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IDDP 第 4 回勉強会議事録

                          2009 年 2 月 28 日(土) 14:30~16:30
                                      於 ロンドン大学 SOAS
                                            (作成:高附)


         講師:
         講師:
                 チャタムハウス客員研究員
         鷺坂 長美 氏 チャタムハウス客員研究員
                 環境省水・
         井上 直己 氏 環境省水・大気環境局自動車環境対策課課長補佐
               現在サセックス大学にて環境開発学修士課程に所属)
                 サセックス大学にて環境開発学修士課程
             (現在サセックス大学にて環境開発学修士課程に所属)
         小林 豪 氏 同地球環境局地球温暖化対策課係長
              (現在 LSE にて公共政策学修士課程に所属)
                      にて公共政策学修士課程 所属)
                        公共政策学修士課程に


             テーマ: 気候変動対策の次期枠組みに向けて
                  気候変動対策の次期枠組みに向
                           枠組みに
             ~国際交渉の行方と途上国開発に及ぼす影響~
              国際交渉の行方と途上国開発に ぼす影響
                               影響~


(配布資料)
1. パワーポイントスライド

【プレゼン要旨】
・地球温暖化の影響により、自然環境や人間社会などのさまざまな分野において世界レベル
 でリスクが増大している。そのため温室効果ガス濃度の安定化を目的とした排出削減への
 国際的合意に向けた交渉が行われている。
・現在、日本の温室効果ガス排出量は基準年比を上回っており、低炭素社会へ向けた取り組
 みが始まっている。
・世界的な合意の枠組みは、科学的根拠を基に行われている。
・京都議定書は、先進国の温室効果ガス排出量に上限を設定した最初の一歩。
・次期枠組みに関する国際合意の実現に向けては、温室効果ガス削減義務についての公平性
 を確保しながら、途上国の取り組みを促していくことが重要な鍵となる。そのためには先
 進国が率先して削減に取り組む姿勢が不可欠。
・そうした国際交渉の中で、日本は米国と欧州の間、そして先進国とアジア諸国の間をつな
 ぐ役割を果たしている。
・CDM(クリーン開発メカニズム)は途上国における排出削減について費用対効果の高い
 手法として大きな役割を果たしているが、持続可能な開発を促進するためには、現在の制
 度は十分とはいえず、改善が必要。
・コベネフィット アプローチは排出削減と持続可能な開発を両立させるために有効であり、
        ・
 その考え方を取り入れた CDM が促進されるインセンティブが求められる。
・気候変動に対してぜい弱な途上国にとって適応対策は開発の支柱。
【プレゼン全体】
1)地球温暖化問題について(鷺坂長美氏)
 )地球温暖化問題について(鷺坂長美氏)
         について
・温暖化が原因となり、自然環境・人間社会・世界規模でのリスクが増大している。温暖化
 の傾向と今後の予測の科学的見地に基づき、温室効果ガス濃度の安定化のためには、今後
 CO2 排出量を自然吸収量と同等まで減らすことが必要。


・大気中温室効果ガス濃度の長期的な安定化に向けた排出削減の必要性が訴えられており、
 次期枠組みの合意に向けて、科学的根拠を基にした模索が行われている。

・2007 年度における日本の温室効果ガス排出量は、1990 年よりも 8.7%上回っており、京
都議定書に基づく 6%削減約束の達成には 14.7%の排出削減が必要。日本は京都メカニズム
により 1.6%を、森林吸収源により 3.8%をそれぞれ削減分とすることを計画していること
から、2007 度のレベルから 9.3%を削減することが必要。福田前首相の主導により、低炭
素社会への転換を目指した「福田ビジョン」が示され、日本が 2050 年までに現状から 60%
~80%を削減する長期目標など掲げられた。


2)気候変動に関する国際交渉について(小林豪氏)
 )気候変動に する国際交渉について(小林豪氏)
          国際交渉について

<国際交渉全体>
・国際交渉は、「世界全体で何をするべきか」という問いに対して科学が示す方向性に基づ
 いて、各国の行動・責任を定めていくプロセス。その際にどのような指標や基準を用いる
 かが大きな影響を持っている。

・国際交渉には政治的決定が不可欠だが、交渉の真の成否は、最終的には科学が必要とした
 ことに答えられる成果を出せるかどうかにかかっている。そのため、政府だけでなく、さ
 まざまな主体が科学との橋渡しを行うことが重要であり、特に NGO やメディアの監視が
 大きな役割を担っている。

・中国、インドは京都議定書に批准はしているが、そもそも削減義務がかかっていない。ま
 た、米国は批准していないため、削減義務に拘束されていない。そのことを捉えて、国際
 社会から京都議定書の有効性に関する疑問が呈せられることもあるが、現在までに 183
 カ国が批准しており、京都議定書が世界的な削減を進めていくための重要な一歩であるこ
 とには間違いない。

<日本の立ち位置>
・米国と欧州をつなぐ役割、そして先進国とアジア諸国(中国・インドなど)をつなぐ役割
 を担っている。
<日本としてアピールできる点>
・2008 年の G8 議長国として、G8 の成果を各国へ紹介・共有
・公害を克服し経済成長を成し遂げた経験を各国と共有
・高い技術力で世界に貢献

<世界全体の CO2 排出量と今後の予測>
・2005 年時点で、米国、中国、EU、ロシア、日本とインドの CO2 排出量が、世界全体の
 7 割を占めている。一方、将来の排出量の予測では、途上国全体の CO2 排出量は増加し
 続け、先進国は現在と同程度と予想される。


