内製化 × グローバル化を通じた
世界水準の IT 組織づくり
- ファーストリテイリング・デジタル変革の挑戦
株式会社ファーストリテイリング
デジタル業務改革サービス部
村田 雄一
Speaker
● 村田雄一
● 株式会社ファーストリテイリング
○ デジタル業務改革サービス部 部長
○ バックエンドエンジニア
-> テックリード
-> チームマネージャー
-> 部長
● パーソナルミッション
○ 日本発グローバルで成功するエンジニアリング
チームを作る
Today’s Topic
Fast Retailing のデジタル変革の挑戦とそれを通じて得られた学びについて
共有する
キーワード:
内製化 グローバル化
カルチャー・インテグレーション
(文化の統合 )
Fast Retailing
ユニクロ・ジーユーなどのブランドと約30の国・地域で展開
グローバルを成長ドライバーに年間売上10兆円を目指している
ブランドコンセプト
あらゆる人の生活を豊かにする、
生活ニーズから考え抜かれた
シンプルで上質な、究極の普段着。
LifeWear
有明プロジェクトと情報製造小売業
> デジタル変革を「事業のあり方の変化」ととらえ全社で取り組む
⑤全社員が連動
データ一元管理プラットフォーム
トレンド情報 生産・在庫情報 販売情報
お客様の声
「お客様が本当にほしい服が、
ほしい時にそこにあって、すぐに買える。」
③生産・物流
①顧客基盤
②商品企画 ④販売
グローバルワン・全員経営
● 社員ひとりひとりが経営の視点を持ち「世界で最も良い方法を全員で
実行」するという考え方
○ IT社員の働き方、システムの基本的構成にも適用
○ 各国のローカル要件を極力避け、グローバル要件に押しあげて解決する
○ 同じ仕組み、仕事の仕方を徹底的に横展開
○ 異なるパッケージ/ブランチを極力避け一つの仕組みを整えていく
Fast Retailingの
内製化とグローバル化
● 1988年 - POSシステム導入
● 1990年 - 商品情報・販売情報の自社処理開始
● 2000年 - オンラインストア開設
● 2010年 - 店舗運営のデジタル化推進
● 2016年 - 全社改革の有明プロジェクト 始動/エンジニアリング内製化開
始
○ RFID を活用した在庫管理/セルフレジ導入
○ アルゴリズム導入によるサプライチェーン改革
○ 全世界統一の EC/O2O プラットフォーム
Fast Retailing デジタル変革の歴史
Fast Retailing と内製化
● 早期から内製化×DXを推進できる土壌が社内に存在した
○ 「業務=システム」
○ E2E で全てをコントロールすることに対するこだわり
● 会社文化とアジャイルの親和性
○ Fast Retailing の社名に込められたスピードとアジリティへの拘り
○ 計画は重要だが状況に応じて変えていく柔軟性
○ 「一勝九敗」的なチャレンジと失敗をを許容する会社文化
「業務=システム」
● システムの人間が現場よりも現場を知る
● 単純・明快なトータルシステムを組む
● それが我が社およびコンピュータ業界の3年後、5年後、10年後の方
向性と矛盾しないようにする
– 1993年 システム開発の原理原則 「業務=システム」
● 従来のエンタープライズIT組織は、他人の作ったソフトウェアを調達す
ることを前提にできあがっている
○ 内製化は「働き方の根本的な変化」 である点の理解が不可欠
○ 内製化は魔法のソリューションではない。いままでのやり方はそのまま通
用しない覚悟が必要
内製化は働き方の変化
従来のエンタープライズ IT IT内製化
ソフトウェア/システム 調達するもの 自分たちで作るもの
技術者 契約するもの 惹きつけ 育成するもの
仕事の姿勢 プロジェクトを完了する プロダクトを育てる
競争力 優れたソリューションと PM 優秀な技術人材と組織
問題解決 ベンダーに解決させる /入れ替える 自ら原因を見つけ解決する
● 「クラウドはITの調達ではない。働き方の根本的な変化である」
● クラウドトランスフォーメーションには内製化と強い関係がある
○ 「自ら作っていないソフトウェアを運用することを避けるべきだ」
○ 弾力性をはじめとするクラウドの強みを活かすには内製化が不可欠
● 内製化、クラウドトランスフォーメーションに伴いプロセス・組織のあり方
が大きく変化
内製化とクラウドトランスフォーメーション
