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乳房の解剖と乳汁生成・分泌過程
講師: 菊池 新(新生児科医・IBCLC)
母乳育児支援に携わるスタッフ対象学習会
産科病棟・外来・小児科・NICU・GCU・PICU
平成30年度 高槻病院母乳育児学習会
日時:平成30年6月8日 金曜日 17:30-18:30
場所:リハビリ病院 コモンズ
はじめに
私たち医療者が母乳育児について
正しく理解し、すべての母親に
必要かつ十分な支援を行うことが
重要なのだと思いますか。
支援の状況と栄養方法(1)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
いいえ
はい
38.3
62.0
56.0
36.1
5.7
1.9
母乳栄養
混合栄養
人工栄養
<出産直後から母子同室だった>
出典:厚生労働省「平成17年度乳幼児栄養調査」
支援の状況と栄養方法(2)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
いいえ
はい
34.9
58.2
58.5
39.9
6.6
2.0
母乳栄養
混合栄養
人工栄養
<出産後30分以内に母乳を飲ませた>
出典:厚生労働省「平成17年度乳幼児栄養調査」
支援の状況と栄養方法(3)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
いいえ
はい
32.3
51.5
59.7
46.1
8.0
2.4
母乳栄養
混合栄養
人工栄養
<欲しがるときはいつでも母乳を飲ませた>
出典:厚生労働省「平成17年度乳幼児栄養調査」
母乳育児に関する妊娠中の考
え
出典:厚生労働省「平成17年度乳幼児栄養調査」
43.1
52.9
1.0 2.7 0.3
ぜひ母乳で育てたい 母乳がでれば母乳で育てたい
粉ミルクで育てたい 特に考えなかった
不詳
学習目標
1. 母乳分泌に関係する乳房の解剖
について知る。
2. 乳汁生成の過程について知る。
3. 母乳分泌の開始や維持を調整し
ている仕組みについて知る。
乳房の構造
ANATOMY OF THE BREAST
乳房の解剖学的構造
腺胞(腺房)
乳輪
乳頭
乳管
筋上皮細胞
細乳管
乳腺葉
モントゴメリー腺
乳房の解剖図
水野克己・水野紀子:母乳育児支援講座, 南山堂, 東京, 2011, p.2
乳房全体 乳腺房
乳房の構造
• 乳房は大胸筋の上側に存在
• 乳腺組織と脂肪組織が結合組織(主にクーパー靱帯)で支え
られ、表面は皮膚で覆われている。
• 乳房重量:通常150-200g→授乳中は400-500g
• 乳腺組織と脂肪組織:非授乳期は1:1、授乳期は2:1
• 乳房の脂肪組織量は乳汁産生量にも乳汁蓄積量にも関係し
ない。
• 乳房の平均乳汁蓄積量と生産量
平均乳汁蓄積量 1日の平均乳汁生産量
左 169mL 387L
右 175mL 407L
乳腺葉・小葉・乳腺房
【乳腺葉】
• 乳腺組織には7~10個の乳腺葉が存在する。
• ひとつの乳腺葉は20~40個の小葉からなる。
【小葉】
• ひとつの小葉は10~100個の腺房からなる
• およそ10~100個の細乳管を有し、主乳管へとつながる。
• この小葉と細乳管を含め、「終末乳管小葉単位」と呼ぶ。
【乳腺房】
• 乳腺腔を囲むようにして1層の腺房細胞(乳汁分泌細胞)が配
置され、その周りには筋上皮細胞と毛細血管が網の目のよう
に張り巡らされている。
乳管・クーパー靱帯・乳頭
【乳管】
• 乳管の主な作用は乳汁の輸送
• 細乳管は小葉からのび合流して
大きな乳管となる。
• 最終的には1本の太い主乳管に
合流し、乳頭表面に開口する。
【クーパー靱帯】
• 乳房を円錐形に保つ働きをしている。