<次期枠組み交渉の課題>
・各国間の公平性を確保した上での排出削減をいかに仕組みに落とし込んでいくかが重要。
・米国、そして中国やインドなどの排出量の多い途上国の参加が重要であり、それらの参加
インセンティブを与えていくことが必要。
・気候変動への適応力を持っていない国への資金供与などの支援も重要な課題。


<次期枠組みに関する日本の提案>
・2050 年までに世界全体の排出量を少なくとも半減するという長期目標を採択すること。
・排出削減のために各国が負うべき義務として、先進国へは削減目標の達成を義務付け、途
 上国へは経済の発展段階により目標を差異化すること。
・既存の資金メカニズムを改善するとともに、新たな資金需要については国際的な協力の下
 での対応を検討すること。


<AWG-LCA(条約特別作業部会)の論点>
・緩和・適応・技術移転・資金を 4 つの柱とし、全体のパッケージとして交渉していく。


<次期枠組みのキーワード:MRV>
・「Measurable(計測可能)/ Reportable(報告可能)/ Verifiable(検証可能)」
・先進国の MRV な国別削減目標と、途上国による MRV な手法での削減行動が重要。


<まとめ>
・地球温暖化については科学の警告を踏まえた対応が必要。
・京都議定書は先進国の CO2 排出量に上限を設定し、カーボンマーケットも形成されてお
 り、「最初の一歩」として重要な合意だと言える。
・今後の温暖化対策には途上国の取り組みが重要な鍵となるが、それを引き出すためにも、
 先進国が率先して取り組む姿勢が必要。
・今年 12 月の締約国会合における次期枠組みの国際合意に向けて、ますます交渉が加速さ
れる。


 )     適応対策の開発に える影響 井上直己氏
                  影響(  直己氏)
3)CDM と適応対策の開発に与える影響(井上直己氏)
<CDM とは>
京都議定書において定められた、温室効果ガス削減をより柔軟に行うための経済的メカニズ
ムである京都メカニズムのひとつであり、先進国と途上国が共同で事業を実施し、その削減
分を投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる制度。


<CDM の目的>

1.温室効果ガス排出削減
・省エネの進んでいる先進国が自国内で削減を進めるよりも、途上国で削減したほうが費用
 対効果が高い。一方、削減義務が課されている先進国による国内削減に対する補完的な位
 置づけである点に注意。
・削減義務のない途上国には排出枠が与えられていないため、結果として議定書に基づく総
排出枠の量が増大。そのため、クレジット発行の審査は厳格になされている。⇒ 煩雑な手
続きによるコストの増大にもつながる。


2.持続可能な開発の促進
・京都議定書においては CDM の目的のひとつとして、「持続可能な開発への貢献」が掲げ
 られている。
・途上国への資金や技術が流入する機会となるため、途上国の経済開発ニーズにも応える仕
 組みとして期待が高い。
⇒ 地域間の不均衡・プロジェクトがもたらす持続可能な開発の是非などの問題あり。

<CDM の地理的不均衡>
・プロジェクトが中国やインドなどに集中し、アフリカ諸国などの割合が非常に小さい。


   - CDM のプロジェクトの数とクレジットでみると、アジア太平洋地域が全体の 7 割
     程度を占める。
   - 2007 年には中国において全プロジェクトの 7 割が実施。


・地理的不均衡の要因としては以下が考えられる。
   - 費用対効果の高い削減プロジェクトが促進される仕組みであるため、そもそも排出
     増大傾向にある国にプロジェクトが集中。
   - CDM 手続きが複雑であり、資金的・時間的にもコストがかさむため、小規模プロ
      ジェクトは得られる利益に比して手続きコストが相対的に大きくなるため不利。
      よって、小規模プロジェクトのニーズが相対的に大きい(大規模プロジェクトの実
施可能性が低い)アフリカなどの途上国ではプロジェクトが実施されにくい。
   - 経済的安定性・政治的安定性・インフラ整備の状況といった投資環境の良悪が影響。


<「持続可能な開発」要件の充足の判断>
CDM が「持続可能な開発」に寄与しているか否かはホスト国が判断することとされている
が、結果的に CDM プロジェクトの誘致を有利に進めるため、ホスト国(CDM 受入国)に
よる「持続可能な開発」の要件審査が緩くなる傾向が見られる。


<「持続可能な開発」要件の構成要素>
各ホスト国が定めている当該要件の構成要素としては、生態系システム・経済システム・社
会システムの 3 つがおおむね含まれている。しかし、重点の置き方は各国で相違が見られる。
 例)ブラジル・インド・南アフリカなど:雇用・所得再分配に焦点。
   ペルー:地域コミュニティーのニーズに焦点。
   中国:国家全体の経済成長・エネルギー安全保障に焦点。

<「持続可能な開発」と排出削減はトレード・オフか>
CDM が途上国の持続可能な開発に寄与しているかについては異論がある。
市場メカニズムに基づいてデザインされた仕組みであり、費用対効果の高い削減が主眼。そ
のため金銭価値で計れない「持続可能な開発」の項目は優先度合いが低くなる傾向があるの
ではないかと懸念されている。


