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小野田 淳人
東京理科大学大学院・薬学研究科・D3, 日本学術振興会・特別研究員DC
National Research Center for the Working Environment・Copenhagen
幸福度世界1位の国*, デンマークにおける
研究者のワークライフバランス
*2013,2014,2016年の幸福度
第57回生命科学夏の学校 2017年9月3日
 本スライドは、生化学若い研究者の会主催、日本生化学会後援
「第57回生命科学夏の学校」のポスターセッションにて
発表した内容を、文字に起こしてスライドにまとめたものです。
そのため、文字数が多くなっています。
見づらい場合は拡大してご覧ください。
 本スライドの内容は、演者がデンマークのコペンハーゲンにある
National Research Center for the Working Environmentや
University of Copenhagen, Roskilde Universityで
体験したことや現地の人たちに伺った話をまとめたものです。
必ずしも、
すべての研究機関や大学に当てはまるわけではないことを、
心に留めてご覧になっていただけると幸いです。
まえがき
研究 6.0 hr
通勤 1.0 hr
睡眠 8.0 hr
食事 2.5 hr
余暇 6.5 hr
十分な余暇を設け、家族と共に過ごす時間を大事にする
デンマークでは、税金が高いがゆえに「働き過ぎは損だ」という考え方が根強い。彼らにとって、
研究はあくまでも自己実現のための選択肢であり、研究業務に追われることで自分の余暇や家族と
の時間を削ってしまうことは、本末転倒であると考えている。平日は、午前8時~9時に出社し、午
後2~3時には帰宅する(上図) 。残業したとしても午後5時頃までで、夕方以降は必ず自分の時間
を確保している。週末も土日は休み(次スライド)で、年間複数回の長期休暇がある。十分な余暇
を確保することができるのは、研究者と技術員、その他補助員が統率のとれた役割分担をし、風通
しのよいオープンな研究環境を構築している賜物であると考えられる(後述)。
デンマーク研究者の標準的な1日
睡眠
起床
朝食
通勤
研究
昼食
研究
通勤
帰宅
余暇
夕食
余暇
出宅
睡眠
出宅
代表的な1週間のスケジュール
ポスドク(35歳・男性)の場合
日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日
午前 息子と博物館へ
技術員とともに
1週間の予定を確認
セミナーへの参加 論文の執筆 論文の執筆
全体ミーティングで
来週の予定を報告
午後のBBQの準備
午後
自宅で家族そろって
ゆったりと過ごす
論文の執筆 論文の執筆
研究内容に関して
ボスとディスカッ
ション
息子の送迎のために
早めに帰宅
専属技術員と
実験計画について
ディスカッション
仲間を呼んでBBQ
技術員(30歳・女性)の場合
日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日
午前 ガーデニング
担当の研究者と
1週間の予定を確認
動物実験の管理 依頼を受けた実験 依頼を受けた実験
全体ミーティングで
今週の成果を報告
ロードバイクで
サイクリング
午後
自宅で家族とともに
ゆったりと過ごす
実験試薬の在庫確認
今週の実験の準備
依頼を受けた実験
娘の送迎のために
早めに帰宅
英語の勉強会
担当の研究者と
実験計画について
ディスカッション
市内で買い物
准教授(40歳・女性)の場合
日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日
午前
スウェーデンの
別荘でゆっくり
論文の執筆 研究機関で会議
部下である研究者と
ディスカッション
他大学で会議
全体ミーティングの
進行と運営
スウェーデンの
別荘へ向かう
午後
自宅のある
コペンハーゲンへ
他大学で会議 論文の執筆
部下である研究者と
ディスカッション
他大学で会議 論文の執筆
スウェーデンの
別荘でゆっくり
残業 他大学で会議
新たな研究計画の
捻出
統率のとれた役割分担
研究者一人当たりに2~3人の実験技術員
がつく。留学中は、博士課程の学生である
私にも2名の技術員がついてくれて、私が身
につけている実験手法・研究手法を彼らに
伝授するとともに、その補佐を担ってくれ
た。教授や准教授は研究室全体のマネジメ
ントに主眼を置いた業務をこなし、PDや助
教は実際の研究遂行の計画を立て、論文を
執筆することが仕事の中心となる。教授や
准教授はもちろんのこと、PDや助教も実験
を行っている人は皆無であり、実験は技術
員が手を動かすことで進んでいく。さらに、
技術員に加えて、実験動物の管理を専門と
する補助員、すべての実験データの保存先
であるサーバーやインターネット環境を管
理する補助員、毒劇物をはじめとした試薬
の管理を専門とする補助員がついている。
このように、研究者が研究以外の雑務に追
われることは少なく、研究に必要な核とな
る業務に専念することが可能である。
教授
准教授
助教 PD PD PD PD
学生 実験技術員 学生 実験技術員
動物実験補助員 電子機器管理補助員 試薬管理補助員
