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の高齢者 輸液療法
高齢者においては加齢に伴う各種臓器の機能
の低下や細胞内成分の減少などといった生理
学的特徴が存在する.また,輸液管理をする
うえでは安全域が狭く,若年者では問題にな
らないような過不足で容易に重篤な臓器不全
をきたしうるため,輸液量,輸液の種類にも
注意が必要である
1
― 血清 Na と K の異常について ―
の では が高齢者 輸液療法 安全域 狭
いため の,輸液製剤 選択,輸液量
に する,輸液速度 注意
若年健常人で蛋白質,塩分を普通に摂
取している人ならば 3L の飲水で低 Na
血症となることはない.
しかし,高齢者では腎機能を筆頭に各
臓器の生理機能は低下し調節の幅が狭
くなっているため輸液量の安全域が狭
い .
不感蒸泄を考慮しても 3L の 5 %ブド
ウ糖液を点滴すれば自由水が蓄積して
低 Na 血症が出現してしまう.同様に
生理食塩水の安全な投与量も減少する
ため,不用意に過剰な点滴をすると体
内に Na 貯留をきたし浮腫や心不全を
きたしてしまう.
Talbot の安全輸液理論
4 つの線で囲まれた範囲が浮腫や血清 Na 濃度の異常を
きたさない輸液の安全域である.
2
では も高齢者 尿濃縮能希釈能 低下
することから,低 Na をはじめ血症
とした をきたしやすい電解質異常
加齢に伴い骨格筋や実質臓器の細胞の減少により細胞内水分量は低下し
,腎血流量の低下による糸球体濾過量の低下をきたす.また,高齢者に
おいては Na ハンドリング(保持機能)が低下している.このため Na 摂
取量が急激に低下した際に,要するに血圧が低下するようなショック時
に Na を保持できずにさらなる血圧の低下,心・腎機能の低下などにつな
がる.
また,大量補液など細胞外液量が
急激に増加したときには, Na 排泄
が遅れるため肺うっ血をきたしや
すくなる.尿濃縮能,希釈能も低
下することが自由水の排泄障害に
つながるため血清 Na 値の異常をき
たしやすい. 3
Na 濃度異常①
.
4
低 Na 血症は「身体が薄まった状態である」
・薄いもの( Na + K 濃度が低いもの)が身体に入れば薄ま
る
  →低ナトリウム血症になる
・薄いものが身体から排泄されれば身体は濃くなる
  →高ナトリウム血症になる
多くの場合、生理的に排泄される溶液(不感蒸泄、汗、胃腸液など)は
薄いもの(低 Na + K のもの)であり、通常は常に高 Na 血症になるリス
クにさらされているはずである。しかし、高齢者の病的状態では低張な
輸液を投与されているケースが多く、逆に低 Na 血症になるリスクが高い
。
最終的にこれを調節できる唯一の体液が尿(腎臓)である。
Na 濃度異常②
.
5
血漿張度は口渇中枢による飲水調節 [Input] と ADH (抗利尿ホルモン:腎
臓で水の再吸収を行う)による [Output] 調節で維持されている。
[健常人の場合]
  血清 Na 濃度が低下した場合
   →口渇中枢が飲水を制限する
   → ADH 分泌が抑制されて低張な尿が排泄される
     →血清 Na 濃度が上昇する
しかし、入院中の高齢者などは薄い Input( 食欲はないが水は何とか飲める
、過度の塩分制限、漫然とした低張液投与)と濃い Output ( ADH が分泌さ
れない=ストレス、嘔気、体液量減少、抗精神薬、腎不全、利尿薬)によ
り低ナトリウム血症となる。入院患者で多く見られるのは術後絶食下で漫
然と維持輸液が投与され、術後疼痛や鎮痛薬の使用、嘔気・嘔吐や体液量
低下による ADH 分泌により進行性の低 Na 血症を呈するケースである。
ナトリウム は無症候性低 血症
に か本当 無症候性 ?