• 乳房を垂直方向に走り、乳房の真皮に到達している。
【乳頭】
• 授乳中の平均乳頭直径は16mm、乳管開口部は平均9カ所
モントゴメリー腺
(乳輪腺)
• 乳輪にある小結節の隆起で、皮脂腺(アポクリン腺)である。
• 乳頭先端に開口する乳腺と同様の分泌組織から成る。
• 皮脂腺とともに乳腺の開口部も含まれているため、皮脂腺からの分
泌物と母乳によって母親の独特のにおいを作り上げる。
• このにおいは母親の食生活、代謝、遺伝的要素によって変化し、児
の哺乳意欲を刺激するなどの作用がある。
• モントゴメリー腺の数は平均8.9個で、児の鼻が接しやすい乳房上外
側に多い。
• モントゴメリー腺の数が多いほど、生後3日以内の児の体重減少は
少なく、児の吸着や吸啜行動に影響を与えている。
母乳のにおいについて
• 母乳のにおいは哺乳行動を刺激する。
• 母親のにおいを嗅がせると哺乳をするような口の動きを
する。
• 児は母親の体臭を好むため、体臭を消すような行動は
なるべく控えた方がよい。
• 乳頭の消毒は乳頭の損傷など悪影響のみならず、乳頭
のにおいを変えるため、児の吸着が難しくなるかもしれ
ない。
• 生まれて3日目には母親のにおいを識別できることも知
られており、嗅覚を通じた母子愛着形成はその後の母乳
育児にもよい影響を与える。
どんな乳房や乳頭でも
母乳育児は可能
ほとんどの女性は問題なく母乳で育てていると伝えて
安心してもらう
• 身体のほかの部分、例えば耳・鼻・手や足の指は形
や大きさはさまざま
• 乳房と乳頭もそれぞれ違う形をしているものの、ごく
わずかの例外を除けば完全に機能
• 出産前のさまざまな方法(ブラジャー、クリーム、乳
房マッサージ、乳頭の手入れ、ブレストシェルなど)
は母乳育児の助けにならない
• 乳頭を「鍛える」ことはダメージを与えるおそれも
赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシック・コース, 医学書院, p77
乳頭の形態分類
水野克己・水野紀子:母乳育児支援講座, 南山堂, 東京, 2011, p.149
乳頭の形態
【陥没乳頭】
• 胎児期の乳腺発達過程で間葉性組織増殖の欠如により生じ
た陥没が、成長期に盛り上がらなかった場合を言う。
• 乳頭基部に癒着があると、pinch testで乳頭が引き込まれる。
• 発生頻度:
母乳育児を希望する妊婦の7-10%、産後7日~7%
【扁平乳頭】
• 陥没乳頭や扁平乳頭は適切な吸着を難しくすることはあって
も、授乳を不可能にすることはない。
乳頭ケアの手技と効果について
• ホフマンテクニック
①両手の親指を乳頭基部にあて、乳頭基部の組織を圧迫
②左右に親指を引っ張る
乳頭を引っ張り出し、乳頭基部の組織を柔軟にする
これを親指をつける部位を変えて1日5回行う
• ブレストシェル
伸展しにくい陥没乳頭のための補助器具
• その他:乳頭吸引器、改造シリンジなどの方法もある
妊娠中からの乳頭ケアが母乳育児に対して効果があるという
エビデンスはなく、トラブルや不安増大の原因にもなりうる。
乳頭や乳輪、乳房は特に産後1か月間で著明な変化を認める。
ルチーンで妊娠中の乳頭ケアは必要がないことを説明する。
2018年改訂版10か条
NEW TEN STEPS TO SUCCESSFUL BREASTFEEDING
施設として必須の要件
1a. 「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」と
世界保健総会の関連決議を完全に順守する。
1b. 乳児栄養の方針を文書にしスタッフと親にもれなく
伝える。
1c. 継続したモニタリングとデータ管理システムを
確立する。
2. スタッフが母乳育児を支援するための十分な知識、
能力、スキルを持つようにする。
