埼玉成恵会病院 外科
清水広久
「行動経済学」を応用した救急医療
意思決定ワークショップの作製
第51回⽇本救急医学会総会・学術集会
The 51st Annual Meeting of the Japanese Association for Acute Medicine
利益相反(COI)開⽰
筆頭演者⽒名:清⽔ 広久
全ての項⽬において該当なし
背景・目的
医療者
「正しく説明すれば、
患者はそれを理解できる。
正しく意志決定できる」
果たしてそうか?
バイアスなし
先延ばし効果,
サンクコストバイアスetc.
医療者
患者
意志決定
コミュニケーション
バイアスなし
現状維持バイアス、サンクコス
トバイアスetc.
決める力あり
限定合理性 「合理性」は一定の条件がそろった
「限定的」なときにしか働かない
バイアスなし
先延ばし効果,
サンクコストバイアスetc.
医療者
患者
意志決定
コミュニケーション
バイアスなし
現状維持バイアス、サンクコス
トバイアスetc.
決める力あり
限定合理性 「合理性」は一定の条件がそろった
「限定的」なときにしか働かない
3つの条件すべてが揃うのは
非常に稀
脳には2つのシステムがある
システム1:直感的な早い思考 システム2:論理的で遅い思考
• 高速で自動的に働き、止
められない
• 考えるのに努力はほぼ不
要
• 印象をすぐ感じたり、連
想するのが得意
•バイアスがある
• システム1で答えが出せな
いときに働く
• 考えるには注意力が必要
• 論理的・統計的思考が得
意
• 最後の決定権はシステム2
が持つ
システム1:直感的な早い思考 システム2:論理的で遅い思考
• 高速で自動的に働き、止
められない
• 考えるのに努力はほぼ不
要
• 印象をすぐ感じたり、連
想するのが得意
•バイアスがある
• システム1で答えが出せな
いときに働く
• 考えるには注意力が必要
• 論理的・統計的思考が得
意
• 最後の決定権はシステム2
が持つ
救急医療現場では、バイアスがかかりやすい
(時間的制約・恐怖や不安はシステム1を優位にする
システム1の誤りにはほとんど気づかない)
Strategy
「行動経済学」を応用した救急医療
意思決定ワークショップの作製
学習目標:
•救急医療現場における意思決定を構造的に捉え、
患者側や医療者が持ち込んでいるバイアスや前提
に気づけるようになる。
•意思決定場面のふり返りを含めて、意思決定支援
のツールとして役立てることができる。
基本構成
1.医療経済学の基本講義:患者の意思決定に関わる構
造・バイアスについての基本的な座学
2.患者側のバイアスを盛り込んだシナリオを用いての
ロールプレイをフィッシュボウル形式で行い、終了後、対
話
3.医療者側のバイアスのシナリオのロールプレイを行
い、どのような提案の方が望ましいか対話
アジェンダ(例)(3時間)
1.患者の意思決定に関わる構造・患者側バイアスについての座学
(30分)
2.患者側バイアス・シナリオのロールプレイ(20分)
3.患者側バイアスの構造化(30分)
4.医療側バイアスについての座学(20分)
5.医療者側バイアス・シナリオのロールプレイ(20分)
6.医療者バイアスの構造化(30分)
7.意思決定支援の改善についての対話(30分)
座学(バイアス例)
•確実性効果
例:
予防接種の後遺症1%の発生率を
高く感じる
客観的には低い確率が主観的には過大評価されたり、高
い確率が主観的には過小評価されたりする
•損失回避
例:
積極的治療(99%効果がない)をやめることで
「QOLを維持し、残された時間を有意義に使う」利得よりも
「生き続けることができない」という損失を恐れる
対策:
フレーミング効果
(参照点の変更)
「利得の喜び」よりも「損失の悲しみ」を大きく感じる
•現状維持バイアス
「まだ大丈夫だから、このままでいい」
