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第12回 農薬学

Ⅳ章‐三 p168~177




         平成24年2月8日
           髙木俊輔
                 1
菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)
            <特徴>
            ・アブラナ科のほか、果菜類でも
            感染
            ・ネズミ糞状の菌核
            <感染経路>
キャベツ菌核病     ・菌核が菌糸を伸ばして侵入
            ・胞子を飛ばして古い組織などか
            ら感染
            <薬剤>
            ・予防:TPN剤など
            ・ジカルボキシイミド剤
菌核病の菌糸                          2
担子菌類による病害
              担子胞子
 担子菌類の菌糸の末
端に担子器を作り、さら
に担子器が担子胞子を
作る。
 その担子胞子が飛ば
されて野菜等に感染す    担子器
る。

                     3
さび菌類の特徴

1 絶対寄生菌
  宿主の死んだ組織からは栄養が取れない
2 多数の胞子世代を有するものもある
  (精子・さび胞子・夏胞子・冬胞子・担子胞子
  両性胞子)
3 異種寄生種
  生活環を全うするために、全く関連のない2
種の植物を必要とする。(⇔同種寄生種)
4 宿主範囲が狭く宿主特異性が高い
                          4
例:ナシ赤星病
       ビャクシン            ナシ

冬胞子堆発芽・小       飛散       感染・
生子形成           3~4月・風   病斑形成
(3~4月雨天時)




冬胞子堆の形成                 さび胞子
(2~3月)         感染       形成・飛散
               (6~7月)


                                5
さび菌類の対策

●中間宿主の除去
(ナシの産地では近くにビャクシンを植えるの
が菌糸されていることも)

<薬剤>
予防:マンゼブ剤・チアジアジン剤など
治療:メプロニル剤・EBI(+展着剤ニーズ)など


                           6
不完全菌類による病気
不完全菌類とは・・・子のう菌、担子菌類の仲間。
          有性世代が未発見のもの


 ①柄子殻を作るもの
 ②分生子層を作るもの
 ③分生子柄束を作るもの
 ④分生子座を作るもの
 ⑤胞子の時代が知られていないもの
                      7
①柄子殻を作るもの

             ←黒い点々が柄子殻(分生子殻)
              この柄子殻から分生子が飛び
              出し、伝染減となる。

ツタ褐色円斑病の病斑



断面図。この状態で越冬して春に
飛散する。         →

                          8
Phoma属菌
                <根朽病の特徴>
                ・病状が進むと根が付かず
                すっぽりと抜ける
柄子殻から流出する柄胞子    <感染経路>
                ・土壌伝染

                <薬剤>
                ・予防:TPN剤など
                ・イミノクタジンアルベシル酸
   根朽病
                塩剤             9
Phomopsis属菌
                <褐紋病の特徴>
                ・円形、灰褐色の病斑を生じ、の
                ちに表面に黒色小粒点を生ずる

Phomopsis胞子     <感染経路>
                ・24~26℃から発生し、28℃以上
                で降雨の多い時に蔓延が著しい。
                ・種子伝染
                 <薬剤>
                 ・予防:TPN剤、マンゼブ剤な
ナス褐紋病                 ど
                                   10
Ascochyta属菌
                <つる枯病の特徴>
                ・淡褐色の水浸状病斑を形成して
                軟化し、やにを出しながら、徐々に
                拡大する。果実では心腐れも。
Ascochyta属菌     <感染経路>
                ・降雨時の水はね

                <薬剤>
                ・発病前:ジネブ剤、マンゼブ剤など
                ・発病後:ジカルボキシイミド剤、
キュウリつる枯病             ベンゾイミダゾール剤など
                                11
Septoria属菌
               <黒点葉枯病の特徴>
               ・黄緑色で水浸状の小型の斑点が現
               れ,徐々に拡大して灰褐色から暗褐色
               で円形の大型な斑点になる。
Septoria属菌     <感染経路>
               ・降雨時の水はね

