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化学実験Ⅰ
テーマ J
天然物の抽出(カフェインの抽出)
実験日:6 月 30 日
作成者:篠原凜久
共同実験者:山崎優月、藤原晃太
1. 目的
天然物(紅茶)中に含まれる各物質の物性の違いを利用し、
抽出、
精製操作を行い、カフェイン
を単離することを目的とする。
2. 実験準備
2-1 本実験の使用試薬について
本実験で用いた使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。
表 1 使用試薬について
試薬名 化学式 分子量 [g/mol] 融点 [℃] 沸点 [℃] 比重 [g/cm3
]
酢酸鉛 Pb(C2H3O2)2 325.29 280 - 3.25
クロロホルム CHCl3 119.38 -63.5 61.2 1.49
水酸化ナトリウム NaOH 40.00 318 1388 2.13
展開液(MeOH:CHCl3=1:19 の混合溶媒)を使用した。混合溶媒より物性値省略
2-2 本実験の使用器具について
本実験で用いた使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。
表 2 使用器具について
器具名 個数 [-]
300 mL ビーカー 1
100 mL ビーカー 2
三角フラスコ 1
ナス型フラスコ 1
ティーパック 2
スパチュラ 1
ピンセット 1
時計皿 1
吸引びん 1
アスピレーター 1
ろ紙 2
沸石 適量
共栓付き広口瓶 1
サンプルチューブ 1
分液漏斗 1
精密電子天秤 1
エバポレーター 1
TLC 板 1
UV ライト 1
3. 実験操作
3-1 本実験の実験手順
(1) 300 mL ビーカーにティーパック 2 個と 100 mL の水を入れ、
時計皿で蓋をして約 15
分間煮沸した。
(2) (1)を吸引濾過することで、
ティーパックを除いた。
その後、
得られた濾液を元の 300
mL ビーカーに戻した。
(3) (2)のろ液に対し、10 %酢酸鉛水溶液 42.9 mL と沸石を入れ、約 5 分間撹拌しながら
煮沸を行った。
(4) (3)を熱時濾過し、得られた濾液の全容が 50 mL になるまで加熱濃縮を行った。加熱
濃縮後、室温まで放冷した。ここで、得られた溶液を薄膜クロマトグラフィー操作
で使うため、約 1 mL をサンプルチューブに採取しておいた。
(5) (4)で冷却された溶液にクロロホルム 25.0 mL を加え、撹拌した。充分に撹拌できた
ことを確認し、溶液を吸引濾過し、得られた濾液を分液漏斗に移した。
(6) (5)の濾液に対し分液操作を行い、クロロホルム層を三角フラスコに分けとり、水層
には、クロロホルム 20.0 mL を加え再度抽出し、三角フラスコに分けとっておいた
クロロホルム層と合一した。
(7) 水層は捨て、合一したクロロホルム層を分液漏斗に戻し、約 20 mL の 5 %水酸化ナ
トリウム洗浄した。
水酸化ナトリウムでの洗浄後、
約15 mLの冷水で二度洗浄した。
(8) (7)での洗浄後、乾いた濾紙を用いて濾過を行った。
(9) (8)で得られた濾液をエバポレーターで濃縮し、カフェインの結晶 0.1772 g を得た。
(10) シリカゲルを塗布した薄層プレートを 1 枚用意し、毛細管を用いて、4 種類の溶液
をスポットした。ここで 4 種類の溶液とは、(a)カフェインのクロロホルム溶液、(b)
カフェイン標準サンプルのクロロホルム溶液、
(c)テオブロミンの 5 %NaOH 水溶液、
(d)実験操作(4)で採取しておいた抽出液であった。
(11) 共栓付き広口瓶を展開層として用意し、5 mL の展開液を加えて、数分間放置した。
(12) (11)の展開層に、(10)で用意した薄層プレートを、スポットを下にして入れ、展開さ
せた。
(13) 展開後、薄層プレートを取り出し、UV ライトを照射して観察を行った。その後、
スポットの移動距離および溶媒の移動距離を測定し、Rf 値を求めた。
3-2 本実験のフローチャート
3-1 を簡易的に表した本実験のフローチャートを図 1 にまとめた。
以下に、
図 1 を示す。
図 1 本実験のフローチャート
4. 実験結果
4-1 得られたカフェイン結晶の収量について
カフェイン結晶の収量および測定に用いたナスフラスコの重量について表 3 にまとめた。
以下に、表 3 を示す。
表 3 ナスフラスコおよびカフェイン結晶の測定結果
種類 収量または重量 [g]
空のナスフラスコ 68.6400
カフェイン結晶入りナスフラスコ 68.8172
カフェイン結晶 0.1772
表 3 のカフェインの結晶の収量は、カフェイン結晶+ナスフラスコの重量から、空のナ
スフラスコの重量を引いた値に等しく、次式によって求めることができた。次式を式①
とした。
収量 [g] = 結晶 + ナスフラスコ [g]ーナスフラスコ [g] = 68.8172 g − 68.6400 g = 0.1772 g ①
以上のことから、表 3 に示すように、得られたカフェイン結晶の収量は 0.1772 g だとわ
かった
4-2 TLC 分析から求められた Rf 値について
TLC 分析を行った 4 種類の溶液の Rf 値について表 4 にまとめた。以下に、表 4 を示す。
表 4 各溶液の Rf 値について
溶液名 Rf 値 [-]
(a)カフェインのクロロホルム溶液 0.775
(b)カフェイン標準サンプルのクロロホルム溶液 0.775
(c)テオブロミンの 5 %NaOH 水溶液 0.575
(d)3-1 実験操作(4)で採取した抽出液 0.800
UV ライトを照射後に移動地点を書き加えた薄層プレートについて図 2 にまとめた。以
下に、図 2 を示す。
図 2 薄層プレート
Rf 値で使用するべき箇所を分かりやすくするため、図 2 の状態について簡易的に図 3 に
まとめた。以下に、図 3 を示す。
図 3 薄層プレート(簡易版)
図 3 から、Rf 値は、溶媒の移動距離 x [cm]と、スポット移動距離 a [cm]、b [cm]、c [cm]、
d [cm]の相対値であるから、(a)カフェインのクロロホルム溶液であれば次式によって求
めることができた。次式を式②とした。
(a)カフェインのクロロホルム溶液のRf値 [−] =
𝑎 [cm]
𝑥 [cm]
=
3.10 cm
4.00 cm
= 0.775 ②
同様の計算方法で、(b)カフェイン標準サンプルクロロホルム溶液、(c)テオブロミンの
5 %NaOH 水溶液、(d)3-1 実験操作(4)で採取した抽出液の Rf 値 [-]は、それぞれ、0.775、
0.575、0.800 と求めることができた。
以上の計算から、表 4 に示した Rf 値 [-]となった。
4-3 その他、観察事項について
 酢酸鉛を加えた後の溶液の様子
3-1 実験操作(3)で、10 %の酢酸鉛溶液を加えた後の溶液について図 4 にまとめた。
以下に、図 4 を示す。
図 4 10 %酢酸鉛溶液を加えた後の溶液
 熱時吸引濾過後の濾液の様子
