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1.
『ストラウストラップのプログラミング入門』
で語られなかったいくつかのこと Programming 高橋 晶(Akira Takahashi) id:faith_and_brave @cpp_akira わんくま東京勉強会 2011/08/27(土)
2.
動機 C++の始祖Bjarne Stroustrupによる名著『Programming』。 この本では「プログラミングとは何か」というところから始まり、幅 広い話題について広く掘り下げて解説されている。 この発表では、『Programming』で扱われなかったいくつかの重 要なプログラミングの分野について解説していきます。
3.
お題 •
並列処理 • ネットワーク • コンピュータビジョン • メタプログラミング
4.
Chapter 1
並列処理 Parallel Processing
5.
タダ飯の時間はとっくに終わってる • 昔々、そんなに昔ではないけれど、
遅いプログラムを組んでも、ムーアの法則によってコン ピュータが速くなるのを待っていればいい時代がありました。 • ムーアの法則に限界が見えて、コンピュータが単純には速く ならなくなった時代が到来したとき 「The Free Lunch is Over(タダ飯の時間は終わりだ)」 という宣言がなされ、並列プログラミングの時代がやってきま した。
6.
並行と並列 シングルスレッドで動かすプログラムは単純にはこれ以上速く ならない。そこでとられた2つのアプローチ: • スレッドやプロセスによる擬似的な複数同時処理 • 複数CPUによる完全な複数同時処理 前者を並行コンピューティング(Concurrent
Computing) 後者を並列コンピューティング(Parallel Computing) と呼び、両方合わせて並列コンピューティングと呼ぶ場合もある。 (並行は、実行環境によって並列になり得る。)
7.
並行と並列 – 並行コンピューティング スレッド/プロセスによる並行コンピューティングは、1つのCPUで 複数の処理を同時に行う。 1つのCPUの性能を分割して複数の操作を行うため、それぞれ の処理性能は低下する。
// 関数fと関数gを同時に動かす thread t1(f); thread t2(g); … // 終わるまで待つ t1.join(); t2.join();
8.
並行と並列 - 並列コンピューティング 並列コンピューティングは、複数CPUによって同時に複数処理を 行う。これはCPUのコア数
(などのハードウェア並行性)分だけ真 に同時に動かすことができる。 // CPUの個数分、コンテナvの各要素に対して // 関数fを同時に適用していく parallel_for_each(v, f);
9.
並列プログラミングの難しさ •
並列プログラミングでは、複数のタスクから同じ変数にアクセスする場合 に問題が起こる。 これは原因の追いにくいバグを生み出しやすい。 (ミューテックスと呼ばれる仕組みによって、同時に1人しかアクセスできな いようロックすることができるが、デッドロックや管理の複雑化などで問題 が起き得る) • 独立したタスクになるよう強く意識して設計する必要がある。 static int x = 0; void f() { … x = 1; } void g() { … x = 2; } thread t1(f); thread t2(g); // xの値はどうなるだろう?
10.
並列プログラミングの抽象化 並列プログラミングの難しさに対処するため、大きく2つの抽象 化モデルが登場した。 •アクターモデル メッセージパッシングによって並行プログラミングの安全地帯を 提供する。 •STM(Software Transactional Memory) トランザクションによって競合を検知する。 これらは、現代の多くの言語で標準、もしくはサードパーティライ ブラリによって提供され始めている。
11.
関数型プログラミング 並列プログラミングが難しいのは、「状態が変更されるから」である。 あちこちでデータを書き換えたりせず、状態の変更を最小限にすれば、 並列プログラミングの難しさはかなり緩和される。 近年、関数型プログラミング(Functional Programming)というパラダイ ムがようやく脚光を浴び始めた。 純粋な関数型プログラミングは、「関数は同じ引数を与えたら必ず同 じ値を返す」というポリシーの元、データの不変性を基礎としたプログ ラミング手法である。 C#, C++0x,
Scalaのような近年のプログラミング言語では、関数型プロ グラミングの特徴を多く取り入れ始め、状態の変更を最小限にできる ような言語機能やライブラリを提供し始めている。
12.
