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⾬雨と⼟土の物語
ーリジリアンスの⼼心理理学ー
松嶋秀明
(滋賀県⽴立立⼤大学)
2015年7月5日 14:00-­‐17:00
立命館大学衣笠キャンパス創思館303/4
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resilience
• 困難あるいは脅威的な状況にもかかわらず、う
まく適応する過程、能⼒力力、または結果 (Masten,  
Best & Garmezy,  1990)
• 重⼤大な逆境のもとで、⾃自らの幸福を維持するた
めの⼼心理理的、社会的、⽂文化的、そして⾝身体的資
源に舵をとる能⼒力力、およびそれらの資源が⽂文化
的に意味のある仕⽅方で提供されるよう個⼈人的に
も、集団的にも意味を交渉する能⼒力力 (Ungar,  2011)
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Masten,  A.  &Telegen,A.  (2012) Resilience  in  developmental   psychopathology:  Contributions  of  the  Project  
Competence  Longitudinal   Study.  Development  and  Psychopathology  24,345–361
リジリアンスの多様な径路路
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もとは⼯工業・技術⽤用語
回復力、復元力、しなやかさ、折れない心 etc・・・
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⾬雨降降って地固まる
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⾬雨の物語・⼟土の物語
住宅宅地に適さない⼟土地
ゲリラ豪⾬雨
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⼟土の物語 リジリアンス要因=性格特性
平野真里. (2010).レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み
—―—―二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成.	 パーソナリティ研究,	 2,	 94-106
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「⾬雨がふった」と「地が固まった」
• レジリエンスには,「⼤大きな脅威や深刻な逆境
に曝されること」と,「良良好な適応を達成する
こと」という2つの条件を満たすことが必要
(庄司,  2009)
この悲惨な出来事を肯定することは決してで
きないけど、あのことがあったからこんなふ
うになれたと思うことはできる。それが僕た
ちが目指すべき未来なのだ。 (西條, 2015. 『チー
ムの力』 ちくま新書p58)
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Werner,E Masten,A Bonnano,G
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発達精神病理理学
• ⽣生物学的、⼼心理理学的、社会的、⽂文化的過程(process)
を包括的に評価し、これらのさまざまな分析レベルの間
での相互作⽤用がどのように個⼈人差、適応的あるいは不不適
応的⾏行行動パターンの持続と消退、正常あるいは異異常な発
達的転帰が達成される経路路(pathway)を明らかにしよ
うとする。(Cicchetti,  1993)
• 発達精神病理理学の要素
– リスク因⼦子と保護因⼦子
– 状況論論(Contextualism)
– 不不適応的⾏行行動だけでなく適応的⾏行行動も同時に検討
• Resilienceの概念念
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カウアイ研究
1989
1992
2001
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Werner,E & Smith,R
– 1955年年⽣生まれの698⼈人の⼦子どもを、40年年間にわ
たって追跡(1,2,10,18,20,32,40歳の6時点)。
– 698⼈人中210⼈人がハイリスクと判定されたが、こ
のうち1/3は18歳時点で、さらにもう1/3の⼈人々
が30代にはいって普通の暮らしをしていた。
– 夜間⾼高校、コミュニティカレッジへの⼊入学、軍隊
への⼊入隊(と、そこでの職業指導)、結婚、⼦子ど
もが授かる、宗教への⼊入信などが転機になる。
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どんな⼈人がリジリアント?
• 1­−2歳)活発、可愛いと感じられ、友好的、応答的、社交的。
夜泣きや偏⾷食など、育てにくいことは少ない。
• 10歳)クラスメートと仲良良くやれる。読解能⼒力力にすぐれる。ず
ば抜けた才能はなくても、うまくやるためのスキルをもつ。性別
にとらわれずに趣味や活動ができる。
• 18歳)⾃自分たちの境遇に流流されず、直⾯面している問題に⽴立立ち向
かえるという感覚をもてる。
• 家庭内や地域に、少なくとも1⼈人は情緒的に安定し、彼(⼥女女)ら
の様⼦子に敏感に対応してくれ、信頼関係を結べる⼈人(「代理理両
親」)、相談できる⼈人(例例えば、好きな学校の先⽣生、恋⼈人など)
がいる。
• (それぞれの時期に)可能性に開かれていた
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Bernard,B. (2004).Resilience:what we have learned. WestEDより
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Michael  Ungar
• ナラティブ実践に影響をうけた、社会構成主義
的なリジリアンス研究/実践
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リジリアンス概念念が隠すもの
• リジリアンス概念念がもつ主たる限界のひとつは、それが特定
の結果についての規範的判断に結びついているということに
ある。もし、結果として出てきたものが望ましいものでなけ
れば、リスク要因に直⾯面した際にとられる対処⾏行行動はリジリ
アンスとはみなされない。社会的に規定された望ましい結果
は主観的には望ましいとはみなされないだろうし、社会的に
規定された望ましからぬ⾏行行動が、主観的には望ましいという
こともありえる。つまり、社会的観点からみれば個⼈人は脆弱
性をあらわしているかもしれないが、主観的にみれば、個⼈人
はリジリアンスを表しているかもしれないということだ。
Kaplan,  H.  B.  (1999).  Toward  an  understanding   of  resilience:  A  critical  review  of  definitions  and  models.  In  M.  