 ※ ケース・スタディー:南アフリカ
  廃棄物埋立地の環境汚染から引き起こされる深刻な健康被害から、周辺住民は埋立地
  の閉鎖を以前から求めてきていたが、世銀融資による CDM プロジェクトとしてメタン
  ガス回収による発電事業が進められることとなったため、プロジェクト撤回と埋立閉
  鎖を求める住民運動が展開された。一方、埋立地は別の住民グループにとっては貴重
  な収入源でもあったため、プロジェクト推進と埋立継続を求める住民運動も展開され
  た。このケースは、住民によってプロジェクトがもたらす影響が異なるため、プロジェ
  クト賛成・反対において当該住民間で意見が分かれ、CDM の「持続可能な開発」との
  両立が困難となる一例といえる。
    ⇒   持続可能な開発はどうあるべきか、という一般的な開発事業と共通する問題と
        も言える。


<コベネフィット・アプローチ>
国家の開発ニーズ(環境改善ニーズ)と、国際ニーズ(気候変動対策のニーズ)を同時に満
たすアプローチで、途上国の大きなニーズである環境改善を CDM を通じて推進することで
「持続可能な開発」に寄与することが主眼。
<CDM 制度改善に向けた動き>
最貧国やアフリカ諸国などにおける CDM の拡大を目指して、手続きの簡素化や外部支援を
通じた実施コスト削減の方策が模索されている。


3.適応と持続可能な開発
<先進国の関心・途上国の関心>
・先進国の関心は気候変動の緩和が中心であるが、途上国の関心は気候変動への適応に集中
している傾向にある。


    - 緩和(mitigation):温室効果ガスの排出削減、吸収源の増強
    - 適応(adaptation):気候変動による悪影響への対応


・気候変動が及ぼすインパクトは、途上国と先進国では異なる。
 この点は途上国における雨期へのぜい弱性と、先進国の季節変化への適応力(Season
proof)の対比に共通する論点だと言える。(Seasonality)すなわち、途上国の貧困層にお
いては、雨期において道路遮断などのインフラ機能が不全となり、それに伴い農作業その他
の就労が困難となり、保存食料の腐敗も進むために食糧不足にもさいなまれるなど、生活へ
の影響が甚大。一方、先進国はインフラ整備などにより、降雨による影響は最小限に抑えら
れ、季節性による影響を受けない。このように、季節変化がもたらす影響は途上国と先進国
では異なる。同じことは気候変動への適応についても当てはまる。

・気候変動によるインパクトは各国の地理的・経済的・文化的事情によって異なるものであ
 るため、その影響を各国個別に調べて、効果的に適応策を図ることが必要。


<まとめ>
・CDM は途上国における費用効果的な排出削減を進める手法として大きな役割を果たして
 いる。しかし、CDM によって「持続可能な開発」を促進するためには現在の制度は十分
 ではなく、改善が必要。
・コベネフィット アプローチは排出削減と持続可能な開発を両立させるために有効であり、
        ・
 その考え方を取り入れた CDM が促進されるインセンティブが求められる。
・気候変化に対してぜい弱な途上国にとって、気候変動は大きな脅威であり、適応対策は開
 発の支柱。


【質疑応答】
[質問 1]スイス・韓国・メキシコが国際交渉において同じグループに属しているのは興味
 深いが、 環境十全性グループのスタンスとは何か。なぜこの 3 カ国が同じスタンスをとっ
 ているのか。
[回答]1992 年に採択された気候変動枠組条約(UNFCCC)においては韓国とメキシコは
 途上国扱いされているため削減義務が課せられていないが、現在は OECD にも加盟して
おり、実際には途上国として見ることはできない国で、交渉の場面でも途上国グループか
 らは同格扱いされていない。韓国・メキシコ自身も途上国の輪には入らない。スイスは
 EU に入っていないため EU との距離がある。そのためにこの 3 カ国は属するグループが
 ない。韓国は次期枠組みの際には先進国の一員として今後削減義務を負う覚悟を持ってい
 るかのような姿勢が見られる。交渉において対立軸が出てくる際に、このグループがキャ
 スティング・ボートを握ることもある。


[質問 2]国際交渉は科学的根拠に基づいて行われているとのことだが、最終的な各国の利
 益が科学に基づいてなされているとは思えない。特に 6・7・8(京都議定書で定められた
 主要各国の温室効果ガス削減率。日本:-6% 米国:-7% EU:-8%)は、本当に科
 学的根拠に基づいて交渉が進められた結果なのか。
[回答]京都議定書の際の 6・7・8 という数値が科学に基づいていないという反省に基づ
 いて、世界的に科学的根拠を基にした合意を進めようという話が出ている。今までは各国
 が個別に数値を持ち出して交渉していたが、各国がそれぞれバックステージで行っていた
 ことを、外部に対してもいつでも説明できるように今後は方法論についても透明性の高い
 議論を行い、目標を決めようという動きがある。


[質問 3]交渉のなかで日本としてアピールできる点をいくつか上げていたが、実際に日本
 は京都議定書における温室効果ガス削減義務を達成できずに超過している。その点交渉に
 影響はないのか。
[回答]排出量が上がっていることにより、非常に交渉がやりにくくなっていることは確か。
                     (京都議定書において先進国扱いされている国が提出する報告書)
 Demonstrable Progress
 の提出によっても、排出量が実際に増えているため、この点を突かれると、日本が各国に
 取組の強化を求めても、説得力は弱くなってしまう。実際に各国が行っている政策や排出
 量の結果は交渉に大きく影響を与える。カナダでは 2005 年末に政権が交代。前政権が気
 候変動に対する対策をとっていなかったため、発言に対する説得力が削がれていた。NGO
 からも批判が多い。政権の支持率も交渉ポジションに影響を与える。EU も、東欧諸国も
 含めた全体では排出量を削減してきているが、西欧 15 カ国で見ると増えており、厳しい
 状況。先進国全体が約束達成を公約として掲げ、今後の予測を提出して途上国に対して積
 極的に取組んでいることをアピールしていくことが重要。