Gregor Hohpe. Cloud Strategy: A Decision-based Approach to Successful Cloud
Migration (邦題: クラウドストラテジー : クラウド移行を成功に導く意思決定に基づくア
プローチ)
EC 領域/新しい手法へのチャレンジ
● 内製化を先行するEC領域で新しい手法や考え方にチャレンジ
○ Public Cloud / Multi-Cloud
○ Headless Commerce とAgile開発
○ Global One / Immutable Infrastructure
○ RFID 在庫管理と O2O 推進
○ SNS時代の情報発信とEC連動
Public Cloud / Multi Cloud
● AWS を早期から徹底活用。Public Cloudを前提にシステムを構築
● AWS/GCPの強みを活用するマルチクラウド戦略を展開
Headless Commerce とAgile開発
● Headless Commerce: 独立し
たプラットフォームとして開発
・組み合わせてECシステムを
開発
● Agile開発: プラットフォーム
開発はスクラムで進行する
一方、外部システムとの連
動は綿密な計画で結合
Global One / Immutable Infrastructure
● Global One: パッケージとインフラ構成
を一つに集約。をあらゆる地域とブラ
ンドに展開
● 仕組みは一つ。デプロイは必要に応
じて分散
● IaaC の徹底によりインフラを全世界に
「再現」
● Feature Switch を活用し各国の要件を
一つのパッケージで吸収
O2O 推進と店舗 /EC融合
• 店舗在庫とEC倉庫在庫を透過的に扱う
仕組みを構築し、ECと店舗の購買体験
を融合
• ECサイト/アプリ内でEC在庫と店舗在庫
を横断的に検索・閲覧
• Order & Pick: アプリを使って店舗の在
庫を購入、店舗で受取
• 取り寄せ: EC/O2Oの仕組みを活用し、
他店やEC倉庫の在庫を活用し柔軟に
取り寄せ。レジにて決済
SNS時代の情報発信と EC連動
● 着こなしのSNS (StyleHint)
○ 店舗スタッフやお客様の情
報発信を活用してスタイリン
グを提案
● Live Commerce を通じた売り
込み
○ 店舗スタッフやインフルエン
サーを通じて商品を売り込
み
→ ヘッドレスコマースの仕組みを徹底活用
し相互に連動
● 問題解決のスピード
○ 障害発生やプロジェクトの課題が起きたときの問題解決のスピードが圧
倒的に早い
○ 契約や調整なしに「その日のうち」に素早く問題を解決
○ 当事者である社員が危機感を持って対処
○ 自分たちで作ったものなので原因に当たりがつく
● コントロール
○ システムを内部まで理解しているので、全てをコントロール できる
○ 技術的な意思決定を他社に依存せずお客様と会社にとって一番良い方法
を意思決定できる
○ さまざまなムダを排除しコストを最適化
内製化による成功体験
● デジタル人材・組織のマネジメント
○ 問題発生時に「ベンダーに問題を解決させる」姿勢は通用しない。
○ マネジメントも問題を理解し、現場を支援 しなければならない
○ 従来の採用や評価、アサインメントでは人材が定着しない
○ 服屋の文化とデジタル人材の文化の違いを橋渡しするリーダーシップが必
要 (後述)
内製化における苦労
● 有明プロジェクトと共にIT組織
のグローバル化を推進
○ 優秀な外国籍人材を積極的
に登用
○ 日本語/英語を公用語化。重
要な会議や文書はバイリン
ガル化を徹底
● 大規模な開発・運用体制をグ
ローバル化に取り組む
● 東京に集中していたGHQロー
ルをUSにも拠点化
IT組織のグローバル化
US
Europe
Japan
Asia
内製化×グローバル化の鍵
カルチャーの統合
カルチャーインテグレーション
● エンジニア人材やグローバル人材の採用・育成・維持
○ 従来の会社カルチャーと新たな人材の文化が混在していく
○ さまざまなカルチャーを反発させることなく統合すること が重要
服屋のカルチャーと ITカルチャー
● 服屋らしい独特のカルチャーがIT業界のカルチャーと一見、反目してし
まうことがある
独特のカルチャー IT業界のカルチャー
● 厳しい指導を通じて部下を育てる
● 失敗の原因と責任者は明確にする
● お客様へのご迷惑を避ける
● 心理的安全性を確保しブレーミン
グを避ける
● 失敗を許容し失敗から学ぶ
