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Binaural Beatで内リンパ水腫の場合の位相同期を測る
- 1. Binaural Beat で内リンパ水腫の場合の位相同期を測る
Alteration of frequency range for binaural beats in acute low-tone hearing loss.
Karino S, Yamasoba T, Ito K, Kaga K. Audiol Neurootol. 2005;10(4):201-8.
はじめに
ヘッドホンで右耳に 250Hz の純音、左耳に 254Hz の純音を、陰影聴取が起こらない程度の音圧で
聴くと、4Hz で揺れるような音感覚が生じる。「ラウドネスの周期的な振動」と表現される感覚で
あり、Binaural Beat(以下 BB と略す)と呼ばれる。BB は両耳間の情報が脳幹の聴覚路におい
て統合され処理されることを示している。BB を実現させるための末梢側での基盤は、蝸牛神経の
音に対する位相同期である。音の周波数と位相の情報を中枢に伝える機構のひとつとして、蝸牛神
経は音のある特定の位相に同期して発火すること(phase locking)が知られている。蝸牛神経は低い
音に対しては位相同期して発火するが、高い周波数では追随することができないため、BB は低周
波数帯に限定されている。BB 刺激の場合には左右間の位相差が連続的、周期的に変化しており、
蝸牛神経より中枢側の聴覚路、すなわち蝸牛神経核や上オリーブ核においても周波数と位相の情報
は保存される。
われわれは蝸牛障害により phase locking の精度が低下すれば BB の検知も劣化する可能性があ
ると考え、急性低音障害型感音難聴群(Acute low-tone sensorineural hearing loss (ALHL))の場合
に、聴覚心理学的検査によって phase locking の障害を検出できるか試みた。
方法
1)ALHL 患者群
表1の診断基準を満たす ALHL の患者12名(男性6名、女性6名)、年齢 19-39 歳(mean = 31.2,
SD = 6.9)。加齢の影響を除去するため、40歳以下の患者に限定した。
2)ALHL 回復群
上記12名の患者の聴力は、1回目のBB実験後、1週間後・2週間後・1ヶ月後と測定され、そ
の後は月1回で続けられた。この経過観察期間の間に、125、250、500 Hz の聴力閾値の和が 70 dB
未満となった4名について、2回目の聴取実験が行われた。
3)対照群
125 Hz から 8 kHz の聴力閾値が両耳とも 20 dB HL 以下の14名(男性5名、女性9名)。年齢
23-27 歳(24.4 ± 1.0)。250 Hz における聴力閾値は 5.7 ± 4.7 dB HL であった。
内耳障害による難聴の場合には補充現象がしばしば認められることを考慮して、検査耳(ALHL
患者の患側)に提示する音圧は、被験者の主観的な音の大きさ(ラウドネス)が左右で一致するよ
うに調整することとした(ラウドネスマッチング)。
結果
ALHL 群では BB を検知するための最小の両耳間の周波数差は 0.9 Hz であった(図1)。これはす
なわち、10秒の提示時間の間に9周期分の BB が必要だったことになり、対照群での 2-3 周期よ
り著明に大きい。言い換えるとゆっくりとした長い周期の BB の検知が選択的に障害される一方、
1 Hz 以上の速い BB は ALHL 群でも検知できたことになる。BB を検知するための最小の両耳間
周波数差と、250 Hz での聴力閾値との間に有意な相関関係が認められ、ALHL による蝸牛障害の
重篤度を反映している可能性を示唆する。
考察
ALHL は低音部の難聴の増悪・回復の変動を比較的短期間に繰り返すことが特徴であり、この特
徴は我々が可逆性の可能性のある蝸牛障害のモデルとして ALHL を取り上げた理由のひとつであ
る。ALHL の病因は不明であるが、表1に示すような基準に従って診断される、1つの確立した
臨床疾患単位である。その他の臨床的特徴としては、1)20-40歳に多い。2)女性に好発す
る。3)誘因として上気道炎、精神的ストレス、過労などが挙げられる。4)主訴、自覚症状とも