ラボのスタッフ構造
ちなみに、実験データに関しては、サーバー内からい
つ誰が持ち出し、保存したのかがすべて記録され、電
子危機を管理する補助員によって捏造や不正の防止策
がとられている。
風通しのよいオープンな
研究環境を構築
左図では上下の関係を作っているように
見えるが、実際には、全員の中で上下の関
係は存在しない。全員が教授や准教授に対
する敬いの念をもちながら、教授や准教授
もPDや技術員、補助員を敬う気持ちを持っ
ている。全員が、お互いを「共に議論する
仲間」と認識しているため、どのような地
位の人とも、臆することなく、科学に対し
て純粋に議論でき、円滑な情報の共有、分
業が可能になっている。私が滞在期間中に
感じた、デンマークの研究機関の最大の強
みは、このように上下関係がないオープン
な研究環境を構築していることである。
また、その気質ゆえ、外部の者に対して
も寛容である。異なる文化、思考を持つも
のに対しても分け隔てなく接することがで
きる。実際に在外研究が奨励されていて、
外からの受け入れや海外との連携研究を、
政府が協力的に行っている。
ラボのスタッフ構造
教授
准教授
助教 PD PD PD PD
学生 実験技術員 学生 実験技術員
動物実験補助員 電子機器管理補助員 試薬管理補助員
ちなみに、実験データに関しては、サーバー内からい
つ誰が持ち出し、保存したのかがすべて記録され、電
子危機を管理する補助員によって捏造や不正の防止策
がとられている。
博士学生:自己管理の元、最大効率の成果を上げること
年50万円ほどの研究費が与えられ、その中で最大級の成果を自己管理のもとで上げること
が求められる。特徴的な点は、よい意味での完全放任主義である点と考えられる。通常、日
本やアメリカでは、博士課程の学生が学位を取得できなければ、少なからず指導者にも責任
が問われるが、デンマークでは完全に本人のみの責任となる。そのため、金銭、時間、協力
者等の管理を自らの力で行わなければならない。学生の段階から、自分の研究に主導権を持
ち、自力で組み立てる力が養われ、将来的にラボを運営する立場になったときに必要な各種
マネジメントの術を習得することを見据えている。これは、留学中に実際に学位審査に立ち
会って、学位を取得した学生に伺った内容である。
研究者の待遇と成果の評価
手取り:約 200,000 円/月
博士学生(25歳・女性)の場合 デンマークでは、給与の45~68%が税金や
社会保障費として引かれる。左記の値はすで
に税金が引かれた手取りの額である。
デンマークは消費税を含む各種税金が極端に高く、物価も高い(高いといっても生活必需品は日本と大差はな
い)。しかし、その税金により、医療費、教育費、介護費、高速道路料金、さらには一部の国営の住宅などが完全
無料となっている。そのため、子どもや老後のために貯蓄する必要がほとんどなく、上記の手取りを毎月ほとんど
使いきってしまったとしても困ることは無い。なお、ごく一部の上流階級の高額納税者を除き、国民の9割はこの制
度に納得し、賛同している。こうした社会保障のおかげで、研究者や技術者は、安心して自分達の夢に向かって冒
険できると語っていた。
手取り:約 230,000 円/月
技術員(28歳・男性)の場合
技術員:自分にしかできない実験を身につけること
技術員は、研究室内に最も多くいる存在であり、主に学部卒の者が担っている。技術員
の待遇は、採用される際に、独自性の高い技術やラボの求める技術をどれだけ持っている
かで決まる。技術員は、ラボに所属している間に新たな技術をできるだけ取得し、学ぶも
のがないと判断したときに転職を考える。つまり、技術員は、ラボを渡り歩きながら新た
な技術を身につけてキャリアアップをしていく。そのため、独自性の高い技術をもつラボ
には技術員が殺到する。また、技術員がわたり歩くことで、ラボ間の技術の流動性がもた
らされる。
研究者の待遇と成果の評価
デンマークは消費税を含む各種税金が極端に高く、物価も高い(高いといっても生活必需品は日本と大差はな
い)。しかし、その税金により、医療費、教育費、介護費、高速道路料金、さらには一部の国営の住宅などが完全
無料となっている。そのため、子どもや老後のために貯蓄する必要がほとんどなく、上記の手取りを毎月ほとんど
使いきってしまったとしても困ることは無い。なお、ごく一部の上流階級の高額納税者を除き、国民の9割はこの制
度に納得し、賛同している。こうした社会保障のおかげで、研究者や技術者は、安心して自分達の夢に向かって冒
険できると語っていた。
デンマークでは、給与の45~68%が税金や
社会保障費として引かれる。左記の値はすで
に税金が引かれた手取りの額である。
ポスドク:自分の研究を代表する論文を更新し続けること
数より質が重要視される。5報の小さな論文、2報の中堅論文を出すよりも、1報のインパ
クトの高い研究を世に出すことの方が高く評価される。コンスタントに論文を出し続ける
よりも、研究者として「自分を代表する論文」、これを更新し続けるために研究に従事す
る感覚が強い。大型の予算を獲得する際や新たなポストを獲得する際も、リストに記載さ
れている総論文数や年間あたりの論文数よりも、代表的な質の高い論文を近年出すことが
できているかに焦点が絞られる。
研究者の待遇と成果の評価
手取り:約 350,000 円/月