臨床における必須の実践
3. 母乳育児の重要性と方法について、妊娠中の女性およびその家族
と話し合う。
4. 出産直後からのさえぎられることのない肌と肌との触れ合い(早期
母子接触)ができるように、出産後できるだけ早く母乳育児を開始
できるように母親を支援する。
5. 母親が母乳育児を開始し、継続できるように、また、よくある困難に
対処できるように支援する。
6. 医学的に適応のある場合を除いて、母乳で育てられている新生児
に母乳以外の飲食物を与えない。
7. 母親と赤ちゃんがそのまま一緒にいられるよう、24時間母子同室
を実践する。
8. 赤ちゃんの欲しがるサインを認識しそれに応えるよう、母親を支援
する。
9. 哺乳びん、人工乳首、おしゃぶりの使用とリスクについて、母親と
十分話し合う。
10. 親と赤ちゃんが継続的な支援とケアをタイムリーに受けられるよう、
退院時に調整する。
乳汁生成の段階
THREE STAGES OF LACTOGENESIS
乳汁生成の3段階:模式図
妊娠
16-22
週
Ⅰ期
Endocrine Control
Ⅱ期
Ⅲ期
Autocrine Control
プロゲステロン
出
産
受
胎
産後
3-8
日
プロラクチン
©2004 kellymom.com(一部改変)
乳汁生成Ⅰ期
• 妊娠16週ごろから産後2日まで
• この時期に分泌される乳汁を初乳colostrumと呼ぶ
• 乳糖、総蛋白、 免疫グロブリンが増加し、乳汁産生のための
基質が集められる。
• 乳腺房の上皮細胞が分泌細胞に分化し、乳腺葉が大きくなっ
て、乳房のサイズも大きくなる。
• 乳糖とαラクトグロブリンが乳管腔から間質に移行し、血中の
濃度が上昇する。(腺房細胞の細胞間隙があいているため)
• 産後1~2日間は胎盤由来のプロゲステロンが消失する時期
であり、初乳の分泌は少ない。
• 分泌量は10~100ml/日、平均30ml/日
• 出産直後より頻回授乳や搾乳で乳頭・乳輪に刺激を与えるこ
とで、乳汁生成Ⅱ期に移行しやすくなる。
乳汁生成Ⅱ期
• 乳汁分泌が増加し(乳汁来潮)、確立するまでの産後3~8日
目ごろまで
• 胎盤が娩出され、プロゲステロン・エストロゲン・ヒト胎盤性ラ
クトーゲン(hPL)の急激な低下が引き金となる
• 乳汁分泌が確立されるためにはプロラクチン・インスリン・コ
ルチゾールの作用も必要
• 分泌後36~96時間には腺房細胞が膨張し細胞間隙が閉じ、
それにより乳汁生成が急激に増加
(この時期、乳房緊満感や痛みを訴えることがある。)
• Na・Cl・蛋白質濃度が低下し、乳糖・乳脂肪濃度が上昇
• この時期の母乳は移行乳と呼ばれ、分泌量は平均500ml/日
• 乳汁来潮の遅れ:分娩後72時間以降の場合
乳腺細胞間隙の変化
毛細血管
産後数日は
細胞間隙が広い
乳汁
腺房細胞
毛細血管
細胞間隙が閉じ、
乳汁が一気に増加
乳汁
Hale TW. Medications and Mother's Milk. 9th ed. Hale Publishing, Texas, 2000.
腺房細胞
乳汁生成Ⅲ期
• 産後約9日を過ぎて、乳汁産生が維持される時期
• 母乳産生量は1回の授乳や搾乳により、乳房内から
排出される乳汁量によって決定される
• これをオートクリン・コントロールという
• 乳汁分泌維持には、児が有効に乳汁を飲みとること
または搾乳が必要
乳汁生成Ⅲ期の母親では
• 授乳回数が多いほど、乳汁産生が多くなる。
• 授乳回数が同じでも、赤ちゃんの要求が増すにつれ
て、1回の授乳で飲む量は多くなる。
• 授乳後に残った乳汁の量により、乳汁の産生は影響
を受ける。
• 赤ちゃんが乳房から飲み取る量が次回の産生量の
目安になる。
そのため赤ちゃんが欲しがったら欲しがるだけ
十分飲ませることが重要!