低ナトリウム血症は、一般的に軽度であれば患者自信も気付かないまま
である。 683 人の高齢入院患者のうち 77 人( 11.3 %)が血清 Na 値
130mEq / L 以下であり,そのうちの 31 人が血清 Na 値 125mEq / L 以下
であったとの報告がある。
臨床の場では軽度の低ナトリウム血症(血清ナトリウムが 125mmol/ L 以
上 ) 、は無治療の場合が多い。しかし軽度の慢性低ナトリウム血症は、注
意力、姿勢制御、歩行機能に影響を与えていることが確認されている。
血清 Na 値 130mEq / L 前後だと転倒のリスクが一般人の 67 倍も高くなる
Am J Med. 2006 Jul;119(7 Suppl 1):S79-82.
6
こまめに ln / Out バランス,体重
などの をモニターしながら指標 臨
に を すること機応変 輸液計画 修正
が である大事
輸液療法は体内総 Na 量もしくは Na 濃度の異常が存在するときに行う補
充輸液と経口摂取が困難であるときに行う維持輸液が存在する.高齢者
の輸液療法においては患者の病態経過に応じて輸液の目的を明確にして
輸液内容を的確に決定し,不必要な輸液は行わないことが大切である.
高齢者は症状を訴えないことが多く,脱水症状が非典型的であったり,
身体所見がまぎらわしいことも多く,各検査値ももともと異常であるこ
とが多いため体液量の正確な評価は困難であることが多い.そのような
場合、体重測定が手技が簡単でかつ体液量の増減がそのまま体重に反映
されるため体液量の評価としては非常に有用である.定期的な体重測定
が水・電解質異常,体液欠乏量の推定に参考となることが多い.
7
血清 K 濃度の調節の主なものは
① 細胞内外の K 移動と②腎臓からの K 排泄である。
体内の K は、細胞内に約 3300mEq, 細胞外に約 60mEq 存在する。摂取され
る K のほとんどが腸管から吸収され、 9 割が腎臓から排泄される。
8
K 濃度異常①
細胞
K
KK
K
インスリン・ 欠乏
・ β 受容体遮断
アシドーシス・代謝性
細胞
インスリン・ 作用
・ β 受容体刺激
アルカローシス・代謝性
カリウム・低 性周期性四肢麻痺
K
K
K
K 濃度異常②
低カリウム血症 定義 : 血清 K 値< 3.5mEq/L
 病態①心電図変化  U 波の出現、 QT 延長をきたす
   ②脱力、麻痺、下肢近位筋、特に大腿四頭筋から脱力が出現する
高カリウム血症 定義:血清 K 値> 5.5mEq/L
 病態①心電図変化  T 波増高、 P 波消失
   ②脱力、麻痺は下肢近位筋から上行性に広がる
低カリウム血症、高カリウム血症はまずバイタルと心電図を確認する。
K 異常で生命を脅かす合併症が出現するのは呼吸筋麻痺と不整脈によるも
のであると考えられる。このため K 異常の患者の管理には K の絶対値も
重要であるが、それ以上に心電図とバイタルサインへの配慮を行うこと
が必要である。
9
の電解質補充 目安
維持量の計算
  1 日水分量= 30 ~ 35mL / kg 体重
 ( 37 ~ 38℃ : 300mL 追加, 38.1℃ 以上軽度発汗: 400 ~ 900   ml 発汗反復: 900 ~ 2.400   mL 追加)
  1 日 Na 量= 2mEq / kg 体重
   (軽度発汗: 10 ~ 20mEq  発汗反復: 20 ~ 40mEq 追加)
  1 日 K 量= 1mEq/kg 体重
  *嘔吐,下痢,吸引,出血など異常経路より排出がある場合は実測値を追加
欠乏量の計算
 水分欠乏量
  高張性脱水:健常時体重 X0.6× ( 1 - 140 /血清 Na )( L )
  等張性脱水:健常時体重一現在の体重 ( L )
  Na 欠乏量
  等張性脱水:(健常時体重一現在の体重: kg ) ×140 ( mEq )
  低張性脱水:現在の体重 X0.6× ( 140 -血清 Na )( mEq )