例:
抗がん剤治療中の患者さん。
骨転移もあり、疼痛が強くなってた。
主治医は、早めに症状緩和の専門医への受診をすすめるが拒否
対策:
現状が、判断基準になっているので、標準的な治療法を参照点に
変えてもらう為に、将来の選択にコミットする。
変化を避けて現状維持を選ぶ
•サンクコストバイアス
「ここまでやってきたのだから、続けたい」
例:
• 抗がん剤を数種類おこなってきたが、あらたな再発がみつかった。全身
状態も弱ってきており、医師は抗がん剤中止を提案するが、続ける事を
希望。
• 医療者が治療方針を変更するのをためらう。
対策:
過去のコストよりも将来の費用と便益で考えるように促す
過去に投じたコストや労力に対して感情的な執着を持
ち、それに基づいて判断や行動をする
(間違いをおかしたと認めたくない)
•現在バイアス(先延ばし行動)
「今はしたくない」
例:
ダイエットを始めようとしても。今日は食欲を優性し、ダイエットは明
日からにする
対策:コミットメント手段の利用
問い:
「今、1万円もらう。1週間後に1万100円もらう。どっち?」
「1年後に、1万円もらう。1年1週間後に1万100円もらう。
どっち?」
未来に大きな利益を得られる可能性よりも、目先の小さ
な利益を優先する
•利用可能性ヒューリスティック
例:
• がん多発転移の患者さん、抗がん剤をすすめられるが、ネットで、
がんが消えたという民間療法の記事を読んで、試したいと。
• 医療者が 過去に治療法が上手くいかなかった事例をたまたま経験
すると、その適応をためらう。
•代表性ヒューリスティック
例:「芸能人の○○さんが」
頭に思い浮かびやすいものや目立ちやすいものを選択
既に抱いている代表的、典型的イメージを判断や意志決
定に利用してしまう
•確証バイアス
その時点で抱いた直観や観点を裏付けるような情報しか
受け容れず、反対意見には耳を貸さない
システム1:直感的な早い思考 システム2:論理的で遅い思考
• 高速で自動的に働き、止め
られない
• 考えるのに努力はほぼ不要
• 印象をすぐ感じたり、連想
するのが得意
•バイアスがある
• システム1で答えが出せない
ときに働く
• 考えるには注意力が必要
• 論理的・統計的思考が得意
• 最後の決定権はシステム2が
持つ
何をデフォルトとして設定するか?
(デフォルト設定の違い)
• DNRとDNAR:「蘇生行為を行う」というデフォルト設定
→「蘇生行為を行はない」というデフォルト設定
• 臓器提供意思表示:オプトインとオプトアプト
ロールプレイ&フィッシュボウル
ロールプレイ・シナリオ
設定)
70代男性 自営業
呼吸困難を主訴に救急搬送。
以前より心不全にて幾度と入院歴あり。
今回も心不全と診断。
酸素投与、利尿剤、強心剤の投与を現在行っている。
左室駆出率20%台と極めて悪く、
妻と息子が緊急で呼び出された。
家族構成)妻と息子(50代)。妻と同居し、会社員の息子
は別居。
DR「○○さん、残念ながら、このまま治療を続けても改善
の確立は低く、状態が悪くなる可能性が高いです。
呼吸状態も悪くなってきており、人工呼吸器をつなげる
か?また心停止になったときに心肺蘇生を行うか考えてほ
しい。」
妻「先生、今までの入院でも命の危険があると言われて、
退院まで回復しています。これから、効果がでるかもしれ
ないし。わずかな望みがあるなら、やってもらったほう
が、、、」
息子「そうすれば、元通りになりますか?」
DR「今の心機能からは、社会復帰するのは厳しいで
す。」
息子「もう、これ以上は、苦しめるだけなんじゃ、、」
DR「今すぐに決められないなら、少し考えてきて下さ
い」
DR「○○さん、残念ながら、このまま治療を続けても改善の
確立は低く、状態が悪くなる可能性が高いです。
呼吸状態も悪くなってきており、人工呼吸器をつなげるか?
