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日常会話におけるジェスチャが会話記憶にあたえる影響
14JK201 林 拓弥
情報認知科学研究室 指導教員 日根 恭子助教
1 はじめに
人は外部から様々な情報を得て,それを記憶し
ている.例えば,手で物を触ることにより触感を
記憶したり,物を見ることで形状や色を記憶した
りする.こうした感覚の中で,視覚や聴覚が重要
であることは既に知られており[1],それらの相互
作用に関する研究は多岐に渡る.
2 目的
そういった研究[2]がある中で人と人とが会話
する場面で,視覚と聴覚の相互作用が会話内容の
記憶にどういった影響を及ぼすのかは判明してい
ない部分が多い.そこで,会話場面での視覚情報
としてジェスチャを取り上げジェスチャとジェス
チャを伴った発話とでどちらの伝え方の方が会話
相手に記憶されるか調査する
3 先行研究
先行研究の中に,実験者からディスプレイ越し
で読話を見ながら音声を聞いた協力者と,音声の
みを聞いた協力者に対して記憶テストを行ったも
のがある.その先行研究では,読話+音声グループ
の方が記憶テストの成績が向上した.先行研究に
おける聴覚情報と視覚応報はそれぞれ単独に取り
出しても同一の情報を持つものである.しかし,
本研究で取り上げるのは,ジェスチャの中でも単
独で取り上げただけでは意味の伝わらないジェス
チャである.本研究ではジェスチャの中でも単独
で意味を伝えることが難しく会話中に発話内容を
強調したり補強したりする動作である例示的動作
に着目する.
4 仮説
本研究の目的である,会話の聞き手の会話記憶
における記憶とジェスチャの関係の調査において,
先行研究から聴覚のみを与えた場合よりも聴覚と
視覚あわせて与えた場合の方が記憶されやすいこ
と[2]が分かっているため,先行研究と同様に発話
のみの会話よりジェスチャを併用した会話の方が,
併用しなかったものと比べて会話内容や会話中に
発話した名称を記憶しやすいのではないかという
仮説を立てた.
5 実験
5.1 概要
実験は東京電機大学の学生男女合わせて 14 名に
実施した(18~24 歳)
実験は対話部,記憶テスト部の二部続けて行われ
た.
5.2 対話実験
対話は実験操作者(以下操作者)と実験協力者
(以下協力者)が机の角を挟んで椅子に着座して
行うジェスチャの表出や観測を妨害しないように
両者が1メートルほどの距離を持つように設定す
る.対話テーマは後の記憶テストの効果に影響を
与えないため,誰もが知っていて,多くの種類が
存在するということでミスタードーナツのドーナ
ツをチョイスした.会話は 15 分間行い,この 15
分間で操作者はドーナツの形状や特徴等の説明を
対話形式で行う.操作者は協力者に対して 6 個の
ドーナツの正確な名前や形状を説明する.その 6
個を 2 個ずつの動作グループに分類し,A.B.C の
合計 3 グループ作成した.以下の図に示す
図 1 ドーナツの種類と動作の種類
これは可能なかぎり,名称や形状が記憶へと与え
る影響を考慮したものである.
分けたグループごとに一つのジェスチャを対応
させる.対話部では同じ動作グループのなかで,
ジェスチャの有無を被らせないようにする.
これによりジェスチャの有無による記憶の差が出
てくると思われる.ドーナツの発話の順番は順番
による記憶への影響を考慮し各動作グループが連
続しないように決定し実験ごとに発話順は変えた
5.3 記憶テスト
記憶テストは回答用紙を用いて 3 種類のテストを
行った.一つ目のテストは記憶再生テストで会話
部の中で操作者が発話した6つのドーナツの名前
を回答用紙に記入してもらい完答できたものの個
数を数えるテストである.2 つ目のテストは記憶
再認テストで,一つ目のテストで完答できなかっ
たドーナツの名称を操作者が口頭で提示し名称に
聞き覚えがあれば「はい」なければ「いいえ」と
回答用紙に記入してもらい,「はい」と記入され
た個数だけ数えるというテストである.3 つ目の
テストとして実験部で操作者が行ったジェスチャ
を再度,協力者の前で提示しそのジェスチャを覚
えているか,そのジェスチャが会話部のどんな場
面で使われていたか覚えているか口頭で質問し操
作者が覚えているものと覚えていないものに振り
分けた.