3-1 実験操作(4)で熱時吸引濾過後の溶液について図 5 にまとめた。以下に、図 5 を
示す。
図 5 熱時吸引濾過後の溶液
 カフェインの結晶
3-1 実験操作(9)でエバポレーターによって濃縮され、得られたナスフラスコ内のカ
フェイン結晶について図 6 にまとめた。以下に、図 6 を示す。
図 6 カフェイン結晶(ナスフラスコ内)
5. 考察
5-1 (d)3-1 実験操作(4)で採取した抽出液について
本実験では、テオブロミンの除去として、水酸化ナトリウムが用いられ、タンニンの
除去として酢酸鉛水溶液が用いられていたと考えた(6-5 および 6-6 で詳細を後述)。
(d)の抽出液の段階では、水酸化ナトリウムによる洗浄操作は行っていないため、抽出
液にはテオブロミンとカフェインが含まれていると考えたが、TLC 分析の結果から、(d)
のスポットはカフェインしか確認することができなかった。
テオブロミンが確認できなかった原因としては、ティーパックに含まれるテオブロミ
ン量が少量であったことや、濾過操作において、濾紙に染み込んだ溶液に多くのテオブ
ロミンが含まれていたなど、操作中に減らしてしまったのではないかと考察した。
5-2 スポットの大きさについて
図 2 に示した薄層プレートの(a)カフェインのクロロホルム溶液のスポットの形状が(b)
のカフェイン標準サンプルのクロロホルム溶液よりも円形を保っておらず、歪であるこ
とが観察できた。これは、テーリング現象が起きているのではないかと考えた。テーリ
ングとは、濃度分布が中央よりも奥に出てきてしまう現象であり、スポットする際の試
料が(b)に比べ、多くしてしまったことによりテーリングが起きてしまったと考察した。
また、テーリングを抑制するには、酸性であれば酢酸を、塩基性であればトリエチルア
ミンを少量添加することが適切であると調査した。
6. 課題
6-1 ティーパック一つに含まれるカフェインの含有量を求める。
3-1(1)から、本実験で使用したティーパックの個数は 2 個であった。また、4-1 から本実
験で得られたカフェイン結晶の収量は 0.1772 g であった。以上のことを考慮すると、テ
ィーパック一つに含まれるカフェインの含有量は次式によって求めることができた。次
式を式③とした。
カフェインの含有量 [g] =
1
2
× 0.1772 g = 0.0886 g ③
よって、本実験で用いたティーパック一つに含まれるカフェイン含有量は 0.0886 g であ
った。
6-2 (a)、(b)、(c)、(d)それぞれの Rf 値を求める。
それぞれの Rf 値 [-]は、(a)0.775、(b)0.775、(c)0.575、(d)0.800 と求めることができた。計
算方法については 4-2 に既に記述済み。
6-3 TLC から得られたカフェインが高純度かどうか調べる。
得られたカフェインが高純度であるかは、
(a)カフェインのクロロホルム溶液と(b)カフェ
イン標準サンプルクロロホルム溶液の TLC 分析結果を比較すれ良い。TLC 分析から求
められたそれぞれの Rf 値は、(a)0.075、(b)0.075 である。よって、測定結果が等しいこと
から、
得られたカフェイン(a)は、
市販のカフェイン(b)と同様なものであるといえるため、
高純度であると調査できた。
6-4 カフェイン、テオブロミンの構造及び物性について調べる。
主なカフェインとテオブロミンの物性について、
表 5 にまとめた。
以下に、
表 5 を示す。
表 5 カフェインとテオブロミンの物性
名称
分子量
[g/mol
融点
[℃]
沸点
[℃]
比重
[g/cm3
]
性質
カフェイン 194.19 238 178 1.23 CHCl3 に溶けやすい
テオブロミン 180.16
345~
350
312.97 1.50 NaOH に可溶
カフェインの構造について、図 7 にまとめた。以下に、図 7 を示す。
図 7 カフェイン構造式
テオブロミンの構造について、図 8 にまとめた。以下に、図 8 を示す。
図 8 テオブロミンの構造式
6-5 クロロホルム層を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した理由について考察する。
本実験では、カフェインの結晶を得ること(単離)を目的としているため、水酸化ナト
リウムで洗浄した理由は、紅茶に含まれるカフェイン以外の物質の除去であると考えら
れる。
ここで、紅茶に含まれる物質とは、カフェイン、テオブロミン、タンニン、テアフラ
ビン、テアルジンなどが挙げられる。テオブロミンは 6-4 の表 3 で示したように水酸化
ナトリウムに可溶であるため、
洗浄することで除去することができる。
また、
タンニン、
テアフラビン、テアルジンは、ポリフェノールと呼ばれ酸性を示すため、水酸化ナトリ
ウムとの中和反応が考えられる。よって、カフェイン以外の物質は、水酸化ナトリウム
で洗浄し、取り除くことができる。
カフェインは、塩基性かつクロロホルムに溶けやすいため、水酸化ナトリウムと反応
しにくく、残り続けると考えられる。
以上のことから、テオブロミンおよびタンニンなどのポリフェノール類を除去し、不
純物の少ないカフェイン結晶を得るために、クロロホルム層を水酸化ナトリウムで洗浄
したと考察した。
6-6 10 %酢酸鉛水溶液でなにを取り除いたのか。
10 %酢酸鉛水溶液は、タンニンを取り除くために用いたと考えられる。タンニンは紅
茶に含まれる物質であり、本実験の目的はカフェイン結晶を得ること(単離)であるから、
タンニンは不純物に該当する。この不純物であるタンニンは、酢酸鉛水溶液と反応する
ことで、タンニン鉛の沈殿を生じる。よって、この沈殿物質を取り除くことで、タンニ
ンを溶液中から除去することが可能である。
以上のことから、10 %酢酸鉛水溶液でタンニンを取り除いたと考察した。
7. 参考文献
三原一幸:
「タンニンによる防サビについて」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/37/2/37_62/_pdf/-char/ja
カフェイン(無水) |製品詳細|Cica-Web|関東化学株式会社
https://cica-web.kanto.co.jp/CicaWeb/servlet/wsj.front.LogonSvlt?ReqItem=07036-31
中林みどり:
「茶葉に含まれるカフェインについて」
、国立情報科学研究所
https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1990&file_id=37&file_no=1
テオブロミン |製品詳細|Cica-Web|関東化学株式会社
https://cica-web.kanto.co.jp/CicaWeb/servlet/wsj.front.LogonSvlt?ReqItem=40540-30
テーリング,リーディング|HPLC で用いる基本用語 2|島津製作所
https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-
