2016年3月22日に行われた早稲田大学の教育に関する懇談会における発表資料です。

1. 第2回 教育に関する懇談会
学生授業アンケートの分析事例
大学総合研究センター
山岸直司
平成28年3月22日
於 3号館2階 CTLT Classroom 2 & 3

2. 発表構成
• 学生授業アンケートの機能と意義
• 分析ツールとデータの紹介
• 分析（１）：学修状況に関連する要因の分析
– 分析（１）からの示唆
• 分析（２）：学修状況に成績を結合させた分析
– 分析（２）からの示唆
2
山岸直司

3. 学生授業アンケートの機能と意義
• 学生授業アンケート（以下、アンケート）は、大
学が提供する授業と、学生の学修状況との
関係を把握するためのツール。
• アンケートの分析により大学教育の一側面を
可視化できる。
• 早稲田大学における教育活動の現状を把握
し、将来像を具体的にイメージするために、ア
ンケートの分析結果を参考にすることが可能。
3
山岸直司

4. 分析ツールとデータの紹介
• 分析ツール ： SAS Visual Analytics（SAS VA）
• データ： 「アンケート」＋「教学データ」
4
アンケート
コースナビ（ナビ） マークシート（紙）
・授業クラス名 ・授業クラス名
・授業に対する意見 ・授業に対する意見
・授業への参加状況 ・授業への参加状況
・クラスサイズ ・クラスサイズ
・履修区分 ・履修区分
・配当年次 ・配当年次
・成績
・年齢
・性別
・入試
教学データ
・クラス
・個人
個
人
個
人
ク
ラ
ス
ク
ラ
ス
ク
ラ
ス
山岸直司

5. 分析（１）と分析（２）の位置付け
5
分析（１） 分析（２）
学修状況
成績（総括的評価）
・どのような学生が
・どのような教育条件で
・どのような環境で
（形成的評価）
授業
教育活動の現状把握
山岸直司

6. 分析（１）
学修状況に関連する要因の考察
データ：「紙＋ナビ」＆教学データ

7. 学生の主観的理解度
• 学修状況の間接指標
– 質問 I-Q5: 「この授業の内容をよく理解できましたか」
（以下、主観的理解度）
– 回答: ４（そう思う）、３（ややそう思う）、２（あまりそう思わない）、
１（そう思わない）
• 主観的理解度に影響を与え得る3要因： A、B、C
アンケート
A 教員行動
I-Q1 配布資料などのわかりやすさ
I-Q2 理解を深めるための工夫
I-Q3 学生参加の促進
I-Q4 教員による学生の理解度把握
I-Q6 シラバスに沿った授業
B 学生行動
II-Q1 出席状況
II-Q2 1回の授業あたりの予習復習時間
教学データ C クラス特性 例 サイズ、配当年次、履修区分、授業内容区分など
7
山岸直司

8. 主観的理解度との相関：学生と教員の行動①
SAS VAの画面
8
山岸直司

9. 主観的理解度との相関：学生と教員の行動①´
0.70
0.65
0.54
0.54
0.53
0.20
0.12
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.70
0.65
0.54
0.54
0.53
0.20
0.12
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
（教員行動）Q4_教員による理解度把握
（教員行動）Q1_配布資料などのわかりやすさ
（教員行動）Q6_シラバスに沿った授業
（教員行動）Q3_学生参加の促進
（教員行動）Q2_理解を深める為の工夫
（学生行動）Q2_予習復習時間
（学生行動）Q1_出席状況
教員行動と主観的理
解度との関連が強い
学生行動と主観的理
解度との関連は弱い
9
教
員
行
動
の
中
で
最
も
強
い
n: 94,310
相関係数
山岸直司

10. 各クラス特性別の「教員による理解度把握」①
クラスサイズ
3.2
3.1
2.9
2.7
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
小 中 大 特大
配当年次
3.1 3.1
3.0
3.3
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
１年 ２年 ３年 ４年
10
小規模クラスで最も高く、
特大クラスで最も低い
4年で最も高く、3年において最も
低いが、違いはあまりない
理
解
度
把
握
理
解
度
把
握
n: 小（27,749）、中（21,308）、大（20,981）、特大（14,049）
n: 1年（47,087）、2年（33,638）、3年（11,882）、4年（1,703）
サイズ: 小（～20名）、中（～50名）、大（～125名）、特大（126名～）
山岸直司

11. 各クラス特性別の「教員による理解度把握」②
履修区分
3.1
3.0 3.0
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
必修 選択必修 選択
授業内容区分
3.3
3.0 2.9 2.9 2.8
2.2
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
11
必修、選択必修、選択という側
面において違いはない
理
解
度
把
握
理
解
度
把
握 外国語で最も高く、実技・実習系にお
いて最も低かった
n: 必修（51,335）、選択必修（25,806）、選択（10,441）
n: 外国語（38,187）、人文（14,917）、専門（26,417）、社会（8,570）、
自然（6,016）、実技・実習（183）
山岸直司