D.  Glantz  &  J.  L.  Johnson  (Eds.),  Resilience  and  development:  Positive  life  adaptations   (pp.  17-­84).  New  York:  
Kluwer  Academic/Plenum.
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Ungar,  M.  (2004).  A  Constructionist  Discourse  on  Resilience.  Multiple   Contexts,  Multiple  
Realities  among  At-­Risk  Children  and  Youth.  Youth  Society  ,35  (3).  pp341-­365  
エコロジカルモデルと構成主義的モデル
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Ungar,  M.  (2004).  A  Constructionist  Discourse  on  Resilience.  Multiple   Contexts,  Multiple   Realities  among  At-­
Risk  Children  and  Youth.  Youth  Society  ,35  (3).  pp341-­365  
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リジリアンスを育てる6つの戦略略
1. 若若者の真実を聞く
2. 若若者が⾃自らの⾏行行動を批判的に⾒見見るよう援助する
3. 若若者が必要だというものにフィットする機会を
創造する
4. 若若者が⽿耳を貸し、敬意を払うような仕⽅方で話す
5. 最も⼤大切切な差異異を⾒見見つける
6. やめさせるより代わりをみつける
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社会的にうけいれ
られる
リジリアンス
問題のある
リジリアンス
代わりをみつける
リジリアンスを
育てる
5つの戦略略
障害
4つの問題⾏行行動
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社会的に
うけいれられる
アイデンティティ 問題の
アイデンティティ
代わりをみつける
他者は⾃自分を
どうみているか
⾃自分で⾃自分⾃自⾝身を
どうみているか
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リジリアンスを導く8つの戦略略
1. (⾃自らのバイアスを意識識しつつ)他者に好奇⼼心を抱く
2. ⽂文脈化した査定を⾏行行う*
3. 脱ー中⼼心化実践
4. 複雑な問題には、複雑な(多次元の)解決が必要だとい
うことを認識識する
5. 周辺に⽣生きる⼈人々には、典型的ではない結果(解決)が
⽣生じることを尊重する
6. ⼈人々の⽂文化的妥当性と⽂文化的コンピタンスを証明する
7. ⼈人々が資源にアクセスできるよう「舵取り」する
8. ⼈人々が資源を利利⽤用できるよう「交渉」するのを助ける
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adherence
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identity
power  &  
control
social  justice
access to
material
resources
cohesion
Seven  “Tensions”  to  be  Resolved
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A long way gone
• 分隊が私の家族で、銃は⾷食いぶちでもあり⾃自分を
守ってくれるものでもあった。殺るか殺られるかと
いうことが私のルールだった。・・・私たちは2年年
間にわたって戦闘をくりひろげており、⼈人殺しは⽇日
常茶茶飯事になっていた。
• (武装解除されたのち)⽂文⺠民になにかしろと⾔言われ
るのは腹⽴立立たしいことだった。彼らの声を聞くと、
それがたとえ朝⾷食に呼ぶ声であっても、私は怒怒り、
壁であれロッカーであれ、側にあるものなんでも
殴った。ほんの数⽇日前まで、私たちは彼らの殺⽣生与
奪の権をもっていたのだ。・・(⼗十分な⾷食事は与え
られたが)私たちは幸せじゃなかった。だって私た
ちが必要としたのは銃とヤクだったからだ。
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荒れた中学校の
フィールドワークから
• ある「荒れ」た中学校の1学年年を3年年間継続
的に実践関与的な観察をおこなった。
• 1年年時、対教師暴暴⼒力力や授業妨害、授業エス
ケープなどがあり、騒然とした雰囲気だった
が、次第におさまってきた。「気になる」⽣生
徒とされたアキオについてとりあげる。
• 活動理理論論、TEMなどを援⽤用して分析した。
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Engeströmの拡張された
三⾓角形:活動システム
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香川秀太.  (2011).  状況論の拡大:状況的学習,文脈横断,そして共同体間の「境
界」を問う議論へ.  認知科学,18,604-­623.による
アルバイトをはじめたばか
りの接客係は、マネー
ジャーから、やたらに⼤大き
な声をださせられていると
感じる。
レジ係は、フロアをモニ