basics/hplc/faq/introduction/lctalk-89intro/index.html
化学実験Ⅰ
テーマ J
天然物の抽出(光合成色素の分離)
実験日:7 月 5 日
作成者:篠原凜久
共同実験者:山崎優月、藤原晃太
1. 目的
本実験では、充填剤としてシリカゲルを用いて、吸着クロマトグラフィーの一種であるシリ
カゲルカラムクロマトグラフィーにより、光合成色素を分離することと、分離した成分の色
や特徴を観察することを目的とする。
2. 実験準備
2-1 本実験の色素成分の構造式について
本実験に関わる色素成分の構造式について図 1 にまとめた。以下に、図 1 を示す。
図 1 β-カロチン、クロロフィル a、クロロフィル b の構造式
2-2 本実験の使用試薬について
本実験で用いた使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。
表 1 使用試薬について
試薬名 化学式
分子量
[g/mol]
融点
[℃]
沸点
[℃]
比重
[g/cm3
]
メタノール CH3OH 32.04 -97.6 64.7 0.792
無水硫酸ナトリウム Na2SO4 142.04 884 1429 2.69
2-プロパノール CH3CH(OH)CH3 60.10 -89.0 82.5 0.785
シリカゲル SiO2 60.08 1610 2230 0.88
展開溶媒(石油エーテルと 2-プロパノール混合液)を使用した。混合液より物性値省略
2-3 本実験の使用器具について
本実験で用いた使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。
表 2 使用器具について
器具名 個数 [-]
100 mL ビーカー 3
300 mL ビーカー 1
ホットプレートスターラー 1
ガラス棒 1
ピンセット 1
ナス型フラスコ 1
ろ紙 1
エバポレーター 1
脱脂綿 適量
カラム管 1
スタンド 1
海砂 適量
三角フラスコ 2
ピペット 2
サンプル管 1
精密電子天秤 1
UV ライト 1
3. 実験操作
3-1 本実験の実験手順
(1) パセリを水洗いし、表面のゴミを洗い流した。
(2) パセリの表面についた水分を十分に拭き取った後、約 30 mL のメタノールが入った
ビーカーにパセリを 5 回出し入れし、表面の水分を除いた。
(3) 新たな約 30 mL のメタノールが入ったビーカーに、
(2)の状態のパセリをちぎってい
れた。ここで、パセリの量が少なかったため、追加でパセリを適量入れた。
(4) (3)のビーカーをホットプレートに載せ、ガラス棒を用いて適当にかき混ぜた。ここ
で、ホットプレートの温度は 50 ℃以上に保った。
(5) パセリが白くなったことを確認し、ホットプレートからビーカーを下ろし、室温で
ビーカーを冷ました。
(6) (5)のビーカー内にあった色素の抜けたパセリをピンセットで取り除いた。
(7) 抽出した緑色の溶液に対し、
無水硫酸ナトリウムを約 10 g 加え、
3 分間かき混ぜた。
(8) 空のナス型フラスコの重量を精密電子天秤で測定し、68.6390 g という値を得た。
(9) (8)のナス型フラスコへ(7)操作後の抽出液を濾過した。
(10) (9)で得られた濾液の溶媒をエバポレーターで留去した。
(11) スタンドに固定され、脱脂綿が入ったカラム用ガラス管に対し、脱脂綿の上に海砂
を約 1 cm 程度入れた。
(12) 三角フラスコに展開溶媒を調整し、適量をカラム管に流し込んだ。
(13) コックを開いて展開溶媒を流しながら、カラム管を軽く叩いて脱脂綿と海砂の間の
空気を抜いた。
(14) 乾いた 100 mL ビーカーに、シリカゲルを約 15 mL の目盛りまで入れた。そこに展
開溶媒を加えて、十分に撹拌を行い、約 40 mL のシリカゲルスラリーを作った。
(15) カラム管のコックを開き、展開溶媒がかれないうちに(14)で調整したスラリーを流
し込んだ。
(16) 固相と液相が分離したことを確認し、少量の展開溶媒で上部内壁のシリカゲルを洗
い落とした。(16)以降の操作では、固相に空気が入らないように、固相の上まで常
に展開溶媒が満たされている状態であることに注意した。
(17) 海砂を約 0.4 cm 程度、固相の上にのせた。
(18) 濃縮した色素に展開溶媒を 2.0 mL 加え、色素溶液を作成した。
(19) カラム管のコックを開いて、カラム内の液面を下げた。
(20) 液面の低下によって、
液面とゲル面が一致したことを確認し、
ピペットを用いて(18)
で作成した色素溶液を展開させた。
(21) カラム管のコックを開いて、色素溶液がゲル面に吸い込まれたことを確認後、きれ
いなピペットを用いて、展開溶媒を注ぎ、ゲル面に吸い込ませた。
(22) (22)の操作を 3 回繰り返し、海砂の緑色が消えたことを確認した。
(23) 展開溶媒を補充しながら、色素成分が分離して流れていく様子を観察した。
(24) 分離して各色素成分をサンプル管(サンプル管、100 mL ビーカー、三角フラスコ)に
分取した。
(25) (24)で得られた各分離液に 254 nm と 365 nm の UV ライトを当て、色の変化を観察
した。
3-2 本実験のフローチャート
3-1 を簡易的に表した本実験のフローチャートを図 2 および図 3 にまとめた。以下に、
図 2、図 3 を示す。
図 2 本実験のフローチャート 1
図 3 本実験のフローチャート 2
4. 実験結果
4-1 カラム管内で見られた各色素成分の分離の様子
充分なシリカゲルカラムクロマトグラフィー操作によって、カラム管内において色素成
分が分離していた様子について図 4 にまとめた。以下に、図 4 を示す。
図 4 カラム管内における各色素成分の分離 1
図 4 に示すように、黄色、緑色(濃い緑色)、黄緑色(薄い緑色)の 3 色に色素成分が分離さ
れている様子を確認することができた。以降、黄色、緑色、黄緑色で表記を統一する。
一方、シリカゲルカラムクロマトグラフィー操作の開始後から、図 4 に示した十分な分
離操作までの時間が経っていない、
カラム管内の様子について図 5 にまとめた。
以下に、
図 5 を示す。
図 5 カラム管内における各色素成分の分離 2
図 5 に示すように、図 4 の様子とは異なり、黄色、緑色(濃い緑色と薄い緑色の中間)の 2
色に色素成分が分離されている様子を確認することができた。
4-2 各分離液に UV ライトを照射したときの色の変化について
シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって、分離された各分離液について図 6 にま
とめた。以下に、図 6 を示す。
図 6 各分離液
図 6 に示したように分離した溶液の色は、左から黄色、緑色、黄緑色であった。
図 6 に示した各分離液に、254 nm の UV ライトを照射したときの色の変化について、図
7 にまとめた。以下に、図 7 を示す。
図 7 UV ライト(254 nm)時の各分離液
