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民法:旧司法試験昭和62年度第2問
【問題】
Aは、その子B(幼児)を助手席に乗せ、制限速度を大幅に越えた速度で乗用車
を運転中、自動二輪車に乗ったCがわきから急に飛び出してきたため、自分の車を
これに衝突させた上、歩道わきの石垣にも衝突させた。この事故で、B、C及び歩
道上を通行中のDの三名が重傷を負った。
次の場合に分けて、それぞれ法律上の問題点を論ぜよ。
1 BがCに対して損害賠償を請求した場合
2 DがA及びCに対して損害賠償を請求した場合
A
B
DC
石垣
(同乗者・
乳幼児)
民法:旧司法試験昭和62年度第2問
【論点】
• 不法行為
• 過失相殺
• 被害者側の過失
• 共同不法行為
A
B D
C
親子
民法:旧司法試験昭和62年度第2問
【答案例】
1 設問1について
(1)ア Bは、Cが自動二輪車を運転し、わきから急に飛び出してきたという不法
行為によって、重傷を負っている。とすれば、Bは、Cに対して、不法行為に基づ
く損害賠償を請求することができる(709条)。
イ もっとも、本問の事故は、Aが制限速度を大幅に越えた速度で乗用車を運転
していたという行為に起因する側面もあり、CはかかるAの過失を理由として、過
失相殺(722条2項)を主張すると思われる。では、被害者本人以外の過失を過失
相殺において考慮することは可能か。
ウ ここで、同条の趣旨は、損害の公平な分担を可能にする点がある。とすれば、
被害者側の者の過失による損害については、加害者に負わせるより、被害者に負わ
せた方が公平に資する。
とすれば、被害者と、身分上ないし生活関係上一帯をなす者の過失は、過失相殺
において考慮することができるというべきである。
エ そして、AはBの親であり、身分上も生活関係上も、子であるBと一体とい
えることは疑いない。
オ よって、Cの過失相殺の主張は認められる。
民法:旧司法試験昭和62年度第2問
2 設問2について
(1)ア Dは、A及びCに対して、それぞれ不法行為に基づく損害賠償請求をなし
うる。もっとも、本問の事故はAの過失とCの過失が合わせて発生したものであり、
Dの損害がA及びCのいずれによるものか、因果関係を厳密に特定することは困難
である。
Dは、A及びCに対して、共同不法行為責任(719条)を追及することが考えら
れる。では、本件では、「共同して」といえるか。
イ ここで、本条の趣旨は、被害者保護の観点から、損害をまとめて負わせるこ
とにした点にある。とすれば、本来はそれぞれ別個に責任を負うのであるから、同
条を適用するには、前提として各人が不法行為の要件を充たしていることが必要で
ある。
もっとも、「共同」の意義は、かかる趣旨から柔軟に解釈すべきである。具体的
には、主観的関連共同までは要せず、客観的関連共同で足りるというべきである。
民法:旧司法試験昭和62年度第2問
ウ 本件では、A及びCが不法行為の要件を充たすことは明らかである。そして、
Aのスピード違反という過失行為とCの確認義務違反という過失行為が相互に関連
し、共同してDに対して重傷を負わせるに至っている。とすれば、客観的関連共同
が認められる。
エ よって、「共同して」といえ、A及びCは共同不法行為責任を負う。そして、
「連帯」とは、被害者救済の観点から、絶対効が制限された連帯債務である不真性
連帯債務というべきである。
(2) 以上より、Dは、A及びCに対して、それぞれ損害の全額について賠償請求
をすることができる。
以上

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