ポスドク(35歳・男性)の場合
デンマークは消費税を含む各種税金が極端に高く、物価も高い(高いといっても生活必需品は日本と大差はな
い)。しかし、その税金により、医療費、教育費、介護費、高速道路料金、さらには一部の国営の住宅などが完全
無料となっている。そのため、子どもや老後のために貯蓄する必要がほとんどなく、上記の手取りを毎月ほとんど
使いきってしまったとしても困ることは無い。なお、ごく一部の上流階級の高額納税者を除き、国民の9割はこの制
度に納得し、賛同している。こうした社会保障のおかげで、研究者や技術者は、安心して自分達の夢に向かって冒
険できると語っていた。
デンマークでは、給与の45~68%が税金や
社会保障費として引かれる。左記の値はすで
に税金が引かれた手取りの額である。
研究所における男女比
♂1 ♀4.5
1. 家事育児は男女平等の話題であり、「お互いが
一生働き続けることが当たり前」の風潮がある。
税金対策的にも収入源を分けた方が徳らしい。
2. 出産育児休暇は1歳までは必ず取得しなければ
ならない。休暇中の給与は100%保障される。
3. 1歳から入ることのできる保育園が充実してい
て、日本のような待機児童はいない。さらに保
育園から大学までの学費は完全無料である。
4. ミーティングの日程やコアタイム、有給の取得
は子の送迎や学校行事等に配慮されている。
5. 子どもは親だけの責任ではなく、社会全体で育
むべきであるという意識が高く、子育てや出産
でキャリアに悩むことはない。日本での問題は
逆に理解し難い。なお、ヨーロッパの中でもデ
ンマークはとくに働きやすい国であるらしい。
私の滞在した研究所おける男女比は、なん
と1対4.5であった。もともとデンマークにお
ける女性の大学進学率は男性よりも高く、
2012年の時点においては男性の66.3%に対し、
女性は93.5%に昇る。技術員に女性が多いの
はもちろんのこと、私の世話になった教授や
准教授も女性であった。また、男性が少ない
ので、男同士の結束が強い点も特徴的である。
女性研究者が多い理由
女性研究者の進出と社会的支援
デンマークの子育て事情
日本と大きく異なると感じたのは、上述の通り、デンマークにおける子育ては、「親にのみ義務と
責任が課せられるのではなく、社会全体が担うもの」という認識が強いことである。そして、その認
識が、職場において子育てに協力する「意識」を生み出し、子育てを前提とした休暇や配慮した出勤
時間等の「体制」に繋がっていると推測する。実際に、デンマークの街中を歩くと、子ども達に対す
る人々の暖かい対応を見ることができる。
1. デンマークにおける人口100万に当たりの研究者数、技術者数は共に世界
3位と、高水準でバランスがとれている(2012年)。それに対し、日本は
研究者数が9位、技術者数が24位と技術者が少ない。日本でも、技術者や
補助員の地位を確立し、分業できる体制を整えることで研究者が研究に
専念することができ、生産効率を上げることができると考えられる。さ
らに、技術員が各研究室や研究機関を渡り歩くことで技術の流動が加速
され、研究能力の底上げに繋がると想定される。
2. 目上の者に敬意を払うことは大事だが、神経を擦り減らすような行きす
ぎた敬いや過剰な賛美は、言論の風通しを妨げる原因になりかねない。
日本では、往々にして異常とも取れる上下関係が見られる。デンマーク
同様、どのような地位の人とも、臆することなく、科学に対して純粋に
議論できる環境を整えことで、より円滑に研究が進められるようになる
と期待される。
3. デンマークでは「イノベーションは余暇から生まれる」を地で行ってい
る。ためらうことなく十分な余暇をとり、ゆとりある研究生活を送れる
ようにすることが、自由で革新的な発想と着想を可能にしている。
結語:日本に導入してもらいたい点
 この発表では、デンマークの研究機関で見られたメリットばかりを話しましたが、
デメリットがないわけではありません。例えば、早くに帰宅することが普通で、1年
を通してバケーションも多いため、年中無休で1日中研究に没頭したい人にとっては
居づらい環境でしょう。また、分業する体制が整っているため、自分だけが頑張っ
ても技術者の実験が追いつかないなどにより、研究が進まないことも往々にしてあ
ると思います。そういう方にとっては、物足りないと感じてしまうかもしれません。
 デンマークは外部の人を受け入れる下地が整っていると述べましたが、放任主義の
関係上、そこに行って何をしたいのか、何を達成したいのか、その目的をはっきり
させることが重要になります。時に「留学すること」そのものが目的となっている
人がいますが、そういう気持ちで行くと、本当に何もせずに終わってしまう国です。
さらに言うと、先方に対して、何に関してどのように貢献することができるか、こ
れを提示する必要があり、先方は受け入れることに対するメリットを要求してきま
す。どこの国でも同じことですが、目的と貢献できる内容はしっかりと持って留学
に臨むことが大事だと思います。
 今回公開した私の留学体験記が、皆さまのよりよいラボ環境の構築や意義ある留学
に向けての参考になれば、これ以上嬉しいことはありません。
あとがき:もし留学するなら

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