図 7 に示したように、254 nm の UV ライトを照射した場合、どの分離液についても色の
変化は観察することができなかった。
図 6 に示した各分離溶液に、365 nm の UV ライトを照射したときの色の変化について、
図 8 にまとめた。以下に、図 8 を示す。
図 8 UV ライト(365 nm)時の各分離液
図 8 に示したように、365 nm の UV ライトを照射した場合、黄色の分離液では色の変化
を観察することができなかったが、緑色の分離液では、赤色に色が変化したことが観察
することができ、黄緑色の分離液では、薄い赤色に色が変化したことが観察することが
できた。
5. 考察
5-1 溶出時間が異なる 3 種類の分離液について
3 種類の分離液に含まれる光合成色素は、それぞれの色から黄色の分離液はβ-カロチ
ン、緑色の分離液はクロロフィル a、黄緑色の分離液はクロロフィル b であると判断し
た。また、分離操作で溶出した順番は、黄色、緑色、黄緑色であった。この順番の差は、
本実験で固定相として用いたシリカゲルおよび移動相として用いた展開溶媒と分離液に
含まれていた色素成分の親和性が関わっていると考えられる。
固定相のシリカゲルの表面には多く-OH 基が存在するため、極性の高い物質として知
られている。よって、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて、色素成分の中で
極性が高い物質ほど、シリカゲルとの親和性(相互作用)が大きいため、遅く溶出すると
考えられる。
一方、移動相の展開溶媒は、石油エーテル 100 mL と 2-プロパノール 4 mL の混合液で
ある。展開溶媒に多く含まれている石油エーテルは分子全体としての極性が低い物質と
して知られている。よって、色素成分の中で極性が低い物質ほど、石油エーテルとの親
和性(相互作用)が大きいため、移動相の流れに伴って、速く溶出すると考えられる。
以上のことから、β-カロチンは、他の色素成分よりも極性が低く、シリカゲルとの親
和性が低いため、最初に溶出し、クロロフィル b は、他の色素成分よりも極性が高く、
シリカゲルとの親和性が高いため、最後に溶出したのではないかと考察した。
5-2 UV ライトの照射時の色の変化について
クロロフィル a およびクロロフィル b が 365 nm の UV ライト照射時に、赤色を示した。
これは、クロロフィルの状態が関係していると考えられる。安定な状態で存在するクロ
ロフィルに対し、紫外線を照射すると、その光を吸収し、エネルギーが高い励起状態へ
遷移する。励起状態になったクロロフィルは再び安定な状態に戻ろうとするため、吸収
したエネルギーを、外部に熱やエネルギーとして放出する。この時の放出したエネルギ
ーが私たちの目に見えていると考えられる。ここで、色について考えるために、次式を
導入した。次式を式①、式②とした。
吸収したエネルギー=熱など+放出したエネルギー ①
①より、②が成立する。
吸収したエネルギー > 放出したエネルギー ②
①、②から、放出したエネルギーは紫外線よりも小さいエネルギーになる。言い換えれ
ば、紫外線が持つ波長の光よりも長い波長の光が放出されたと考えることができる。よ
って、波長の長い赤色が放出されたといえる。
一方、254 nm で照射時に、色の変化が見えなかったのは、可視光領域外の光が放出され
たのではないかと考察した。
6. 課題
6-1 本実験のカラムクロマトグラフィーは、
固定相(充填剤)と移動相(溶離液)の間を混合物が
通過するときに、三者のそれぞれの相互作用により物質を分離することができる。クロ
マトグラフィーには大きく分けて、分配、吸着、イオン交換、分子ふるいの 4 つの方法
がある。分離したい物質と、固定相との間にどのような相互作用(親和性)により分離で
きるのか。分配、吸着、イオン交換、分子ふるいクロマトグラフィーのそれぞれについ
て述べよ。
(1) 分配クロマトグラフィーについて
分離したい物質と固定相および移動相との間にある分配係数の差により分離を行
うことができるクロマトグラフィーである。
分配係数は、
溶解性の差と同義であり、
移動相に対する溶解性よりも、固定相に対する溶解性の高い物質ほど遅く溶出する
という原理である。
(2) 吸着クロマトグラフィーについて
分離したい物質と固定相との間にある吸着の親和性により分離を行うことができ
るクロマトグラフィーである。固定相には吸着機能を持った固体が用いられ、固定
相に対して吸着しやすい物質ほど遅く溶出され、脱着しやすい物質ほど速く溶出さ
れるという原理である。
(3) イオン交換クロマトグラフィーについて
分離したい物質と固定相との間にある静電的相互作用により分離を行うことがで
きるクロマトグラフィーである。固定相にイオン交換体が用いられ、物質のイオン
のイオン交換体に対する親和性が大きいほど、固定相と結合が強くなるため、遅く
溶出するという原理である。
(4) 分子ふるいクロマトグラフィーについて
分離したい物質と固定相との間にある分子サイズの違いにより分離を行うことが
できるクロマトグラフィーである。固定相に多孔性粒子が用いられ、物質はその細
孔内部へ浸透しようとする。このとき、細孔のサイズよりも大きな分子は細孔内部
へ浸透することができないため、速く溶出され、小さな分子は浸透することができ
るため、遅く溶出するという原理である。
6-2 β-カロチンを摂らないと夜盲症になるといわれている。β-カロチンは、私たちの体の
中でどのような働きに使われるのか。
生体内においてβ-カロチンはビタミン A の前駆体であるため、ビタミン A に変換さ
れて作用する。この場合の作用として、遺伝子の転写調節や、免疫機能の維持、上皮細
胞の維持、細胞の成長や分化を助けることなどがある。課題文中にある夜盲症とは、ビ
タミン A が欠乏することによって生じる暗順応が障害される症状のことである。
また、ビタミン A が生体内に過剰にある場合は、β-カロチン由来のビタミン A の変
換は抑制される。この場合の、β-カロチンの作用の一つとして、一重項酸素の消去があ
る。β-カロチン 1 分子で、多分子の一重項酸素を失活させることができるため、β-カ
ロチンは抗酸化作用の能力が高いといえる。
7. 参考文献
クロマトグラフィーの原理と応用|JAIMA 一般社団法人 日本分析機器工業会|
https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/chromatograph/principle/
日本化学学会編「改訂 5 版 化学便覧基礎編Ⅱ」
、丸善株式会社(2004)
高橋典子、今井正彦、李川「ビタミンAとβ-カロテンによる疾病の予防と治療」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_523/_pdf/-char/ja
鵜沼英郎、尾形健明:
「理工系基礎レクチャー無機化学」
、化学同人(2007)

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天然物の抽出

