーを用いてブラシで中を洗浄した。 (2) ホールピペット等の値を正確に読み取る器具は、傷つくことを避け、ブラシを用いずに 洗浄した。 (3) マンガンを含むもの、硫酸は特定の廃液ビーカー、廃液タンクに処理をした。 (4) シュウ酸ナトリウム、試料水は水道に流した。 5. 実験結果 5-1.シュウ酸ナトリウム標準溶液の濃度 5-1-1.秤量結果 4-1(1)で測定した空きの秤量びんと秤量びん+シュウ酸ナトリウムから差し引いて求めら れるシュウ酸ナトリウムの質量について表 3 にまとめた。以下に、表3を示した。 表 3.秤量結果 秤量びん(ふた付き)の重量[g] 16.1473
  • 5. 5 秤量びん+シュウ酸ナトリウムの重量[g] 16.5661 はかりとったシュウ酸ナトリウムの重量[g] 0.4188 5-1-2.シュウ酸ナトリウム標準溶液の濃度[mmol/L] 5-1-1 ではかりとったシュウ酸ナトリウムの重量の値から、 シュウ酸標準溶液の濃度を以下 の式を使用して求めた。 はかりとったシュウ酸ナトリウム量[g] 分子量: 134.0 [ g mol ] × 1 0.25[L] = 0.418[g] 134.0[g] × 1 0.25 = 0.01250149 [ mol L ] 0.01250149[mol/L] = 12.50149 [ mol L ] ≒ 12.5 [ mmol L ] よって、シュウ酸ナトリウム標準溶液の濃度は、12.5[mmol/L]であった。 5-2.過マンガン酸カリウム溶液の濃度 x[mM] 5-2-1.過マンガン酸カリウム溶液の標定 4-2(6)で測定した過マンガン酸カリウム溶液の滴定量3回分とその平均値について、表 4 にまとめた。以下に、表 4 を示した。 表 4.過マンガン酸カリウム溶液の標定結果 実験回数 滴定量[mL] 1回目 10.51 2回目 10.56 3回目 10.55 平均値 10.54 5-2-2.過マンガン酸カリウム溶液の濃度 x[mM] 過マンガン酸(MnO₄- )の半反応式を以下に示した。 MnO₄- + 8H+ + 5e- ⇄ Mn2+ + 4H₂O 同様にシュウ酸(C₂O₄2- )の半反応式を以下に示した。 C₂O₄2- ⇄ CO₂ + 2e- 上記の2つの半反応式より、シュウ酸と過マンガン酸の全反応式は以下となった。
  • 6. 6 2MnO₄- + 16H+ + 5C2O4 2- ⇄ 2Mn2+ + 8H₂O + 10CO₂ この式より、MnO₄- :C₂O₄2- = 2:5 であり、 よって、5[MnO₄- ]mol = 2[C₂O₄2- ]mol ということがわかった。 ここで、以下の酸化剤と還元剤の関係式を使用した。 𝑛1𝐶1 𝑣1 1000 = 𝑛2𝐶2 𝑣2 1000 ※n1:過マンガン酸の価数、C1:過マンガン酸濃度[mol/L]、v1:過マンガン酸滴定量[mL] n2:シュウ酸の価数、C2:シュウ酸濃度[mol/L]、v2:シュウ酸量[mL]。 上記の酸化剤と還元剤の関係式より、MnO₄-の濃度 x[mmolL]を求める式は以下であった。 5 × 𝑥 [ mmol L ] × 滴定量の平均[mL] 1000 = 2 × 12.50149 [ mmol L ] × 10[mL] 1000 5 × 𝑥 [ mmol L ] × 10.54[mL] 1000 = 2 × 12.50149 [ mmol L ] × 10[mL] 1000 𝑥 = 4.74439848197 ≒ 4.74 [ mmol L ] 上記の式より、過マンガン酸カリウム溶液の濃度 x[mmol/L]は、4.74[mmol/L]であった。 5-3.過マンガン酸カリウム溶液のファクター(f) 過マンガン酸カリウム溶液のファクターf は以下の式を使用して求めた。 𝑓 = 𝑥[mM] 5[mM] = 4.744 5 = 0.94887969639 ≒ 0.949 以上のことから、過マンガン酸カリウム溶液のファクター(f)は 0.949 であった。 5-4.COD 測定 5-4-1.過マンガン酸カリウム溶液の滴定量 4-4(4)で測定した過マンガン酸カリウム溶液の滴定量について、表 5 にまとめた。以下に、 表 5 を示した。
