経営分析論Ⅱ⑤
投下資本利益率とデュポンシステム(3)

事業改革と財務指標
• カンブリア宮殿:富士フイルムHD社長 古森社長の回を観て,

下記の点を整理してみよう。

・連結売上高の推移:2000年3月期から2011年3月期までの変化

・新たな稼ぎ頭を育てろ:化粧品,医療機器,液晶パネル

・ライバル コダック社の存在

・フィルムカメラからデジタルカメラへの急激な移行

・富士フイルムにあってコダックにないもの

 ①日本の経営者と米国の経営者の考え方の違い

 ②多角化の幅と技術の深さ

・液晶テレビ生産に不可欠なタックフィルムの世界シェア
カンブリア宮殿:富士フイルムHD
• フィルムカメラとデジタルカメラの国内出荷台数の推移
フィルム業界の状況2000 32% 2007 5
3
0
2,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
デジタルカメラの出現により,フィルムカメラは過去の技術に
• フィルムの国内出荷本数の推移
フィルム業界の状況
IT 9
1 2000 19% 8,670
2009 3,795
4
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
40000
45000
50000
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
フィルムカメラの減少はフィルムの市場縮小につながる。
「トヨタ自動車が自動車を作れなくなったら?」
• 米国のフィルム業界最大手 イーストマン・コダック社

写真フィルムの最大手であり,世界で初めてロールフィルムおよび

カラーフィルムを発売したメーカー

また,デジタルカメラを開発したメーカーでもある。
• イノベーションのジレンマ(米国の経営学者 クリステンセン)

1990年代後半から2000年代初頭に起きたフィルムカメラからデジタル
カメラへの移行は,過去の製品を販売することの意味を失わせた。

→ ある製品のトップ企業がその技術に固執するあまり,新技術に

 対応できずに衰退していく様はイノベーションのジレンマという

 言葉で説明される。
フィルム業界の巨人 イーストマン・コダック
• コダック社の倒産前3ヵ年の財務諸表:損益計算書
フィルム業界の巨人 イーストマン・コダック
 損益計算書 2009 2010 2011
売上高 7,609 7,167 6,022
売上原価 5,850 5,221 5,135
売上総利益 1,759 1,946 1,159
販売費及び一般管理費 1,298 1,275 887
研究開発費 351 318 274
企業再建費用 226 70 121
他の営業収入(+)・支出(-) 88 -619 67
営業利益 -28 -336 -600
支払利息 119 149 156
債務の早期償還   102  
他の収入 30 26 -2
税引前利益 -232 -675 -767
当期純利益 -209 -687 -764
収益力の低下の一方で,売上原価の低減を図ることができず。

販管費・研究開発費は低減したが,営業赤字
• コダック社の倒産前3ヵ年の財務諸表:貸借対照表
フィルム業界の巨人 イーストマン・コダック
貸借対照表 2009 2010 2011   2009 2010 2011
現金・預金 2,024 1,624 861 仕入債務 919 959 706
売上債権 1,268 1,074 996 未払費用 870 742 604
棚卸資産 679 746 607 その他の流動負債 1,107 1,119 840
その他の流動資産 332 342 374 流動負債合計 2,896 2,820 2,150
流動資産合計 4,303 3,786 2,703 長期負債 1,129 1,195 1,363
有形固定資産 1,254 1,037 895 その他の固定負債 6,595 6,106 5,665
無形固定資産 907 294 277 固定負債合計 7,724 7,301 7,028
その他の固定資産 436 290 264 資本金 978 978 978
固定資産合計 2,134 2,440 1,975 資本剰余金 1,093 1,105 1,108
 
      利益剰余金 5,676 4,969 4,071
      自己株式 -6,022 -5,994 -5,843
      当期の包括利益 -1,760 -2,135 -2,666
      純資産合計 -33 -1,075 -2,350
資産合計 7,691 6,226 4,678 負債・純資産合計 7,691 6,226 4,678
利益剰余金 → 自己株式の取得:株主への還元策を重視
2011年度に急激な現金預金の減少
• 富士フイルム過去8年間の業績推移
富士フイルムの業績と経営戦略
  2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
売上高 2,527,374 2,667,495 2,782,526 2,846,828 2,434,344 2,181,693 2,217,084 2,195,293
営業利益(損失) 164,442 70,436 113,062 207,342 37,286 -42,112 136,356 112,948
当社株主帰属当期純利益(損失) 84,500 37,016 34,446 104,431 10,524 -38,441 63,852 43,758
棚卸資産 371,365 385,463 393,594 416,827 368,250 303,120 342,165 377,952
有形固定資産 747,212 751,385 773,032 776,367 698,006 601,661 564,065 553,916
総資産 2,983,457 3,027,491 3,319,102 3,266,384 2,896,637 2,827,428 2,708,841 2,739,665
株主資本 1,849,102 1,963,497 1,976,508 1,922,353 1,756,313 1,746,107 1,722,526 1,721,769
売上高営業利益率 6.51% 2.64% 4.06% 7.28% 1.53% -1.93% 6.15% 5.15%
当社株主帰属当期純利益率 3.34% 1.39% 1.24% 3.67% 0.43% -1.76% 2.88% 1.99%
総資産回転率 0.847 0.881 0.838 0.872 0.84 0.772 0.818 0.801
レバレッジ 1.613 1.542 1.679 1.699 1.649 1.619 1.573 1.591
総資産営業利益率(ROA) 5.51% 2.33% 3.41% 6.35% 1.29% -1.49% 5.03% 4.12%
株主資本当期利益率(ROE) 4.57% 1.89% 1.74% 5.43% 0.6% -2.2% 3.71% 2.54%
売上高減少,有形固定資産減少,総資産減少,株主資本減少
ROEは中期経営計画の目標値5%の約半分
• 日経新聞2012年1月30日「経営の視点 反面教師のコダック破綻」