乳汁生成の3段階:まとめ
段階 期間 特徴
乳腺
発育期
妊娠~ 乳腺が発育し、乳房の大きさ、重量が増大する。
エストロゲンとプロゲステロンの作用により乳管や
乳腺組織が増殖する。
乳汁生成
Ⅰ期
妊娠中期~
産後2日
妊娠中期~後期の間に乳汁産生を開始する。
乳汁分泌細胞は腺房細胞へと分化する。
プロラクチン刺激により乳腺上皮細胞が乳汁を分泌する。
乳汁生成
Ⅱ期
産後3~8日 プロゲステロン・エストロゲン・hPLの母体血中濃度が
急激に低下する。
乳腺細胞間隙が閉じる。
乳汁の分泌量が増加し、乳房に熱感や緊満を感じる。
乳汁生成
Ⅲ期
産後9日~
退縮期
オートクリンコントロール(需要と供給のバランス:
乳汁産生量は児が飲み取った量)で調整される。
乳房の大きさは産後6~9か月で縮小する。
乳房
退縮期
最後の授乳
~40日
分泌抑制作用のあるペプチドの働きにより乳汁分泌が
低下する。母乳中のNa濃度が増加する。
母乳分泌の調節
PHYSIOLOGY OF BREASTMILK SUPPLY
大事なキーワードは2つ!
乳汁生成 時期 調節機構
1期 16週~産後2日
エンドクリン・コントロール
内分泌的調節
Endocrine Control
2期 産後3~8日
3期 産後9日~
オートクリン・コントロール
局所的調節
Autocrine Control
エンドクリン・コントロー
ル
• 母乳分泌が内分泌物質(ホルモン)の放出や抑制に
より、その生産量が調節されること。
• 乳汁生成Ⅱ期は児が乳房を吸啜する刺激で
下垂体前葉からプロラクチンが分泌され、
腺胞細胞で乳汁を産生する。
• さらに下垂体後葉からオキシトシンが分泌されて
筋上皮細胞を収縮させ、射乳反射を起こし、
母乳を乳腺房から押し出す。
脳下垂体ホルモン
プロラクチンとオキシトシ
ン
プロラクチン オキシトシン
産生部位 下垂体前葉 視床下部
分 泌 下垂体前葉 下垂体後葉
作用部位 乳腺細胞 腺胞の平滑筋
主な作用 乳汁産生促進(催乳) 乳管への乳汁放出(射乳)
子宮復古の促進
構 造
妊娠授乳期のホルモン
乳汁生成の3段階:模式図
妊娠
16-22
週
Ⅰ期
Endocrine Control
Ⅱ期
Ⅲ期
Autocrine Control
プロゲステロン
出
産
受
胎
産後
3-8
日
プロラクチン
©2004 kellymom.com(一部改変)
プロラクチン(PRL)
• 乳汁分泌の開始と維持に必須のホルモン
• 血中濃度は妊娠末期にかけて上昇
(非妊娠時10-20ng/mL→妊娠末期200-400ng/mL)
• プロゲステロン・エストロゲンの血中濃度が急激に低下すると
プロラクチンが放出される
• 胎盤娩出によるhPLの低下は、PRL作用の発現を促す。
(PRLとhPLは乳腺受容体で競合すると考えられている)
• 視床下部のドーパミン低下はPRL放出を促し乳汁産生を起こ
す。
• 視床下部と下垂体を結ぶ神経回路が障害されるとPRL濃度
が上昇する。
• プロラクチンの作用により、母親はリラックスし眠気を催す。
プロラクチン濃度
• 日内変動:夜間(睡眠中)のほうが高値
• 授乳期間を通じてゆっくり低下
• 授乳している限り、児の乳頭刺激(授乳)によって一過性に上昇
• 吸啜により上昇し、授乳回数が多いほど濃度が上昇
24時間に8回以上の授乳で、次の授乳までの濃度低下を防げる
• 母乳産生の開始と維持に不可欠だが、一旦母乳産生が確立すれ
ば高濃度でなくてもよい。
• プロラクチン濃度と母乳産生量とは必ずしも相関しないが、
2人同時に授乳すると濃度は2倍に上昇し2人分の母乳を産生
• 吸啜から45分でピークに達し、血中濃度は約2倍に達する。
• 分娩後授乳しなければ、分娩後7日から2~3週間くらいで非妊娠
時のレベルまで低下
プロラクチン濃度の変化
プロラクチン受容体理論
• 早期に頻回授乳をした方が、乳汁産生がより早く増加するこ
とが知られており、その理由は、吸啜が乳腺のPRL受容体の
発現を促すからだと考えられている。
• プロラクチン受容体の数は乳汁生成の初期に増加し、その後