6 分析
6.1 ① 再生+再認テスト分析
一つ目と二つ目のテストである記憶再生テストと
記憶再認テストの合計平均点数をジェスチャ有,
ジェスチャ無で分類した時の図を以下に示す
図 2 再生+再認テスト結果平均正答率
ジェスチャ有の平均点数は 0.86(SD=0.851)
ジェスチャ無の平均点数は 0.67(SD=0.960)
ジェスチャ有,ジェスチャ無で t 検定を行ったと
ころに条件間で有意な差が見られた
(t(14)=0.04,p<0.05)
6.2 ②ジェスチャ再認テスト分析
テスト3のジェスチャに関する記憶があるジェ
スチャの個数と記憶がないジェスチャの個数を計
上するとそれぞれ 0.5(SD=5.1),0.43(SD=4.4)
図 3 ジェスチャ再認テスト
両条件で t 検定を行ったところ,条件間で有意
差は認められなかった(t(14)=0.60,n.s.)
7 考察
本実験を通してジェスチャを伴った発話の方が,
ジェスチャを伴わない発話よりも会話相手にその
発話内容を記憶してもらえるということ①の分析
結果より判明した.また,②の分析結果よりジェ
スチャ自体の記憶はされていないことからジェス
チャはそれを伴った発話の記憶定着を助けるがジ
ェスチャ自体の記憶定着は行われずあくまで記憶
定着の補佐のような役割をしているのでないかと
二つの分析の結果から考察する.これが,視覚情
報全体が持つ特有の作用なのかそれともジェスチ
ャが特有に持つ性質なのか調査することも今後の
課題としたい
8 参考文献
1]日科技連出版社,”産業教育機器システム便覧 教育
機器 集委員会編”,1972
[2] 福田友美子,四日市章 “聴覚障害者の視覚と聴覚
による音声知覚の評価,'' 音声言語医学, 33, 177-
185, 1992

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  • 1. 日常会話におけるジェスチャが会話記憶にあたえる影響 14JK201 林 拓弥 情報認知科学研究室 指導教員 日根 恭子助教 1 はじめに 人は外部から様々な情報を得て,それを記憶し ている.例えば,手で物を触ることにより触感を 記憶したり,物を見ることで形状や色を記憶した りする.こうした感覚の中で,視覚や聴覚が重要 であることは既に知られており[1],それらの相互 作用に関する研究は多岐に渡る. 2 目的 そういった研究[2]がある中で人と人とが会話 する場面で,視覚と聴覚の相互作用が会話内容の 記憶にどういった影響を及ぼすのかは判明してい ない部分が多い.そこで,会話場面での視覚情報 としてジェスチャを取り上げジェスチャとジェス チャを伴った発話とでどちらの伝え方の方が会話 相手に記憶されるか調査する 3 先行研究 先行研究の中に,実験者からディスプレイ越し で読話を見ながら音声を聞いた協力者と,音声の みを聞いた協力者に対して記憶テストを行ったも のがある.その先行研究では,読話+音声グループ の方が記憶テストの成績が向上した.先行研究に おける聴覚情報と視覚応報はそれぞれ単独に取り 出しても同一の情報を持つものである.しかし, 本研究で取り上げるのは,ジェスチャの中でも単 独で取り上げただけでは意味の伝わらないジェス チャである.本研究ではジェスチャの中でも単独 で意味を伝えることが難しく会話中に発話内容を 強調したり補強したりする動作である例示的動作 に着目する. 4 仮説 本研究の目的である,会話の聞き手の会話記憶 における記憶とジェスチャの関係の調査において, 先行研究から聴覚のみを与えた場合よりも聴覚と 視覚あわせて与えた場合の方が記憶されやすいこ と[2]が分かっているため,先行研究と同様に発話 のみの会話よりジェスチャを併用した会話の方が, 併用しなかったものと比べて会話内容や会話中に 発話した名称を記憶しやすいのではないかという 仮説を立てた. 