               <薬剤>
               ・キャプタン剤、ジネブ剤
セルリー斑点病
                              12
②分生子層をつくるもの




左:柄子殻   右:分生子層(胞子堆)


                      13
炭そ病
                  <原因>
                  Colletotrichum属
                  Gloeosporium属

Colletotrichum属   <感染経路>
                  ・種子、土壌伝染


                  <薬剤>
                  ・種子粉衣消毒
ピーマン炭そ病           ・予防:マンゼブ剤、ジネブ剤等
                  ・治療:ベンゾイミダゾール剤等14
灰色かび病(ボトリチス病)
           <原因>
           Botrytis属
           薬剤抵抗性が出てきてやっかい
           <感染経路>
ブドウの房のよう
           ・古い組織、傷口
           <対処>
           ・枯れた葉は捨てる
           ・花カス落とし剤(果樹)
           ・抗灰色かび剤+トルキャップ(果菜
イチゴ灰色かび病   類)
           ・薬剤はローテーションを意識
                               15
灰星病
        <原因>
        Monilinia属菌
        <感染経路>
        ・花の柱頭から侵入
分生胞子

        <対処>
        ・冬期に被害果を処分
        ・開花前後に薬剤散布
        ・袋かけも有効
モモ灰星病


                      16
葉かび病
          <原因>
          Cladosporium属菌
          <感染経路>
枝分かれ状     ・種子伝染、土壌伝染


          <薬剤>
          ・カスガマイシン・キャプタン剤
          ・カスガマイシン・銅剤など



トマト葉かび病
                            17
黒斑病
             <原因>
             Alternaria属菌
             <感染経路>
ダンベル状の分生子鎖   ・降雨による跳ね上がり


             <薬剤>
             予防:ホセチル剤、TPN剤、銅剤など
             治療:EBI剤、ポリオキシン剤(+銅剤)
                 など


  ネギ黒斑病
                                18
白斑病
          <原因>
          Stemphylium属菌
          <感染経路>
          ・近くにトマト斑点病の発病株があると
 分生子      感染しやすい(ピーマン白斑病の場合)

          <薬剤>
          予防:マンゼブ剤、TPN剤など
          治療:ジカルボキシイミド系剤など
          なお、ピーマン白斑病には薬剤がな
          い。

ピーマン白斑病
                           19
③分生子柄が束生するもの
           すすかび病
            <原因>
            Cercospora属菌


            <感染経路>
束状の分生子柄     ・被害植物残さ


            <薬剤>
            予防:マンゼブ剤、TPN剤など
            治療:ベンゾイミダゾール系剤など

                               20
トマトすすかび病
すすかび病②

           <原因>
           Mycovellosiella属菌


           <感染経路>
  分生子      ・被害植物葉上、ハウス資材に付着し
           た胞子など

           <薬剤>
           治療:カスガマイシン銅剤、
             ベンゾイミダゾール系剤など
ナスすすかび病

                               21
④分生子座をつくるもの




分生子座:分生子柄が集まってできたもの。
    この先端に分生子ができる。



                       22
フザリウム属菌
                ★難防除病害の最右翼
                 大きくソラニ型とオキシスポラム型
                の2つに分かれる


    Fusarium

1 ソラニ型
 地際部根の表面から侵入する外部型。軟腐病。
2 オキシスポラム型
 導管を犯す内部型。萎凋病、つる割れ病など。

    ともに土壌伝染・種子伝染する
                               23
フザリウム属菌




トマト萎凋病       キュウリつる割れ病
 <対策>
 ・連作を避ける
 ・土壌消毒
 ・カニ、エビがらの施用は慎重に         24
⑤胞子の時代が知られていないもの
 菌核から出した菌糸が再び菌核を作る。



             リゾクトニア(Rhizoctonia)
             菌糸。直角に分岐する。




コルチシウム菌(Corticium)は菌糸が細く、栗色
の小さい菌糸を作る(写真見つからず)