12. 各クラス特性別の「教員による理解度把握」③
クラスサイズ（専門講義のみ）
3.3
3.1
3.0
2.7
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
小 中 大 特大
配当年次（選択科目のみ）
12
理
解
度
把
握 「小で最も高く、特大で最も低い」
という同様の結果であり、値にも
ほとんど変化はない
3.1
3.0
3.2
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
２年 ３年 ４年
「4年で最も高く、3年で最も低いが、違
いはあまりない」という同様の結果で
あり、値にもほとんど変化はない
理
解
度
把
握
n: 小（2,940）、中（3,260）、大（9,473）、特大（10,780）
サイズ: 小（～20名）、中（～50名）、大（～125名）、特大（126名～）
n: 2年（2,415）、3年（6,327）、4年（1,599）
※1年はサンプル数が少なく、特定の科目で構成されるため除外
山岸直司

13. 分析（１）からの示唆
• 教員が、学生の理解度を考慮しながら授業を進めることは、学生の「主
観的理解度」を高める上で一定の効果があることが示唆される。
• この効果は、配当年次と履修区分の差異を超えて発揮され得ることが示
唆される。
• 教員が学生の理解度を把握しているという回答は、クラスサイズが大きく
なるにつれて低くなることから、学生の理解度を考慮しながら授業を進め
るとともに、クラスサイズを小さくすることで、学生の理解度が高まること
が示唆される。
• あるいは、クラスサイズを小さくすることで、学生の理解度に配慮した授
業が容易になることも考えられる。
• 大規模クラスにおける学生の理解度を把握するための方法を積極的に
導入することの重要性が示唆される。
– 例：クリッカー、Minute Paper、グループ学習（Think Pair Share、Round Robin）。
13
山岸直司

14. 分析（２）
成績と結合したデータの分析
データ： ナビ＆成績（教学データ）

15. 成績との関連
• 主観的理解度：学生が授業内容を理解したと
思った（自己評価）程度であり、
学修状況の間接的指標。
• 成績：学修状況とより直接的に結びつく指標。
15
成績と、学生行動、教員行動の関連を探る。
山岸直司

16. 成績とアンケート質問項目の相関①
16
SAS VAの画面
山岸直司

17. 成績とアンケート質問項目の相関①´
17
相関係数
n: 10,645
• 成績と各質問項目との関連は総じて弱い。
• 値が最も高い「出席状況」でもr=.19。次が「主観的理解度」のr=.17。「教員による理解
度把握」はr=.11。
• 成績との関係が最も弱いのは「予習復習」で、r=.03。
• クラス特性別の分析も行ったが、成績とアンケート項目の関連性は総じて低い。
0.19
0.17
0.16
0.15
0.12
0.12
0.11
0.10
0.08
0.06
0.06
0.03
0.00 0.10 0.20 0.30 0.40
（2_学生行動）Q1_出席状況
（1_学生意識）Q5_主観的理解度
（3_総合設問）Q1_授業の有意義度
（3_総合設問）Q5_授業や関連分野が好きになったか
（2_学生行動）Q3_努力具合
（3_総合設問）Q4_授業は今後の生活に役に立つか
（1_教員行動）Q4_教員による学生の理解度把握
（1_教員行動）Q1_配布資料・板書のわかりやすさ
（1_教員行動）Q6_授業はシラバスに沿っていたか
（1_教員行動）Q2_理解度を深める為の工夫
（1_教員行動）Q3_効果的な学生参加の促進
（2_学生行動）Q2_予習復習時間
山岸直司

18. 成績と予習復習時間:度数分布
参考：分析（１）
主観的理解度＊教員の理解度把握
分析（２）
成績＊予習復習時間
18
（参考）相関係数r=.70
n: 10,645
30分未満のn: A+=1,142、A=1,738、B=1,493、C=725、F=319
山岸直司
n: 94,310
（参考）相関係数r=.03

19. 成績別にみた予習復習時間（割合％）
19
n: 9,002
山岸直司
54.2
62.2 63.6
59.1 60.8
26.5
21.9 20.6
23.3 22.3
19.3
16.0 15.8 17.6 17.0
0
10
20
30
40
50
60
70
A＋ A B C F A＋ A B C F A＋ A B C F
30分未満 30分～1時間未満 1時間以上
A+は30分未満が少なく
1時間以上が多い

20. 分析（２）からの示唆
 「主観的理解度と成績との関連が弱い」
1. 学生の自己評価の信頼性が高くない。⇒「自分に甘い」 and/or 「誤概念に基づく理解」
2. インプットとアウトプットの間にギャップがある。「学生が理解したこと」と「理解したことを表現
すること」のギャップ。
3. 理解度の期待に関して教員基準と学生基準にギャップがある。
⇒ 学生の誤概念を教員と学生の双方が発見し、それを修正する。
⇒ インプットをアウトプットする練習機会を頻繁に設ける。
⇒ 教員の期待する理解度の基準を学生に継続的に周知する。
– 例：Background Knowledge Probe、Muddiest Point、クリッカー、グループ学習 など。
⇒ クラス特性を統制し、特定の授業実践を「行っている授業」と「行っていない授業」を比較。
 「予習復習と成績との関連が弱い」
• 成績付与の仕方か？ 学生の学習行動か？ 両方か？
• 学生の間の理解の差と訓練の差が表れるような評価方法がとられているか？
• 日本の大学生の学習行動？ 「毎回の授業に対する予習復習時間」と「総学習時間」？
20
山岸直司

21. データ情報
• データソース：解析にご同意を頂いたある学
部に関連するデータ
• 分析対象期間：2012～2014年度
• アンケートデータの規模：
– 紙＋ナビ＝94,310件
– ナビ（成績結合）＝10,645件
21
山岸直司