また心停止になったときに心肺蘇生を行うか考えてほし
い。」
妻「先生、今までの入院でも命の危険があると言われて、退
院まで回復しています。これから、効果がでるかもしれない
し。わずかな望みがあるなら、やってもらったほうが、、、
この前、芸能人の△△さんも心不全から奇跡の生還って」
息子「そうすれば、元通りになりますか?」
DR「今の心機能からは、社会復帰するのは厳しいです。」
息子「もう、これ以上は、苦しめるだけなんじゃ、、」
DR「今すぐに決められないなら、少し考えてきて下さい」
Dialogue
バイアス
○○○
△△△
医療者
患者
意志決定
コミュニケーション
決める力
バイアス
○○○
△△△
合理性を構成する3条件
1.この学習の場を全体的に評点するといかがですか? 平均4.5
2.この学習の場の内容は,あなたの求めにあっていましたか? 平均4.4
3.この学習の場の理解度はどの程度でしたか 平均4.4
4.この学習の場の環境は適切でしたか? 平均5.0
5.この学習の場の内容は,あなたが学習を続けるうえで役立つ程度はどれほどで
すか? 平均4.6
6.この学習の場での学習支援者の準備,プレゼンテーション,感化/刺激,全体
でいかがですか? 平均4.8
7.この学習の場を同僚に勧めたいですか? 平均4.8
(1:全くそう思わない⇄5:強くそう思う)
Analysis
「丁寧に説明しているのに、
なぜ伝わらないか分かった」
「構造的に意志決定のプロセスを捉えやすい」
知らず知らずに持ち込んでいる医療
従事者のバイアスに気づけた
「リバタリアン・パターナリズム」の導入
「患者の自由の尊重(リバタリズム)」と
「患者の自由への干渉(パターナリズム)のジレンマの解決
*多職種・多視座による現場のコンセンサスが重要
*熟慮支援型^ナッジの活用
*意思決定プロセスの構造化と共有
Consideration
(ダニエル・カーネマン)
図表:意思決定の新しいトレンド(トーマス.H.ダベンポート)
(HBR 2010.3より引用)
意思決定ガイドの国際基準IPDAS
(ダニエル・カーネマン他)
「意思決定の質」を管理するチェックリスト
1.利己的バイアスのチェック
2.感情ヒューリスティックのチェック
3.グループシンクのチェック
4.顕著性バイアスのチェック
5.確証バイアスのチェック
6.利用可能性バイアスのチェック
7.アンカリングバイアスのチェック
8.ハロー効果のチェック
9.サンクコストの錯誤、授かり効果のチェック
10.過信、計画錯誤、楽観的バイアス、ライバル軽視のチェック
11.最悪の事態に備えているかどうかのチェック
12.損失回避のチェック
• 意思決定者が自問すべき質問
• 提案者に問うべき質問
• 提案を評価するための質問
(ダニエル・カーネマン他)
「意思決定の質」を管理するチェックリスト
1.利己的バイアスのチェック
2.感情ヒューリスティックのチェック
3.グループシンクのチェック
4.顕著性バイアスのチェック
5.確証バイアスのチェック
6.利用可能性バイアスのチェック
7.アンカリングバイアスのチェック
8.ハロー効果のチェック
9.サンクコストの錯誤、授かり効果のチェック
10.過信、計画錯誤、楽観的バイアス、ライバル軽視のチェック
11.最悪の事態に備えているかどうかのチェック
12.損失回避のチェック
• 意思決定者が自問すべき質問
• 提案者に問うべき質問
• 提案を評価するための質問
今後の課題:
医療現場版「意思決定の質」
チェックリスト・構造化マップの開発
Conclusion
• 行動経済学を応用した意思決定ワークショップは、病状説
明〜意思決定のコミュニケーションを構造的に捉え、修正する
のに役立ち、患者さん個々に合わせたテイラード介入へとつ
ながると考えられた
• 患者さん側でなく、医療者側が持ち込むバイアスに気づき、そ
れを構造化し、多職種で連携(コミットメント、フィードバッ
ク、コンサルテーション)することで改善していく事が重要と
考えられた
• 意志決定に時間的制約のある救急医療現場でも、意思決定プ
ロセスを構造化することで、バイアスの少ない意思決定へつな
がると考えられた。
Conclusion
• 行動経済学を応用した意思決定ワークショップは、病状説
明〜意思決定のコミュニケーションを構造的に捉え、修正する
のに役立ち、患者さん個々に合わせたテイラード介入へとつ
ながると考えられた
• 患者さん側でなく、医療者側が持ち込むバイアスに気づき、そ
れを構造化し、多職種で連携(コミットメント、フィードバッ
ク、コンサルテーション)することで改善していく事が重要と
考えられた
• 意志決定に時間的制約のある救急医療現場でも、意思決定プ
ロセスを構造化することで、バイアスの少ない意思決定へつな
がると考えられた。
意思決定の「中身」ではなく、
その「プロセス」に体系的な検討を加えるべきである
*「意思決定」というイベントは存在しない。
「意思決定」はプロセスである。
Thank you!
Thank you!
この場で出会えた皆様に
感謝致します。

救急医学会2023(発表).pdf