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人間 持 優れた
人間の持つ優れたコミュニケーション
            ケ ション
どのような情報処理,その背後にどのような神経基盤が存在?

自閉症スペクトラム障害 (autism spectrum disorder)
 自閉症の人の描いた絵         人との上手なやりとりが難しい
                    強いこだわり,反復的な常同行動
                    機械的なものの理解に優れている
                    コミュニケ ション能力に問題を抱える
                    コミュニケーション能力に問題を抱える
高機能自閉症 知能指数や言語に問題無いが自閉的特性を兼ね備える


 健常者と自閉症を比較することで,人間一般が持っている
 コミュニケーション能力の基盤となる情報処理を解明したい
 コミ ニケ シ ン能力の基盤となる情報処理を解明したい
アメリカ精神医学会の自閉症の診断基準
 1. Qualitative impairment in social interaction
    Q             p
    (社会的インタラクションの障害)
     e.g. marked impairment in the use of multiple nonverbal behaviors
     such as eye to eye gaze
             eye-to-eye

 2. Qualitative impairments in communication
    (コミュニケーションにおける障害)
    e.g. delay in, or total lack of, the development of
    spoken language
 予測性の低い環境が苦手        が
 3. Restricted repetitive and stereotyped patterns
 of b h i i
   f behavior, interests, and activities
                            d    i ii
    (限られてたステレオタイプな行動や興味,繰り返し行動)
     e.g.
     e g persistent preoccupation with parts of objects
自閉症の子供の事例
ある自閉児は、「水虫は虫ではない」と教えられ、「虫でないものを虫と呼ぶ
ある自閉児は 「水虫は虫 はな と教えられ 「虫 な も を虫と呼ぶ
な」と怒った。

「うそをついてはいけない」と教わった自閉児は、お客さんからもらったおみやげ
「うそをついてはいけない」と教わ た自閉児は お客さんからもら たおみやげ
を見て「つまらない」と言って放り投げてしまった。うそをつくべきときがあることを
理解できないのである。

あるとき先生が自閉児の手を握り「冷たい」と言ったが、そのとき自閉児に
とってみれば先生の手は逆に暖かかった。その子は後日ストーブにあたって
「冷たい」といった。
「冷たい とい た

自閉女児に、痴漢防止のため男性が触れてきたら「やめて」というように教え
たところ、病院で男性医師の診察を「やめて」と拒絶するようになった。
たところ 病院で男性医師の診察を「やめて」と拒絶するようになった

「12時の電車に乗りましょう」と言ってでかけたところ、乗り継ぎがよくて1
本前の電車に間に合ったのだが、自閉児は頑として乗らなかった。
本前の電車に間に合ったのだが 自閉児は頑として乗らなかった

「これは妹だ。なぜ女の子か」という質問をした自閉児がいた。同じ対象が複
数の名で呼ばれることが理解できないのである。
数の名で呼ばれることが理解できないのである
自閉症の不確実性(変化する対象)に対する弱さ
自閉症

自閉症の子供は意図的な存在へ共感できない?
視線を避ける 他者への無関心 物への固執、偏愛・・・

共感する能力が欠けているために、社会性を育めない?
共感する能力が欠けているために 社会性を育めない?
自閉症は単純な対象に対してはモチ
自閉症は単純な対象に対してはモチベーションを抱ける
                  ションを抱ける



             ある自閉症の動物学者の話

             人間を観察しているとき、
             自分が火星の人類学者のような気分になる

             しかし家畜などの動物に対しては、
             とても優しい気持ちになることができる
             (本人はこれを共感という感情ではないかと考える)


             予測できない他者に対して
              測 きな 他者 対
             自閉症の人たちは不安を感じる?
定型発達の子供    自閉症の子供




単純な動きのロボットは人間に与える情報量が限られている
単純な動きのロボ トは人間に与える情報量が限られている

ロボットを用いることで自閉症児の社会的興味や注意を喚起し,
 ボッ を用 る   自閉症児 社会的興味や注意を喚起 ,
発達を補助することが可能になるのではないか?
自閉児の適応に応じて段階的にロボットを人間に近づけていく
まだまだ経験論ベース,神経科学的評価がなされてはいない!
絵を並び替える課題
絵を並び替える課題におけるパフォ マンスの偏り
絵を並び替える課題におけるパフォーマンスの偏り




物理的な事象の理解においては,自閉児の方が優れていた!
コミュニケーションと予測性
 ミ  ケ ションと予測性
           予測性大
他者の存在の有無
                  対人・非対人インタラクションで予測性が異なる
対人インタラクション
心的状態という隠れ状態
頻繁な隠れ状態の切り替え
非対人インタラクション
隠れ状態が少ない
比較的安定した因果関係

           予測性小

 仮説
 我々の脳には予測性の違いに対応する為に,
 我々の脳には予測性の違いに対応する為に
 他者の存在に応じて情報処理を調整するメカニズムが存在?
 自閉症ではこのようなメカニズムがうまく働いていない?
脳内オートギアチェンジ仮説(思い込み効果)
           他者の存在に応じた環境の性質の違い

                ???

他者の存在の認識                 意思決定にかかわる
                         情報処理のパラメータ変化




           状態       脳内の情報処理         行動
                   (内部パラメータ含む)    (意思決定)



                 意思決定にかかわるどのような情報処理の
                 どのようなパラメ タが調整されるのか?
                 どのようなパラメータが調整されるのか?



では具体的にどのような脳のメカニズムが存在しているのか?
実験課題

Matching pennies game
最も単純なゼロサムゲーム(あいこのないじゃんけん)


                                  opponent

                                 L        R
                            L   -50yen   50yen




                  subject
                            R   50yen    -50yen
相手が「人間」か「機械」か?