  • 1. 化学実験Ⅰ テーマ J 天然物の抽出(カフェインの抽出) 実験日:6 月 30 日 作成者:篠原凜久 共同実験者:山崎優月、藤原晃太
  • 2. 1. 目的 天然物(紅茶)中に含まれる各物質の物性の違いを利用し、 抽出、 精製操作を行い、カフェイン を単離することを目的とする。 2. 実験準備 2-1 本実験の使用試薬について 本実験で用いた使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。 表 1 使用試薬について 試薬名 化学式 分子量 [g/mol] 融点 [℃] 沸点 [℃] 比重 [g/cm3 ] 酢酸鉛 Pb(C2H3O2)2 325.29 280 - 3.25 クロロホルム CHCl3 119.38 -63.5 61.2 1.49 水酸化ナトリウム NaOH 40.00 318 1388 2.13 展開液(MeOH:CHCl3=1:19 の混合溶媒)を使用した。混合溶媒より物性値省略
  • 3. 2-2 本実験の使用器具について 本実験で用いた使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。 表 2 使用器具について 器具名 個数 [-] 300 mL ビーカー 1 100 mL ビーカー 2 三角フラスコ 1 ナス型フラスコ 1 ティーパック 2 スパチュラ 1 ピンセット 1 時計皿 1 吸引びん 1 アスピレーター 1 ろ紙 2 沸石 適量 共栓付き広口瓶 1 サンプルチューブ 1 分液漏斗 1 精密電子天秤 1 エバポレーター 1 TLC 板 1 UV ライト 1 3. 実験操作 3-1 本実験の実験手順 (1) 300 mL ビーカーにティーパック 2 個と 100 mL の水を入れ、 時計皿で蓋をして約 15 分間煮沸した。 (2) (1)を吸引濾過することで、 ティーパックを除いた。 その後、 得られた濾液を元の 300 mL ビーカーに戻した。 (3) (2)のろ液に対し、10 %酢酸鉛水溶液 42.9 mL と沸石を入れ、約 5 分間撹拌しながら 煮沸を行った。 (4) (3)を熱時濾過し、得られた濾液の全容が 50 mL になるまで加熱濃縮を行った。加熱 濃縮後、室温まで放冷した。ここで、得られた溶液を薄膜クロマトグラフィー操作 で使うため、約 1 mL をサンプルチューブに採取しておいた。 (5) (4)で冷却された溶液にクロロホルム 25.0 mL を加え、撹拌した。充分に撹拌できた
  • 4. ことを確認し、溶液を吸引濾過し、得られた濾液を分液漏斗に移した。 (6) (5)の濾液に対し分液操作を行い、クロロホルム層を三角フラスコに分けとり、水層 には、クロロホルム 20.0 mL を加え再度抽出し、三角フラスコに分けとっておいた クロロホルム層と合一した。 (7) 水層は捨て、合一したクロロホルム層を分液漏斗に戻し、約 20 mL の 5 %水酸化ナ トリウム洗浄した。 水酸化ナトリウムでの洗浄後、 約15 mLの冷水で二度洗浄した。 (8) (7)での洗浄後、乾いた濾紙を用いて濾過を行った。 (9) (8)で得られた濾液をエバポレーターで濃縮し、カフェインの結晶 0.1772 g を得た。 (10) シリカゲルを塗布した薄層プレートを 1 枚用意し、毛細管を用いて、4 種類の溶液 をスポットした。ここで 4 種類の溶液とは、(a)カフェインのクロロホルム溶液、(b) カフェイン標準サンプルのクロロホルム溶液、 (c)テオブロミンの 5 %NaOH 水溶液、 (d)実験操作(4)で採取しておいた抽出液であった。 (11) 共栓付き広口瓶を展開層として用意し、5 mL の展開液を加えて、数分間放置した。 (12) (11)の展開層に、(10)で用意した薄層プレートを、スポットを下にして入れ、展開さ せた。 (13) 展開後、薄層プレートを取り出し、UV ライトを照射して観察を行った。その後、 スポットの移動距離および溶媒の移動距離を測定し、Rf 値を求めた。 3-2 本実験のフローチャート 3-1 を簡易的に表した本実験のフローチャートを図 1 にまとめた。 以下に、 図 1 を示す。 図 1 本実験のフローチャート 4. 実験結果 4-1 得られたカフェイン結晶の収量について カフェイン結晶の収量および測定に用いたナスフラスコの重量について表 3 にまとめた。
  • 5. 以下に、表 3 を示す。 表 3 ナスフラスコおよびカフェイン結晶の測定結果 種類 収量または重量 [g] 空のナスフラスコ 68.6400 カフェイン結晶入りナスフラスコ 68.8172 カフェイン結晶 0.1772 表 3 のカフェインの結晶の収量は、カフェイン結晶+ナスフラスコの重量から、空のナ スフラスコの重量を引いた値に等しく、次式によって求めることができた。次式を式① とした。 収量 [g] = 結晶 + ナスフラスコ [g]ーナスフラスコ [g] = 68.8172 g − 68.6400 g = 0.1772 g ① 以上のことから、表 3 に示すように、得られたカフェイン結晶の収量は 0.1772 g だとわ かった 4-2 TLC 分析から求められた Rf 値について TLC 分析を行った 4 種類の溶液の Rf 値について表 4 にまとめた。以下に、表 4 を示す。 表 4 各溶液の Rf 値について 溶液名 Rf 値 [-] (a)カフェインのクロロホルム溶液 0.775 (b)カフェイン標準サンプルのクロロホルム溶液 0.775 (c)テオブロミンの 5 %NaOH 水溶液 0.575 (d)3-1 実験操作(4)で採取した抽出液 0.800 UV ライトを照射後に移動地点を書き加えた薄層プレートについて図 2 にまとめた。以 下に、図 2 を示す。
  • 6. 図 2 薄層プレート Rf 値で使用するべき箇所を分かりやすくするため、図 2 の状態について簡易的に図 3 に まとめた。以下に、図 3 を示す。 図 3 薄層プレート(簡易版) 図 3 から、Rf 値は、溶媒の移動距離 x [cm]と、スポット移動距離 a [cm]、b [cm]、c [cm]、 d [cm]の相対値であるから、(a)カフェインのクロロホルム溶液であれば次式によって求 めることができた。次式を式②とした。 (a)カフェインのクロロホルム溶液のRf値 [−] = 𝑎 [cm] 𝑥 [cm] = 3.10 cm 4.00 cm = 0.775 ② 同様の計算方法で、(b)カフェイン標準サンプルクロロホルム溶液、(c)テオブロミンの 5 %NaOH 水溶液、(d)3-1 実験操作(4)で採取した抽出液の Rf 値 [-]は、それぞれ、0.775、 0.575、0.800 と求めることができた。
  • 7. 以上の計算から、表 4 に示した Rf 値 [-]となった。 4-3 その他、観察事項について  酢酸鉛を加えた後の溶液の様子 3-1 実験操作(3)で、10 %の酢酸鉛溶液を加えた後の溶液について図 4 にまとめた。 以下に、図 4 を示す。 図 4 10 %酢酸鉛溶液を加えた後の溶液  熱時吸引濾過後の濾液の様子 3-1 実験操作(4)で熱時吸引濾過後の溶液について図 5 にまとめた。以下に、図 5 を 示す。 図 5 熱時吸引濾過後の溶液  カフェインの結晶 3-1 実験操作(9)でエバポレーターによって濃縮され、得られたナスフラスコ内のカ フェイン結晶について図 6 にまとめた。以下に、図 6 を示す。