[質問 4]適応基金(Adaptation Fund)についての質問。緩和に関しては各国も(京都メ
 カニズムなどを通じて)対応しやすいのではないかと思うが、適応に関する具体的な施策
 は難しい気がする。適応基金の財源(を確保する手法として)は、市場メカニズム(の取
 引に課税をする方向)に傾いていくのか。
[回答]適応対策自体について京都メカニズムのような経済的手法を用いることは、適応に
 ついての数値化やその検証が難しいためイメージしにくい。また、気候変動による悪影響
 への対応は通常の自然災害に対するセーフティネットといった基盤的整備との線引きが
難しいという問題もある。そのため、現在のように資金をプールしていくことになってい
 る。
  適応基金の財源については、共同実施による発行クレジットや排出量取引の一定分を拠
 出する案や、先進国の排出枠の一定分を拠出する案があるが、そうした課税方式に対して
 は、途上国がかかわらないプロジェクトや取引に対してなぜ課税していくのかという批判
 はある。適応基金に今後求められる必要資金の調達方法についての議論はまだ決着がつい
 ていない。


[質問 5]気候変動への国際的枠組みに対する米国の無責任さに対しては何かペナルティの
 ようなものはあるのか、次期枠組みに米国は組み込まれていくのか。また京都議定書に盛
 り込まれている米国の排出分は今後どう処理されていくのか。
[回答]米国に対しては国際的にも不信感が高まっている。気候変動への対策を遅らせると、
 同じレベルでより多く削減しないといけなくなる。次期枠組み内では、どういう尺度で義
 務を課していくのかについて検討されている。どのレベルで各国の努力の比較をしていく
 のかは重要な問題。過去の温暖化対策と今後のポテンシャルとを同時に考えていかなけれ
 ばならない。米国で主に議論されている削減シナリオは、長期的には大幅削減を行うが
 2020 年には 1990 年の排出値に戻すことも目標としている。ただ、ほかの国との比較を
 考えた場合にほかのシナリオも含めて検討する必要はある。
 ペナルティについては、将来より多くの削減を数値に盛り込むのか、削減値をどう考えて
 いくのか、まだ議論されている。米国は AWG-LCA(条約特別作業部会)で話をしている。


[質問 6]CDM によって先進国の総排出枠が増加してしまうという説明があったが、つま
 り世界全体での排出量が増えてしまうということか。そのような批判がなされているのか。
[回答]CDM によって世界全体の排出は削減されることにはなるが、その削減はあくまで
 途上国が肩代わりしているものであり、 先進国の排出自体は削減されていないという批判
 はある。例えば、ブラジルでは、石炭の代わりにユーカリの木炭を使用することを目的と
 した、大規模なユーカリ・プランテーションが展開されているが、これにより生物多様性
 が損なわれ、化学肥料の汚染などにより地域住民の生活に影響が及んでいるとも言われて
 いる。その犠牲によって利益を享受しているのは誰か。結局は、そこで発生するクレジッ
 トを裕福な先進国が買い取ることによって、その先進国内では二酸化炭素を排出する利益
 を享受しているのだという批判はある。それは先進国支配の新しい形として「カーボン・
 コロニアリズム」と表現されることもある。


[質問 7]気候変動の枠組みに関しては、生産にフォーカスしたストラテジーばかりだと思
 うので、消費にフォーカスした戦略があれば教えてほしい。
[回答]政府から消費に関して制限を行うことは難しい。ただ、家庭部門からの消費を減ら
 すことを呼びかけることは重要なので普及啓発には努めている。低炭素社会作りに向けて、
 「チームマイナス 6%(京都議定書の削減義務である-6%に向け個人・法人が温室効果
ガス削減を実践する、普及啓発のプロジェクト)」の呼びかけも行っており、現在 28,000
 社の登録がされている。また国民一人一人への啓発活動も行っており、「私のチャレンジ
 宣言」(温暖化防止のメニューの中から個人が実践したいものを選び毎日の生活の中で 1
 人 1 日 1kg の CO2 排出量削減を目指す取り組み)の啓発も行っている。これは当初はマ
 イナーだったが、マクドナルドや和民など、参加者に割引特典を用意する協賛企業が増え
 たことによって急速に普及した。


[質問 8]コベネフィット CDM について、講演で紹介された南アフリカの事例は世銀が融
 資しているものだが、実際 ODA や世銀など公的機関によるものが多いのではないか。民
 間企業の場合、気候変動対策を行いつつ、持続的な開発にも寄与するのは難しく、トレー
 ド・オフが生じてくるのでは。プロジェクト自体のバランスをどう両立していくのか。
[回答]公的機関は民間企業とは違い、収益を考えずに活動できる。確かに援助機関はリス
 クを負えるが、民間企業にとってリスクは追加コストでしかないという面もある。しかし、
 持続可能な開発という要素に市場価値を与え、その価値を費用効果計算に取り入れる(外
 部費用を内部化する)ことでビジネスベースに乗せることができれば、民間企業がコベネ
 フィット・アプローチを行うインセティブは確保されるのではないか。コベネフィットに
 適合するプロジェクトからは割り増ししたクレジットを発行させるなど、CDM クレジッ
 トの差異化させる方式が検討されているが、それによってコストがカバーされ、ビジネス
 の採算を取ることができるのでは。ただ、「持続可能な開発」の価格付けは制度的・技術
 的に難しく、今後検討していくことが必要。


