1. SAPPORO
WAT E R !
WAT E R !
WAT E R !
絵／文 田村 亮子

2. あなたは
札幌と聞いて
何を
思い浮かべますか？
さっぽろテレビ塔？
時計台？
雪まつり？
かつて札幌は水の都と
呼ばれるほどに水が豊富でした。
しかし今、
札幌から水を連想する人が果たして
どれだけいるでしょうか。
もう一度札幌を水の都として
再生することは可能なのでしょうか。

3. 札幌扇状地の扇端は
札幌は豊平川扇状地に 北海道神宮ー北海道大学ー中白石
発達した地形です。 をつらねた、ほぼ海抜１５m の地点に位置しています。
扇状地の特徴
１砂礫から構成された地下水帯水層を持つ また、札幌地下水の総量は３億トンともいわれ、
２潜伏した水が扇端部で湧水として現れる 北海道一の雨竜ダムをしのぐ水量です。
３扇頂下部で井戸が掘れる
『 札
札 幌
幌 扇
市 状
史 地
』
よ
り

4. 札幌では開拓史が入植した当時から、
飲料水を井戸から得ていました。
その理由としては、先に述べたように、
豊富な地下水の上に位置していたこと
と、本来水源であるべきはずの豊平川
が無類の暴れ川だったことに関係して
います。
後に打込み井戸が登場すると、資料な
飲料水が際限なく使用できるようにな
り、近代水道設備の整備を遅らせるほ
ど、ほぼ全ての家庭へと普及していき
ました。
水道から出る水は夏に生温かく冬は冷
たいものですが、井戸水はその逆で、
夏に汲む水は冷たく、冬の厳寒期には
温かく感じられたそうです。

5. 札幌中心部は、扇状地扇端部に位置 北大植物園にある幽庭湖や
するため、かつてはおよそ１３カ所 道庁前池は、かつてのメム
にメムと呼ばれる湧泉がありました。 の姿を忍ばせてくれていま
しかし近年の都市開発や、ビル、工 す。
場などの地下水揚水量の増大により、
そのすべてが枯渇してしまいました。

6. 豊富な地下水は、産業の発展をも札幌にもたらしました。
サッポロビールや雪印乳業の工場がある札幌苗穂地区は、
その伏流水の豊かさと交通の利便性により、古くから多
数の工場が集中していました。今も記念館や史跡が多数
残っており、「札幌苗穂地区の工場、記念館群」として北
海道遺産に選定されています。
「苗穂」はアイヌ語で「小さな川」を意味する「ナイ • ポ」
に由来しており、その名の通り至る所からメムから流れ
出た小川がありました。
サッポロビールの工場の敷地にもメムが存在していたそ
うです。
サッポロビールは本来開拓使による官営工場として出発
しました。
当時、日本におけるビールの製造は、東京で試験的に行
う予定でしたが、豊かで良質な水資源を持つ札幌こそビー
ル醸造にふさわしいということで急遽変更となったそう
です。

7. 札幌発の有名企業といえば、やはりサッポロビールと雪
印乳業ですが、以上よりどちらも地下水の恩恵を充分に
受けていることがわかります。
産業分野でも、扇状地が生んだ伏流水は札幌発ブランド
の形成に深く関わっているということができるでしょう。
現在も苗穂のメグミルクの工場では、工場内の洗浄用
の水等に、札幌の伏流水を汲み上げて使用しているそ
うです。
また、果汁ジュースにおいても、濃縮されている原液
を還元する際に、今なお札幌の水が成分を調整された
のち使われています。

8. 札幌発の有名企業といえば、やはりサッポロビールと雪印 近年、地下水位は著しく低下しています。
乳業ですが、以上よりどちらも地下水の恩恵を充分に受け 札幌分か資源の発展において重要な要因となっていた伏流水を失
ていることがわかります。 うことは、札幌史にとっても非常に大きな損失になります。
産業分野でも、扇状地が生んだ伏流水は札幌発ブランドの さらに地下水は地盤を支える役割も担っており、またヒートアイ
形成に深く関わっているということができるでしょう。 ランドとなりがちな都市気候を蒸発散により調整する機能を備え
ています。
地下水位の上昇を助けるためには、雨や雪の地表からの浸透が
必要ですが、現在は扇状地全域に都市化が進み、舗装と下水道が
完備されているため降水の大部分が海へと流されています。
札幌＝水の都という図式を復活させるには、地下水位の上昇は
必須課題であり、融雪水を利用した地下水への人工涵養も検討す
べきでしょう。
地下水減少に大きく拍車をかけたのは札幌オリンピックに向けて
急増したビル工事による排水と長距離にわたる地下鉄工事でし
た。
札幌の発展は、清涼で豊富であった水資源の犠牲の
上に成り立っていることは忘れてはいけない事実な
のです。

9. 地球レベルで考えても、「水の惑星」 また日本が輸入している農畜産物や
とは言われているものの、水の約 工業製品を生産するために海外では
97.5%は海水で、淡水は約 2.5％に 多量の水資源が使われています。
過ぎません。 この輸入している食料等の全てを生
しかもその淡水のほとんどは南極や 産するために海外で使われている水
北極の氷で、私たちが使えるのは河 は 640 億 m^3/ 年にもなります。
川や湖沼の水などわずか 0.01％で これは国内で一年間で使うかんがい
す。 用 水 640 億 m^3/ 年 を 大 き く 上 回
る膨大な量です。
さらに日本では狭い国土に人口が密
集しているため、１人当たりの降水 世界には水不足や水質汚染などが深
量は世界平均の 4 分の 1 しかなく、 刻化している地域や国があり、日本
また短い急流河川が多いため降った は地産地消や食育を進め水を海外に
雨も短時間で海へ流れ出てしまいま 頼るライフスタイルを見直さなけれ
す。 ばなりません。
水に恵まれていると思われている日 札幌のような地域単位でも同様のこ
本でも貴重な資源なのです。 とが言えるでしょう。

10. 今日、水資源の重要性は日増しに高まっています。札幌の地 札幌は豊平川が生んだ街です。
下水や河川など水辺周辺の環境をもう一度見直すべきときが にもかかわらず現在の豊平川は河岸がコンクリートで固めら
来たのではないでしょうか。 れ、グランドやテニスコートが作られるなど人間にとって都
現に今、創生川では河畔緑化工事が進められています。 合のいいよう整然となってしまっています。
これをかつてのヤナギの低木が群生していた頃に戻し、新た
な水の街 • 札幌の新たなシンボルとしてその地位を復権させ
ることを提案します。

11. 札幌に水の都という
ブランド価値を 『20 世紀は石油をめぐり戦争が起きた。
再建させることこそ、 21 世紀は水を奪いあう戦争が始まる』
札幌が SAPPORO として 1995 世界銀行副総裁
イスマエル • セラゲルディン
国際社会で生き抜く秘策となると
私は考えています。