平均値の定理
定理 1 ((微分の)平均値の定理)
関数 f が閉区間 [a, b] 上で連続かつ開区間 (a, b) で微分可能ならば
f (b) − f (a)
b − a
= f !
(c)
を満たすような c ∈ (a, b) が存在する。
平均値の定理は微積分入門の礎石で、これを用いて微分の局所的な性質を大域的性質に延長
する。例えば、増分不等式 (ある区間で微分が非負なら単調増大、など) や、微積分学の基本
定理。
演習 5
お手元の教科書では平均値の定理をどこでどのように用いていますか?
8.
平均値の定理不用論
しかし、平均値の定理には根強い批判もあり、一時は不用論が盛り上がった。例えば、ディ
ユドネ『現代解析の基礎』[5] によれば (下線も[5] による)、
「このよくない点はつぎのことにある:
1. f がベクトル値になるとどうしようもない。
2. 数 c については、a と b の間にあるという以外、まったく 何も 判らない。そ
してたいていは、f !
(c) が区間 [a, b] の上限と下限の間の数であるいうだけ
(ちょうどその値を f !
がとるという ことではなく) しか使わない。いいかえれ
ば平均値の定理の真価は等式にあるのではなく、不等式 にあるのだ。
」
でも、いつの間にか下火になり、現在ではほぼすべての微積分入門で平均値の定理が用いら
れている……
9.
平均値の定理なしにどうする? 1(増分不等式)
確かにディユドネの指摘通り、ほとんどの場合は以下のような増分不等式で間に合う。
定理 2(増分不等式)
関数 f が閉区間 [a, b] 上で連続で、かつ開区間 (a, b) で微分可能で任意の x ∈ (a, b) につい
て f !
(x) ≥ 0 ならば、f (a) ≤ f (b).
増分不等式は多次元にすぐ一般化できるし、微分の定義だけから導くのもさして難しくない
し、(通常の理論展開とは逆に) 微積分学の基本定理から導くこともできる 3
。
3しかし後述するように、基本定理を証明するには、少なくとも「区間で f !(x) = 0 なら定数関数」が必要なの
で、本質的に増分不等式を使っていることになる。