  K 欠乏量
   ( 4.5 -血清 K ) ×100 ( mEq )
 算式の 1 / 4 ~ 1 / 3 量を維持量に追加し,当日の投与量とする 10

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高齢者の輸液療法

  • 2. の では が高齢者 輸液療法 安全域 狭 いため の,輸液製剤 選択,輸液量 に する,輸液速度 注意 若年健常人で蛋白質,塩分を普通に摂 取している人ならば 3L の飲水で低 Na 血症となることはない. しかし,高齢者では腎機能を筆頭に各 臓器の生理機能は低下し調節の幅が狭 くなっているため輸液量の安全域が狭 い . 不感蒸泄を考慮しても 3L の 5 %ブド ウ糖液を点滴すれば自由水が蓄積して 低 Na 血症が出現してしまう.同様に 生理食塩水の安全な投与量も減少する ため,不用意に過剰な点滴をすると体 内に Na 貯留をきたし浮腫や心不全を きたしてしまう. Talbot の安全輸液理論 4 つの線で囲まれた範囲が浮腫や血清 Na 濃度の異常を きたさない輸液の安全域である. 2
  • 3. では も高齢者 尿濃縮能希釈能 低下 することから,低 Na をはじめ血症 とした をきたしやすい電解質異常 加齢に伴い骨格筋や実質臓器の細胞の減少により細胞内水分量は低下し ,腎血流量の低下による糸球体濾過量の低下をきたす.また,高齢者に おいては Na ハンドリング(保持機能)が低下している.このため Na 摂 取量が急激に低下した際に,要するに血圧が低下するようなショック時 に Na を保持できずにさらなる血圧の低下,心・腎機能の低下などにつな がる. また,大量補液など細胞外液量が 急激に増加したときには, Na 排泄 が遅れるため肺うっ血をきたしや すくなる.尿濃縮能,希釈能も低 下することが自由水の排泄障害に つながるため血清 Na 値の異常をき たしやすい. 3
  • 4. Na 濃度異常① . 4 低 Na 血症は「身体が薄まった状態である」 ・薄いもの( Na + K 濃度が低いもの)が身体に入れば薄ま る   →低ナトリウム血症になる ・薄いものが身体から排泄されれば身体は濃くなる   →高ナトリウム血症になる 多くの場合、生理的に排泄される溶液(不感蒸泄、汗、胃腸液など)は 薄いもの(低 Na + K のもの)であり、通常は常に高 Na 血症になるリス クにさらされているはずである。しかし、高齢者の病的状態では低張な 輸液を投与されているケースが多く、逆に低 Na 血症になるリスクが高い 。 最終的にこれを調節できる唯一の体液が尿(腎臓)である。
  • 5. Na 濃度異常② . 5 血漿張度は口渇中枢による飲水調節 [Input] と ADH (抗利尿ホルモン:腎 臓で水の再吸収を行う)による [Output] 調節で維持されている。 [健常人の場合]   血清 Na 濃度が低下した場合    →口渇中枢が飲水を制限する    → ADH 分泌が抑制されて低張な尿が排泄される      →血清 Na 濃度が上昇する しかし、入院中の高齢者などは薄い Input( 食欲はないが水は何とか飲める 、過度の塩分制限、漫然とした低張液投与)と濃い Output ( ADH が分泌さ れない=ストレス、嘔気、体液量減少、抗精神薬、腎不全、利尿薬)によ り低ナトリウム血症となる。入院患者で多く見られるのは術後絶食下で漫 然と維持輸液が投与され、術後疼痛や鎮痛薬の使用、嘔気・嘔吐や体液量 低下による ADH 分泌により進行性の低 Na 血症を呈するケースである。
