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報告日:2016/05/25 報告者:並木宜史 
E・フロムのナチ論と民主主義論 
『自由からの逃走』第6・7章より 
底本には​”『自由からの逃走 新版』 エーリッヒ・フロム (著), 日高 六郎 (翻訳) 東京創元社 
1965/12”​を用いた。 
 
第六章・ナチズムの心理  
ナチズムは如何にして説明されるべきか? 
フロムは前章までの近代人の心理的特徴の分析を元に、彼の時代の大問題ナチズム分析にと
りかかる。 
 
・ナチズムに関する従来の二つの説明 
ナチズム分析に当たり、まず一般的説明を検討する。 
 
”​第一は、心理学はファッシズムというような経済的政治的な現象を説明することはできな
いという見解、第二は、ファッシズムはまったく心理的な問題であるという見解である。​”
(p230) 
 
フロムによれば、これらの説明はいずれも正しくないとされる。 
 
・社会心理学的方法論 
フロムは前述の二通りの説明に対して、社会心理学者としての説明を試みる。 
 
“​われわれの意見では、政治的経済的要因を強調するあまり、心理的要因を排除してしまう
ような説明も―あるいはその逆も―いずれも正しくない。ナチズムは心理的な問題ではある
が、心理的要因それ自身は社会経済的要因によって形成されたものと理解されなければなら
ない。​”​(p231) 
 
フロムは、フロイトのような本能に基づく説明や、マルクス主義者の社会経済的階級による
説明の、両者を上手くナチズムの説明に用いるとする。ドイツの社会経済状況の元で、如何
にしてナチズムを支持する心理が人々の中に生まれたかを、フロムは説明する。 
 
ナチズムの土壌としての下層中産階級 
フロムは資本主義の恩恵を受けた階級としてブルジョアジーを揚げる。ブルジョアジー。下
層中産階級は資本主義によって最も打撃を受けたが、かといってプロレタリア程落ちぶれて
もいなかった。そのため、現在の生活水準を守るということに最も規定される彼らは、上流
階級を呪詛しつつも、自分より下のプロレタリアートを激しく嫌悪していた。マルクスに影
響を受けた社会心理学者フロムならではの階級的視点によって、ナチズムの本質を炙り出し
ている。 
 
・ナチズムの基盤 
フロムはナチズムの成立基盤として、二つの異なった層をあげている。一方は、ナチズムを
好まないがかといって抵抗しなかった層で、他方は熱狂的に支持した層である。 
1 
 
”​第一のグループは主として労働者階級や自由主義的およびカトリック的なブルジョアジー
からなっていた。これらのグループは、ナチズムにたいし、その当初から1933年に至るま
で、絶えず敵意をいだいていたが、そのすぐれた組織、とくに労働者階級の組織をもってい
たのにもかかわらず、かれらの政治的信念のあらわれとして当然期待してよいはずの、内的
抵抗を示さなかった。​”​(p232) 
 
妥協的な自由主義者はともかく、労働者はそれなりの抵抗を示した。ドイツでは、革命失敗
後も共産党は強い勢力を誇り、その私兵部隊「赤色戦線戦士同盟」はナチのSAと激しい街
頭闘争を繰り広げていた。労働者に関していえば、彼ら政党に対するナチの奸計と度を越し
た暴力によって、抵抗する手段を奪われたと言うべきだろう。 
 
・下層中産階級の気質 
フロムによれば、ナチズムに最も好意的態度を示したのは、下層中産階級であった。その階
級的特徴を簡潔にまとめている。 
 
”​事実、下層中産階級にはその歴史を通じて特徴的な幾つかの特性があった。すなわち、強
者への愛、弱者にたいする嫌悪、小心、敵意、金についても感情についてもけちくさいこ
と、そして本質的に禁欲主義ということである。​” ​(p234) 
 
フロムは、以前の章で、資本主義の勃興によって大ブルジョアジーはかなりの恩恵を受けた
が、中産階級特にその中で下層の人々は零落することも多く、「解放」よりも新たな「抑
圧」を感じることが多かったと指摘していた。それゆえ、彼らは、自由主義と共産主義の両
方を、打ち倒す勢力の登場を準備した。 
 
