本研究は、病気や事故などで人生の途中で視覚を失ってしまった中途視覚障害者に視点をおき、中途視覚障害者が空間の中で真っすぐに「書く」ための訓練方法を検討することを目的としています。具体的な訓練方法として、セロハンテープをガイドとした触覚に着目した訓練と、フェイスタオルとスポンジシートを組み合わせたものの上に被験者の腕を乗せ誘導する人的支援に着目した訓練を行い、どちらの訓練が適切なのか検討しました。

1. 視覚障害者の「書く」
を実現するために
青森中央短期大学 幼児保育学科２年
永谷幸奏

2. 背景
『恋です！～ヤンキー君と白状ガール』のドラマを
見たことがきっかけで、視覚障害者に興味を持った。
そこで、視覚障害者のために出来ることはないかと
思い、様々な先行研究を調べた。
先行研究には、視覚障害者が日常生活の中で抱えて
いる様々な問題が記載されていた。それらに対する
対処行動はいくつか挙げられていたが、視覚障害者
自身が筆記用具を用いて「書く」という動作につい
て着目した研究は見当たらなかった。

3. 目的
「我々の生活の中で９０％近くが視覚に
依存すると言われている」人間の五感の
中で最も影響を与える「視覚」に着目し、
中途視覚障害者が空間の中で真っすぐに
「書く」ための訓練方法を検討する。

4. テスト及び訓練方法１
被験者
青森中央短期大学幼児保育学科、食物栄養学
科女性１０名（１９．８±０．４歳）
訓練方法
①セロハンテープをガイドとした触覚に着
目した訓練
②フェイスタオルとスポンジシートを組み
合わせたものの上に被験者の腕を乗せ、
実験者が誘導する人的支援に着目した訓練

5. テスト及び訓練方法２
訓練①で用
いた用紙
訓練②で使
用した道具
訓練①の
様子
訓練②の
様子

6. 測定方法と分析方法
測定方法
被験者に書いてもらった１０個の○すべての中心を取り、その
中心部分から線までの距離を測定した。さらに、10個の〇の
距離の平均値と標準偏差を算出した。
例）
分析方法
①10名分のデータの測定から平均を出し、ウィルコクソンの
符号付き順位検定を用いて、訓練の前後の差を比較した。
②訓練を行う前から後の値を引き、変化量を算出し、ウィルコ
クソンの順位和検定を用いて、グループ間での向上の度合い
を比較した。

7. 結果
①、②の訓練を行う前後の変化、
グループ間での変化量、標準偏差
のばらつき、すべてで訓練後に小
さくなる傾向はみられたが、有意
差はなかった。

8. 考察１
セロハンテープでの訓練のメリットとデメリット
メリット
・視覚以外の感覚、今回であれば、触覚を十分に働かせること
ができる。触覚を十分に働かせることは、日常生活を送る中
で視覚だけでは対応しきれないときに役に立つと考えた。
デメリット
・今回私は、実際の書類に近づけるため、あまり凹凸を感じな
いセロハンテープを用いてガイドを作成した。しかし、訓練
後のテストでセロハンテープが貼ってあった位置に○を書い
た被験者がおり、このことからズレが生じる可能性があると
考えた。

9. 考察２
タオルでの訓練のメリットとデメリット
メリット
・他者の協力を得ながら、身体に感覚を覚えさせることが
できる。他者との関わりがスムーズにいくことで、障害
という壁を感じにくくなると考えた。
デメリット
・誘導したときに被験者の腕が安定しにくく、○を書くときに
十分な力が入らなかった被験者がおり、このことからその感
覚を覚えてしまうことで訓練なしで書くときにも力が入りに
くくなる可能性があると考えた。

10. 考察３
二つの訓練の前後で差がみられなかった理由
・被験者の少なさ。
・被験者が２０歳前後だったため、「書く」
ことがすでに沁みついていた。
・一時的に訓練の感覚を覚えていた。

11. まとめ
本研究では、視覚障害者の「書く」ための
訓練方法を検討した。
結果は、どちらの訓練も差が小さくなる傾
向はみられたが、有意差なかった。
今後は、被験者を増やすこと、テストと訓
練を行う時間や頻度を工夫することなどを
課題とし、検討していきたい。