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はじめに
本研究の目的は、日本語教員養成の授業に反転授
業を取り入れるための授業設計を行うことにある。
筆者はこれまで篠﨑(2013a)(2013b)(2013c)(2014)を通
じて、日本語教員養成向けeラーニングコンテンツの開
発と授業実践を行ってきた。
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3. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
パワーポイントスライド約2,600枚分の講義資料と300
問からなるキーワードチェックテストを有したeラーニン
グコースをMoodle上に構築し、
それを用いた授業実践を通じて日本語教員に必要な
知識を網羅的に受講生に提供することで、一定の成果
を残してきた。
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4. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
コースの概要(篠﨑(2013a)より)
(1)科目名:日本語教育概論2
(2)目 標:日本語教育能力検定試験出題範囲のうち
「言語と教育」から「社会・文化・地域」に関す
る知識の習得。
(3)構 成:全15回。
(4)シラバス:次ページ表参照。ただし、章立ては「日本
語教育概論1」からの連番。
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5. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
日本語教育概論2シラバス
領域 区 分 章 内 容
言
語
と
教
育
言語教育法・実技(実習)
16章 誤用分析
17章 目的・対象別日本語教授法(1)
18章 目的・対象別日本語教授法(2)
異文化間教育・コミュニケー
ション教育
19章
異文化間教育・多文化教育、国際・比較教育/国際理解教育、コミュニケーション教育、
異文化受容訓練、学習者の権利
言語教育と情報 20章
データ処理、メディア/情報技術活用能力(リテラシー)、教材開発・選択、知的所有
権問題、教育工学
言
語
と
心
理
言語理解の過程 21章 予測・推測能力、談話理解、記憶・視点、心理言語学・認知言語学
言語習得・発達 22章
習得過程(第一言語・第二言語)、中間言語、二言語併用主義(バイリンガリズム)、
ストラテジー(学習方略)
異文化理解と心理 23章 社会的技能・技術(スキル)、異文化受容・適応、日本語教育・学習の情意的側面
言
語
と
社
会
言語と社会の関係 24章
社会文化能力、言語接触・言語管理、言語政策、各国の教育制度・教育事情、社会言語
学・言語社会学
言語使用と社会 25章 言語変種、待遇・敬意表現、言語・非言語行動、コミュニケーション学
異文化コミュニケーションと社
会
26章
言語・文化相対主義、二言語併用主義(バイリンガリズム(政策))、アイデンティ
ティ(自己確認、帰属意識)
社
会
・
文
化
・
地
域
世界と日本 27章 日本の社会と文化
異文化接触 28章 異文化適応・調整、人口の移動、児童生徒の文化間移動、日本人論
日本語教育の歴史と現状(1) 29章 日本語教育史、日本語教育と国語教育
日本語教育の歴史と現状(2) 30章
日本語の教育哲学、日本語及び日本語教育に関する試験、日本語教育事情、日本語教員
の資質・能力
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11. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
(2)受講生は、コース
上にアップされた
キーワードが明記
された講義資料
(これを「メインコ
ンテンツ」と呼
ぶ。)を読みなが
ら随時手元の講
義資料のキー
ワードを埋めてい
くことによって学
習を進めていく。
1回分のコンテンツ(例:18章)
メインコンテンツ。上から順次ク
リックする。
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13. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
その間、教師は机間
巡視をしながら質問
に答えたり、補足説
明を行なったり、あ
るいは日本語教育
に関するサイトや動
画コンテンツ(これを
「サブコンテンツ」と
呼ぶ。)を5分から10
分程度紹介する。
1回分のコンテンツ(例:18章)
サブコンテ
ンツ。授業
の半ばに
紹介。
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14. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
(3)講義資料を各自
のペースで通読し
た後、受講生は知
識の確認と定着を
図るための「10分
10問 チェックテ
スト」を各自で行う。
これは、講義資料
に出てくるキー
ワードを問う記述
式の問題で、制限
時間10分で10問
出題される。
1回分のコンテンツ(例:18章)
ここをクリッ
クする。
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19. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
しかし一方で、受講生はひたすらパソコン上の講義資
料とキーワードチェックテストに向き合う活動に終始して
しまったことから、
(1)知識習得に偏りすぎた授業設計である。
(2)教育現場で求められる課題解決能力の育成が行わ
れていない。
といった課題も出てきた。
しかしながら、限られた授業時間の中で膨大な知識の
提供と課題解決型のタスクを行うのは決して容易なこと
ではない。
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20. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
そこで、近年注目されている反転授業の授業モデルを
取り入れ、これまで授業の中で行っていたeラーニング
による知識習得学習を予習に回し、授業ではアクティ
ブ・ラーニングを主とした活動を行うことによって、先に
掲げた課題を解決できるのではないかと考えた。
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21. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
先行研究
反転授業とは何か
反転授業(Flip LearningあるいはFlipped Classroom)と
は、「授業と宿題の役割を『反転』させ、授業時間外にデ
ジタル教材等により知識習得を済ませ、教室では知識
確認や問題解決学習を行う授業形態のこと」(重田
(2013)p.677)。
反転授業は、オンラインによる事前学習とオフライン
による集合学習からなることから、ブレンディッドラーニ
ングの一形態ということができる。
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23. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
