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種子の発芽について

   平成24年1月31日
   園芸研究部特産野菜グループ
   技師 中嶋譲
本日の内容


   1.種子発芽とは
   2.休眠打破と発芽誘導
   3.環境条件・内性物質の影響
      発芽と光
      発芽と酸素
      発芽と化学物質
      発芽とジベレリン
      発芽とアブシジン酸
1.種子発芽とは
1.種子発芽とは

種子とは
種子
 種子植物で有性生殖によって
 形成される散布体

 受精した胚珠が成熟して休眠
 状態になったもの

 胚と胚乳、およびそれらを包む
 種皮からなる
           双子葉植物の種子の断面模式図
           a:種皮 - b:胚乳 - c:子葉 - d:胚軸
1.種子発芽とは

種子発芽とは

 種子:受精した胚珠が成熟して休眠状態になったもの



 発芽とは……

            休眠打破
         それに続く発芽の誘導
1.種子発芽とは

種子休眠と発芽誘導

種子休眠とは
  発芽に適した条件下においても発芽しない状態
  発芽に適さない時季に発芽することを防ぐ

発芽誘導とは
  休眠打破の後、発芽に適した環境で発芽が促進
  されること
2.種子休眠と発芽誘導
2.種子休眠と発芽誘導

物理的休眠

   吸水
          不透水性の種皮
  発芽誘導

  幼根の伸長

 種皮による吸水の妨害
         剥皮、乾熱、酸など
            双子葉植物の種子の断面模式図
            a:種皮 - b:胚乳 - c:子葉 - d:胚軸
2.種子休眠と発芽誘導

生理的休眠
生理的阻害機構によって発芽が妨げられている状態
胚の成長力が外囲組織に物理的に押し負けている状態


  低温もしくは高温に
  よる休眠打破
              低温処理、高温処理

  発芽適温における
    発芽誘導      植物種によっては
              発芽可能範囲の増大を
              意味する
2.種子休眠と発芽誘導

発芽可能温度範囲の拡大


                  休眠打破

    p51図       発芽可能温度の拡大

               土壌温度との重なり



  発芽時期のタイミングがコントロールされる
2.種子休眠と発芽誘導

高温による発芽阻害




            口絵写真




    高温でのレタス種子の発芽は
    アブシシン酸によって抑制されている
3.環境条件・内性物質の影響
3.環境条件・内性物質の影響

発芽と光

  フィトクロムの可逆的構造変化
        赤色光
                        ジベレリン合成
   Pr          Pfr
                        ABA抑制
        遠赤色光


   葉を透過した残りの光        遠赤色光が多い

          光の届かない場所で発芽しないため
3.環境条件・内性物質の影響

発芽と酸素



  種子は光合成できない
                        胚乳

                        子葉
 胚乳や子葉に貯蔵してある
 デンプンや脂肪を利用



  環境中の酸素の有無が種子の性質を分ける
3.環境条件・内性物質の影響

発芽と酸素



         解糖の図




   低酸素状態でも発芽出来る種子は
   デンプンを多く持つ(解糖系を利用)
  発芽率向上のために酸素濃度の調整は難しい……
3.環境条件・内性物質の影響

発芽と化学物質
チオ尿素
解糖系の活性化に関与?
細胞伸長を促進するが分裂を抑制(出典明記)。

硝酸カリウム
解糖系の活性化に関与?
硝酸イオンが作用(出典明記)

エチレン
アカザ等には阻害、リンゴやレタスには休眠打破
特に光発芽種子に作用。
3.環境条件・内性物質の影響

発芽とジベレリン




           図236p




アブシジン酸は吸水直後に急激に減少
ジベレリンは吸水後徐々に増加し、特に発芽直前に急増
3.環境条件・内性物質の影響

発芽とジベレリン

   ジベレリンの作用点


胚乳組織の物理的強度の弱体化            胚乳



    胚の成長促進
                          胚
3.環境条件・内性物質の影響

発芽とアブシジン酸

 アブシジン酸とは
     休眠の獲得・維持に働く植物ホルモン


              ジベレリンの合成を抑制

              夏期高温時の発芽抑制
セリの発芽率向上に向けて

  種皮の処理             温度管理
  ・硫酸処理             ・低温処理
  ・種皮の洗い方(もみ洗いなど)   ・恒温、変温
  ・磨傷処理
                      光照射
 薬剤・ホルモン処理
  ・ジベレリン
  ・エチレン
  ・チオ尿素             以上です。
  ・硝酸塩
2.種子休眠