は一定であると報告されている。
• 分娩後4日間の経産婦の血清PRL濃度は、初産婦に比べて
いくぶん低いにも関わらず、児が飲む母乳量は多いという報
告がある。その理由は経産婦のPRL受容体は初産婦より多
いため、PRL濃度が低くても十分な乳汁産生ができることを
意味する。
初
産
婦
経
産
婦
プロラクチン抑制因子(PIF)
• 視床下部から産生される物質で、ドーパミンそのものやドー
パミン関連物質をさす。
• 下垂体前葉からのPRL放出は、このPIFによる制御を受けて
いる。
• ブロモクリプチンはドーパミン様作用を持ち、PRLの作用を抑
制する
• ドンペリドン(ナウゼリン®)、メトクロプラミド(プリンペラン®)、
フェノチアジン誘導体(ノバミン®・ウインタミン®)、レセルピン
(アポプロン®)はPIFの作用を抑制しPRLを上昇させると考えら
れている。
オキシトシン
• 視床下部の視索上核と室傍核で作られる、9つのアミノ酸か
ら構成されるペプチドホルモン。
• 生殖と成長に深く関わり、排卵や射精を促し、分娩や授乳に
は必須の物質である。
• 児の吸啜刺激に反応し、下垂体後葉からパルス状に分泌さ
れ、筋上皮細胞に作用し、腺房内から乳管に乳汁を分泌させ
る射乳反射を起こす。
• 母親の子宮筋収縮を促し、胎盤娩出を助け、産後出血を少な
くするとともに、射乳反射を促す。
• 神経伝達物質としても働き、鎮静作用、母親のストレスや不
安の軽減、愛着行動を促進する作用、痛みに対する閾値を
上げる作用、社会性を高める作用、信頼する心を築く作用
(絆の形成)があると推測されている。
ラットにおける
オキシトシン注射の効果
ストレスホルモンの
血中濃度が低下する
傷の治癒が
速くなる
痛みの閾値が
上がる
学習能力の向上
好奇心が強くなる
恐怖にかられず
落ち着く
筋肉の緊張が
減る
心拍数と
血圧の低下
尾の温度の
低下
体重増加 胃腸がより効率的に
働き、栄養を取りこ
む
ほかの個体との相互作用が
増え、子ども、パートナー、
ほかのラットとの絆が形成
される
kerstin Uvnas Moberg: The Oxytocin Factor, 2000.
授乳におけるオキシトシンの役
割
• 射乳反射:乳汁を乳房より押し出す。
• プロラクチンの分泌を促進し、乳汁産生を増す。
• 母体の熱を再分配する(児を暖めるため)。
• 体温の栄養貯蔵所から栄養物を動員する。
• 母乳の消化・吸収を促進し、体重を増加させる。
• 母親の血圧とストレスホルモンを下げる。
• 母親にやすらぎを感じさせる。
• 母親が愛情や絆に積極的になる。
• 児のソーシャルメモリーとやすらぎを誘発する。
射乳反射のサイン
 産後すぐ、オキシトシン反射※のサインを感じることがある。
※オキシトシン反射=射乳反射
• 子宮収縮の痛みを感じる。 ときに急激な出血を伴う。
• 突然、喉の渇きを覚える。
• 乳房から乳汁がほとばしったり、吸っていない方の乳房から
乳汁が漏れる。
• 乳房にしぼられるような感覚がある。
(しかし、母親がいつも身体の感覚を感じるとはかぎらない。)
 射乳が起これば、哺乳のリズムは速いものからゆっくりとした
深い吸啜と嚥下のリズムに変わる。
赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシック・コース, 医学書院, p134
射乳反射の促進
 オキシトシン反射を促進するには
• 赤ちゃんのことを嬉しく思ったり、自分の母乳が一番だと自
身を持ったりすること。
• 授乳のときにリラックスしたり快適と感じること。
• 少量の搾乳や乳頭をやさしく刺激すること。
• 赤ちゃんを見たり匂いを嗅いだり、
触ったり、応えたりできるように、
赤ちゃんを母親のそばに置くこと。
• 必要なら、誰かに頼んで母親の
背中の上部、とりわけ背骨の両側を
マッサージしてもらうこと。
赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシック・コース, 医学書院, p134