    対人間                                 対コンピュータ
 Human opponent                       Computer opponent
     (HO)                                   (CO)



対戦相手は,常にランダムに行動を決定するコンピュータの対戦相手
(一試行あたりの被験者の獲得報酬の期待値は常に0円であった)

対人間条件ではダミーの対戦相手が被験者の横に座った


               50trial   50trial   50trial   50trial      50trial   50trial
Experimental
   design      HO        CO        HO        CO           HO        CO
意思決定戦略の定量化
 意思決定確率からのエントロピーの導出                         大きなエントロピー
                                            複雑な意思決定パタン

                                            小さなエントロピー
                                            定型的な意思決定パターン

複雑な行動 0.95

                       0.9
       ntropy (bit)




                      0.85

                       0.8
      En




                      0.75
                             HO   CO   HO   CO   HO   CO
                       0.7
定型的な行動
相手が「人間」か「機械」か?
                エントロピーと獲得報酬の被験者間平均 (n=16)

                0.95                                                                            2000

                 0.9
                 09
                                                                                                1000




                                                                                                        Rewa
 ntropy (bit)




                0.85




                                                                                                           ard (yen
                                                                                                0
                 0.8




                                                                                                                  n)
                                                                                                ‐1000
                                                                                                 1000
En




                0.75
                       HO                    CO                 HO         CO   HO        CO
                 0.7
                 07    Human opponent (HO)        Computer opponent (CO)
                                                                                                ‐2000
                                                                                                 2000

                                                                                     Entropy
                                                                                Gotten reward
相手が「人間」か「機械」か?
          Comparison between two participant’s groups 
          0.95
          0 95

           0.9
 ntropy




          0.85
En




           0.8

                    HO           CO             HO        CO            HO           CO
          0.75
                       Control participants (n=19)       Adults with high functioning autism (n=19)

      participants
          Control participants (n=19): age = 26.6 (SD=7.0) 
                  p      p     (    ) g           (      )
          Adults with high functioningautism (n=19): age = 30.4 (SD=4.2), IQ (WAIS‐R)  = 105.9 
背後にある脳メカニズムを調べてみよう


             Participants
             P ti i    t
             18人(男10人: 女:8人)
             23人中4人を体動で,1人を課題不遂行で解析対象から外した

             実験の流れ
             fMRIスキャナーの外で,コンピュータ相手とダ
             ミーの対戦相手(20代女性 被験者と面識なし)
             と1セッションずつゲームを行った(実際には対
             戦相手は常に勝率50%のコンピュータ)


             fMRIスキャナーの中で,4ブロックゲームを行っ
             た.1ブロックには各条件が2回ずつ順不同にで
             てくる.ブロック間には小休憩を入れた
             てくる ブ   ク間には小休憩を入れた
fMRIの実験課題 (matching pennies game)




相手への教示
相   教


                           ×   被験者の勝率
                                (40%,
                                (40% 50% 60%)
エントロピーは他者の存在と勝率に対して独立に変化
Human opponent condition
                                                                                           0.79
                                                                                           0.78
                                                                                           0.77
                                                                                           0.76




                                                                                                  Entropy
                                                                                           0.75
                                                                                           0 75
                                                                                          0.74
                                                                                          0.73
                                                                                          0.72
                                                                                          0.71
Computer opponent condition                                                               0.7
                                                                                          0.69
                                                                                         40%

                                                                                   50%

                                                                             60%
                                       vs human
                                                         vs computer

                                    vs human
                                       h          vs computer
       Main effect; [human or computer], [Winning ratio], p<0.01, Interaction; n.s.
相手を人間だと思い込むことで活動が高まる脳部位
(Human opponent condition) – (computer opponent condition)


                                 TPJ                                   TPJ


           mPFC

                                          right‐STS




                          P<0.001 uncorrected, Extent threshold k=10




                                                      YES
相手を機械だと思い込むことで活動が高まる脳部位
 (computer opponent condition) – (human opponent condition)
エントロピーと相関する脳部位
エントロピーの増大に対応して賦活する脳部位(p<0.001 uncorrect)を探索



                          右中頭頂溝

                                      右側背外側前頭前野




                                        右下前頭回
脳内オートギアチェンジ仮説にかかわる脳メカニズムが分かってきた
ヒトとモノを区別する能力の発達に問題
⇒ ヒトに対してモノのように振舞ってしまう

ロボット(PoCoBoT)を用いてこのようなメカニズムを調べています
ロボット(ロボビー)が9週間小学校を訪問した




ロボットと持続的にコミュニケーショ        ロボットと持続的にコミュニケーショ
ンした子供の平均接触時間             ンしなかった子供の平均接触時間




ロボットに対する接し方には子供たちの間で個人差(飽きない群,飽きる群)
硬貨合わせ課題(ロボット版)
硬貨合わせ課題(ロボ ト版) ルールを素早く発見
                  を素早く発見
                  Right




                  Left

                          1   2   3   4   5   6   7   8   9   10    11   12

                                                      Robot        Human




                  ルール発見が遅い
                  Right




カードを用いて硬貨合わせ課題を
カ ドを用いて硬貨合わせ課題を   Left

                          1   2   3   4   5   6   7   8   9   10    11   12

行う(あっち向いてホイと教示)                                       Robot        Human
休憩中(自由観察時)の共同注視行動の有無
休憩中(自由観察時) 共同注視行動 有無
 共同注視あり      共同 視な
             共同注視なし
認知的要因
皮質系
        情動的要因
辺縁系

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