  • 8. 図 6 カフェイン結晶(ナスフラスコ内) 5. 考察 5-1 (d)3-1 実験操作(4)で採取した抽出液について 本実験では、テオブロミンの除去として、水酸化ナトリウムが用いられ、タンニンの 除去として酢酸鉛水溶液が用いられていたと考えた(6-5 および 6-6 で詳細を後述)。 (d)の抽出液の段階では、水酸化ナトリウムによる洗浄操作は行っていないため、抽出 液にはテオブロミンとカフェインが含まれていると考えたが、TLC 分析の結果から、(d) のスポットはカフェインしか確認することができなかった。 テオブロミンが確認できなかった原因としては、ティーパックに含まれるテオブロミ ン量が少量であったことや、濾過操作において、濾紙に染み込んだ溶液に多くのテオブ ロミンが含まれていたなど、操作中に減らしてしまったのではないかと考察した。 5-2 スポットの大きさについて 図 2 に示した薄層プレートの(a)カフェインのクロロホルム溶液のスポットの形状が(b) のカフェイン標準サンプルのクロロホルム溶液よりも円形を保っておらず、歪であるこ とが観察できた。これは、テーリング現象が起きているのではないかと考えた。テーリ ングとは、濃度分布が中央よりも奥に出てきてしまう現象であり、スポットする際の試 料が(b)に比べ、多くしてしまったことによりテーリングが起きてしまったと考察した。 また、テーリングを抑制するには、酸性であれば酢酸を、塩基性であればトリエチルア ミンを少量添加することが適切であると調査した。 6. 課題 6-1 ティーパック一つに含まれるカフェインの含有量を求める。 3-1(1)から、本実験で使用したティーパックの個数は 2 個であった。また、4-1 から本実 験で得られたカフェイン結晶の収量は 0.1772 g であった。以上のことを考慮すると、テ ィーパック一つに含まれるカフェインの含有量は次式によって求めることができた。次
  • 9. 式を式③とした。 カフェインの含有量 [g] = 1 2 × 0.1772 g = 0.0886 g ③ よって、本実験で用いたティーパック一つに含まれるカフェイン含有量は 0.0886 g であ った。 6-2 (a)、(b)、(c)、(d)それぞれの Rf 値を求める。 それぞれの Rf 値 [-]は、(a)0.775、(b)0.775、(c)0.575、(d)0.800 と求めることができた。計 算方法については 4-2 に既に記述済み。 6-3 TLC から得られたカフェインが高純度かどうか調べる。 得られたカフェインが高純度であるかは、 (a)カフェインのクロロホルム溶液と(b)カフェ イン標準サンプルクロロホルム溶液の TLC 分析結果を比較すれ良い。TLC 分析から求 められたそれぞれの Rf 値は、(a)0.075、(b)0.075 である。よって、測定結果が等しいこと から、 得られたカフェイン(a)は、 市販のカフェイン(b)と同様なものであるといえるため、 高純度であると調査できた。 6-4 カフェイン、テオブロミンの構造及び物性について調べる。 主なカフェインとテオブロミンの物性について、 表 5 にまとめた。 以下に、 表 5 を示す。 表 5 カフェインとテオブロミンの物性 名称 分子量 [g/mol 融点 [℃] 沸点 [℃] 比重 [g/cm3 ] 性質 カフェイン 194.19 238 178 1.23 CHCl3 に溶けやすい テオブロミン 180.16 345~ 350 312.97 1.50 NaOH に可溶 カフェインの構造について、図 7 にまとめた。以下に、図 7 を示す。
  • 10. 図 7 カフェイン構造式 テオブロミンの構造について、図 8 にまとめた。以下に、図 8 を示す。 図 8 テオブロミンの構造式 6-5 クロロホルム層を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した理由について考察する。 本実験では、カフェインの結晶を得ること(単離)を目的としているため、水酸化ナト リウムで洗浄した理由は、紅茶に含まれるカフェイン以外の物質の除去であると考えら れる。 ここで、紅茶に含まれる物質とは、カフェイン、テオブロミン、タンニン、テアフラ ビン、テアルジンなどが挙げられる。テオブロミンは 6-4 の表 3 で示したように水酸化 ナトリウムに可溶であるため、 洗浄することで除去することができる。 また、 タンニン、 テアフラビン、テアルジンは、ポリフェノールと呼ばれ酸性を示すため、水酸化ナトリ ウムとの中和反応が考えられる。よって、カフェイン以外の物質は、水酸化ナトリウム で洗浄し、取り除くことができる。 カフェインは、塩基性かつクロロホルムに溶けやすいため、水酸化ナトリウムと反応 しにくく、残り続けると考えられる。
  • 11. 以上のことから、テオブロミンおよびタンニンなどのポリフェノール類を除去し、不 純物の少ないカフェイン結晶を得るために、クロロホルム層を水酸化ナトリウムで洗浄 したと考察した。 6-6 10 %酢酸鉛水溶液でなにを取り除いたのか。 10 %酢酸鉛水溶液は、タンニンを取り除くために用いたと考えられる。タンニンは紅 茶に含まれる物質であり、本実験の目的はカフェイン結晶を得ること(単離)であるから、 タンニンは不純物に該当する。この不純物であるタンニンは、酢酸鉛水溶液と反応する ことで、タンニン鉛の沈殿を生じる。よって、この沈殿物質を取り除くことで、タンニ ンを溶液中から除去することが可能である。 以上のことから、10 %酢酸鉛水溶液でタンニンを取り除いたと考察した。 7. 参考文献 三原一幸: 「タンニンによる防サビについて」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/37/2/37_62/_pdf/-char/ja カフェイン(無水) |製品詳細|Cica-Web|関東化学株式会社 https://cica-web.kanto.co.jp/CicaWeb/servlet/wsj.front.LogonSvlt?ReqItem=07036-31 中林みどり: 「茶葉に含まれるカフェインについて」 、国立情報科学研究所 https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1990&file_id=37&file_no=1 テオブロミン |製品詳細|Cica-Web|関東化学株式会社 https://cica-web.kanto.co.jp/CicaWeb/servlet/wsj.front.LogonSvlt?ReqItem=40540-30 テーリング,リーディング|HPLC で用いる基本用語 2|島津製作所 https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis- basics/hplc/faq/introduction/lctalk-89intro/index.html