  • 7. 7 表 5.過マンガン酸カリウム溶液の滴定量 実験回数 滴定量[mL] 1回目 1.73 2回目 1.78 5-4-2.COD の算出 試料水 VmL を用いた場合に滴定に要した 5mM KMnO₄標準液の量を a mL として、 COD を 次式によって算出した。 COD ( mgO2 L ) = 𝑓 × 0.2 × a × 1000 V 1回目の COD の算出 COD( mgO2 L ) = 0.9488 × 0.2 × 1.73 × 1000 100 = 3.282848 ≒ 3.28 ( mgO2 L ) 2回目の COD の算出 COD ( mgO2 L ) = 0.9488 × 0.2 × 1.78 × 1000 100 = 3.377728 ≒ 3.38( mgO2 L ) 上記の式より、算出することができた COD の結果について、表 6 にまとめた。以下に、 表 6 を示した。 表 6.COD の結果 実験回数 COD(mgO₂/L) 1回目 3.28 2回目 3.38 6. 考察 6-1.COD の結果にばらつきがあったことについて 実験結果 5-4 で求められた COD の値が1回目と2回目でばらつきがあった。1回目は 3.28(mgO₂/L)で、2回目は 3.38(mgO₂/L)であることから、0.1 程度のばらつきがあったといえ る。この COD のばらつきの理由としては2つの要因が考えられる。 1つ目としては、試料水に含まれる物質が1回目と2回目で異なっていたことである。試 料水は河川の水の一部であり、様々な種類の物質が含まれている。濃度や物質成分を調整し ていない試料水だったため、1回目と2回目で体積は等しかったが、含まれている成分が完
  • 8. 8 璧に一致することはないと判断した。よって、含まれている物質が一致していない部分もあ ったため、COD にばらつきがあったと考えられる。 2つ目としては、過マンガン酸カリウム溶液の滴定の終点を視認では正確に決めることが できないことである。本実験では変色した地点を終点としているため、視認によって変色を 見極めなければならなかった。しかし、1mL 程度以下の滴定差で、色の変化を正確に判断す ることは困難であると考えられる。よって、終点判断が視認では難しく、滴定量が異なって いたため COD にばらつきがあったと考えられる。 以上の2つが理由で COD のばらつきがあったと考えられる。 6-2.自由考察<標準酸化還元電位から考える反応の進行性> 本実験では、過マンガン酸カリウム溶液が酸化剤として、シュウ酸ナトリウムが還元剤とし て反応が進行していた。これを、標準酸化還元電位から正しかったのかを考察する。 過マンガン酸カリウムの半反応式は以下である。 MnO4 − + 8H+ + 5e− ⇄ Mn2+ + 4H2O … + 1.51V … ① 同様に、シュウ酸ナトリウムの半反応式は以下である。 2CO2 + 2e− ⇄ C2O4 2− … − 0.49V … ② 標準酸化還元電位の値は、その値はその値が大きいほど、半反応式が左から右に進める方 向に傾くことを指している。 標準酸化還元電位の値が①>②であるから、①式は左から右へ、②は右から左へ反応が進む ことがわかる。つまり、①では電子もらい、②では電子を与えているということがわかる。 この関係は、酸化剤と還元剤の関係と同じであり、①の過マンガン酸イオンが酸化剤、②の シュウ酸イオンが還元剤として働いている。 以上のことから、標準酸化還元電位から考えても、確かに、過マンガン酸カリウムが酸化 剤として、シュウ酸ナトリウムが還元剤として反応が進行していた。 7. 結論 ・目的に対する回答 本実験の目的は、 「代表的な酸化剤である過マンガン酸イオン溶液を用いて滴定を行い、酸 化還元反応の特徴をつかむとともに、反応の推進力である溶液の電位差への理解を深める」 というものであった。酸化還元反応の特徴として、必ず対で起こり、電子の授受によって説 明することができるとわかった。また、反応の推進力である溶液の電位差については、扱っ た物質の標準酸化還元電位の値から説明することができるとわかり、どちらも理解を深め ることができた。