ターする役割があるが、接
客係の声がきこえないと注
⽂文が通っているかなど確認
にねばならず、業務が滞る。
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境界横断
• 単⼀一のコミュニティだけではなく、SCと学校と
いった複数のコミュニティが出会うところに(葛
藤もあるものの)イノベーションが産まれるとい
う議論論。
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廊下
AKI    often  shit  about  here
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「俺、2?」
• (4時間⽬目の数学の時間。アキは散々授業妨害をしたあげく)
おもむろに「先⽣生、俺2?」と問いかける。X先⽣生は「それ
は最後にならないと…。今はわからない」と、この問いには答
えない。アキは答えをひきだそうと⾷食い下がるが、X先⽣生は無
視をつらぬく。・・・・ついにアキは「俺が授業に出たってる
んやゾ」「(授業に)出んでも良良いのか?せっかくでてやって
るのに」と毒づきはじめる。・・・X先⽣生は「出るのは当たり
前や。当然やろ」といい「クラスの迷惑になることはやめ
て!」と強い⼝口調でいう。「ちゃんと授業に⼊入ってるじゃん」
と主張するアキに、X先⽣生はいい加減うんざりした様⼦子で「今
⽇日はひどかった。みんなの邪魔をしてるっ」と叱る。「だった
ら出てる⽅方がいいのか?」とくいさがるアキにX先⽣生は「邪魔
するくらいだったら(授業から)出てるのと⼀一緒だ」という。
アキはこれを聞くなり「⼀一緒やったら意味ない!」と憮然とし
た様⼦子で教室からとび出ていく。
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今⽇日はスキヤキや
• アキはA中学校の窓から遠くにみえる背の⾼高い建物を指さ
して「あそこの7階でオカンが働いとるんや」と教えてく
れる。・・・「昨⽇日な、ボーナスが出たんや。だから昨⽇日
はすき焼きしたんやぞ」と本当に嬉しそうにいう。・・・
(他の先⽣生にその話題をしていると)「あ、それ、私にも
⾔言ってた。皆に聞いてほしいんやな〜~」とM先⽣生。さらに
「100gが400円の⾁肉なんやて」と付け加え「(⾁肉の値段
を知ってるなんて)あの⼦子、買い物にお⺟母さんと⼀一緒に
いってるんやろ」という。そして「(以前はアキは⼤大⼈人に
近づかなかったが)最近は⽢甘えてくるようになりました。
以前は⼤大⼈人を警戒しとった」とアキの変化について語った
(X年年10⽉月)
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ぶつかるよりも
話をきいてやる
モニターしつつの
関わり
ストレングスへの
注目
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思ってるんやけどな
• (アキは廊下にすわって携帯電話をさわり「暇やー」
とつぶやく。昔は廊下にたまる友⼈人がたくさんいたが、
いまは⾃自分だけになってしまったから「つまらない」
という)・・・私はたいしてよい返事が帰ってくると
期待せず「だからさアキも授業に⼊入って勉強したほう
がええんと違うか。外にいても暇なだけやんか」とす
すめてみる。
アキは⼩小声で「⼊入らなあかんとは思ってるんやけど
な・・・」とつぶやく。「・・・思ってるけど。どう
なん?」とさらに聞くと「つまらん。教室にはいるの
が⾯面倒くさい」といい、再び携帯ゲームに興じ始める。
会話はとぎれる(X+1年年12⽉月)
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就職でもできるやろ
• (アキは朝から落落ち着かず、技術室から持ち出したペンチで
廊下の電気のスイッチを壊してしまう)・・・先⽣生⽅方は、
照明スイッチは治すようアキに話す。アキは当初は聞く⽿耳
をもたなかったが、しばらくすると修理理しはじめる。⼿手に
持っていたペンチで器⽤用に作業する。途中で、⼿手持ちの⼯工
具があわないことがわかると「おい、マイナスドライバー
がいるんやった!。とってきて!」と⼤大声でいい、周囲の先
⽣生⽅方が持ってくる。・・・私たちが⾒見見つめるなか、アキは1
⼈人で作業を続ける。(腕前をほめられると)アキは得意そ
うに「これは俺が誰からも習わずにやってんぞ」と⼤大声で
いい、「こんな腕前があったら就職でもできるやろ」とい
う(X+3年年1⽉月)。
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そういう選択肢はないわ
• アキは、私が、他の荒れた学校について知ってい
るのかと興味津々である。・・・私は学校に来なく
なって外で遊んでいる⽣生徒もいるようだと話す。こ
れをきいたアキオは「学校にもいかずに遊んでるん
だったら働いたらいいのに」「(俺には)そういう
選択肢はないわ」と、こうした⽣生徒のふるまいにつ
いて否定的な反応をかえす。そして、「俺は1⽉月か
ら⼟土⽅方の仕事につくねん。そやから3⽉月の卒業式に
はくるけど、もう学校に来うへんわ」と宣⾔言する。
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事例例:ええ体験できたな
• (2年年⽣生のシゲが、他校⽣生とトラブルになった時、アキ
はいろんな情報をもらえた。それがシゲのトラブルの解
決にも役⽴立立った)・・・お⺟母ちゃん、もう涙、涙で。ア
キ君に助けてもろてほんまにありがとう⾔言うて、泣きな
がらお⺟母ちゃんがアキにお礼を⾔言うてくれはった。・・
(略略)・・アキはもうニコーッとして職員室へ⼊入ってき
よって。お前よかったなと。⼈人にこれだけありがとう、