                                           (以上)

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第4回「気候変動対策の次期枠組みに向けて」議事録

  • 1. IDDP 第 4 回勉強会議事録 2009 年 2 月 28 日(土) 14:30~16:30 於 ロンドン大学 SOAS (作成:高附) 講師: 講師: チャタムハウス客員研究員 鷺坂 長美 氏 チャタムハウス客員研究員 環境省水・ 井上 直己 氏 環境省水・大気環境局自動車環境対策課課長補佐 現在サセックス大学にて環境開発学修士課程に所属) サセックス大学にて環境開発学修士課程 (現在サセックス大学にて環境開発学修士課程に所属) 小林 豪 氏 同地球環境局地球温暖化対策課係長 (現在 LSE にて公共政策学修士課程に所属) にて公共政策学修士課程 所属) 公共政策学修士課程に テーマ: 気候変動対策の次期枠組みに向けて 気候変動対策の次期枠組みに向 枠組みに ~国際交渉の行方と途上国開発に及ぼす影響~ 国際交渉の行方と途上国開発に ぼす影響 影響~ (配布資料) 1. パワーポイントスライド 【プレゼン要旨】 ・地球温暖化の影響により、自然環境や人間社会などのさまざまな分野において世界レベル でリスクが増大している。そのため温室効果ガス濃度の安定化を目的とした排出削減への 国際的合意に向けた交渉が行われている。 ・現在、日本の温室効果ガス排出量は基準年比を上回っており、低炭素社会へ向けた取り組 みが始まっている。 ・世界的な合意の枠組みは、科学的根拠を基に行われている。 ・京都議定書は、先進国の温室効果ガス排出量に上限を設定した最初の一歩。 ・次期枠組みに関する国際合意の実現に向けては、温室効果ガス削減義務についての公平性 を確保しながら、途上国の取り組みを促していくことが重要な鍵となる。そのためには先 進国が率先して削減に取り組む姿勢が不可欠。 ・そうした国際交渉の中で、日本は米国と欧州の間、そして先進国とアジア諸国の間をつな ぐ役割を果たしている。 ・CDM(クリーン開発メカニズム)は途上国における排出削減について費用対効果の高い 手法として大きな役割を果たしているが、持続可能な開発を促進するためには、現在の制 度は十分とはいえず、改善が必要。 ・コベネフィット アプローチは排出削減と持続可能な開発を両立させるために有効であり、 ・ その考え方を取り入れた CDM が促進されるインセンティブが求められる。 ・気候変動に対してぜい弱な途上国にとって適応対策は開発の支柱。
  • 2. 【プレゼン全体】 1)地球温暖化問題について(鷺坂長美氏) )地球温暖化問題について(鷺坂長美氏) について ・温暖化が原因となり、自然環境・人間社会・世界規模でのリスクが増大している。温暖化 の傾向と今後の予測の科学的見地に基づき、温室効果ガス濃度の安定化のためには、今後 CO2 排出量を自然吸収量と同等まで減らすことが必要。 ・大気中温室効果ガス濃度の長期的な安定化に向けた排出削減の必要性が訴えられており、 次期枠組みの合意に向けて、科学的根拠を基にした模索が行われている。 ・2007 年度における日本の温室効果ガス排出量は、1990 年よりも 8.7%上回っており、京 都議定書に基づく 6%削減約束の達成には 14.7%の排出削減が必要。日本は京都メカニズム により 1.6%を、森林吸収源により 3.8%をそれぞれ削減分とすることを計画していること から、2007 度のレベルから 9.3%を削減することが必要。福田前首相の主導により、低炭 素社会への転換を目指した「福田ビジョン」が示され、日本が 2050 年までに現状から 60% ~80%を削減する長期目標など掲げられた。 2)気候変動に関する国際交渉について(小林豪氏) )気候変動に する国際交渉について(小林豪氏) 国際交渉について <国際交渉全体> ・国際交渉は、「世界全体で何をするべきか」という問いに対して科学が示す方向性に基づ いて、各国の行動・責任を定めていくプロセス。その際にどのような指標や基準を用いる かが大きな影響を持っている。 ・国際交渉には政治的決定が不可欠だが、交渉の真の成否は、最終的には科学が必要とした ことに答えられる成果を出せるかどうかにかかっている。そのため、政府だけでなく、さ まざまな主体が科学との橋渡しを行うことが重要であり、特に NGO やメディアの監視が 大きな役割を担っている。 ・中国、インドは京都議定書に批准はしているが、そもそも削減義務がかかっていない。ま た、米国は批准していないため、削減義務に拘束されていない。そのことを捉えて、国際 社会から京都議定書の有効性に関する疑問が呈せられることもあるが、現在までに 183 カ国が批准しており、京都議定書が世界的な削減を進めていくための重要な一歩であるこ とには間違いない。 <日本の立ち位置> ・米国と欧州をつなぐ役割、そして先進国とアジア諸国(中国・インドなど)をつなぐ役割 を担っている。