・君主制の崩壊 
フロムは君主制の権威に一体化することで、下層中産階級は心理的な安心を得ていた。そし
て信仰心、道徳がそれを補完していたとする。 
 
“​敗戦と君主制の崩壊がその一つであった。君主制と国家とが、心理的にいって小市民の存
在をささえる固い岩であったから、その失墜と敗北はかれ自身の生活の基盤を打ちくだいて
しまった。”​(p236) 
 
・労働者階級の台頭 
労働者階級の勢力拡大は、既にマルクス・エンゲルスが生きていた時代から、社会主義労働
者党と後進の社会民主党の党勢拡大という形で現れた。 
 
“​革命後、労働者階級の社会的威信がいちじるしく向上し、その結果下層中産階級の威信が
相対的に失墜した。​”​ (p237) 
 
・ヴェルサイユ条約 
ヴェルサイユ条約といえば、通常概説書で戦勝国による敗戦国への懲罰的な内容から、全ド
イツ人を憤激させ、ナチ台頭の背景となったとされる。しかしフロムは、階級によって条約
への態度は異なっていたとする。 
 
2 
“​しかし、中産階級は極度のはげしさで反発したとしても、労働者階級のあいだではヴェル
サイユ条約にたいする怨みははるかに少かった。​“​(p239) 
 
中産階級やユンカーは、自分たちの誇りを外国に奪われたという意識が強かったのに対し
て、労働者階級にとっては反動体制が取り除かれたことから歓迎する向きもあった。つま
り、ヒトラーが政権奪取後「ヴェルサイユ体制」の破壊に乗り出したのは、その支持者が求
めるところであったからということになる。 
 
ヒトラーが選ばれた理由 
ナチズムをヒトラーのカリスマ性から説明する言説は多い。一方で、ヒトラーは厳格な父の
下で屈折した感情を育て、美大の受験に失敗する等、深いコンプレックスを持つ人物として
も知られる。ではなぜ史上最悪とも言える独裁者になったのか。 
 
・プチブル気質の権化ヒトラー 
“​ヒットラーがそのような有効な道具となったのは、かれが、下層中産階級が一体となるこ
とのできる、憤りと憎悪にみちたプチブルの特徴と、ドイツ財界人とユンカーの利益にいつ
でも奉仕しようとするオポチュニストの特徴とを、感情的にも社会的にそなえていたからで
ある。​“​(p242) 
 
・サディズムとマゾヒズムの共棲 
フロムは、ナチズムの背景にある権威主義的性格の、心理的説明をサドマゾヒズムの統一と
する。 
 
”​サディズムは他人にたいして、多かれ少かれ破壊性と混合した絶対的な支配力をめざすも
のと理解され、マゾヒズムは自己を一つの圧倒的に強い力のうちに解消し、その力の強さと
栄光に参加することをめざすものと理解される。サディズム的傾向もマゾヒズム的傾向もと
もに、孤立した個人が独り立ちできない無能力と、この孤独を克服するために共棲的関係を
求める要求とから生ずる。”​(p244) 
 
ヒトラーのサディズムに基づく権力欲は、主著「我が闘争」の中で、大衆支配の具体的方
法、人種差別観念、またそれを支える「粗雑な社会ダーウィニズム」として現れているとす
る。 
 
・有産階級との同盟 
“​ヒットラーはワイマール共和国を弱体であるが故に嫌悪し、工業や軍隊の指導者は力を有
しているが故にこれを尊敬した。​”p253 
 
強者に阿るヒトラーと彼率いるナチは、共産党の台頭に怯える有力者のための、格好の衛兵
になったといえる。 
 
補説 
ここまで本書におけるフロムのナチズム心理を見てきた。さらにフロムの説明とも関連する
ような、他の文献から抜粋したファシズム拡大の要因に関する記述を紹介する。 
 
