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確実性下の意思決定

     リスク下の意思決定


    不確実性下の意思決定

曖昧性下の意思決定   無知下の意思決定
選択肢:a

選択時の状態:θ

選択の結果:x
確実性下の意思決定
  (decision making under certainty)

選択による結果が確実に決まっているような
状況での意思決定のこと。数理的な表現で
は、選択肢をa、選択時の状態をθ、選択の結
果をxとし、複数ある状態θのうち、どれが生
起するか選択前にあらかじめ分っている場合
や、状態θが何であっても、選択肢aによる結
果はxであることが決まっている場合がこれに
あたる。
5000円の現金のプレゼントか、5000円の商品
券のプレゼントかを選択するような状況。
選択肢(a):株の銘柄

          状態(θ):金利の変動

         選択の結果(x):利益
         θ1=金利下降      θ2=現状維持    θ3=金利上昇
a1:銘柄1   x3:100万円      x2:0円     x1=:-100万円

a2:銘柄2   x1=:-100万円    x2:0円     x3:100万円

a3:銘柄3   x3:100万円     x3:100万円   x1=:-100万円
リスク下の意思決定
   (decision making under risk)

選択によって生じる結果の確率があらかじめ
分かっているような状況での意思決定のこ
と。数理的な表現では、選択肢をa、選択時の
状態をθ、選択の結果をxとし、複数ある状態θ
が確率として明示されている場合がこれにあ
たる。
降水確率30%という予報を知っている場合
に、傘を持って外出するかどうかを決定する
ような状況。
リスク下の意思決定
 θ1=金利下降     θ1が起こる確率=30%        P(θ1)=0.3

 θ2=現状維持     θ2が起こる確率=50%        P(θ2)=0.5

 θ3=金利上昇     θ3が起こる確率=20%        P(θ3)=0.2
         θ1=金利下降      θ2=現状維持     θ3=金利上昇
a1:銘柄1   X3:100万円       X2:0円    X1=:-100万円
a2:銘柄2   X1=:-100万円    X2:0円     X3:100万円
a3:銘柄3   X3:100万円     X3:100万円   X1=:-100万円

銘柄3を選択した結果、100万円の利益が出る確率
は?
P(θ1)+P(θ2)=0.3+0.5=0.8 80%
不確実性下の意思決定
 (decision making under uncertainty)

選択肢を決定したことによって生じる結果の
確率が分らない状況での意思決定のこと。不
確実性下の意思決定は、さらに曖昧性下の意
思決定と無知下の意思決定に分類できる。


曖昧性下の意思決定             無知下の意思決定
曖昧性下の意思決定
  (decision making under ambiguity)

状態と結果の関係は分かっているが、その出
現する確率が曖昧な状況での意思決定のこ
と。確率が数値表現されず、「多分」、「結
構」等の言語表現をされることもある。数理
的な表現は、選択肢をa、状態をθ、結果をxと
し、状態θが生じる確率が曖昧、もしくは不明
な場合がこれにあたる。
天気予報を知らず、誰かに今日は雨が降りそ
うか尋ねたら、「たぶん、降るんじゃな
い?」と言われた場合に傘を持って外出する
かどうかを決定するような状況。
曖昧性下の意思決定
  θ1=金利下降   θ1が起こる確率=?    P(θ1)=?

  θ2=現状維持   θ2が起こる確率=?    P(θ2)=?

  θ3=金利上昇   θ3が起こる確率=?    P(θ3)=?

選択肢:株の銘柄が3種類のうちのどれか。
選択時の状態:金利の変動する確率は曖昧もしくは
不明。
選択の結果:現状維持・利益・損失のうちのどれか。
       χ1:-100万円    χ2:0円 χ3:100万円
 a1:銘柄
        P11:不明   P12:まあまあ P13:不明
    1
a2:銘柄2  P21:不明   P22:まあまあ P23:不明
無知下の意思決定
  (decision making under ignorance)

選択肢の範囲、選択時の状態、選択の結果の
いずれかが未知または全てが未知の場合の意
思決定のこと。数理的な表現では、選択肢を
a、状態をθ、結果をxとし、a、θ、xのいずれ
かが未知、もしくは全てが未知の場合がこれ
にあたる。
選挙の際、候補者のうち誰が当選するか未
知、当選後に候補者が掲げる公約を実行する
かどうかが未知、公約が実現した際に、自分
達の暮らしにどの程度の影響があるのかが未
知のような場合。
無知下の意思決定

    A:選択肢の範囲が未知。

   Θ:選択における状態が未知。

     X:選択の結果が未知。

選択肢の範囲、選択時の状態、選択の結果の
どれが未知なのかによって、無知下の意思決
定を細かく分類することもできると考えられ
る。
規範的アプローチ(normative approach)
人間が合理的な意思決定をするには、どうするのが
望ましいか検討するアプローチ。公理や数学的モデ
ルを使い、合理的な意思決の為のルールについて検
討する。
記述的アプローチ(descriptive approach)
人間が実際にどのような意思決定をするのかを説明
するアプローチ。実験や調査で、人間がどのような
意思決定をするのかを検討する。

処方的アプローチ(prescriptive approach)
人間の合理的な意思決定を支援をする為、現実の問
題状況に合わせて意思決定をサポートすることを目
的とするアプローチ。
規範的アプローチ
合理的な意思決定とは何
    か?