アクティブ・ラーニングとは何か
アクティブ・ラーニング(Active Learning)とは、「学生
の自らの思考を促す能動的な学習」(溝上(2007)p.271)
のことであり、教師の講義を一方的に聴講するだけの
パッシブ・ラーニングでは学習定着率が上がらず効果的
ではないとの反省から提示された概念である。
アクティブ・ラーニングは、ある特定の指導法を示すの
ではなく、「学生参加型授業」「協調学習/協同学習」
「課題探究学習/問題解決学習」「PBL(Problem
/Project-Based Learning)」など、学生の能動的な参加
を促す学習形態の総称である。
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24. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
アクティブ・ラーニングの2つのタイプ
河合塾(2013)はアクティブ・ラーニングを、専門知識を
活用しないアクティブ・ラーニングと専門知識を活用した
アクティブ・ラーニングに分け、後者をさらに、「一般的な
アクティブ・ラーニング」と、「高次のアクティブ・ラーニン
グ」の2種に分類している(pp.10-11)。
高次のアクティブラーニングと一般的なアクティブラーニング
(河合塾(2013)p.10)
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25. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
日本語教育概論の授業設計
コースの概要
(1)目 標:日本語教員に必要な基礎的かつ実践的知
識およびスキルの習得。
(2)授業回数:前後期全30回。
(3)授業形態:eラーニングによる予習とアクティブ・ラー
ニングを主体とした集合学習による反転授
業。LMSはMoodleを使用。
(4)学習内容(シラバス):次ページ表参照。
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26. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
日本語教育概論1(前期) 日本語教育概論2(後期)
1章 言語の構造一般(1) 16章 言語教育法・実技(実習)(6)
2章 言語の構造一般(2) 17章 言語教育法・実技(実習)(7)
3章 日本語の構造(1) 18章 言語教育法・実技(実習)(8)
4章 日本語の構造(2)
19章 異文化間教育・コミュニケーショ
ン教育
5章 日本語の構造(3) 20章 言語教育と情報
6章 日本語の構造(4) 21章 言語理解の過程
7章 日本語の構造(5) 22章 言語習得・発達
8章 日本語の構造(6) 23章 異文化理解と心理
9章 日本語の構造(7) 24章 言語と社会の関係
10章 日本語の構造(8) 25章 言語使用と社会
11章 言語教育法・実技(実習)(1) 26章 異文化コミュニケーションと社会
12章 言語教育法・実技(実習)(2) 27章 世界と日本
13章 言語教育法・実技(実習)(3) 28章 異文化接触
14章 言語教育法・実技(実習)(4) 29章 日本語教育の歴史と現状(1)
15章 言語教育法・実技(実習)(5) 30章 日本語教育の歴史と現状(2)
シラバス
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27. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
授業モデル
以下のようなモデルに沿って、授業を設計した。
予 習
(eラーニングによる知識習得学習)
・講義資料の熟読およびキーワード
書写。
・10分10問チェックテスト。
・「質問箱」への質問投稿。
授 業
(アクティブ・ラーニングを中心とした
集合学習)
・「質問箱」に投稿された質問への回
答。
・「アクティブ1」(模擬問題)
・関連動画やサイトの紹介
・「アクティブ2」(課題探究学習/問
題解決学習)
授業モデル
以下、新たに加えた項目について説明する。
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28. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
授業モデル
以下のようなモデルに沿って、授業を設計した。
予 習
(eラーニングによる知識習得学習)
・講義資料の熟読およびキーワード
書写。
・10分10問チェックテスト。
・「質問箱」への質問投稿。
授 業
(アクティブ・ラーニングを中心とした
集合学習)
・「質問箱」に投稿された質問への回
答。
・「アクティブ1」(模擬問題)
・関連動画やサイトの紹介
・「アクティブ2」(課題探究学習/問
題解決学習)
授業モデル
以下、新たに加えた項目について説明する。
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35. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
おわりに
本授業設計に基づいた授業実践を行うことによって、
(1)専門的知識の網羅的修得。
(2)専門的知識に連動した実践的スキル(実務遂行能力、
課題解決能力等)、教師マインド、現場感覚等の習
得。
(3)学生の授業外学習の促進。
等の効果が期待できる。
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37. 韓國日本言語文化學會(2014.5.10 崇実大学校) 別府大学 篠﨑大司
参考文献
河合塾編著(2013)『「深い学び」につながるアクティブラーニング―全国大学の学科調査報告とカ
リキュラム設計の課題―』東信堂
重田勝介(2013)「反転授業 ICTによる教育改革の進展」北海道大学情報基盤センター『情報管
理』Vol.56 No.10 pp.677-684
篠﨑大司(2014)「Moodleを活用した日本語教員養成向けeラーニングコンテンツの開発と授業評価
―「言語と教育」から「社会・文化・地域」まで―」日本語教育方法研究会『日本語教育
方法研究会会誌』Vol.21 No.1 pp.20-21
篠﨑大司(2013a)「Moodleを活用した日本語教員養成向けeラーニングコンテンツの開発―『言語と
教育』から『社会・文化・地域』まで―」韓国日本言語文化学会『2013年度秋季国際学
術大会 招請講演会発表論文集』pp.278-281
篠﨑大司(2013b)「Moodleを活用した日本語教員養成向けeラーニングコンテンツの開発と授業改
善―言語一般および言語と教育を中心に―」日本語教育方法研究会『日本語教育方
法研究会会誌』Vol.20 No.2 pp.72-73
篠﨑大司(2013c)「日本語教員養成向けeラーニングコンテンツの開発と授業実践および授業評価
―日本語教員養成向けブレンディッドラーニングモデルの構築に向けて―」別府大学
会『別府大学紀要』第54号 pp.1-9
溝上慎一(2007)「アクティブ・ラーニング導入の実践的課題」名古屋大学高等教育研究センター
『名古屋高等教育研究』7 pp.269-287
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