・突撃隊の起源となったフライコール 
3 
ナチズムといえば、共産党始め他政党の強制的解散、ユダヤ人の迫害と大量虐殺に看取され
る暴力性が大きな特徴である。ナチスは元々あぶれ者を組織した「突撃隊」という私兵組織
によって、リベラル・共産勢力と街頭闘争を繰り広げたことが、支配層に気に入られ、権力
獲得への端緒となった。『​ドイツ革命史序説―革命におけるエリートと大衆 ​』は、ドイツ1
革命の指導部の総括が主な内容であるものの、革命を破壊した勢力について興味深い指摘が
ある。その勢力とは、第一次世界大戦の退役兵を革命鎮圧のために、組織されたフライコー
ル(義勇軍)である。 
 
“​義勇軍入団の心理には、先ず一方においては、平時の社会生活を異境或は欺瞞であると感
じたことから理解されるごとく、市民社会のあり方とテンポに歩調が合わず、自分は社会か
ら疎外されているのだという感情が強く支配しており、また、他方においては、かかる社会
生活との格差に当面して、その合理的解決に努めることなく、過去の経験へと逃避しようと
する傾向、いわば一つの「退行現象」が看取される。​”​(p217) 
 
市民社会のあり方に懐疑的で、自分はそこから「疎外」されているという被害者意識。そし
て、市民社会内での自分の不遇な生活を、労働運動、政治運動のような活動によって前進的
に変えていこうという気概がなく、ただユートピアとしての過去に縋り付くだけの「退行現
象」が、大きな特徴である。これらは、フロムの指摘する「下層中産階級」の気質の説明と
通底するだろう。この不合理な不満が暴力として昇華することのできる勢力の存在が、ナチ
ズムの大きな力になったと言える。 
 
・ファシズムの温床たる”無意識” 
民衆はなぜファシズムを受け容れてしまうのか?戦場でファシストと対峙していたアナーキ
スト達の軌跡を追った、 名著『​スペインの短い夏 ​』において、その背景を簡潔に表現して2
いる。 
 
”​ファシズムはスペインでも、イタリアやドイツでの先例と同様、左翼が少しでも注目せず
にいた無意識の諸力を、すなわち労働者階級のなかにも生きていた不安と怨恨を、動員し
た。​”​(p231) 
 
資本主義、または社会主義がもたらす個人の解放に対して、ファシストは馴染みの深い伝統
的生活を置くことで、人々の安寧を約束したと、彼は指摘する。ファシストはどこでも、フ
ロムが指摘した自由がもたらす不安感を、上手く手玉に取ったと言える。 
 
第七章・自由とデモクラシー 
1,個性の幻影 
・ナチズムはドイツだけの問題なのか? 
ナチズム及びファシズムは、一部の例外を除いて、1945年に滅亡した。しかし、ファシズ
ムという暴力的な非民主的体制はともかくとして、人々に「自由からの逃走」を促す資本主
義社会に終焉が訪れたわけではない。限りは、民主主義の危機は潜在的にあることを、フロ
ムは論じる。 
 
1
 ドイツ革命史序説―革命におけるエリートと大衆 篠原 一 (著) 岩波書店 1956/10/25 
2
 スペインの短い夏 (晶文選書 41) H.M.エンツェンスベルガー (著), 野村 修 (翻訳) 晶文社 1973/01 
4 
”​しかし、ファッシズムの脅威を国の内外を問わず真剣にとりあげても、もしわれわれが、
われわれ自身の社会においても、個人の無意味と無力さという、どこででもファッシズム台
頭の温床となるような現象に直面していることをみのがすならば、これほど大きな誤謬、重
大な危険はない。​”​(p266) 
 
本節では権威主義的性格に対し、個人に無力感をもたらす背景としての画一化に焦点を絞っ
ている。 
 
・教育の弊害 
近代国家が、強制力をもって施した初等教育は、確かに人々を無知の暗黒から救った。一
方、それは国民を労働者、兵士たりうる最低限の素養を身につけさせるためという、側面が
強かった。人間に本来備わる自由な思考を抑圧すると、フロムは指摘する。 
 
