日本認知心理学会第17回大会で行った口頭発表のスライドです

1. 抑うつ者における意図的想起と
無意図的想起の気分改善効果の違い
第17回認知心理学会大会＠京都テルサ
2019.5.25-26
〇橋本淳也1・小林亮太1・柏原志保1・平本亮介1,5・原口
優輔1・石田紀香2・岡崎彩香2・岸本和美2・中野歩菜見
2・堀之内滉2・本多樹1・朱建宏1・孫玥澤1・山本一希
2・中尾敬1・金山範明3,4・宮谷真人1
1. 広島大学大学院教育学研究科，2. 広島大学教育学部，3. 産業技術総合研究
所人間情報研究部門，4. 広島大学社会産学連携室，5. 日本学術振興会
口頭発表４：記憶

2. 自己紹介
• 橋本 淳也（はしもと じゅんや）
広島大学教育学研究科 認知心理学研究室 D2
• 研究テーマ
無意図的想起による気分の改善
• 本日のスライドは後日HPにアップします
https://sites.google.com/view/junyahashimoto/
（”橋本淳也”でググっていただくか，広島大学認知研のHPからも飛べ
ます）
2

3. 気分改善効果
自伝的記憶
ー過去の個人的経験の記憶
ー感情体験が多く含まれる
気分改善効果（e.g., Josephson et al., 1996）
ポジティブ記憶の想起が不快気分の改善をもたらす
3

4. 抑うつ者における気分改善効果
うつ病患者（MDD）
寛解期の患者（RDM）
健常者（NC）
4
ポジティブ記憶想起による気分
改善を検証
悲
し
み
気
分
想起前 想起後
うつ病患者は気分を悪化させる
（寛解期では改善なし）
抑うつ状態にある者では気分改善効果は生じない
（非臨床群も同様; Joormann & Siemer, 2004）
※記憶の想起数や感情価など，記憶
の性質に関する群間差はない
Joormann et al. (2007)

5. ポジティブ記憶の思い出し方
ここまでのポジティブ記憶想起は，参加者に記憶
の想起を求め，参加者が自ら思い出そうとしてい
る
⇒ 意図的想起
一方で，思い出そうという意図がなくても記憶が
想起されることがある（Berntsen, 2010）
⇒ 無意図的想起
5

6. 無意図的想起と気分改善効果
無意図的想起の場合，抑うつ者に気分改善効果が
生じることが示唆されている
① 抑うつ者において，日常的に生じた自伝的記
憶の無意図的想起は気分によい影響をもたら
しやすい（Watson et al., 2012）
日常的な想起では想起状況が参加者依存であり，
気分に影響しうる要因を統制できない
6
想起の手がかり 想起場面

7. 無意図的想起と気分改善効果
無意図的想起の場合，抑うつ者に気分改善効果が
生じることが示唆されている
② 実験的に記銘したポジティブ画像の想起は，
意図的/無意図的想起によって気分への影響が
異なる（Hashimoto et al., 2019）
自伝的記憶の想起による効果は明らかではない
7

8. 問題・目的・仮説
問題点
抑うつ者において，ポジティブな自伝的記憶の意図的/無
意図的想起によって，気分改善効果が異なるかについて実
験的に明らかとなっていない
目的
抑うつ者における，自伝的記憶の意図的想起と無意図的想
起による気分改善効果の違いを実験的に明らかにする
仮説
抑うつ状態が高い者において，意図的想起よりも無意図的
想起のほうが気分改善の程度が大きい
8

9. 方法
• 参加者：70名（女性42名，M age = 20.3歳）
意図的想起または無意図的想起条件にランダムに割り当てた
• 質問紙
① CES-D（島，1998）：抑うつ状態の測定
② PANAS（佐藤・安田，2001）：気分状態の測定
• 刺激語（想起手がかり）
修学旅行，遠足，合格，入学，花見，初恋
9