○ 解決策: それぞれを深く理解することによって、矛盾を解決していくことができる
解決1: 心理的安全性 ≠ ぬるい職場
● 正しくスタッフにチャレンジすることは心理的安全性の本質
基準が低い 基準が高い
心理的安全性が高い
快適ゾーン (=ぬるい職場)
Comfort Zone
学習および高パフォーマンス・
ゾーン
Learning & High Performance Zone
心理的安全性が低い
無気力ゾーン
Apathy Zone
不安ゾーン
Anxiety Zone
Amy C. Edmondson. The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth
(邦題: 恐れのない組織心理的安全性が学習 イノベーション成長をもたらす)
言いにくいことをズバリと言う
Challenge
Directly
解決2: 厳しい指導とは徹底的なホンネ
● 厳しさと相手を思いやること
は矛盾しない
● 「店長は鬼となり、仏となり、
部下の成長と将来に責任を
持て。」
心から相手を気にかける
Care Personally
徹底的な
ホンネ
Radical
Candor
過剰な
配慮
Ruinous
Empathy
摩擦の
回避
Manipulative
Insincerity
イヤミな
攻撃
Obnoxious
Agression
Kim Scott. Radical Candor: Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanity
(邦題: GREAT BOSS: シリコンバレー式ずけずけ言う力
)
解決3: 失敗のアーキタイプ
Amy C. Edmondson. The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth
(邦題: 恐れのない組織心理的安全性が学習 イノベーション成長をもたらす)
回避可能な失敗
(Preventable Failure)
複雑な失敗
(Complex Failure)
賢い失敗
(Intelligent Failure)
定義 既知のプロセスから逸脱し
望ましくない結果が起きる
出来事や行動がかつてない
得な組合わさり方をして、望
まない結果が起きる
新たなことを始めて、望まな
い結果がおきる
要因 行動・スキル・注意の欠如 慣れた状況に複雑さ、多様
性、かつてない要因が加わ
る
不確実性。試み。リスクを取
ること
賢い失敗の推奨
● 良い失敗と悪い失敗を切り分け、共通認識を持つ
日本とグローバルのカルチャー統合
● 日本らしいカルチャーとグローバルカルチャーの違いを理解し統合して
いくことが重要
○ 単純な欧米化/英語化はグローバル化と異なる
○ 日本初の良さを活かすために丁寧なカルチャー教育 を実施
日本らしいカルチャー 英語圏のカルチャー
言語 日本語 英語
コミュニケーション ハイコンテキスト
1言えば10伝わる
ローコンテキスト
10を明確に伝える
役割と責任 担当を超えて全体最適 明確に境界を定義
考え方や文化 共通の考え方や文化 様々な考え方や文化が混在
衝突 避ける 創造的にぶつかる
意思決定の決め手 空気 ロジック
英語化にともなう言語の谷
● グローバル化にあたって組織の英語化は必須
○ 短期的にはコミュニケーションの品質が下がる「言語の谷」が存在する
コミュニケーションの質
日本語中心 英語中心
グローバル化のビ
ジネスニーズ
短期的に質を担保
したい引力
英語化にともなう言語の谷
● 言語の谷の超え方①
○ マネジメントの強いリーダーシップでグローバル化を「強制」
○ 短期的なコミュニケーションの劣化を受容
コミュニケーションの質
日本語中心 英語中心
グローバル化のビ
ジネスニーズ
短期的に質を担保
したい引力
英語化にともなう言語の谷
● 言語の谷の超え方②
○ 優秀なバイリンガル人材を確保することにより質を保ちながらグローバル
化を推進
○ 部分的に日本語 (または他の言語) を許容できる => 真のグローバル化
コミュニケーションの質
日本語中心 英語中心
グローバル化のビ
ジネスニーズ
短期的に質を担保
したい引力
バイリンガル人材に
よる橋渡し
多言語を許容する組織とグローバル化
● 英語話者が多いのエンジニア部門をバイリンガル人材がつなぐ
● 日本語話者が多い PM/PdM部門をバイリンガル人材がつなぐ
● 互いに言語的・文化的理解を深めながら段階的にワンチームに