“​しかしわれわれの文化においては、教育の結果、上からあたえられた感情や思想や願望の
ために自発性が排除され、自然の精神的活動が打ちすてられることが、じつにしばしば起
こっている。​”(p268) 
 
・感性の欠如 
“​われわれの社会においては、感情は一般的に元気を失っている。どのような創造的思考も
―他のどうのような創造的活動と同じように―感情と密接に結びあっていることは疑う余地
がないのに、感情なしに考え、生きることが理想とされている。​”(p270) 
 
感情というものは頭から離れることはないのであって、知的な側面ではなく商業における宣
伝のように、ただ消費のために用いられることになったと指摘する。感情は特定の場面での
動員される対象となった。例えば、安っぽいメディアの演出が多くの人の感情を操作してい
ることは、現代社会の問題点の一つである。最近では、アラブの春、その結果としてシリア
内戦で、一方の勢力の所業をあげつらい(しばしば嘘を含んで)、印象操作が行われきたこと
は、記憶に新しい。 
 
・独創性の阻害 
フロムは、「科学」に基づく正常な人間像から逸脱した人間を異常視する傾向に、警鐘を鳴
らす。それが、人間の創造性の発達を阻害すると指摘する。 
 
“​同じような歪みは感情や感動と同じく、独創的な思考にもおこる。教育のそもそもの発端
から、独創的な思考は疎外され、既成品の思想がひとびとの頭にもたらされる。​”(p272) 
 
・詰め込み教育 
フロムは、若者から思考力を奪う教育法について、暗記中心のいわば詰め込み教育を槍玉に
挙げる。 
 
“​より多くの事実を知れば知るほど、真実の知識に到達するという悲しむべき迷信が広がっ
ている。何百というバラバラの無関係な事実が学生の頭につめこまれる。かれらの時間とエ
ネルギーは事実をより多く学ぶためについやされ、ほとんど考える暇はない。​”(p273) 
 
現在先進国を中心に、詰め込み教育ではなく、学生が主体的に学ぶ「アクティブ・ラーニン
グ」なる教育法の必要性が声高に叫ばれている。これは一見、フロムが重視する、自発性を
5 
育てる思考力の意義を現代教育も気付いたように取れる。実は、生産性向上のため、言い換
えれ資本のための、「考える力」ではないだろうか。日本において、主体的な学びの必要性
として必ずと言っていいほど、グローバル社会での活躍ということがセットでついてくる。
所詮教育の場での「主体的な学び」は紐付なのであり、フロムが指摘した問題は今も勿論変
わらない。 
 
また、発達した資本主義国の教育の基本的問題について、『​独占資本―アメリカの経済・社
会秩序にかんする試論​』 の中に優れた指摘がある。 3
“​共働きの両親のために、また、社会的安定とますます根なし草となっている都市人口の秩
序正しい管理とのために、学校は発展して10歳台の青少年を預かる大きな託児所となり、
その機能は、社会が若者に学んでもらいたいと思っているようなものを彼らに伝えることと
は、ますます無関係になっている。こうした状況のなかで、教育内容は、教育機関が延長さ
れるにつれて劣悪化した。初等教育課程で教えられていた知識が多かれ少なかれ水増しされ
て、現在の12年教育期間に合わすようにされたにもかかわらず、非常に多くの場合、学校
制度は、数世代前に8年間で教えられていた読み書き算数の基礎知識を12年間で教え込むこ
とに困難を感じている。​”(p476) 
 
・相反する反知性主義 
フロムによれば、専門家の登場は、個人が本来把握すべき問題を、他者の判断に委ねること
で、あるべき個人の思考力を制限することになった。 
 
“​このような影響は二重の結果をもっている。すなわち、一つは聞くこと読むことすべてに
たいする懐疑主義とシニシズムであり、他は権威をもって話されることはなんでも子どもの
ように信じてしまうことである。​”(p276) 
 