10. 方法
• 想起課題
10
修学旅行
無意図的想起条件
周囲の線分の傾きに着目させる
ー縦線（全体の5%）への反応を求める
ー中央の単語が想起を誘発する
中央の単語は8-12試行ごとに切り替わる（全60試行）
修学旅行
修学旅行
意図的想起条件
中央の単語から記憶を思い出すよう求
める
Schlagman & Kvavilashvili (2008) をベースに作成

11. 方法
• 手続き
11
ネガティブ
気分への誘導
想起課題
気分状態の測定（Pre）
想起に関する回答
気分状態の測定（Post）

12. 結果：ポジティブ記憶の想起
53名（女性30名）のデータで解析（想起なし15名，回答不備2名）
• 想起条件，抑うつ状態にかかわらずポジティブ記
憶が想起された（1標本t検定，ps < .03；抑うつは平均値で群分
け）
12
0.000
0.500
1.000
1.500
2.000
2.500
抑うつ低群 抑うつ高群
記
憶
の
感
情
価
意図的想起 無意図的想起
エラーバーは標準誤差
ポ
ジ
テ
ィ
ブ
中性
快

13. 結果：気分改善効果
気分改善効果について重回帰分析を行った結果，
抑うつ状態が高いとき，無意図的想起は意図的想起
よりも有意に気分が改善する（β = .36, p = .02）
13
* p < .05，エラーバーは標準誤差
0
5
10
15
20
25
抑うつ_-1SD 抑うつ_+1SD
気
分
改
善
の
程
度
意図的想起 無意図的想起
*目的変数：気分改善の程度
（Post気分– Pre気分）
説明変数：想起条件，抑うつ状
態，および交互作用
共変量：ポジティブ記憶想起
数，Pre気分，および交互作用

14. 考察
抑うつ者における，ポジティブな自伝的記憶の意図的/無
意図的想起による気分改善効果の違いが実験的に明らかと
なった
⇒無意図的想起は意図的想起よりも気分の改善が生じ，健
常者と同様に気分の改善が生じる
★なぜ意図的/無意図的想起によって効果が異なるのか？
ー抑うつ者はポジティブ記憶の意図的想起に多大な負荷が
かかる
⇒出来事を再体験するための資源が損なわれている可能性
今後は，気分改善効果が異なるメカニズムについて検討を
行っていきたいと考えている
14

15. 引用文献
Berntsen, D. (2010). The Unbidden Past: Involuntary Autobiographical Memories as a Basic Mode of
Remembering. Current Directions in Psychological Science, 19(3), 138–142.
Hashimoto J., Kanayama N., Miyatani M., & Nakao T. (2019). Involuntary Memory Retrieval Alleviates
Depressive Mood. Annual Convention of The Society for Personality and Social Psychology (SPSP2019),
Oregon Convention Center, Portland, USA, February 7-9, 2019.
Joormann, J., & Siemer, M. (2004). Memory accessibility, mood regulation, and dysphoria: difficulties in
repairing sad mood with happy memories? Journal of Abnormal Psychology, 113(2), 179–188.
Joormann, J., Siemer, M., & Gotlib, I. H. (2007). Mood Regulation in Depression: Differential Effects of
Distraction and Recall of Happy Memories on Sad Mood. Journal of Abnormal Psychology, 116(3), 484–
490.
Josephson, B. R. Singer, J. A., & Salovey, P. (1996). Mood regulation and memory: Repairing sad moods with
happy memories. Cognition & Emotion, 10(4), 437–444.
佐藤徳・安田朝子 (2001). 日本語版PANASの作成 性格心理学研究，9，138-139.
Schlagman, S., & Kvavilashvili, L. (2008). Involuntary autobiographical memories in and outside the laboratory:
How different are they from voluntary autobiographical memories? Memory & Cognition, 36(5), 920–
932.
島悟 (1998). CES-D使用の手引き. 千葉テストセンター，東京
Watson, L. A., Berntsen, D., Kuyken, W., & Watkins, E. R. (2012). The characteristics of involuntary and
voluntary autobiographical memories in depressed and never depressed individuals. Consciousness and
Cognition, 21(3), 1382–1392.
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