他の並列プログラミングのアプローチ • Lock-free
ミューテックスによる共有変数のロックは重いため、Compare and Swap(CAS)と呼ばれる軽量の競合チェック + 破壊的操作を行う Lock-freeという手法が浸透してきている。 (抽象の中に隠すのが一般的) • GPGPU(General-purpose computing on GPU) 近年のGPUは1,000を超える大量のコアを持っているため、同時処 理に向いている。GPGPUは、GPUの能力をGPU本来の計算以外の 用途に応用する技術である。 • 分散処理 もはや一つのマシンだけでは処理しきれない巨大データや計算を 扱うために、複数のサーバーに処理を分散させる手法である。
13.
Chapter 2
ネットワークプログラミング Network Programming
14.
ネットワークプログラミング • PCやモバイル端末がインターネットに接続できることが前提
となる現代において、ネットワークプログラミングは欠かすこ とのできないものとなった。 • もはやスタンドアロンで目的を達成できるアプリケーションの 分野はかなり限られる。
15.
ネットワークプログラミングとは何か • ネットワークプログラミングとは、ネットワークを介して相手と
データのやりとりを行うプログラミングのことである。 • サーバーに要求を行い結果を得るクライアント、 クライアントからの要求を受け結果を渡すサーバー、 というクライアントサーバーモデルが一般的である。
16.
ネットワークプログラミングの領域は拡大している ネットワークプログラミングが当たり前となってきた現代において、そ の用途もまた多岐にわたるようになった。 •Peer to Peer(P2P) お互いがクライアントにもサーバーにもなり得る対等な関係の通信モ デル。モバイル端末同士の通信で対戦ゲームなどで使用されている。 •巨大データの分散処理 ひとつのPCでは処理しきれないほど巨大なデータを複数のサーバー を使って処理する手法。ネットワークを介して他のサーバーに処理を 依頼する。ログの統計や科学計算などで使用されている。 •ユーザー操作の統計 「ユーザーがどんな行動をとり、どれくらいの時間でプレイを中断し、 二度と復帰しなくなったか」
といった情報は、ソフトウェア開発者に とって重要な情報となり得る。ソーシャルゲームの分野では、ユー ザーのあらゆる操作を集計し、次回作のために役立てている。
17.
C++におけるネットワークプログラミング • C++では、ネットワークプログラミングの方法として、Boost Asio
Libraryを利用する方法がある。これは、非同期処理全般を扱うラ イブラリで、次期標準*の候補としても挙がっている。 asio::io_service io_service; tcp::socket socket(io_service); … // 非同期にデータを送信する std::string request = “Hello”; async_write(socket, buffer(request), on_send); … // 送信終了時にこの関数が呼ばれる void on_send(const error_code& error) { if (!error) std::cout << “正常終了” << std::endl; } * C++0xの後
18.
通信で使用されるデータ形式 通信で使用される主なデータ形式は以下: •XML
HTMLライクな、タグで囲んで値を記述する形式 •JSON 名前と値の組でデータを表現し、短い表記で型を表現できるデータ形式 •MessagePack 言語間通信を意図した汎用バイナリ形式。データは現在のところ 最も小さくなる。 ライブラリを使用して、ユーザー定義型をこれらのデータ形式に シリアライズして通信で送受信するのが一般的である。
19.
Chapter 3
コンピュータビジョン Computer Vision
20.
コンピュータビジョンとは • 画像処理、画像認識といった、画像に対する操作、カメラか
ら得られた情報を解析する操作などの分野がコンピュータビ ジョンと呼ばれている。 • この分野は古くから研究/利用されてきてはいるが、コン ピュータの速度がネックになっていたため日の目を見なかっ た。処理速度が向上したことで複雑な処理でもようやく現実 的に使えるようになってきた。
21.
画像処理 • 画像に対する処理は、様々な分野において利用されている。
簡単なところで言うと、画像の各ピクセルのRGB値に対して、 ある値を掛けるとグレースケールになる: Y (輝度) = r * 0.229 + g * 0.587 + b * 0.114; r = Y; g = Y; b = Y;
22.