                                   25
⑤胞子の時代が知られていないもの




紋枯れ病(イネ)   黒あざ病(ジャガイモ)   白絹病(甘長とうがらし)

 地上病害       土壌病害

    リゾクトニア菌               コルチシウム菌

 <薬剤>
 抗リゾクトニア菌剤の土壌灌注、種芋粉衣

                                        26

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農薬学第12回

  • 1. 第12回 農薬学 Ⅳ章‐三 p168~177 平成24年2月8日 髙木俊輔 1
  • 2. 菌核病(Sclerotinia sclerotiorum) <特徴> ・アブラナ科のほか、果菜類でも 感染 ・ネズミ糞状の菌核 <感染経路> キャベツ菌核病 ・菌核が菌糸を伸ばして侵入 ・胞子を飛ばして古い組織などか ら感染 <薬剤> ・予防:TPN剤など ・ジカルボキシイミド剤 菌核病の菌糸 2
  • 3. 担子菌類による病害 担子胞子 担子菌類の菌糸の末 端に担子器を作り、さら に担子器が担子胞子を 作る。 その担子胞子が飛ば されて野菜等に感染す 担子器 る。 3
  • 4. さび菌類の特徴 1 絶対寄生菌 宿主の死んだ組織からは栄養が取れない 2 多数の胞子世代を有するものもある (精子・さび胞子・夏胞子・冬胞子・担子胞子 両性胞子) 3 異種寄生種 生活環を全うするために、全く関連のない2 種の植物を必要とする。(⇔同種寄生種) 4 宿主範囲が狭く宿主特異性が高い 4
  • 5. 例:ナシ赤星病 ビャクシン ナシ 冬胞子堆発芽・小 飛散 感染・ 生子形成 3~4月・風 病斑形成 (3~4月雨天時) 冬胞子堆の形成 さび胞子 (2~3月) 感染 形成・飛散 (6~7月) 5
  • 7. 不完全菌類による病気 不完全菌類とは・・・子のう菌、担子菌類の仲間。 有性世代が未発見のもの ①柄子殻を作るもの ②分生子層を作るもの ③分生子柄束を作るもの ④分生子座を作るもの ⑤胞子の時代が知られていないもの 7
  • 8. ①柄子殻を作るもの ←黒い点々が柄子殻(分生子殻) この柄子殻から分生子が飛び 出し、伝染減となる。 ツタ褐色円斑病の病斑 断面図。この状態で越冬して春に 飛散する。 → 8
  • 9. Phoma属菌 <根朽病の特徴> ・病状が進むと根が付かず すっぽりと抜ける 柄子殻から流出する柄胞子 <感染経路> ・土壌伝染 <薬剤> ・予防:TPN剤など ・イミノクタジンアルベシル酸 根朽病 塩剤 9
  • 10. Phomopsis属菌 <褐紋病の特徴> ・円形、灰褐色の病斑を生じ、の ちに表面に黒色小粒点を生ずる Phomopsis胞子 <感染経路> ・24~26℃から発生し、28℃以上 で降雨の多い時に蔓延が著しい。 ・種子伝染 <薬剤> ・予防:TPN剤、マンゼブ剤な ナス褐紋病 ど 10
  • 11. Ascochyta属菌 <つる枯病の特徴> ・淡褐色の水浸状病斑を形成して 軟化し、やにを出しながら、徐々に 拡大する。果実では心腐れも。 Ascochyta属菌 <感染経路> ・降雨時の水はね <薬剤> ・発病前:ジネブ剤、マンゼブ剤など ・発病後:ジカルボキシイミド剤、 キュウリつる枯病 ベンゾイミダゾール剤など 11