 記述的アプロー
    チ
人間は合理的な意思決定をしているの
       か?


 処方的アプロー
    チ
どうすれば、より良い合理的な意思決定ができるの
          か?
合理的な意思決定とは?


 弱順序が成立している
比較可能性     推移性



独立性の公理が成立している
比較可能性(comparability)
選択肢を比較した際に、必ずよりどちらか一
方が好き、もしくは2つとも同じくらいと言え
るということ。
リンゴとミカンどちらが好きかという質問に
「リンゴ」と答えることができる状態。
      推移性(transitivity)
XよりYを好み、YよりもZを好むなら、X
よりもZを好むということ。
リンゴとミカンではリンゴが好き、ミカンと
バナナではミカンが好きであれば、リンゴと
バナナではリンゴが好きであるということ。

∀(全て,任意の) ∈(含まれる)
                ~
                       (~選好する、
好む)
∨(または)     ∧(かつ)
比較可能性      ∀x,y∈A, x  y∨y x.
                     ~     ~


推移性   ∀x,y,z∈A, x  y∧y∨y z⇒x 
                  ~       ~    ~z.

比較可能性と推移性が成立している状態⇒弱順
          序
比較可能性が成立しない例:私と仕事どっちが大
          事?       ?
     どっちが
     格好いい?


 意思決定において推移性が成立しない例


         商品A   商品B   商品C
    値段    ◎     ○     △
   デザイ
          ○     △    ◎
     ン
推移性が成立しない例:じゃんけん
独立性公理(independence axiom)
2つの選択肢が等価で各結果が得られる確率
が等しい場合、これらの結果の効用は2つの
選択肢を選ぶ上で無視され、それぞれの違い
に基づいて選択されるということ。独立性公
理が成立していれば、各選択肢の持つ属性を
比較・検討し、その違い(優劣)によって選
択が可能であり、合理的な意思決定が可能。

独立性公理から逸脱した場合、選好に一貫性
がなくなる為、合理的な意思決定ができな
い。
独立性公理

ある任意の結果x、y、z Aについて
x yが成り立つなら、
任意のp [
     0,1に関して
        ]
px (1 p )r  py (1 p)r
どちらが
食べたいですか?
意思決定問題の数理表現

 記述的アプローチ

   比較可能性

    推移性

   独立性公理
行動意思決定論
 (緑色の教科書)

非推移性に関する実験概要
推移性が満たされているかを検討する実験
   トゥベルスキー(Tversky,1969)
 a       b          c
500円     475円    450円


 0        0       0
 円        円       円
 d        e
425円     400円


 0        0
 円        円
a             b             c
500円          475円          450円
        ?             ?
 0      a      0      e      0
 円             円             円
       500円
                     400円
               ?
 c      0      d      0      e
        円             円
450円          425円          400円
        ?             ?
 0             0             0
 円             円             円
ギャンブ
         勝率       賞金     期待値
 ル
  a       7/24   500円    146円
  b       8/24   475円    158円
  c       9/24   450円    169円
  d      10/24   425円    177円
  e      11/24   400円    183円
a b    b c     cd     d e
賞金>勝率   賞金>勝率    賞金>勝率   賞金>勝率

ea       推移性を満たさない=非推移
賞金<勝率           性
ある大学への入学志願者が5人います。彼ら5人
について、知性、情緒的安定性、社会性の得点
が分かっています。知性を最も重視した上で、
どの志願者を入学させるべきかを決定して下さ
い。
 志願者   知性  情緒安定性  社会性
  a   69点   84点   75点
  b   72点   78点   65点
  c   75点   72点   55点
  d   78点   66点   45点
  e   81点   60点   35点
a
知性    情緒安定性   社会性
69点    84点    75点
3
点      ?
差
        b
知性    情緒安定性   社会性
72点    78点    65点
b
知性    情緒安定性   社会性
72点    78点    65点
3
点      ?
差

        c
知性    情緒安定性   社会性
75点    72点    55点
c
知性    情緒安定性   社会性
75点    72点    55点
3
点      ?
差
        d
知性    情緒安定性   社会性
78点    66点    45点
d
知性    情緒安定性   社会性
78点    66点    45点
3
点      ?
差

        e
知性    情緒安定性   社会性
81点    60点    35点
a
知性    情緒安定性   社会性
69点    84点    75点
12
点      ?
差

        e
知性    情緒安定性   社会性
81点    60点    35点
比較した選択肢間で、
「知性」の得点差が小さい(3点差)場合
         ↓
  他の2つの得点の高い方を選択。


   推移性を満たさない=非推移性


     比較した選択肢間で、
「知性」の得点差が大きい(12点差)場合
          ↓
  「知性」の得点の高い方を選択。

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