射乳反射の促進
赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシック・コース, 医学書院, p135
オートクリン・コントロー
ル
• 乳汁生成Ⅲ期になると、授乳後に乳房内に残った量
によって乳汁産生量が調整される。
• 授乳回数が多いほど乳汁産生が多くなる。そして、
乳房がどのくらい空になったかが、次回の授乳まで
の乳汁産生の目安になる。
• その調節には乳汁産生抑制因子feedback inhibitor
of lactation(FIL)という蛋白が重要な役割を担うと考
えられている。
オートクリン・コントロー
ル
空になる
射乳反射
乳汁流出
充満する
授乳または搾乳
αラクトアルブミン産生増加
αカゼイン産生増加
乳汁産生↑により乳腺房が満ちてくる
αラクトアルブミン産生減少
αカゼイン産生減少
乳腺房はごく少量の
乳汁を含むのみ
乳腺房は乳汁で膨隆
再活動
休止期
乳汁流出がない場合
授乳または搾乳
乳房内
水野克己・水野紀子:母乳育児支援講座, 南山堂, 東京, 2011, p.24
乳汁分泌抑制因子(FIL)
• FILは腺房細胞で産生され、乳汁中に分泌される。乳汁中の
FILは、再び腺房細胞に取りこまれ、乳汁産生を抑制する。
• 乳汁が乳房に長時間貯留するとFIL濃度が上昇し、長期的な
乳汁分泌抑制効果を持つと考えられている。
• FILは短期(時間単位)の乳汁分泌抑制効果を持ち、乳糖と蛋
白質の分泌に作用して、乳汁の産生量を制御する。
• FILはヤギ、ウシ等の乳汁にも存在し、ヤギを用いた実験では
乳房から乳汁を除去し同じ量の生食で置きかえたところ、乳
汁産生は低下しなかった。しかしFILを添加すると乳腺組織で
も培養細胞でも乳汁の産生や、たまっている乳汁の分泌も抑
制された。
• ウサギの実験によれば、FILはプロラクチン受容体に対する
感受性の低下や細胞分化の抑制を起こす。
乳汁分泌開始を早めるには
~エンドクリン・コントロール~
• なるべく生後早期から授乳を開始する。
• 頻回の吸啜刺激によりプロラクチンやオキシトシンが
上昇し乳汁産生や射乳が促進される。
• 早期頻回授乳は乳腺細胞のプロラクチン受容体の
数を増加させ、乳汁産生能力を高める。
• 赤ちゃんが乳房から効果的に乳汁を飲みとれるよう
適切な支援を行い、効果的に哺乳できない場合は
定期的な搾乳の支援を行う。
• 母親の強い痛みやストレスが軽減できるような治
療、ケア、環境を提供する。
乳汁産生量を増加させるには
~オートクリン・コントロール~
• 乳汁生成Ⅲ期に入ると、左右それぞれの乳房で産
生される乳汁は、短期的には、前回どれだけ乳房か
ら除去されたかで決まる。
• 乳汁が乳房内に残っていると、FILの濃度が高くな
り、乳汁産生が抑制される。
• 赤ちゃんに乳房から乳汁を飲みとってもらうか、搾乳
して乳房を空に近い状態にしておくことが、乳汁分泌
の維持に必要である。
母乳分泌の生理:まとめ
• 乳汁生成Ⅰ期からⅡ期への移行は、ホルモンの急
激な変化によるものである。
• 乳汁産生の確立のためには、分娩後できるだけ早
期から乳汁の除去(児による有効な吸啜もしくは搾
乳)を開始しなければならない。
• 短期的な乳汁産生量は、乳房をできるだけ「空」にし
た方が多くなる。
• 乳汁が乳腺房内に残っていると、FILにより、産生が
低下する。
主な参考図書
• 日本ラクテーション・コンサルタント協会:母乳育児支援スタン
ダード第2版, 医学出版, 2015.
• 赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシッ
ク・コース, 医学書院, 2009.
• 水野克己:母乳育児学, 南山堂, 東京, 2012.
• 水野克己・水野紀子:母乳育児支援講座, 南山堂, 東京,
2011.
• Hale TW. Medications and Mother's Milk. 15th ed. Hale
Publishing, Texas, 2012.