  • 12. 化学実験Ⅰ テーマ J 天然物の抽出(光合成色素の分離) 実験日:7 月 5 日 作成者:篠原凜久 共同実験者:山崎優月、藤原晃太
  • 13. 1. 目的 本実験では、充填剤としてシリカゲルを用いて、吸着クロマトグラフィーの一種であるシリ カゲルカラムクロマトグラフィーにより、光合成色素を分離することと、分離した成分の色 や特徴を観察することを目的とする。 2. 実験準備 2-1 本実験の色素成分の構造式について 本実験に関わる色素成分の構造式について図 1 にまとめた。以下に、図 1 を示す。 図 1 β-カロチン、クロロフィル a、クロロフィル b の構造式 2-2 本実験の使用試薬について 本実験で用いた使用試薬について表 1 にまとめた。以下に、表 1 を示す。 表 1 使用試薬について 試薬名 化学式 分子量 [g/mol] 融点 [℃] 沸点 [℃] 比重 [g/cm3 ] メタノール CH3OH 32.04 -97.6 64.7 0.792 無水硫酸ナトリウム Na2SO4 142.04 884 1429 2.69 2-プロパノール CH3CH(OH)CH3 60.10 -89.0 82.5 0.785 シリカゲル SiO2 60.08 1610 2230 0.88 展開溶媒(石油エーテルと 2-プロパノール混合液)を使用した。混合液より物性値省略 2-3 本実験の使用器具について 本実験で用いた使用器具について表 2 にまとめた。以下に、表 2 を示す。 表 2 使用器具について
  • 14. 器具名 個数 [-] 100 mL ビーカー 3 300 mL ビーカー 1 ホットプレートスターラー 1 ガラス棒 1 ピンセット 1 ナス型フラスコ 1 ろ紙 1 エバポレーター 1 脱脂綿 適量 カラム管 1 スタンド 1 海砂 適量 三角フラスコ 2 ピペット 2 サンプル管 1 精密電子天秤 1 UV ライト 1 3. 実験操作 3-1 本実験の実験手順 (1) パセリを水洗いし、表面のゴミを洗い流した。 (2) パセリの表面についた水分を十分に拭き取った後、約 30 mL のメタノールが入った ビーカーにパセリを 5 回出し入れし、表面の水分を除いた。 (3) 新たな約 30 mL のメタノールが入ったビーカーに、 (2)の状態のパセリをちぎってい れた。ここで、パセリの量が少なかったため、追加でパセリを適量入れた。 (4) (3)のビーカーをホットプレートに載せ、ガラス棒を用いて適当にかき混ぜた。ここ で、ホットプレートの温度は 50 ℃以上に保った。 (5) パセリが白くなったことを確認し、ホットプレートからビーカーを下ろし、室温で ビーカーを冷ました。 (6) (5)のビーカー内にあった色素の抜けたパセリをピンセットで取り除いた。 (7) 抽出した緑色の溶液に対し、 無水硫酸ナトリウムを約 10 g 加え、 3 分間かき混ぜた。 (8) 空のナス型フラスコの重量を精密電子天秤で測定し、68.6390 g という値を得た。 (9) (8)のナス型フラスコへ(7)操作後の抽出液を濾過した。 (10) (9)で得られた濾液の溶媒をエバポレーターで留去した。 (11) スタンドに固定され、脱脂綿が入ったカラム用ガラス管に対し、脱脂綿の上に海砂 を約 1 cm 程度入れた。 (12) 三角フラスコに展開溶媒を調整し、適量をカラム管に流し込んだ。
  • 15. (13) コックを開いて展開溶媒を流しながら、カラム管を軽く叩いて脱脂綿と海砂の間の 空気を抜いた。 (14) 乾いた 100 mL ビーカーに、シリカゲルを約 15 mL の目盛りまで入れた。そこに展 開溶媒を加えて、十分に撹拌を行い、約 40 mL のシリカゲルスラリーを作った。 (15) カラム管のコックを開き、展開溶媒がかれないうちに(14)で調整したスラリーを流 し込んだ。 (16) 固相と液相が分離したことを確認し、少量の展開溶媒で上部内壁のシリカゲルを洗 い落とした。(16)以降の操作では、固相に空気が入らないように、固相の上まで常 に展開溶媒が満たされている状態であることに注意した。 (17) 海砂を約 0.4 cm 程度、固相の上にのせた。 (18) 濃縮した色素に展開溶媒を 2.0 mL 加え、色素溶液を作成した。 (19) カラム管のコックを開いて、カラム内の液面を下げた。 (20) 液面の低下によって、 液面とゲル面が一致したことを確認し、 ピペットを用いて(18) で作成した色素溶液を展開させた。 (21) カラム管のコックを開いて、色素溶液がゲル面に吸い込まれたことを確認後、きれ いなピペットを用いて、展開溶媒を注ぎ、ゲル面に吸い込ませた。 (22) (22)の操作を 3 回繰り返し、海砂の緑色が消えたことを確認した。 (23) 展開溶媒を補充しながら、色素成分が分離して流れていく様子を観察した。 (24) 分離して各色素成分をサンプル管(サンプル管、100 mL ビーカー、三角フラスコ)に 分取した。 (25) (24)で得られた各分離液に 254 nm と 365 nm の UV ライトを当て、色の変化を観察 した。 3-2 本実験のフローチャート 3-1 を簡易的に表した本実験のフローチャートを図 2 および図 3 にまとめた。以下に、 図 2、図 3 を示す。
  • 16. 図 2 本実験のフローチャート 1 図 3 本実験のフローチャート 2 4. 実験結果 4-1 カラム管内で見られた各色素成分の分離の様子 充分なシリカゲルカラムクロマトグラフィー操作によって、カラム管内において色素成 分が分離していた様子について図 4 にまとめた。以下に、図 4 を示す。
  • 17. 図 4 カラム管内における各色素成分の分離 1 図 4 に示すように、黄色、緑色(濃い緑色)、黄緑色(薄い緑色)の 3 色に色素成分が分離さ れている様子を確認することができた。以降、黄色、緑色、黄緑色で表記を統一する。 一方、シリカゲルカラムクロマトグラフィー操作の開始後から、図 4 に示した十分な分 離操作までの時間が経っていない、 カラム管内の様子について図 5 にまとめた。 以下に、 図 5 を示す。 図 5 カラム管内における各色素成分の分離 2 図 5 に示すように、図 4 の様子とは異なり、黄色、緑色(濃い緑色と薄い緑色の中間)の 2 色に色素成分が分離されている様子を確認することができた。
  • 18. 4-2 各分離液に UV ライトを照射したときの色の変化について シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって、分離された各分離液について図 6 にま とめた。以下に、図 6 を示す。 図 6 各分離液 図 6 に示したように分離した溶液の色は、左から黄色、緑色、黄緑色であった。 図 6 に示した各分離液に、254 nm の UV ライトを照射したときの色の変化について、図 7 にまとめた。以下に、図 7 を示す。 図 7 UV ライト(254 nm)時の各分離液 図 7 に示したように、254 nm の UV ライトを照射した場合、どの分離液についても色の 変化は観察することができなかった。 図 6 に示した各分離溶液に、365 nm の UV ライトを照射したときの色の変化について、 図 8 にまとめた。以下に、図 8 を示す。