○ 特定の言語を強要するのではなく混在することを受け入れる 組織力をつ
ける
日本語中心 英語中心
グローバル
現地業務
国内業務部門
PM/PdM
エンジニア
バイリンガル人材
バイリンガル人材
エンジニアと全員経営文化の統合
● 特に若手のエンジニアの指向と「全員経営」文化が噛み合わないこと
が多々ある
○ シニアエンジニアこそ経営視点やリーダーシップが重要な役割を持つ こ
とをロールモデルを通じて啓蒙、育成・評価に活用
多くのエンジニアの発想 全員経営の文化
役割 技術的にどう達成するか (How) 目的の達成 (What) - 売上、顧客満足
行動原理 技術的な取り組みの面白さ、難しさ より高いビジネスゴールの達成
キャリアの指向 新しい技術、技術力 リーダーシップ、マネジメント
花形 スペシャリスト 管理職
例1: アーキテクト・エレベーター
アーキテクトは大企業における重要な空白を埋める。プロジェクトにおいて技術陣と密接に協力し、コミュ
ニケーションをとり、メッセージの本質を失うことなく、技術的なトピックを上層部に伝える。逆に言えば、
彼らは会社のビジネス戦略を 理解し、それを支える技術的な意思決定に反映させること ができる。
アーキテクトは、私が「アーキテクト・エレベーター」と呼ぶものに乗り、役員会議室と、ソフトウェアが構築
されるエンジンルームを直接行き来することができる。このような 異なる階層の直接的なつながりは、 IT
の急速な進化とデジタル・ディスラプションの時代において、これまで以上に重要 になっている
Gregor Hohpe. The Software Architect Elevator: Redefining the
Architect's Role in the Digital Enterprise
例2: スタッフエンジニア
良い決断には文脈が必要だ。経験豊富なエンジニアは、ほとんどのテクノロジー選択の答えは 「場合によ
る 」ことを知っている。特定のテクノロジーの長所と短所を知るだけでは十分ではなく、置かれた状況の
詳細も知る必要がある 。何をしようとしているのか?時間、資金、忍耐力は?リスク許容度は?ビジネス
には何が必要か?それが決断の背景にある。
…
スタッフ・エンジニアはリーダーシップを担う役割だ。スタッフ・エンジニアは、ライン・マネージャーと同じぐら
い年長者となることがある。プリンシパル・エンジニアは、しばしばディレクターと同じくらい年長者となるこ
とがある。スタッフ+エンジニアであるあなたは、同じレベルのマネジャーと対をなす存在であり、マネ
ジャーと同じくらい「成熟した人材」 であることが期待される。
Tanya Reilly. The Staff Engineer's Path
アーキテクチャレビューを通じた育成
● シニアエンジニア層を複数集めた「アーキテクチャレビューボード」を組
成
○ あらゆるシステム開発案件の上位設計プロセスとしてアーキテクチャレ
ビューを徹底
○ 様々なビジネス要件とそれを実現するシステムデザインのレビューを通じ
てビジネス視点を持つアーキテクトを育成
○ 店舗/ECからサプライチェーン、コーポレートまで幅広いドメインの経験を通
じたデザインとレビューを経験
○ 定期的にレビューボードメンバーをローテーションし、継続的に次世代の
アーキテクト /スタッフエンジニアを育成
つくりあげた組織
● 真のグローバルチーム : 社内でも有数の多国籍チームが、約30の国と
地域と連携。英語・日本語・その他言語が飛び交い日々の問題解決を
行う
● 会社文化に共感するチーム : 「お客様第一」を一番の価値に掲げ若手
を育成するエンジニアリーダー陣
● 活き活きした職場 : 全国平均と照らして極めて高い「個人と職場の活性
度」を達成
● 継続的次世代人材育成 : 経営視点からアーキテクチャを設計・レ
ビューできる高度人材を継続的に育成
まとめ
● ファーストリテイリングのデジタル変革の変遷とそれを通じて得られた
学びについて共有
○ FR のデジタル変革は内製化とグローバル化を通じて強く推進された
○ 内製化とグローバル化の成功の鍵はカルチャー・インテグレーションに
あった
● 内製化×グローバル化をカルチャー・インテグレーションを通じて推進す
ることによって活き活きしたグローバルエンジニアリング組織を実現し
た

内製化 × グローバル化を通じた 世界水準の IT 組織づくり - ファーストリテイリング・デジタル変革の挑戦