  • 3. <日本としてアピールできる点> ・2008 年の G8 議長国として、G8 の成果を各国へ紹介・共有 ・公害を克服し経済成長を成し遂げた経験を各国と共有 ・高い技術力で世界に貢献 <世界全体の CO2 排出量と今後の予測> ・2005 年時点で、米国、中国、EU、ロシア、日本とインドの CO2 排出量が、世界全体の 7 割を占めている。一方、将来の排出量の予測では、途上国全体の CO2 排出量は増加し 続け、先進国は現在と同程度と予想される。 <次期枠組み交渉の課題> ・各国間の公平性を確保した上での排出削減をいかに仕組みに落とし込んでいくかが重要。 ・米国、そして中国やインドなどの排出量の多い途上国の参加が重要であり、それらの参加 インセンティブを与えていくことが必要。 ・気候変動への適応力を持っていない国への資金供与などの支援も重要な課題。 <次期枠組みに関する日本の提案> ・2050 年までに世界全体の排出量を少なくとも半減するという長期目標を採択すること。 ・排出削減のために各国が負うべき義務として、先進国へは削減目標の達成を義務付け、途 上国へは経済の発展段階により目標を差異化すること。 ・既存の資金メカニズムを改善するとともに、新たな資金需要については国際的な協力の下 での対応を検討すること。 <AWG-LCA(条約特別作業部会)の論点> ・緩和・適応・技術移転・資金を 4 つの柱とし、全体のパッケージとして交渉していく。 <次期枠組みのキーワード:MRV> ・「Measurable(計測可能)/ Reportable(報告可能)/ Verifiable(検証可能)」 ・先進国の MRV な国別削減目標と、途上国による MRV な手法での削減行動が重要。 <まとめ> ・地球温暖化については科学の警告を踏まえた対応が必要。 ・京都議定書は先進国の CO2 排出量に上限を設定し、カーボンマーケットも形成されてお り、「最初の一歩」として重要な合意だと言える。 ・今後の温暖化対策には途上国の取り組みが重要な鍵となるが、それを引き出すためにも、 先進国が率先して取り組む姿勢が必要。 ・今年 12 月の締約国会合における次期枠組みの国際合意に向けて、ますます交渉が加速さ
  • 4. れる。 ) 適応対策の開発に える影響 井上直己氏 影響( 直己氏) 3)CDM と適応対策の開発に与える影響(井上直己氏) <CDM とは> 京都議定書において定められた、温室効果ガス削減をより柔軟に行うための経済的メカニズ ムである京都メカニズムのひとつであり、先進国と途上国が共同で事業を実施し、その削減 分を投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる制度。 <CDM の目的> 1.温室効果ガス排出削減 ・省エネの進んでいる先進国が自国内で削減を進めるよりも、途上国で削減したほうが費用 対効果が高い。一方、削減義務が課されている先進国による国内削減に対する補完的な位 置づけである点に注意。 ・削減義務のない途上国には排出枠が与えられていないため、結果として議定書に基づく総 排出枠の量が増大。そのため、クレジット発行の審査は厳格になされている。⇒ 煩雑な手 続きによるコストの増大にもつながる。 2.持続可能な開発の促進 ・京都議定書においては CDM の目的のひとつとして、「持続可能な開発への貢献」が掲げ られている。 ・途上国への資金や技術が流入する機会となるため、途上国の経済開発ニーズにも応える仕 組みとして期待が高い。 ⇒ 地域間の不均衡・プロジェクトがもたらす持続可能な開発の是非などの問題あり。 <CDM の地理的不均衡> ・プロジェクトが中国やインドなどに集中し、アフリカ諸国などの割合が非常に小さい。 - CDM のプロジェクトの数とクレジットでみると、アジア太平洋地域が全体の 7 割 程度を占める。 - 2007 年には中国において全プロジェクトの 7 割が実施。 ・地理的不均衡の要因としては以下が考えられる。 - 費用対効果の高い削減プロジェクトが促進される仕組みであるため、そもそも排出 増大傾向にある国にプロジェクトが集中。 - CDM 手続きが複雑であり、資金的・時間的にもコストがかさむため、小規模プロ ジェクトは得られる利益に比して手続きコストが相対的に大きくなるため不利。 よって、小規模プロジェクトのニーズが相対的に大きい(大規模プロジェクトの実
  • 5. 施可能性が低い)アフリカなどの途上国ではプロジェクトが実施されにくい。 - 経済的安定性・政治的安定性・インフラ整備の状況といった投資環境の良悪が影響。 <「持続可能な開発」要件の充足の判断> CDM が「持続可能な開発」に寄与しているか否かはホスト国が判断することとされている が、結果的に CDM プロジェクトの誘致を有利に進めるため、ホスト国(CDM 受入国)に よる「持続可能な開発」の要件審査が緩くなる傾向が見られる。 <「持続可能な開発」要件の構成要素> 各ホスト国が定めている当該要件の構成要素としては、生態系システム・経済システム・社 会システムの 3 つがおおむね含まれている。しかし、重点の置き方は各国で相違が見られる。 例)ブラジル・インド・南アフリカなど:雇用・所得再分配に焦点。 ペルー:地域コミュニティーのニーズに焦点。 中国:国家全体の経済成長・エネルギー安全保障に焦点。 <「持続可能な開発」と排出削減はトレード・オフか> CDM が途上国の持続可能な開発に寄与しているかについては異論がある。 市場メカニズムに基づいてデザインされた仕組みであり、費用対効果の高い削減が主眼。そ のため金銭価値で計れない「持続可能な開発」の項目は優先度合いが低くなる傾向があるの ではないかと懸念されている。 ※ ケース・スタディー:南アフリカ 廃棄物埋立地の環境汚染から引き起こされる深刻な健康被害から、周辺住民は埋立地 の閉鎖を以前から求めてきていたが、世銀融資による CDM プロジェクトとしてメタン ガス回収による発電事業が進められることとなったため、プロジェクト撤回と埋立閉 鎖を求める住民運動が展開された。一方、埋立地は別の住民グループにとっては貴重 な収入源でもあったため、プロジェクト推進と埋立継続を求める住民運動も展開され た。このケースは、住民によってプロジェクトがもたらす影響が異なるため、プロジェ クト賛成・反対において当該住民間で意見が分かれ、CDM の「持続可能な開発」との 両立が困難となる一例といえる。 ⇒ 持続可能な開発はどうあるべきか、という一般的な開発事業と共通する問題と も言える。 <コベネフィット・アプローチ> 国家の開発ニーズ(環境改善ニーズ)と、国際ニーズ(気候変動対策のニーズ)を同時に満 たすアプローチで、途上国の大きなニーズである環境改善を CDM を通じて推進することで 「持続可能な開発」に寄与することが主眼。 <CDM 制度改善に向けた動き>