  • 19. 図 8 UV ライト(365 nm)時の各分離液 図 8 に示したように、365 nm の UV ライトを照射した場合、黄色の分離液では色の変化 を観察することができなかったが、緑色の分離液では、赤色に色が変化したことが観察 することができ、黄緑色の分離液では、薄い赤色に色が変化したことが観察することが できた。 5. 考察 5-1 溶出時間が異なる 3 種類の分離液について 3 種類の分離液に含まれる光合成色素は、それぞれの色から黄色の分離液はβ-カロチ ン、緑色の分離液はクロロフィル a、黄緑色の分離液はクロロフィル b であると判断し た。また、分離操作で溶出した順番は、黄色、緑色、黄緑色であった。この順番の差は、 本実験で固定相として用いたシリカゲルおよび移動相として用いた展開溶媒と分離液に 含まれていた色素成分の親和性が関わっていると考えられる。 固定相のシリカゲルの表面には多く-OH 基が存在するため、極性の高い物質として知 られている。よって、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて、色素成分の中で 極性が高い物質ほど、シリカゲルとの親和性(相互作用)が大きいため、遅く溶出すると 考えられる。 一方、移動相の展開溶媒は、石油エーテル 100 mL と 2-プロパノール 4 mL の混合液で ある。展開溶媒に多く含まれている石油エーテルは分子全体としての極性が低い物質と して知られている。よって、色素成分の中で極性が低い物質ほど、石油エーテルとの親 和性(相互作用)が大きいため、移動相の流れに伴って、速く溶出すると考えられる。 以上のことから、β-カロチンは、他の色素成分よりも極性が低く、シリカゲルとの親 和性が低いため、最初に溶出し、クロロフィル b は、他の色素成分よりも極性が高く、 シリカゲルとの親和性が高いため、最後に溶出したのではないかと考察した。 5-2 UV ライトの照射時の色の変化について クロロフィル a およびクロロフィル b が 365 nm の UV ライト照射時に、赤色を示した。 これは、クロロフィルの状態が関係していると考えられる。安定な状態で存在するクロ ロフィルに対し、紫外線を照射すると、その光を吸収し、エネルギーが高い励起状態へ 遷移する。励起状態になったクロロフィルは再び安定な状態に戻ろうとするため、吸収 したエネルギーを、外部に熱やエネルギーとして放出する。この時の放出したエネルギ
  • 20. ーが私たちの目に見えていると考えられる。ここで、色について考えるために、次式を 導入した。次式を式①、式②とした。 吸収したエネルギー=熱など+放出したエネルギー ① ①より、②が成立する。 吸収したエネルギー > 放出したエネルギー ② ①、②から、放出したエネルギーは紫外線よりも小さいエネルギーになる。言い換えれ ば、紫外線が持つ波長の光よりも長い波長の光が放出されたと考えることができる。よ って、波長の長い赤色が放出されたといえる。 一方、254 nm で照射時に、色の変化が見えなかったのは、可視光領域外の光が放出され たのではないかと考察した。 6. 課題 6-1 本実験のカラムクロマトグラフィーは、 固定相(充填剤)と移動相(溶離液)の間を混合物が 通過するときに、三者のそれぞれの相互作用により物質を分離することができる。クロ マトグラフィーには大きく分けて、分配、吸着、イオン交換、分子ふるいの 4 つの方法 がある。分離したい物質と、固定相との間にどのような相互作用(親和性)により分離で きるのか。分配、吸着、イオン交換、分子ふるいクロマトグラフィーのそれぞれについ て述べよ。 (1) 分配クロマトグラフィーについて 分離したい物質と固定相および移動相との間にある分配係数の差により分離を行 うことができるクロマトグラフィーである。 分配係数は、 溶解性の差と同義であり、 移動相に対する溶解性よりも、固定相に対する溶解性の高い物質ほど遅く溶出する という原理である。 (2) 吸着クロマトグラフィーについて 分離したい物質と固定相との間にある吸着の親和性により分離を行うことができ るクロマトグラフィーである。固定相には吸着機能を持った固体が用いられ、固定 相に対して吸着しやすい物質ほど遅く溶出され、脱着しやすい物質ほど速く溶出さ れるという原理である。 (3) イオン交換クロマトグラフィーについて 分離したい物質と固定相との間にある静電的相互作用により分離を行うことがで きるクロマトグラフィーである。固定相にイオン交換体が用いられ、物質のイオン
  • 21. のイオン交換体に対する親和性が大きいほど、固定相と結合が強くなるため、遅く 溶出するという原理である。 (4) 分子ふるいクロマトグラフィーについて 分離したい物質と固定相との間にある分子サイズの違いにより分離を行うことが できるクロマトグラフィーである。固定相に多孔性粒子が用いられ、物質はその細 孔内部へ浸透しようとする。このとき、細孔のサイズよりも大きな分子は細孔内部 へ浸透することができないため、速く溶出され、小さな分子は浸透することができ るため、遅く溶出するという原理である。 6-2 β-カロチンを摂らないと夜盲症になるといわれている。β-カロチンは、私たちの体の 中でどのような働きに使われるのか。 生体内においてβ-カロチンはビタミン A の前駆体であるため、ビタミン A に変換さ れて作用する。この場合の作用として、遺伝子の転写調節や、免疫機能の維持、上皮細 胞の維持、細胞の成長や分化を助けることなどがある。課題文中にある夜盲症とは、ビ タミン A が欠乏することによって生じる暗順応が障害される症状のことである。 また、ビタミン A が生体内に過剰にある場合は、β-カロチン由来のビタミン A の変 換は抑制される。この場合の、β-カロチンの作用の一つとして、一重項酸素の消去があ る。β-カロチン 1 分子で、多分子の一重項酸素を失活させることができるため、β-カ ロチンは抗酸化作用の能力が高いといえる。 7. 参考文献 クロマトグラフィーの原理と応用|JAIMA 一般社団法人 日本分析機器工業会| https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/chromatograph/principle/ 日本化学学会編「改訂 5 版 化学便覧基礎編Ⅱ」 、丸善株式会社(2004) 高橋典子、今井正彦、李川「ビタミンAとβ-カロテンによる疾病の予防と治療」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_523/_pdf/-char/ja 鵜沼英郎、尾形健明: 「理工系基礎レクチャー無機化学」 、化学同人(2007)