担当 高野泰衡
刑法入門
基礎攻略講座
導入編
刑法の勉強の注意点
・用語になれる⇒ドイツ語の直訳的
・体系を覚える⇒答案の枠組み
・学説の対立点を知る⇒学説の対立が激しい
・しかし学説に深入りしない⇒まずは通説ベースで
・核となる基本論証を覚える
・各論は保護法益と構成要件を覚える
・各論と総論をリンクさせる
刑法とは
刑法とは犯罪と刑罰に関する法(広義の刑法)
広義の刑法 刑法典(狭義の刑法)
特別刑法
刑法(典) 第1編 総則 犯罪成立の一般的要件
刑罰の種類と科刑の仕方
第2編 罪 各種犯罪の構成要件と法定刑
刑法の目的・役割
〔法益保護機能〕
刑法は犯罪行為に刑罰を科すことにより、その威嚇力と感銘力を持って犯罪行為を
抑止し、法益(法で保護するに値する利益)を保護する機能を有する
↓しかし
刑罰は重大な人権制約。犯罪行為から法益が守られることは必要だが、刑罰権の
恣意的な発動による人権侵害からも守られなければならない。
↓そこで
〔自由保障機能〕
個人は刑法に規定されていない行為によって処罰されることはなく、また犯罪を犯し
た者も刑法で規定されている刑罰範囲を超えて処罰されることはないという個人の
権利・自由を保障する機能も有している
↓また
刑罰はいわば「副作用の強い劇薬」
↓そこで
刑法の適用については謙抑主義(補充性・断片性)が妥当する
刑法の解釈の視点
法益保護機能
自由保障機能
=処罰範囲拡大の方向へ
=処罰範囲縮小の方向へ
矛盾調
和
事例
XはY薬品会社の研究室に忍び込み、事前に入手したパスワードを入力
してパソコンを立ち上げ、研究データのホルダーからある新薬のデータを
あらかじめ用意しておいたUSBメモリーにコピーした。XはそのUSBメモ
リーを取り出しジャケットのポケットに入れ、何事もなかったかのように研
究室から立ち去った。この新薬のデータは数億円の価値を有するもの
だった。
この場合、Xに窃盗罪は成立するか?
刑法235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の
懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
〔問題の所在〕
「データ」が「財物」に該当するか?
⇒構成要件の解釈
犯罪とは
犯罪を犯すと 処罰される
なぜ?
処罰根拠
悪いことをしたから
非難されるべきだから
刑法に書いてあるから
違法性
有責性
構成要件該当性
違法性の本質
〔法益侵害説〕
法益(法で保護される利益)の侵害こそが違法性の本質
=行為態様や行為者の主観は違法性に影響しない
↓
法益侵害という結果に対する否定的評価=結果無価値論
〔規範違反説〕
規範(条文の背後にある社会倫理規範)に違反することが違法性の本質
=行為態様や行為者の主観が違法性に影響する
↓
規範に違反する行為に対する否定的評価=行為無価値論(通説)
*日本の規範違反説は法益侵害も考慮する
=行為無価値論も結果無価値も考慮する二元的な行為無価値論
有責性(責任の本質)
行為が違法だからといって直ちには処罰はできない
(ex.三歳児がお店からお菓子を持ってきてしまった)
↓
処罰するにはその行為が非難できるものでなければならない
↓すなわち
事の良し悪しが判断できてやめようと思えばやめられたにもかかわらずあ
えて犯罪行為におよんだ点に加えられる重い道義的非難が責任の本質
(道義的責任論)
↓
そして刑罰は犯罪行為に対する報いとらえる(応報刑論)
構成要件該当性
行為が実質的にみて違法で有責であってもそれだけでは処罰できない
↓
違法で有責な行為の判断は不明確
権力者による恣意的な処罰の危険性がある
↓そこで
罪刑法定主義の要請から処罰範囲を明確にして、個人の権利自由を守る
↓
当該行為が条文に規定された犯罪類型たる構成要件に形式的に該当し
なければ処罰されない
実質的にみて違法で有責な行為のうち処罰に値するものを社会通念に
従って類型化したもの(違法有責行為類型化説・通説)
*構成要件は条文そのものではく条文を解釈して得られた犯罪の枠組み
罪刑法定主義
いかなる行為が犯罪でいかなる刑罰が科されるかをあらかじめ
成文の法律で定めておかなければ処罰できないという近代刑法
の大原則
あらかじめ ← 自由主義のあらわれ
成文の法律 ← 民主主義のあらわれ
趣旨
権力者による恣意的な刑罰権の行使に歯止めをかけて
個人の権利自由を守る
犯罪成立要件
犯罪とは構成要件に該当する違法かつ有責な行為
構成要件該当
違法
有責
+
+
可罰的
当罰的
犯罪論の体系
構成要件該当性
違法性阻却事由
有責性
実質的なものより形式的なものから、個別的なものより
一般的なものからという思考経済の観点から、まず構
成要件該当性を判断し、要件を充足しない場合は犯罪
不成立とする。
構成要件は違法有責行為類型なので、行為が構成要
件に該当するということは違法性が推定される。そこで
例外的に正当防衛などの違法性阻却事由がないかを
検討する。違法性阻却事由があれば犯罪不成立。
構成要件では責任要素の一部しか類型化されていない
ので、その他の責任要素の存在を積極的に認定する必
要がある。責任要素が充足されなければ犯罪不成立
充足
無
充足
犯罪成立
構成要件要素
① 実 行 行 為 ②構成要件的結果③因果関係
④構成要件的
故意
基本的構成要件(故意犯)
・客観的構成要件要素:①実行行為、②因果関係、③構成要件的結果
・主観的構成要件要素:④構成要件的故意