Take Home Message
• 乳房や乳頭は女性によって形態が異なっており、ご
くわずかな例外を除いて完全に機能している。
• 乳汁生成の過程は妊娠中から始まり、胎盤の娩出
を契機とした急激なホルモン変化により乳汁生成が
始まる。
• 乳汁生成の確立には生後早期からの頻回の哺乳や
搾乳が、またその維持には乳房を「空」に近い状態
にする哺乳や搾乳が必要である。

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Editor's Notes

  1. まず乳房全体の構造についてお話しします。 乳腺組織と脂肪細胞はクーパー靱帯などの結合組織で支えられています。 乳房の重さは通常150-200gで、授乳中は400-500gにもなります。 乳房の形や大きさは女性によりさまざまであり、母乳の産生量は乳房の大きさと関係ありません。 授乳開始6-9か月後には乳房サイズは縮小しますが、乳汁産生量は変わりません。 乳房平均乳汁蓄積量は左右それぞれ170ml前後で、一日乳汁生産量はそれぞれ400ml前後です。 乳腺組織には7-10個程度の乳腺葉が存在します。 ひとつの乳腺葉は20-40個の小葉から成り立っています。 そしてひとつの小葉はおよそ10-100個の細乳管を有し、主乳管へとつながります。 乳管の主な作用は乳汁の輸送であり、貯蔵する働きはありません。 乳管の主な作用は乳汁の輸送です。 さきほどの細乳管が小葉から延び合流して大きな乳管となり、最終的に1本の太い主乳管に合流し 乳頭表面に開口します。この乳管の数には4~18本と個人差があり、平均すると9本です。 授乳中の女性の乳頭の平均直径は16mmです。 乳腺房の断面を見てみましょう。(右上図) 細乳管を取り囲むように、一層の腺房細胞(乳汁分泌細胞)が配置されており、 その周囲には筋上皮細胞と毛細血管が網の目のように張り巡らされています。 乳頭が刺激されて下垂体からオキシトシンが分泌されると、この筋上皮細胞を 収縮させ、乳汁を乳管内に押し出します。これが「射乳反射」です。 乳輪にはモントゴメリー腺という小結節が平均8.9個あります。 モントゴメリー腺には皮脂腺とともに乳腺の開口部も含まれているため、皮脂腺からの分泌物と 母乳によって母親の独特なにおいを作り上げる。児の鼻が接しやすい乳房上外側に多い
  2. 乳汁生成Ⅲ期:産後9日からをさします。 授乳をしなくなり、乳房の退縮が始まるまでがこの乳汁生成Ⅲ期となります。 ★プリントとスライドでグラフ下段の日数がややこしいので修正しています。
  3. 【乳汁生成Ⅰ期】 妊娠中期(16週)~産後2日くらいまでの乳汁を分泌できるようになる時期をさします。 乳汁分泌細胞が腺房細胞へと分化し、プロラクチン刺激により乳汁を産生します。 この時期に得られる母乳は「初乳」と呼ばれ、Na、Cl、免疫グロブリンやラクトフェリンなどの感染防御因子を多く含みます。
  4. 【乳汁生成Ⅱ期】 乳汁分泌が増加・確立する時期で、産後3~8日を指します。 分娩により胎盤が娩出され、母親のプロゲステロン・エストロゲン・hPLの血中濃度が急激に低下すると、プロラクチンの作用が前面に出て、乳汁生成Ⅱ期が開始される。 乳汁生成Ⅱ期の開始には、プロゲステロンの急激な低下が必須だが、母乳分泌の確立にはプロラクチン、インスリン、コルチゾールが必要である。
  5. 産後2、3日は細胞間隙が開いており、NaやCl、蛋白質が毛細血管から 間質を通り、乳腺腔内に移行しやすく、これが乳汁生成1期の状態です。 産後36時間ごろになるとプロゲステロン低下の影響で腺房細胞が膨張し、 産後72時間までに細胞間隙が閉じます。 それにより乳汁中のNa、Cl、蛋白質の濃度が低下して、反対に 乳糖や乳脂肪が上昇するしくみになっています。 これが乳汁生成2期以降の状態です。
  6. 乳汁生成Ⅲ期:産後9日からをさします。 授乳をしなくなり、乳房の退縮が始まるまでがこの乳汁生成Ⅲ期となります。 ★プリントとスライドでグラフ下段の日数がややこしいので修正しています。
  7. アンダーライン部分が変更箇所
  8. (スライドを読み上げた上で)