  • 6. ナトリウム は無症候性低 血症 に か本当 無症候性 ? 低ナトリウム血症は、一般的に軽度であれば患者自信も気付かないまま である。 683 人の高齢入院患者のうち 77 人( 11.3 %)が血清 Na 値 130mEq / L 以下であり,そのうちの 31 人が血清 Na 値 125mEq / L 以下 であったとの報告がある。 臨床の場では軽度の低ナトリウム血症(血清ナトリウムが 125mmol/ L 以 上 ) 、は無治療の場合が多い。しかし軽度の慢性低ナトリウム血症は、注 意力、姿勢制御、歩行機能に影響を与えていることが確認されている。 血清 Na 値 130mEq / L 前後だと転倒のリスクが一般人の 67 倍も高くなる Am J Med. 2006 Jul;119(7 Suppl 1):S79-82. 6
  • 7. こまめに ln / Out バランス,体重 などの をモニターしながら指標 臨 に を すること機応変 輸液計画 修正 が である大事 輸液療法は体内総 Na 量もしくは Na 濃度の異常が存在するときに行う補 充輸液と経口摂取が困難であるときに行う維持輸液が存在する.高齢者 の輸液療法においては患者の病態経過に応じて輸液の目的を明確にして 輸液内容を的確に決定し,不必要な輸液は行わないことが大切である. 高齢者は症状を訴えないことが多く,脱水症状が非典型的であったり, 身体所見がまぎらわしいことも多く,各検査値ももともと異常であるこ とが多いため体液量の正確な評価は困難であることが多い.そのような 場合、体重測定が手技が簡単でかつ体液量の増減がそのまま体重に反映 されるため体液量の評価としては非常に有用である.定期的な体重測定 が水・電解質異常,体液欠乏量の推定に参考となることが多い. 7
  • 8. 血清 K 濃度の調節の主なものは ① 細胞内外の K 移動と②腎臓からの K 排泄である。 体内の K は、細胞内に約 3300mEq, 細胞外に約 60mEq 存在する。摂取され る K のほとんどが腸管から吸収され、 9 割が腎臓から排泄される。 8 K 濃度異常① 細胞 K KK K インスリン・ 欠乏 ・ β 受容体遮断 アシドーシス・代謝性 細胞 インスリン・ 作用 ・ β 受容体刺激 アルカローシス・代謝性 カリウム・低 性周期性四肢麻痺 K K K
  • 9. K 濃度異常② 低カリウム血症 定義 : 血清 K 値< 3.5mEq/L  病態①心電図変化  U 波の出現、 QT 延長をきたす    ②脱力、麻痺、下肢近位筋、特に大腿四頭筋から脱力が出現する 高カリウム血症 定義:血清 K 値> 5.5mEq/L  病態①心電図変化  T 波増高、 P 波消失    ②脱力、麻痺は下肢近位筋から上行性に広がる 低カリウム血症、高カリウム血症はまずバイタルと心電図を確認する。 K 異常で生命を脅かす合併症が出現するのは呼吸筋麻痺と不整脈によるも のであると考えられる。このため K 異常の患者の管理には K の絶対値も 重要であるが、それ以上に心電図とバイタルサインへの配慮を行うこと が必要である。 9
  • 10. の電解質補充 目安 維持量の計算   1 日水分量= 30 ~ 35mL / kg 体重  ( 37 ~ 38℃ : 300mL 追加, 38.1℃ 以上軽度発汗: 400 ~ 900   ml 発汗反復: 900 ~ 2.400   mL 追加)   1 日 Na 量= 2mEq / kg 体重    (軽度発汗: 10 ~ 20mEq  発汗反復: 20 ~ 40mEq 追加)   1 日 K 量= 1mEq/kg 体重   *嘔吐,下痢,吸引,出血など異常経路より排出がある場合は実測値を追加 欠乏量の計算  水分欠乏量   高張性脱水:健常時体重 X0.6× ( 1 - 140 /血清 Na )( L )   等張性脱水:健常時体重一現在の体重 ( L )   Na 欠乏量   等張性脱水:(健常時体重一現在の体重: kg ) ×140 ( mEq )   低張性脱水:現在の体重 X0.6× ( 140 -血清 Na )( mEq )   K 欠乏量    ( 4.5 -血清 K ) ×100 ( mEq )  算式の 1 / 4 ~ 1 / 3 量を維持量に追加し,当日の投与量とする 10