 
・新たな権威 
本書3,4章で確認したように、資本主義は伝統的な束縛から人間を解放したが、それは自由
を新たな桎梏とする矛盾を生みだした。フロムは、共同体的権威に代わる、近代人を縛る権
威の存在を語る。 
 
“​近代史が経過するうちに、教会の権威は国家の権威に、国家の権威は良心の権威に交替
し、現代において良心の権威は、同調の道具としての、常識や世論という匿名の権威に交替
した。​”(p279) 
 
・外からの期待への順応 
フロムは、デカルト的な自我観念を否定し、近代的自我とは実は自我の喪失によって得られ
るという逆説を導く。 
 
“​風変わりにならず、他人の期待に順応することによって、自己の同一性についての懐疑は
静められ、一種の安定感があたえられる。しかしその払う対価は高価である。自発性と個性
を放棄することは生命力の妨げとなる。​”(p281) 
 
・無力感の向かう先 
3
 独占資本―アメリカの経済・社会秩序にかんする試論 P.バラン (著), P.スウィージー (著), 小原 敬士 (翻訳) 岩波書店 1967年 
6 
ここまで近代社会が個性を抑圧する傾向にあることと、それが如何に個人の無気力感を惹起
するかを確認した。このいわば「精神の死」は、老衰のような静かな死ではないと、フロム
は言う。溺れる者は藁をも掴むように、少しでも救いをもたらすように見えるデマゴーグ
に、喜んでひれ伏す危険性があるのである。そして本節を下のように結ぶ。 
 
“​人間機械の絶望が、ファッシズムの政治的目的を育てる豊かな土壌なのである。​”​(p282) 
 
2,自由と自発性 
依存なき自由の可能性 
・積極的自由 
“​いいかえれば、積極的な自由は全的統一的なパースナリティの自発的な行為のうちに存す
る。​”(p284) 
 
・自発的活動 
“​自発的な活動は、人間が自我の統一を犠牲にすることなしに、孤独の恐怖を克服する一つ
の道である。​”(p287) 
 
 
自由は如何にして現実的たりうるか? 
・計画経済の必要性 
フロムは、人間が外的な経済法則に奉仕するだけの存在にならないためには、日々の労働が
創造的なものでなくてはならないと指摘する。 
 
”​それにたいする一般的な条件はなんであろうか。社会の非合理的な無計画的な性格は、社
会そのものの計画され協定された努力を意味する計画経済におきかえられなければならな
い。​”(p298) 
 
・民主主義的社会主義 
フロムは、人々に没個性化を強制する競争が必然的に伴う資本主義的生産様式に代わって、
合理的に組織された経済体制を提案する。 
 
“​われわれはこの新しい秩序を民主主義的社会主義と名づけることができる。​”(p299) 
 
当時既にスターリン体制の内実が伝わっていたのか、フロムは、望ましい経済体制を社会主
義と呼ばず、「民主的社会主義」と呼ぶ。フロムは一般的に、まずネガティブな心理状態を
もたらす背景として社会経済的要因を指摘し、次に社会経済的要因を除く途を示すのではな
く、それを個人の努力で自発的に克服するという、矛盾した解決案を提示することが多い。
ここでは、マルクスが、市民社会のもたらす人間性破壊の原因である資本主義を社会主義に
進歩させることを説いたような論理になっている。 
 
最後に 
全編、特に担当した章を読んでいて感じたのは、フロムの現代社会の問題に関する結論が。
マルクスのそれと似通っているということだった。フロムは、一介の学者に過ぎないため、
資本主義克服の道程を描くことはできなかった。マルクスは、労働運動に代表されるプロレ
7 
タリアが生存の要求を通じて、団結することがし資本制経済の弊害を弱め、かつ未来社会に
つながる政治的訓練になることを指摘した。マルクスは団結の大きな意義として、資本主義
による個人の解放に伴う孤独感・無力感の、克服につながることをあげている。資本主義社
会での個人の孤立を説くにとどまったフロムに対して、マルクスのほうが、やはり一歩先ん
じていたと言うべきだろう。 
 
8 

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