5 実験 5.1 概要 実験は東京電機大学の学生男女合わせて 14 名に 実施した(18~24 歳) 実験は対話部,記憶テスト部の二部続けて行われ た. 5.2 対話実験 対話は実験操作者(以下操作者)と実験協力者 (以下協力者)が机の角を挟んで椅子に着座して 行うジェスチャの表出や観測を妨害しないように 両者が1メートルほどの距離を持つように設定す る.対話テーマは後の記憶テストの効果に影響を 与えないため,誰もが知っていて,多くの種類が 存在するということでミスタードーナツのドーナ ツをチョイスした.会話は 15 分間行い,この 15 分間で操作者はドーナツの形状や特徴等の説明を 対話形式で行う.操作者は協力者に対して 6 個の ドーナツの正確な名前や形状を説明する.その 6 個を 2 個ずつの動作グループに分類し,A.B.C の 合計 3 グループ作成した.以下の図に示す 図 1 ドーナツの種類と動作の種類 これは可能なかぎり,名称や形状が記憶へと与え る影響を考慮したものである. 分けたグループごとに一つのジェスチャを対応 させる.対話部では同じ動作グループのなかで,
  • 2. ジェスチャの有無を被らせないようにする. これによりジェスチャの有無による記憶の差が出 てくると思われる.ドーナツの発話の順番は順番 による記憶への影響を考慮し各動作グループが連 続しないように決定し実験ごとに発話順は変えた 5.3 記憶テスト 記憶テストは回答用紙を用いて 3 種類のテストを 行った.一つ目のテストは記憶再生テストで会話 部の中で操作者が発話した6つのドーナツの名前 を回答用紙に記入してもらい完答できたものの個 数を数えるテストである.2 つ目のテストは記憶 再認テストで,一つ目のテストで完答できなかっ たドーナツの名称を操作者が口頭で提示し名称に 聞き覚えがあれば「はい」なければ「いいえ」と 回答用紙に記入してもらい,「はい」と記入され た個数だけ数えるというテストである.3 つ目の テストとして実験部で操作者が行ったジェスチャ を再度,協力者の前で提示しそのジェスチャを覚 えているか,そのジェスチャが会話部のどんな場 面で使われていたか覚えているか口頭で質問し操 作者が覚えているものと覚えていないものに振り 分けた. 6 分析 6.1 ① 再生+再認テスト分析 一つ目と二つ目のテストである記憶再生テストと 記憶再認テストの合計平均点数をジェスチャ有, ジェスチャ無で分類した時の図を以下に示す 図 2 再生+再認テスト結果平均正答率 ジェスチャ有の平均点数は 0.86(SD=0.851) ジェスチャ無の平均点数は 0.67(SD=0.960) ジェスチャ有,ジェスチャ無で t 検定を行ったと ころに条件間で有意な差が見られた (t(14)=0.04,p<0.05) 6.2 ②ジェスチャ再認テスト分析 テスト3のジェスチャに関する記憶があるジェ スチャの個数と記憶がないジェスチャの個数を計 上するとそれぞれ 0.5(SD=5.1),0.43(SD=4.4) 図 3 ジェスチャ再認テスト 両条件で t 検定を行ったところ,条件間で有意 差は認められなかった(t(14)=0.60,n.s.) 7 考察 本実験を通してジェスチャを伴った発話の方が, ジェスチャを伴わない発話よりも会話相手にその 発話内容を記憶してもらえるということ①の分析 結果より判明した.また,②の分析結果よりジェ スチャ自体の記憶はされていないことからジェス チャはそれを伴った発話の記憶定着を助けるがジ ェスチャ自体の記憶定着は行われずあくまで記憶 定着の補佐のような役割をしているのでないかと 二つの分析の結果から考察する.これが,視覚情 報全体が持つ特有の作用なのかそれともジェスチ ャが特有に持つ性質なのか調査することも今後の 課題としたい 8 参考文献 1]日科技連出版社,”産業教育機器システム便覧 教育 機器 集委員会編”,1972 [2] 福田友美子,四日市章 “聴覚障害者の視覚と聴覚 による音声知覚の評価,'' 音声言語医学, 33, 177- 185, 1992