  • 6. 最貧国やアフリカ諸国などにおける CDM の拡大を目指して、手続きの簡素化や外部支援を 通じた実施コスト削減の方策が模索されている。 3.適応と持続可能な開発 <先進国の関心・途上国の関心> ・先進国の関心は気候変動の緩和が中心であるが、途上国の関心は気候変動への適応に集中 している傾向にある。 - 緩和(mitigation):温室効果ガスの排出削減、吸収源の増強 - 適応(adaptation):気候変動による悪影響への対応 ・気候変動が及ぼすインパクトは、途上国と先進国では異なる。 この点は途上国における雨期へのぜい弱性と、先進国の季節変化への適応力(Season proof)の対比に共通する論点だと言える。(Seasonality)すなわち、途上国の貧困層にお いては、雨期において道路遮断などのインフラ機能が不全となり、それに伴い農作業その他 の就労が困難となり、保存食料の腐敗も進むために食糧不足にもさいなまれるなど、生活へ の影響が甚大。一方、先進国はインフラ整備などにより、降雨による影響は最小限に抑えら れ、季節性による影響を受けない。このように、季節変化がもたらす影響は途上国と先進国 では異なる。同じことは気候変動への適応についても当てはまる。 ・気候変動によるインパクトは各国の地理的・経済的・文化的事情によって異なるものであ るため、その影響を各国個別に調べて、効果的に適応策を図ることが必要。 <まとめ> ・CDM は途上国における費用効果的な排出削減を進める手法として大きな役割を果たして いる。しかし、CDM によって「持続可能な開発」を促進するためには現在の制度は十分 ではなく、改善が必要。 ・コベネフィット アプローチは排出削減と持続可能な開発を両立させるために有効であり、 ・ その考え方を取り入れた CDM が促進されるインセンティブが求められる。 ・気候変化に対してぜい弱な途上国にとって、気候変動は大きな脅威であり、適応対策は開 発の支柱。 【質疑応答】 [質問 1]スイス・韓国・メキシコが国際交渉において同じグループに属しているのは興味 深いが、 環境十全性グループのスタンスとは何か。なぜこの 3 カ国が同じスタンスをとっ ているのか。 [回答]1992 年に採択された気候変動枠組条約(UNFCCC)においては韓国とメキシコは 途上国扱いされているため削減義務が課せられていないが、現在は OECD にも加盟して
  • 7. おり、実際には途上国として見ることはできない国で、交渉の場面でも途上国グループか らは同格扱いされていない。韓国・メキシコ自身も途上国の輪には入らない。スイスは EU に入っていないため EU との距離がある。そのためにこの 3 カ国は属するグループが ない。韓国は次期枠組みの際には先進国の一員として今後削減義務を負う覚悟を持ってい るかのような姿勢が見られる。交渉において対立軸が出てくる際に、このグループがキャ スティング・ボートを握ることもある。 [質問 2]国際交渉は科学的根拠に基づいて行われているとのことだが、最終的な各国の利 益が科学に基づいてなされているとは思えない。特に 6・7・8(京都議定書で定められた 主要各国の温室効果ガス削減率。日本:-6% 米国:-7% EU:-8%)は、本当に科 学的根拠に基づいて交渉が進められた結果なのか。 [回答]京都議定書の際の 6・7・8 という数値が科学に基づいていないという反省に基づ いて、世界的に科学的根拠を基にした合意を進めようという話が出ている。今までは各国 が個別に数値を持ち出して交渉していたが、各国がそれぞれバックステージで行っていた ことを、外部に対してもいつでも説明できるように今後は方法論についても透明性の高い 議論を行い、目標を決めようという動きがある。 [質問 3]交渉のなかで日本としてアピールできる点をいくつか上げていたが、実際に日本 は京都議定書における温室効果ガス削減義務を達成できずに超過している。その点交渉に 影響はないのか。 [回答]排出量が上がっていることにより、非常に交渉がやりにくくなっていることは確か。 (京都議定書において先進国扱いされている国が提出する報告書) Demonstrable Progress の提出によっても、排出量が実際に増えているため、この点を突かれると、日本が各国に 取組の強化を求めても、説得力は弱くなってしまう。実際に各国が行っている政策や排出 量の結果は交渉に大きく影響を与える。カナダでは 2005 年末に政権が交代。前政権が気 候変動に対する対策をとっていなかったため、発言に対する説得力が削がれていた。NGO からも批判が多い。政権の支持率も交渉ポジションに影響を与える。EU も、東欧諸国も 含めた全体では排出量を削減してきているが、西欧 15 カ国で見ると増えており、厳しい 状況。先進国全体が約束達成を公約として掲げ、今後の予測を提出して途上国に対して積 極的に取組んでいることをアピールしていくことが重要。 [質問 4]適応基金(Adaptation Fund)についての質問。緩和に関しては各国も(京都メ カニズムなどを通じて)対応しやすいのではないかと思うが、適応に関する具体的な施策 は難しい気がする。適応基金の財源(を確保する手法として)は、市場メカニズム(の取 引に課税をする方向)に傾いていくのか。 [回答]適応対策自体について京都メカニズムのような経済的手法を用いることは、適応に ついての数値化やその検証が難しいためイメージしにくい。また、気候変動による悪影響 への対応は通常の自然災害に対するセーフティネットといった基盤的整備との線引きが