*①~④の構成要件要素は主要なもの。
犯罪によって他の要素が要求される場合もある。
詳しくは各論で学ぶ
実行行為:基本的構成要件の予定する法益侵害惹起の直接的現実的危険性を
有する行為
構成要件的故意:基本的構成要件に該当する事実を認識・認容している心理状態
違法性阻却事由
刑法の目的
法益保護のみならず社会倫理秩序の維持
↓
違法性の本質
社会倫理規範に違反する法益侵害行為(二元的な規範違反説)
↓
違法性阻却事由の根拠
法益侵害行為があっても行為が社会的に相当な場合は社会倫理規範違反はなく
違法性が阻却される(社会的相当性説)
↓
行為の相当性の判断
行為は主観と客観の統合体なので主観面も含めた行為態様で相当性を判断
《違法性阻却事由》
正当行為(35条)、正当防衛(36条1項)、緊急避難(37条1項前段)
責任要素
責任主義:責任なければ処罰なし 責任の本質は道義的非難(道義的責任論)
責任能力
責任故意(38条)
期待可能性(105条参照)
心神喪失・心神耗弱(39条)
刑事未成年(41条)
責
任
要
素
103条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又
は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
105条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益の
ために犯したときは、その刑を免除することができる。
責任能力
責任能力:事理弁識能力+行動制御能力
39条1項 心神喪失者の行為は、罰しない。
2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
41条 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
・心神喪失:事理弁識能力、行動制御能力のいずれか又は双方を欠く場合
=責任無能力者
⇒無罪
・心神耗弱:事理弁識能力、行動制御能力のいずれか又は双方が著しく
減退している場合
=限定責任能力者
⇒必要的減軽
・刑事未成年=無罪 ∵政策的理由
責任故意(故意の体系)
故意:犯罪事実を認識している心理状態
故意犯処罰の原則(38条1項)
犯罪事実を認識して反対動機の形成が可能であったにもかかわらず、あえて犯罪行為
におよんだ点に重い道義的非難が加えられる
犯罪
事実
構成要件に該当する事実
それ以外の違法性を基礎
付ける事実
構成要件的
故意
責任故意
故意
認識
・認容
認識
38条1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定が
ある場合は、この限りでない。
構成要件該当性
違法性阻却事由
有責性
充足
無
充足
犯罪成立
犯罪成立の検討
XはYを殺そうとしてナイフで
刺し殺した。
①実行行為:(殺そうと)ナイフでさす
=人の命を奪う危険な行為=殺人罪の実行行為
②構成要件的結果:「人」の死=発生
③因果関係:あり
④構成要件的故意:認識認容あり
正当防衛などの事情なし=違法性阻却せず
責任要素もあり=有責性も充足
殺人罪(既遂犯)成立
修正された構成要件
基本的構成要件
単独犯
既遂犯
修正された構成要件
共犯
予備・陰謀
未遂犯
人的修正
時間的修正
共犯
共犯
単独犯 単独正犯
共同正犯(60条)
教唆犯(61条)
幇助犯(62条)
正犯
狭義の共犯
60条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
61条1項 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
62条1項 正犯を幇助した者は、従犯とする。
実行行為を行なう
実行行為以外
の形態で関与
複数人が犯罪
に関与
未遂犯
予備 未遂 既遂
構成要件的結果発生
実行行為に着手
43条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。
ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
44条 未遂を罰する場合は、各本条で定める。
199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
201条 第百九十九条の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処
する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
203条 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。
各則(各種犯罪)
個人的法益に対する罪
生命・身体に対する罪ー殺人、傷害、堕胎、遺棄
自由及び私生活の平穏に対する罪ー逮捕監禁、脅迫、略取誘拐、
性的自由に関する罪、住居侵入
名誉・信用に対する罪ー名誉毀損、信用毀損、業務妨害
財産に対する罪ー窃盗、強盗、詐欺、恐喝、横領、背任、盗品等罪
社会的法益に対する罪
公衆の安全に対する罪ー放火、往来を妨害する罪
偽造の罪ー通貨偽造、有価証券偽造、文書偽造
風俗秩序に対する罪ーわいせつの罪、賭博罪
国家的法益に対する罪
公務の執行を妨害する罪ー公務執行妨害
犯人蔵匿・証拠隠滅の罪
偽証の罪
賄賂の罪

基礎攻略講座 導入編 刑法入門