  • 9. 9 ・環境省の基準値にのっとった水質評価 今回測定した試料水の水質を環境省の基準値にのっとって、COD から評価すると、 「水産3 級、工業用水 1 級、農業用水及び C の欄に掲げるもの」という水質であるいうことが評価 できた。ここで、水産 3 級とは、 「コイ、フナ等富栄養湖型の水域の水産生物用」であり、 工業用水 1 級とは、 「沈殿等による通所の浄水操作を行うもの」である。 ・考察のまとめ 本実験で測定した COD には 0.1 程度のばらつきがあり、ばらつきの要因としては1回目と 2回目で、 試料水に含まれている成分が完璧に一致してはいないことと、 過マンガン酸カリ ウム溶液の滴定の終点を人間の目では正確に決めることができないことであると考えた。 また、標準酸化還元電位の関係から、本実験では確かに、過マンガン酸カリウムが酸化剤と して、シュウ酸ナトリウムが還元剤として作用していることを考えられた。 ・水質改善のための提案 本来、 河川や湖は自浄作用を持っているので、 水質の良くない状態の原因である汚れなどは、 そこに生息している微生物などによって分解されることで、ある一定の水質を保つことが できるはずである。しかし、人間の生産活動において出てしまう工場排水や、家庭からでる 排水によって、 汚れが自浄作用のキャパシティを超えてしまうために、 水質が悪化してしま うと考えられる。よって、水質の改善のためには、人間の生産活動における汚染された排水 を減らしていくことは重要である。以上のことから、大規模な水質改善の提案としては、下 水道設備を増築することなどが考えられ、小規模で家庭などでもできる水質改善の提案と しては、食べ残しや食品くずを流さないことや、合成洗剤(シャンプーや洗剤)の過度な使 用をやめることなどが考えられる。 8. 設問 (1) 過マンガン酸カリウム溶液を標準溶液(本実験ではシュウ酸ナトリウム溶液)で標定する 必要があるのはなぜか。 過マンガン酸カリウム溶液をシュウ酸ナトリウム溶液で標定する必要がある理由は、 過 マンガン酸カリウム溶液の濃度を確定するためであると考えられる。 過マンガン酸カリウムは他の物質と比較して、強力な酸化剤としての性質を持ってい る。強力な酸化剤としての性質を持っているということは、自身は還元されやすいとい うことを意味する。つまり、過マンガン酸カリウム自身は還元され、二酸化マンガンに なりやすい。使用前から、二酸化マンガンになっているものと過マンガン酸カリウムの ものとが混在しているため、過マンガン酸カリウムの濃度が定まらないと考えられる。 よって、使用する過マンガン酸カリウム溶液の濃度を知るために、シュウ酸ナトリウム で標定を行う必要があると考えられる。 (2) 硫酸酸性下で滴定を行ったが、他の酸(例えば塩酸や硝酸)ではどのような問題があると 考えられるか。
  • 10. 10 ・塩酸の場合、塩酸自身が還元剤として働いてしまうという問題があると考えられる。 よって、過マンガン酸カリウムと以下のような、反応を起こし、正確な滴定を行えなく なると考えられる。 2MnO4 − + 10Cl− + 16H+ → 2Mn2+ + 5Cl2 + 8H2O ・硝酸の場合、硝酸自身が酸化剤として働いてしまうという問題があると考えられる。 そして、目的物質が還元剤であるため、目的物質と反応を起こし、正確な滴定を行えな くなると考えられる。 (3) 結果で COD を算出する際、f(ファクター)および 0.2 を掛けるのはなぜか。 COD(mgO₂/L)を算出する式は以下である。 COD ( mgO2 L ) = 𝑓 × 0.2 × (a − b) × 1000 V この式において、f(ファクター)と 0.2 を掛ける理由について考える。 ・f(ファクター)を掛けるのはなぜか f(ファクター)は濃度の補正係数のことであり、本実験では過マンガン酸カリウム濃度を より正確にするために掛ける必要がある。調整したい標準液の濃度と実際に標定した濃 度が異なる場合(同じ場合はf=1)に、 ファクターを掛けることでその濃度差を埋めている。 ・0.2 を掛けるのはなぜか COD は、酸化剤を用いて一定条件のもとで酸化するときに消費される酸化剤の量を、酸 素の量に換算したものであるため、酸化剤と酸素の関係が重要であると考えられる。本 実験の酸化剤は、過マンガン酸カリウムである。 ここで、過マンガン酸カリウムの半反応式を以下に示す。 MnO4 − + 8H+ + 5e− ⇄ Mn2+ + 4H2O 半反応式より、過マンガン酸イオン(過マンガン酸カリウム):電子 = 1:5 である。 同様に、酸素の半反応式を以下に示す。 O2 + 4e− ⇄ 2O2− 半反応式より、酸素:電子 = 1:4 である。 以上のことから、過マンガン酸カリウムの量を酸素の量に換算するためには、同じ電子
  • 11. 11 量を受け取ればよいので、過マンガン酸カリウムの 5/4 倍であればよいことがわかる。 まず、使用した過マンガン酸カリウム溶液は 5mM であるから、1mL 当たりの過マンガ ン酸カリウム溶液の物質量は以下の式によって求められる。 5 [ mmol L ] × 1[ml] × 1[L] 103[ml] = 5 × 10−3 [mmol] 次に、酸素の物質量は上記の式の結果の 5/4 倍なので、以下の式で求められる。 (5 × 10−3)[mmol] × 5 4 [−] = 6.25 × 10−3[mmol] COD の単位は mgO₂/L より、上記で求めた酸素の物質量を以下の式で質量に換算する。 酸素の分子量を 32g/mol とする。 6.25 × 10−3[mmol] × 32 [ g mol ] = 0.2[mg] 0.2[mg]が導出することができた。 以上により、0.2 を掛ける理由は、5mM 過マンガン酸カリウム 1mL の量が、酸素 0.2mg に対応しているからである。 (4) 試料水に硫酸、KMnO₄の他に硝酸銀溶液を加えてから加熱分解処理を行うがそれはなぜ か。 試料水には塩化物イオンが含まれている場合がある。硝酸銀は、この試料水中に含ま れた塩化物イオンを取り除くために加えられると考えられる。 塩化物イオンが残存している場合、過マンガン酸カリウムと塩化物イオンが以下のよ うな反応を起こし、 本来の正確な実験が行えなくなってしまう場合があると考えられる。 2MnO4 − + 10Cl− + 16H+ → 2Mn2+ + 5Cl2 + 8H2O そこで、硝酸銀(銀イオン)を加えることで、以下の反応が起こり、塩化銀(Ⅰ)の沈殿が 生成され、塩化物イオンを本来の反応系から除去することができる。 Ag+ + Cl− → AgCl 以上のことから、塩化物イオンを取り除くために、硝酸銀を加えると考えられる。
  • 12. 12 (5) 4-5 に示される逆滴定によって COD 値を求めるのはなぜか。 通常の滴定ではなく、逆滴定を行う理由は2つ考えられる。 1 つ目は、終点の判別をよりわかりやすくするためである。逆滴定では、シュウ酸ナト リウムを加えた後に、過マンガン酸カリウムで滴定を行う。つまり、溶液の色の変化と しては、初めのシュウ酸の影響で無色であり、一定量の過マンガン酸カリウムが滴定さ れると赤紫色になる。一方、通常の滴定では、過マンガン酸カリウムがはじめに存在し ているため、溶液の色の変化は赤紫色から無色である。人間の視覚を考慮すると、溶液 の色が赤紫色から無色にするよりも、無色から赤紫色に変化した場合のほうが、終点を 判別しやすいため、誤差が少なくなると考えられる。よって、通常の滴定ではなく、逆 滴定を行っている。 2つ目は、過マンガン酸カリウムの酸化反応を完了させるためである。試料水中の有 機物は被酸化性物質であり、過マンガン酸カリウムによる酸化の影響を受けるが、本実 験のような短い滴定時間では、十分に酸化されていない場合がある。