21世紀の多言語児童の言語教育を考える 
ー多言語家庭の継承語とは何かー 
2014年NECTJ 第14回継承日本語研究大会 
• 2014年8月25日(月) 
• 場所:Tenri Culture Institute 
• 発表者:安納恵子 
• DePaul University, Chicago, IL
調査研究の動機 
• 周囲に多言語多文化環境の子供が増えてい 
る。 
• 近くの図書館の案内: 7か国語で案内 
• 筆者の生徒の家庭の実例調査 
• 筆者の家庭の子供たち 
• 気になる「継承語」の行方
調査研究の対象と動機 
• 多言語の家庭では継承語、母語、第2言 
語、外国語、の区別がつきにくくなって 
いる事実 
• 対象: イリノイ州シカゴ市近郊のひとつ 
の家庭の使用言語 
• 期間: 2013年4月から2014年8月まで 
• 使用言語が3か国語以上のケース 
• これからの継承語教育を考えたい
多言語多文化家庭出現の原因 
• 世界グローバル化の傾向 
• 人と物と情報が動く 
• 過去日本とアメリカのケースが多かった 
• 現在世界の国々の間を動く 
• 子供たちは親と行動を共にすることが多い 
• 日本は夫の単身赴任で子供を親の運命に道ずれに 
することを避けていた 
• 国際ビジネスマンの夫だけが多国間を動く 
• ヨーロッパ家族一緒に行動する家庭
世界グローバル化の家庭への影響 
A. 国際ビジネスによる空間的移動の必要性 
• 夫の移動に妻もついていく 
• 子供たちもついていく 
• 強制であり子供たちは選択できない 
• B. 家庭全体は言語間、文化間を移動する 
• 教育の問題 
• 将来への影響
グローバル化移動への家庭の対処の 
仕方#1 過去の傾向 
過去の傾向 
• 駐在員の父親だけが単身赴任子供の教育を重視 
• 駐在員が年齢が高かった子供が年齢が高かった 
• 夫婦に共通の言語(母国語)があった 
• 夫婦は外では英語と日本語 
• 家庭内では日本語と(あるいは)英語 
• 子供たちは学校でフランス語、スペイン語、ドイツ語 
など習うが話す機会は限られていた
グローバル化移動への家庭の対処の 
仕方#2--現在の傾向 
• 両親が若い世代に交代 
• 国際ビジネス、教育のために多国間を移動 
• 外国生まれの子供たちの言語問題 
• 今までは継承語教育で対処 
• 国際結婚の家庭の増加 
• 夫と妻の母語が違う 
• 例: 夫英語妻: 日本語 
• 子供の出生国も多国になる 
• 家庭内の継承語(複数)の問題
グローバル化移動への家庭の対処の仕方 
#3 調査対象の家庭の場合 
• 両親ヨーロッパ人 
• 国際結婚人種、国籍が違う 
• 夫の母語(複数) 
• 妻 
• 夫の国際ビジネスのために国から国へ転勤 
• 子供の出生国(複数) 
• 家庭での子供の言語環境 
• 家庭外での子供の言語環境
先行研究#1 
• 川上郁雄(2010) 「私も「「移動するこども」」 
だった」。CCBという言葉を発明Children 
Crossing Borders 「移動する子どもたち」。 
• 尾関史(2009)移動する子どもたちの成長・ 
発達を支えることばの教育の構築」関して博 
士論文作成。移動する子どもたちの学びの主 
体性を育てるにはどうしたらよいか、に焦点を 
当てている。 
• 片岡裕子アメリカにいる日本の子供たち
先行研究#2 
• 片岡裕子(2008)「アメリカにいる日本のこど 
たち」のアイデンティティに焦点をあてる。日 
本語が話せなくても日本人と思っている日系 
人がいることに注目
事例:家族の構成 
A. 主人公妻であり母、医者、仮名アンドレア 
• 5人家族夫、妻、長女(高校生)、長男(中学 
生)、次男(小学生) 
シカゴ郊外に在住 
B. 妻の両親、いわゆる祖父母フランス在住 
C. 妻の兄弟姉妹の結婚相手と言語 
• 兄メキシコ人と結婚スペイン語と英語 
• 妹アメリカ人と結婚英語 
• 弟フランス人と結婚フランス語 
D. 共通語は英語
国境を越えて移動ーー両親 
A. 父オーストリア生まれ外交官 
• 国際間の仕事国から国へ 
• 主な言語ドイツ語、スエーデン語 
• スイス在住の時結婚 
B. 母スエーデン生まれ 
• 父親が外交官父が国から国へ移動する仕事 
• 主な言語スエーデン語 
C. 子供達も(兄、妹、弟、本人)も国から国へ
国境を越えて移動#1妻(本人) 
• 妻オーストリア生まれ 
• 母親の言葉: スエーデン語 
• 父親の言葉:フランス語 
• スイスへドイツ語で勉強 
• アルジェリアへフランス語で勉強 
• いとこ達も多様な言葉共通語は英語 
• 18歳のときベルギーの医学部へ入学
国境を越えて移動#2 夫 
• 夫ベルギー生まれのベルギー人 
• フランス語 
• オランダ語、フレミッシュ語、 
• 国際ビジネスマン 
• ベルギーで結婚 
• アメリカで英語
国境を越えて移動#3 家庭 
• 長女はドイツで誕生 
• アメリカ、ボストンへ移動 
• 妻はボストンで医者 
• 長男、次男はアメリカで誕生 
• ベルギーへ移動 
• 日本へ移動 
• アメリカ、シカゴへ移動 
• 現在に至る
空間的移動#1 
• 妻 
• オーストリア生まれー>スイス(ドイツ語)ー> 
アルジェリア(フランス語)ー>ベルギー(結 
婚)ー>アメリカ(ボストン;英語)->日本 
(日本語)ー>アメリカ(シカゴ;英語) 
• 夫 
• ベルギー生まれ>ベルギー>ドイツ>ベル 