画像認識 • 画像認識は、画像データや映像データから特定のパターン
を認識して情報を抽出する技術である。 物体検出や、人の顔認識、指紋認識やOCRなどが画像認識 に当たる。
23.
コンピュータビジョンはどこで使われるか • 画像処理自体は、ゲームや、一般的なソフトウェアでも使われてい
るが、近年は画像認識がより身近になってきた。 • 拡張現実(AR : Augmented Reality)と呼ばれる、現実の映像と仮想 的な物体を合成してユーザーに提示する技術が注目されてきてい る。 • また、Kinectというデバイスによって、高機能なセンサによる画像 認識が低価格で可能となったため、一般ユーザーが画像認識とい う技術に触れる機会が多くなってきた。 一般のソフトウェア開発者にもコンピュータビジョンを扱う技術・知識 が求められるようになってきている。
24.
OpenCV • コンピュータビジョンでは、OpenCVというオープンソースのラ
イブラリが広く使われており、C++にも対応している。 • このライブラリは、コンピュータビジョンの専門的な技術を抽 象化し、クラス・関数として提供しているため、専門知識がそ れほどなくても使用することができる。 • 最近では、OpenMPによる並列処理や、CUDAによるGPGPU への対応なども行われている。
25.
Chapter 4
メタプログラミング Metaprogramming
26.
メタプログラミング メタプログラミングとは、プログラムに関するプログラムである。 • コードの自動生成を行うもの
(e.g. Cプリプロセッサ、Template Haskell) • 構文木を操作するもの (e.g. Lispマクロ、Template Haskell) • 型の操作を行うもの (e.g. C++テンプレート、Haskellのfundepsとtype families) • EDSL(Embedded Domain Specific Language)の作成 (e.g. 演算子オーバーロード、関数の中置記法) などがある。
27.
コード生成系メタプログラミング • 言語の通常の構文では抽象化しきれないコードを自動生成
するためにメタプログラミングが使われることがある。 C++03における型安全な可変引数を生成するために使われ たりする。 • MicrosoftのT4 Templateも、広義においてはコード生成系メタ プログラミングの一種ととることができる。 • コピー&ペーストがどうしても必要になってしまう場面で、コー ド生成を自動化すれば1箇所直せば全て直る、という利点が あり、メンテナンスが容易である。
28.
構文木操作系メタプログラミング • 構文木操作系メタプログラミングは、言語に対してユーザー
が独自の構文を追加したり、任意のコンパイル時エラー、警 告を発生させたりするのに使用することができる。 • 言語機能としては、Lispマクロ、GroovyのAST変換、D言語に 搭載予定のマクロあたりが代表例である。 • また、近年ではコンパイラプラグインという形で、コンパイラ が持っている構文木等のメタ情報を抽出し、操作できる機能 を提供しているところも出てきた(例: GCC, Clang, Scala)。 これは、IDEの作成に使えるのはもちろんのこと、絶対コー ディング標準なども作り出すことができる。
29.
型操作系メタプログラミング • 型操作系メタプログラミングは、型や、型の要件を集めたコン
セプトごとに最適な実装を選択させる、最適化やアダプトの 機構として使われることが多い。 • ユーザー定義型はコンパイラの最適化が届かない領域であ るため、こういったことが必要になる。 「抽象化にはコストがともなう」と言われる問題へのアプロー チ。 • コンパイル時に戦略を切り替えるPolicy-based Designは、抽 象化された実装をひとつだけ用意するのではなく、あらゆる 要求に応えるために用途別の最適な実装を切り替えるのに 使用される。
30.
EDSL(Embedded Domain Specific
Language)の作成 • データベース操作や構文解析といった特定のドメインのため の構文がほしくなることがある。 そういった場合に、演算子などに新たな意味を持たせて言語 内言語を作ることで有用となり得る。 • 例: – EBNFライクな構文解析をC++上で行うBoost.Spirit – C++03でラムダ式を表現するBoost.Lambda – Erlangライクな構文でアクターモデルを表現するScalaのActor – Scalaでデータベース操作のためのRogue
31.
まとめ • プログラミングの分野は広い。 • 自分がどの分野に興味があるのか確かめるためにも、いろ
んな情報を常に仕入れ、飛び込んでいこう。
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