富士フイルムとコダックの違いはどこから生まれたのか?

① 内部留保の活用

 富士フイルム:事業買収,再編の原資として活用

 コダック:株主還元(増配,自己株式購入)に使用したため,

      新規投資を困難に。

② 株主による短期的な収益極大化の要求 → 研究開発予算への影響

 日本のカメラメーカー:新規事業(異分野)への展開

 → キヤノン:複写機・複合機などのプリンター事業

       オフィス向け機器が売上の過半を占める。
富士フイルムの業績と経営戦略
☞ 次の主力製品の技術,可能性を秘めた技術開発で手を抜かなかった。

  研究開発の効率化を求める株主の意見に耳を傾けすぎれば,将来の

  経営の展開力は落ち,発展の余地は狭められる。
• 日経ビジネス2012年7月23日号「社長業は人生の通信簿」

富士フイルムとコダックの戦略について古森社長はどのように

語っているのか?

① 1980年代初頭に写真の世界にデジタル技術が登場したこと。

 富士フイルムは多角化を図り,露光材料や感光材料,現像材料などの

 周辺へ拡大。コダックに比して多角化における幅と深さがあった。

② デジカメ市場が立ち上がったときに,コダックには競争力のある

  商品がなかった。

 富士フイルムは1970年代からデジカメに必要な半導体素粒子の

 CCD(電荷結合素子)の研究を進めていた。

③ 多角化:富士フイルムは写真意外の分野を伸ばしてきた。

 2000年以降に投資を行い,医薬品,液晶用材料を強化したり,

 富士ゼロックスへの出資比率を引き上げる。

 コダックはデジタルカンパニーという目標を掲げ,現業回帰。
富士フイルムの業績と経営戦略
• 富士フイルムの主力製品の変化
富士フイルムの業績と経営戦略
セグメント別売上高 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
イメージング 742,993 689,458 605,383 547,066 410,399 345,489 325,804 322,706
インフォメーション 768,680 877,366 1,026,085 1,108,134 946,156 900,844 917,391 887,758
ドキュメント 1,015,701 1,100,671 1,151,058 1,191,628 1,077,789 935,360 973,889 984,829
売上比率 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
イメージング 29.4% 25.85% 21.76% 19.22% 16.86% 15.84% 14.7% 14.7%
インフォメーション 30.41% 32.89% 36.88% 38.93% 38.87% 41.29% 41.38% 40.44%
ドキュメント 40.19% 41.26% 41.37% 41.86% 44.27% 42.87% 43.93% 44.86%
セグメント別営業損益 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
イメージング -7,101 -75,713 -42,631 -2,394 -29,310 -69,192 -12,693 -3,981
インフォメーション 71,089 79,056 95,170 127,432 20,351 -2,627 103,512 67,446
ドキュメント 100,407 67,026 61,186 86,664 49,677 32,240 74,213 81,814
• セグメント別売上高・売上比率・セグメント別営業損益
富士フイルムの業績と経営戦略
2001年(富士ゼロックス子会社化):ドキュメント分野が売上の4割
近年:医療用機器製品が主力のインフォメーション分野の売上比率増加
写真フィルムが主力であったイメージング分野は売上比率が低下し,2005年

以降,毎期営業赤字の状態。
• 中期経営計画:創業80周年を迎える2014年に向けて

2011年10月から2014年3月期を最終年度とする中期経営計画VISION80を
策定。

各分野の重点事業の成長戦略の推進

(ヘルスケア,高機能材料,ドキュメント)と

グローバル展開の加速

(BRICs,トルコ,中東,東南アジア)に

継続して取り組む。

最終年度の売上高2兆5,000億円,

営業利益1,800億円,ROE 5%を目標に

設定した。
富士フイルムの業績と経営戦略

2015経営分析論ⅱ⑤