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“わびさび型”メディアと
“夢の国型”メディアのデザイン
高橋英之(大阪大学大学院 基礎工学研究科)
デジタルメディア
エンタメ(体験性)に絞って議論
技術進歩により豊かな体験を提供
刺激的で煌びやかな非日常体験
デジタルメディアにより,以前よりも子供は
幼少期の頃から様々な刺激に触れることが可能になった
⇒ このような幼少体験は発達にどのような影響を及ぼすのか?
デジタルメディア上での体験を自分の人生の物語に取り込めるか?
本日議論したいポイント
体験を“人生”の物語に取り込めるか?
人生 = 物語(ナラティブ)として歩みを記憶に取り込むこと?
メディアの表現が未熟だったころ,主導権は人間の方にあった
⇒ 表現の隙間を自らの想像力(記憶)で埋めることで,
メディアが提供するコンテンツを自らの記憶に取り込めた
体験を“人生”の物語に取り込めるか?
メディアの表現が豊かになることで主導権がメディアに移行
⇒ 我々は提供されるコンテンツの受動的消費者となる傾向
(メディア上での体験を自分の人生に取り込みにくい)
受動的にリッチなメディアが提供する体験を味わうことは,
それ自体が“報酬刺激”となり,中毒状態をつくりだすのかも
“夢の国”喪失症候群
“日常”と“夢の国”の乖離は欠乏症のような感覚を引き起こす?
乖離
刺激
記憶にもとづく
身体反応
短期的脳反応
ウォルトディズニーの晩年の夢(住める夢の国を創る)
ディズニーランドに永続的に住む場合, 短期的に滞在する場合
とは全く違う設計論が必要 (そこに住む人を“中毒”にしない)
“夢の国”型から“わびさび”的デジタルメディアへ
わびさび = 「不足のなかに心の充足をみいだそうとする意識」
(足りない部分を想像力や記憶で補完 ⇒ 日常性と乖離しない)
e.g. コミュニケーションの一つの本質は“わびさび”にある?
(「コミュニケーションにおける曖昧さとその機能」 高橋&岡田 2012)
キティの製作者のコメントによると,
キティには口が無いために口の形状による感情表現が制限されるため、
かえって見る人の気持ちに応じて自由に表情を変えられるのだとか
デジタルメディアかどうかは実は問題ではない?
デジタルメディアはその表現力から,どうしても“夢の国”型的
コンテンツに偏りがち ⇒ コンテンツとの関わり方が受動的に
消費者を“中毒”にした方が,資本主義では短期的には儲かる
一方で,コンテンツが使い捨てになる,飽きられのサイクルが早く
なる,良く練られた作品が育たない (e.g. 課金ゲームの弊害)
昔が良かったとは言いたくない(時代は常に進歩している)
“わびさび”型のコンテンツをデジタルメディアの特性を
生かして開発,現実的なビジネスモデルに載せることが大事?
(飽きない,バカにされている感が少ない,創発性がある)
そのためにも,“わびさび”を感じる我々の
心の発達を詳しく知ることが大事である!
デジタルメディアの可能性
デジタルメディアかどうかは重要ではない
“わびさび”型と“夢の国”型の対比というのが本質ではないか?
“夢の国”型の方が短期的には資本主義経済にのりやすい
その分,中毒的メディアへの依存,コンテンツの先細りが生じる
“わびさび”型のコンテンツをデジタルメディアの特性を生かして
経済システムの上に構築していくことが大事なのではないか?
(“すべての人間は根源的には創造的でありたい”という希望的願望)
消費者として受動的にメディアにかかわるのではなく,一人のプ
レイヤーとして主体的にメディアにかかわる.そして自らの“想像”
を他者と共有していくことで,他者の想像に刺激を与え変容させ
る(セレンディピティ).この循環を回し続けることが“わびさび”型
メディアの本質なのではないか?
セレンディピティ(幸せな偶然)がおこる場の設計原理
多様なヒューマ
ンインタフェース
共通コンテンツAPI
多様なユーザー
色彩情報
動き情報
形状情報
光源情報
てつなぎ感覚
抱きしめ感覚
まなざし感覚
コンテンツ
生成
特徴抽出
特徴量のクラスタ
(オノマトペ的感性表現)
自動生成
PMコンテンツ
物理パラメータ群
体験としてのコンテンツのフィードバック
機械学習
コンテンツ実体化による共有体験
様々な個体の活動とその相互作用の系をかき回し続けて,決して
収束させないような“場”の構築をテクノロジーを用いて行いたい
エージェント

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