  • 8. 難しいという問題もある。そのため、現在のように資金をプールしていくことになってい る。 適応基金の財源については、共同実施による発行クレジットや排出量取引の一定分を拠 出する案や、先進国の排出枠の一定分を拠出する案があるが、そうした課税方式に対して は、途上国がかかわらないプロジェクトや取引に対してなぜ課税していくのかという批判 はある。適応基金に今後求められる必要資金の調達方法についての議論はまだ決着がつい ていない。 [質問 5]気候変動への国際的枠組みに対する米国の無責任さに対しては何かペナルティの ようなものはあるのか、次期枠組みに米国は組み込まれていくのか。また京都議定書に盛 り込まれている米国の排出分は今後どう処理されていくのか。 [回答]米国に対しては国際的にも不信感が高まっている。気候変動への対策を遅らせると、 同じレベルでより多く削減しないといけなくなる。次期枠組み内では、どういう尺度で義 務を課していくのかについて検討されている。どのレベルで各国の努力の比較をしていく のかは重要な問題。過去の温暖化対策と今後のポテンシャルとを同時に考えていかなけれ ばならない。米国で主に議論されている削減シナリオは、長期的には大幅削減を行うが 2020 年には 1990 年の排出値に戻すことも目標としている。ただ、ほかの国との比較を 考えた場合にほかのシナリオも含めて検討する必要はある。 ペナルティについては、将来より多くの削減を数値に盛り込むのか、削減値をどう考えて いくのか、まだ議論されている。米国は AWG-LCA(条約特別作業部会)で話をしている。 [質問 6]CDM によって先進国の総排出枠が増加してしまうという説明があったが、つま り世界全体での排出量が増えてしまうということか。そのような批判がなされているのか。 [回答]CDM によって世界全体の排出は削減されることにはなるが、その削減はあくまで 途上国が肩代わりしているものであり、 先進国の排出自体は削減されていないという批判 はある。例えば、ブラジルでは、石炭の代わりにユーカリの木炭を使用することを目的と した、大規模なユーカリ・プランテーションが展開されているが、これにより生物多様性 が損なわれ、化学肥料の汚染などにより地域住民の生活に影響が及んでいるとも言われて いる。その犠牲によって利益を享受しているのは誰か。結局は、そこで発生するクレジッ トを裕福な先進国が買い取ることによって、その先進国内では二酸化炭素を排出する利益 を享受しているのだという批判はある。それは先進国支配の新しい形として「カーボン・ コロニアリズム」と表現されることもある。 [質問 7]気候変動の枠組みに関しては、生産にフォーカスしたストラテジーばかりだと思 うので、消費にフォーカスした戦略があれば教えてほしい。 [回答]政府から消費に関して制限を行うことは難しい。ただ、家庭部門からの消費を減ら すことを呼びかけることは重要なので普及啓発には努めている。低炭素社会作りに向けて、 「チームマイナス 6%(京都議定書の削減義務である-6%に向け個人・法人が温室効果
  • 9. ガス削減を実践する、普及啓発のプロジェクト)」の呼びかけも行っており、現在 28,000 社の登録がされている。また国民一人一人への啓発活動も行っており、「私のチャレンジ 宣言」(温暖化防止のメニューの中から個人が実践したいものを選び毎日の生活の中で 1 人 1 日 1kg の CO2 排出量削減を目指す取り組み)の啓発も行っている。これは当初はマ イナーだったが、マクドナルドや和民など、参加者に割引特典を用意する協賛企業が増え たことによって急速に普及した。 [質問 8]コベネフィット CDM について、講演で紹介された南アフリカの事例は世銀が融 資しているものだが、実際 ODA や世銀など公的機関によるものが多いのではないか。民 間企業の場合、気候変動対策を行いつつ、持続的な開発にも寄与するのは難しく、トレー ド・オフが生じてくるのでは。プロジェクト自体のバランスをどう両立していくのか。 [回答]公的機関は民間企業とは違い、収益を考えずに活動できる。確かに援助機関はリス クを負えるが、民間企業にとってリスクは追加コストでしかないという面もある。しかし、 持続可能な開発という要素に市場価値を与え、その価値を費用効果計算に取り入れる(外 部費用を内部化する)ことでビジネスベースに乗せることができれば、民間企業がコベネ フィット・アプローチを行うインセティブは確保されるのではないか。コベネフィットに 適合するプロジェクトからは割り増ししたクレジットを発行させるなど、CDM クレジッ トの差異化させる方式が検討されているが、それによってコストがカバーされ、ビジネス の採算を取ることができるのでは。ただ、「持続可能な開発」の価格付けは制度的・技術 的に難しく、今後検討していくことが必要。 (以上)