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4.5 植物ホルモン
アブシジン酸、ブラシノステロイド、ジャスモン酸
アブシシン酸の発見と命名
   •   1963: 大熊らがワタ未熟果実から落下促進物質を発見、
       abscisin IIと命名

   •   1963: Wareingがカエデ芽の休眠物質としてドルミン(ドーミ
       ン)を発見

   •   1965: abscisin IIとドルミンが同一物質であることが明らか
       にされる

   •   1967: 混乱を避けるため、Abscisic acid(略称ABA)という統一
       した呼称を用いることが国際植物成長物質会議にて決定

abscisin: 葉などの離脱(abscission)にちなむ
dormin: 休眠(dormancy)にちなむ
「アブシシン酸」が正式名称だが、「アブシジン酸」や「アブサイシン酸」とい
う呼び方も依然として使われる。
ABAの主な生理作用

• 落葉・落果
• 種子の休眠誘導・維持
• 芽(冬芽)の休眠誘導・維持
• ストレスへの応答(特に水ストレス)
落葉・落果

• ABAが直接落葉・落果を制御している
 例は少ない

• ABAは葉の老化を促進させ、老化した
 葉からのエチレン生成により間接的に
 落葉を引き起こす
種子の休眠誘導と維持
•   発芽に必要な環境条件を与えても発芽しない状態
    →種子休眠

•   ABA欠損変異体は種子休眠しない(ABA添加で休眠する)

•   GA欠損変異体は発芽しない(GA添加で発芽する)

•   種子休眠はABA/GA比によって制御されている
    (植物ホルモンの作用には絶対濃度より他のホルモンと
    の濃度比が重要である、という一般原則が現れている
    例)
芽の休眠と維持
• 芽の休眠とABA濃度の関係はあるには
 あるがハッキリしていない

• 他のホルモンとの相互作用と思われる
 がやっぱりハッキリしていない

• 草本類のような便利な遺伝学系が無い
 ため解明が遅れている
水ストレスへの応答
• ABA欠損変異体は極度
 に萎れやすい
 →気孔制御能力が欠如

• 土壌の水ポテンシャル
 低下に伴いABAが蓄積
 し、気孔抵抗が増加す
 る(右図)
水ストレスへの応答2
•   ABAは水ストレス下で茎の成長を抑制し、根の成長
    を促進する

•   通常の水ポテンシャル条件下ではABAは内生のエチ
    レン濃度を抑制し、茎の成長抑制を抑制している
    (ABA欠損株では茎の成長は遅くなる)

•   低水ポテンシャル条件下ではABAはシグナルとして
    働き、茎の成長をより抑制する(ABA欠損株は水スト
    レス下で茎を野生株より成長させる)
ブラシノステロイド
•   1970: Mitchellらがセイヨウアブラナ花粉抽出物に
    インゲンマメの生育促進効果があることを発見

•   1979: Groveらはセイヨウアブラナ花粉40kgから
    2mgのブラシノリドを単離、初のブラシノステロ
    イド発見

•   現在までに70種以上のブラシノステロイドが単
    離sれている
ブラシノステロイド
•   オーキシンなど他のホルモンに類似した作用
    を示すが、特にストレス環境下で強く作用を
    表す

•   他のホルモンに比べて作用濃度が極めて低い
    (1/100程度のオーダー)

•   暗所での芽生えの形、クリの葉にできる「虫
    えい」形成などにも影響
ジャスモン酸
• 作用はABAに似る部分が多い
• 植物の防御反応を活性化させるストレ
 スホルモンとしての作用がある

• ジャスモン酸合成系を欠損したシロイ
 ヌナズナは、普通は害を及ぼさない虫
 からも害を受けるようになる

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植物生理学勉強会「植物ホルモン」Abaからジャスモン酸まで

  • 2. アブシシン酸の発見と命名 • 1963: 大熊らがワタ未熟果実から落下促進物質を発見、 abscisin IIと命名 • 1963: Wareingがカエデ芽の休眠物質としてドルミン(ドーミ ン)を発見 • 1965: abscisin IIとドルミンが同一物質であることが明らか にされる • 1967: 混乱を避けるため、Abscisic acid(略称ABA)という統一 した呼称を用いることが国際植物成長物質会議にて決定 abscisin: 葉などの離脱(abscission)にちなむ dormin: 休眠(dormancy)にちなむ 「アブシシン酸」が正式名称だが、「アブシジン酸」や「アブサイシン酸」とい う呼び方も依然として使われる。
  • 3. ABAの主な生理作用 • 落葉・落果 • 種子の休眠誘導・維持 • 芽(冬芽)の休眠誘導・維持 • ストレスへの応答(特に水ストレス)
  • 4. 落葉・落果 • ABAが直接落葉・落果を制御している 例は少ない • ABAは葉の老化を促進させ、老化した 葉からのエチレン生成により間接的に 落葉を引き起こす
  • 5. 種子の休眠誘導と維持 • 発芽に必要な環境条件を与えても発芽しない状態 →種子休眠 • ABA欠損変異体は種子休眠しない(ABA添加で休眠する) • GA欠損変異体は発芽しない(GA添加で発芽する) • 種子休眠はABA/GA比によって制御されている (植物ホルモンの作用には絶対濃度より他のホルモンと の濃度比が重要である、という一般原則が現れている 例)
  • 6. 芽の休眠と維持 • 芽の休眠とABA濃度の関係はあるには あるがハッキリしていない • 他のホルモンとの相互作用と思われる がやっぱりハッキリしていない • 草本類のような便利な遺伝学系が無い ため解明が遅れている
  • 7. 水ストレスへの応答 • ABA欠損変異体は極度 に萎れやすい →気孔制御能力が欠如 • 土壌の水ポテンシャル 低下に伴いABAが蓄積 し、気孔抵抗が増加す る(右図)
  • 8. 水ストレスへの応答2 • ABAは水ストレス下で茎の成長を抑制し、根の成長 を促進する • 通常の水ポテンシャル条件下ではABAは内生のエチ レン濃度を抑制し、茎の成長抑制を抑制している (ABA欠損株では茎の成長は遅くなる) • 低水ポテンシャル条件下ではABAはシグナルとして 働き、茎の成長をより抑制する(ABA欠損株は水スト レス下で茎を野生株より成長させる)
  • 9. ブラシノステロイド • 1970: Mitchellらがセイヨウアブラナ花粉抽出物に インゲンマメの生育促進効果があることを発見 • 1979: Groveらはセイヨウアブラナ花粉40kgから 2mgのブラシノリドを単離、初のブラシノステロ イド発見 • 現在までに70種以上のブラシノステロイドが単 離sれている
  • 10. ブラシノステロイド • オーキシンなど他のホルモンに類似した作用 を示すが、特にストレス環境下で強く作用を 表す • 他のホルモンに比べて作用濃度が極めて低い (1/100程度のオーダー) • 暗所での芽生えの形、クリの葉にできる「虫 えい」形成などにも影響
  • 11. ジャスモン酸 • 作用はABAに似る部分が多い • 植物の防御反応を活性化させるストレ スホルモンとしての作用がある • ジャスモン酸合成系を欠損したシロイ ヌナズナは、普通は害を及ぼさない虫 からも害を受けるようになる

Editor's Notes

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