ギー>アメリカ(ボストン)->ベルギー>日 
本ー>アメリカ(シカゴ)
空間的移動#2 
• 長女 
ドイツ(生まれ)ー>ベルギー>アメリカ(ボス 
トン)->ベルギーー>日本ー>アメリカ(シ 
カゴ) 
• 長男+次男 
アメリカ(ボストン生まれ)->ベルギーー> 
日本ー>アメリカ(シカゴ)
言語と居住国#1 
国籍使用可能言語1年以上住ん 
だ国 
備考 
妻の父(いわ 
ゆる祖父) 
オーストリアドイツ語 
フランス語 
英語 
オーストリア 
スイス 
アルジェリア 
外交官 
妻の母(いわ 
ゆる祖母) 
スエーデンスエーデン語 
フランス語 
英語 
スエーデン 
スイス 
オーストリア 
外交官夫人
言語と居住国#2 
国籍使用可能言語1年以上住ん 
だ国 
備考 
夫ベルギーフランス語 
オランダ語 
フレミッシュ語 
英語 
ベルギー 
ドイツ 
アメリカ 
日本 
ビジネスマン 
妻オーストリアスエーデン語 
フランス語 
ドイツ語 
英語 
オーストリア 
ベルギー 
アルジェリア 
アメリカ 
日本 
医者
言語と居住国#3 
国籍使用可能言語1年以上住ん 
だ国 
備考 
長女ベルギー英語 
フランス語 
スエーデン語 
日本語 
ベルギー 
アメリカ 
日本 
長男アメリカ英語 
日本語 
フランス語 
スエーデン語 
アメリカ 
ベルギー 
日本 
次男アメリカ英語 
フランス語 
(少々) 
アメリカ 
ベルギー 
日本
生まれた国と育った国 
生まれた国0-5歳5-10歳備考 
夫ベルギーベルギーベルギー 
妻オーストリアスイスアルジェリア 
長女ドイツドイツ、ベル 
ギー、 
ベルギー、アメ 
リカ、日本、 
長男アメリカアメリカ、ベル 
ギー 
アメリカ、ベル 
ギー、日本、ア 
メリカ、 
次男アメリカアメリカ、ベル 
ギー、日本 
アメリカ、ベル 
ギー日本、アメ 
リカ、
家庭の教育方針 
A. モンテソーリ方式 
• 創造力、柔軟性 
• 転々と変わる環境に対応する能力が必要 
B. 言語の大切さ 
• 「言語は世界への窓」 
C. 仕事のために広い能力、技能が必要 
• 転々と変わる環境にSurvival する能力 
• 子供たちの教育優先 
D. 毎夏はヨーロッパに旅行する
家庭の使用言語 
• 現在、シカゴ近郊在住 
• 夫会社員、妻医者 
• 夫婦間フランス語 
• 長女 
フランス語、英語、スエーデン語、ドイツ語 
• 長男英語、フランス語、日本語 
• 次男英語、フランス語が少々 
• 家庭フランス語と英語を使い分ける
多言語使用家庭の問題#1 
• 有利な点 
• 多種多様な言語、文化に対処できる能力の 
育成が可能 
• 問題点 
• 家庭の中のUnity vs. Diversity のバランス 
• Identity 自分は何人であり、自分の祖国は? 
• Linguistic Identity 自分の母国語は何語か 
はっきりしない、はっきりできない
多言語使用家庭の問題#2 
• 移動する子どもたちのアイデンティティの問題 
アイデンティティの問題が大人になってからど 
どんな影響を与えるのか、現在では判断の 
データーが無い 
• アイデンティティとは何か 
人種的アイデンティティ 
言語アイデンティティ
多言語使用家庭のこれから#1 
• トライリンガル児童の増加の傾向 
• 例1 父英語母英語と日本語 
祖父母ヘブル語、英語 
子供たち英語、日本語、ヘブル語 
• 例2 日本 
日本語、英語、東南アジア言語
多言語使用家庭のこれから#2 
• バイリンガルからトライリンガルへ 
• 母国語、継承語、第2言語、バイリンガルの 
• 境界がはっきりできなくなる 
• 多種多様な言語文化環境でサバイバルでき 
る能力の育成が必要
参考文献(Selective) その1 
尾関史(2009)「移動する子どもたちの成長・発達を支えることば 
の教育の構築に向けてーーー子どもの主体性が育む学び 
の可能性」早稲田大学博士論文 
尾関史(2009)「移動する子どもたちの成長・発達を支えること 
ば」早稲田大学博士論文概要 
dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bistream/2065/34717/1/G 
aiyo_5067.pdf 
川上郁雄(2010)「私も「「移動する子ども」」だった」くろしお出版 
川上郁雄(2006)「移動する子どもたちの日本語教育」明石書店
参考文献(Selective) その2 
川上郁雄(2010)「「移動する子どもたち」のことばの教育学とは何か」 
Journal of Children Crossing Borders vol. 1 : 1-21. 
www.gsjal.jp./Childrenforum/dat/jcccb01.kawakami.pdf 
片岡裕子(2008)「アメリカにいる日本の子どもたち」pp. 48-69 ; 佐藤郡衛・片 
岡裕子編「アメリカで育つ日本の子どもたち」明石書店
ありがとうございました 
• ご質問の方は安納恵子まで 
• 電話847-853-1739 
• ファックス847-853-1838 
• 電子メールannokeiko@sbcglobal.net
NECTJ JHL Annual Conference 21世紀の多言語児童の言語教育
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