高温による発芽阻害
                  Gonai et al. 2004




    高温でのレタス種子の発芽は
    アブシシン酸によって抑制されている
2.種子休眠

低温による発芽阻害

  イヌビエにフルリドンを与えても
  発芽可能温度範囲の低温域は拡大しなかった




   高温による発芽阻害とは違う仕組み?



     イネにおいてQTL解析などが進められている
3.発芽誘導

発芽と光
 暗発芽種子の多く
 Prとして作られたフィトクロムが種子の成熟する過程や
 貯蔵期間にPfrに変化するものがあって、この場合には
 暗黒でも容易に発芽
フィトクロムが関与しない暗発芽種子
(エンドウ、インゲンマメ、トウモロコシなど)
光とは無関係に植え付けられる便利な形質をもつものを
選抜してきた結果?
Pfrが発芽を抑えている場合
発芽を引き起こすフィトクロムと抑制するフィトクロムが、互い
に働きあって最も適した光環境で発芽するように適応?
3.発芽誘導

発芽制御の分類 フィトクロムの種類

 HIR(高照射反応)=数時間の連続光照射
 PhyAが仲介。PhyAはⅠ型のフィトクロム。
 暗所で多量に蓄積しているがすみやかに分解される。
 光可逆性を示さない。

 LFR(低光量反応)=通常のパルス照射
 PhyBが仲介。PhyBはⅡ型のフィトクロム。
 典型的な光可逆性を示す。
 PhyBは登熟時には既に蓄積。
 VLFR(超低光量反応)=超低光量のパルス照射
 PhyAが仲介
3.発芽誘導

発芽制御の分類
 VLFR(超低光量反応)=超低光量のパルス照射
 PhyAが仲介。(PhyAは吸水後暗所で多量に蓄積)

            湿潤
           埋土種子


          PhyAの蓄積


    わずかな光(遠赤色光含む)で発芽
3.発芽誘導

フィトクロムの動き

 Pfr:核内に移行→PIF3という転写因子と相互作用
              光応答遺伝子の発現調節

       赤色光     遠赤色光

 Pr:核外へ移動
 光応答遺伝子への発現調節がなくなる
3.発芽誘導

発芽制御の分類

 HIR(高照射反応)=数時間の連続光照射
 PhyAが仲介。

 シロイヌナズナ
 赤色、遠赤色の交互照射→遠赤色光で発芽阻害
 遠赤色光のみ連続照射→発芽阻害されず
 レタス
 遠赤色光連続照射で発芽阻害

  PhyAを介した光発芽はあまり詳しくわかっていない
3.発芽誘導

発芽と化学物質

ストリゴラクトン
根寄生植物を発芽させる物質として単離
アーバスキュラー菌根菌の宿主認識シグナルになる

   菌根菌=植物の根にとってのマジックハンド
        土壌中のリンや窒素を宿主に供給
3.発芽誘導

発芽とジベレリン

        発芽
  胚が成長→胚乳・種皮を突き破る


            幼根突出部分の
   ジベレリン     胚乳の細胞壁
            (ガラクトマンナン)


  βマンナナーゼ
2.種子休眠

形態的休眠


        胚が未発達、もしくは未分化



   幼根が認められるまでに時間が掛かる



形態的休眠に分類される植物はあまり多くないため割愛
1.種子発芽とは

種子の発芽を左右する要素

            水



     土壌成分         温度
            発芽


        光        酸素

    種子の休眠打破、発芽誘導に関与

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