また、4-4(2)でホッ トプレートを用いて時間をかけて加熱をし、反応を進めると、徐々に酸化反応が進行し ていくが、この段階では酸化反応が完了したかどうか判別することが難しい。そこで、 加熱終了後に、過剰なシュウ酸を加えることで、過マンガン酸カリウムによる酸化反応 を完了させていると考えられる。ここで未反応となったシュウ酸については、4-4(4)で過 マンガン酸カリウムを滴定することで定量していると考えられる。つまり、過マンガン 酸カリウムの酸化反応を、ある時間で完了させるために、逆滴定を行っている。 以上のことから、終点を判別しやすくすることと、過マンガン酸カリウムの酸化反応 を完了させることが理由で、逆滴定によって COD 値を求めていると考えられる。 (6) 河川および湖沼における有機汚濁の一般的指標としては COD の他に BOD(生物化学的酸 素要求量)があるが、COD と BOD の違いについて記述せよ。 COD は、水中の有機物を酸化剤で酸化した際に消費される酸素の量であり、湖沼の有機 汚濁を測る代表的な指標であるのに対し、BOD は、水中の有機物が好気性微生物の働き によって分解されるときに消費される酸素の量であり、河川の有機汚濁を測る代表的な 指標であるという違いがある。つまり、COD と BOD はどちらも有機汚濁を測る指標で あるという共通点を持つが、 COD は湖沼における測定に優れ、 BOD は河川における測定 に優れるという違いがある。 (7) COD 値の結果から、今回測定した試料水の水質を評価せよ。 環境省が発表している湖沼の環境基準の一部ついて、表 7 にまとめた。以下に、表 7 を 示す。 表 7.環境基準(湖沼)について 項目類型 利用目的の適応性 基準値/化学的酸素要求量
  • 13. 13 (COD) AA 水道 1 級、水産 1 級 自然環境保全及び A 以下 の欄に掲げるもの 1mg/L 以下 A 水道 2、3 級、水産 2 級 水浴及び B 以下の欄に掲 げるもの 3mg/L 以下 B 水産 3 級、工業用水 1 級 農業用水及び C の欄に掲 げるもの 5mg/L 以下 C 工業用水 2 級、環境保全 8mg/L 以下 今回測定した試料水の水質を評価する。本実験での COD の値は、1 回目が 3.28[mgO₂ /L]、2 回目が 3.38[mgO₂/L]であった。1 回目、2 回目ともに COD の値は 5[mgO₂/L]以下 であるため、表 7 における B「水産 3 級、工業用水 1 級、農業用水及び C の欄に掲げる もの」に該当する。水産 3 級は「コイ、フナ等富栄養湖型の水域の水産生物用」であり、 工業用水 1 級は「沈殿等による通常の浄水操作を行うもの」である。 以上のことから、本実験で使用した試料水は農業用水として使うことができ、コイや フナ等が生息することが可能であり、工業用水としては通常の浄水程度に使用できる水 質であったと評価できる。 9. 参考文献 別表 2 生活環境の保全に関する環境基準(湖沼) https://www.env.go.jp/kijun/wt2-1-2.html 閲覧日:12/22 6:34 3.2.10 COD&BOD【指標の意義】 https://www.jswe.or.jp/publications/jutaku/wsi/pdf/seikasyu-003.pdf 閲覧日:12/22 5:12 多量の塩素イオンを含む場合の COD 測定法について(第2報) 松尾清孝、島田要、早坂孝夫 https://www.city.kawasaki.jp/300/cmsfiles/contents/0000015/15282/04-2-08.pdf 閲覧日:12/22 4:43 COD 測定に関する 2,3 の考察-水質総量規制の実施にあたって-大森正男 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jriet1972/8/6/8_6_589/_pdf/-char/ja 閲覧日:12/22 4:30