  • 12. Septoria属菌 <黒点葉枯病の特徴> ・黄緑色で水浸状の小型の斑点が現 れ,徐々に拡大して灰褐色から暗褐色 で円形の大型な斑点になる。 Septoria属菌 <感染経路> ・降雨時の水はね <薬剤> ・キャプタン剤、ジネブ剤 セルリー斑点病 12
  • 13. ②分生子層をつくるもの 左:柄子殻 右:分生子層(胞子堆) 13
  • 14. 炭そ病 <原因> Colletotrichum属 Gloeosporium属 Colletotrichum属 <感染経路> ・種子、土壌伝染 <薬剤> ・種子粉衣消毒 ピーマン炭そ病 ・予防:マンゼブ剤、ジネブ剤等 ・治療:ベンゾイミダゾール剤等14
  • 15. 灰色かび病(ボトリチス病) <原因> Botrytis属 薬剤抵抗性が出てきてやっかい <感染経路> ブドウの房のよう ・古い組織、傷口 <対処> ・枯れた葉は捨てる ・花カス落とし剤(果樹) ・抗灰色かび剤+トルキャップ(果菜 イチゴ灰色かび病 類) ・薬剤はローテーションを意識 15
  • 16. 灰星病 <原因> Monilinia属菌 <感染経路> ・花の柱頭から侵入 分生胞子 <対処> ・冬期に被害果を処分 ・開花前後に薬剤散布 ・袋かけも有効 モモ灰星病 16
  • 17. 葉かび病 <原因> Cladosporium属菌 <感染経路> 枝分かれ状 ・種子伝染、土壌伝染 <薬剤> ・カスガマイシン・キャプタン剤 ・カスガマイシン・銅剤など トマト葉かび病 17
  • 18. 黒斑病 <原因> Alternaria属菌 <感染経路> ダンベル状の分生子鎖 ・降雨による跳ね上がり <薬剤> 予防:ホセチル剤、TPN剤、銅剤など 治療:EBI剤、ポリオキシン剤(+銅剤) など ネギ黒斑病 18
  • 19. 白斑病 <原因> Stemphylium属菌 <感染経路> ・近くにトマト斑点病の発病株があると 分生子 感染しやすい(ピーマン白斑病の場合) <薬剤> 予防:マンゼブ剤、TPN剤など 治療:ジカルボキシイミド系剤など なお、ピーマン白斑病には薬剤がな い。 ピーマン白斑病 19
  • 20. ③分生子柄が束生するもの すすかび病 <原因> Cercospora属菌 <感染経路> 束状の分生子柄 ・被害植物残さ <薬剤> 予防:マンゼブ剤、TPN剤など 治療:ベンゾイミダゾール系剤など 20 トマトすすかび病
  • 21. すすかび病② <原因> Mycovellosiella属菌 <感染経路> 分生子 ・被害植物葉上、ハウス資材に付着し た胞子など <薬剤> 治療:カスガマイシン銅剤、 ベンゾイミダゾール系剤など ナスすすかび病 21
  • 23. フザリウム属菌 ★難防除病害の最右翼 大きくソラニ型とオキシスポラム型 の2つに分かれる Fusarium 1 ソラニ型 地際部根の表面から侵入する外部型。軟腐病。 2 オキシスポラム型 導管を犯す内部型。萎凋病、つる割れ病など。 ともに土壌伝染・種子伝染する 23
  • 24. フザリウム属菌 トマト萎凋病 キュウリつる割れ病 <対策> ・連作を避ける ・土壌消毒 ・カニ、エビがらの施用は慎重に 24
  • 25. ⑤胞子の時代が知られていないもの 菌核から出した菌糸が再び菌核を作る。 リゾクトニア(Rhizoctonia) 菌糸。直角に分岐する。 コルチシウム菌(Corticium)は菌糸が細く、栗色 の小さい菌糸を作る(写真見つからず) 25
  • 26. ⑤胞子の時代が知られていないもの 紋枯れ病(イネ) 黒あざ病(ジャガイモ) 白絹病(甘長とうがらし) 地上病害 土壌病害 リゾクトニア菌 コルチシウム菌 <薬剤> 抗リゾクトニア菌剤の土壌灌注、種芋粉衣 26