ありがとうと⾔言われて、お前のやっぱりやってたことは
間違いじゃなかったなと。・・・こうやって感謝してく
れはったり、⼈人のあの役に⽴立立てるちゅうのが何かすごく
よくないか?と、気持ちよくないか?と⾔言うたら「む
ちゃ気持ちええ」と。・・・おまえ、中学校これで最後
にして、今までこんなこともなかったやろし、ええ体験
できたなと(G先⽣生へのインタビューから)。
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まとめ
• アキは「疎外感」を感じつつ、廊下で1⼈人でいた。
• 教員の(1)他校⽣生徒との関わりを切切るのではなく、むし
ろつながって「モニターしつつついていく実践」によっ
て「よいことをして感謝される」体験ができた。また、
(2)  ストレングスに注⽬目した指導によって、将来像が明
確になり、学校にいることの意味の再定義につながった。
そのことで⾦金金髪や違反制服でなくても、パワフルなアイ
デンティティを発揮できることが実感された。
• ⾮非⾏行行⽣生徒のリジリアンスは、本⼈人のアイデンティティの
変化だけでなく、教師たちの「抑えられない教師」から
「⼒力力で抑えない教師」というアイデンティティの変化、
⾮非⾏行行⽣生徒への理理解の深まりといった変化と共起している。

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シリュルニク氏招聘企画(2)rits20150705

  • 1. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture ⾬雨と⼟土の物語 ーリジリアンスの⼼心理理学ー 松嶋秀明 (滋賀県⽴立立⼤大学) 2015年7月5日 14:00-­‐17:00 立命館大学衣笠キャンパス創思館303/4
  • 2. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture resilience • 困難あるいは脅威的な状況にもかかわらず、う まく適応する過程、能⼒力力、または結果 (Masten,   Best & Garmezy,  1990) • 重⼤大な逆境のもとで、⾃自らの幸福を維持するた めの⼼心理理的、社会的、⽂文化的、そして⾝身体的資 源に舵をとる能⼒力力、およびそれらの資源が⽂文化 的に意味のある仕⽅方で提供されるよう個⼈人的に も、集団的にも意味を交渉する能⼒力力 (Ungar,  2011)
  • 3. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Masten,  A.  &Telegen,A.  (2012) Resilience  in  developmental   psychopathology:  Contributions  of  the  Project   Competence  Longitudinal   Study.  Development  and  Psychopathology  24,345–361 リジリアンスの多様な径路路
  • 4. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture もとは⼯工業・技術⽤用語 回復力、復元力、しなやかさ、折れない心 etc・・・
  • 5. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture ⾬雨降降って地固まる
  • 6. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture ⾬雨の物語・⼟土の物語 住宅宅地に適さない⼟土地 ゲリラ豪⾬雨
  • 7. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture ⼟土の物語 リジリアンス要因=性格特性 平野真里. (2010).レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み —―—―二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成. パーソナリティ研究, 2, 94-106
  • 8. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 「⾬雨がふった」と「地が固まった」 • レジリエンスには,「⼤大きな脅威や深刻な逆境 に曝されること」と,「良良好な適応を達成する こと」という2つの条件を満たすことが必要 (庄司,  2009) この悲惨な出来事を肯定することは決してで きないけど、あのことがあったからこんなふ うになれたと思うことはできる。それが僕た ちが目指すべき未来なのだ。 (西條, 2015. 『チー ムの力』 ちくま新書p58)
  • 9. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Werner,E Masten,A Bonnano,G
  • 10. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 発達精神病理理学 • ⽣生物学的、⼼心理理学的、社会的、⽂文化的過程(process) を包括的に評価し、これらのさまざまな分析レベルの間 での相互作⽤用がどのように個⼈人差、適応的あるいは不不適 応的⾏行行動パターンの持続と消退、正常あるいは異異常な発 達的転帰が達成される経路路(pathway)を明らかにしよ うとする。(Cicchetti,  1993) • 発達精神病理理学の要素 – リスク因⼦子と保護因⼦子 – 状況論論(Contextualism) – 不不適応的⾏行行動だけでなく適応的⾏行行動も同時に検討 • Resilienceの概念念
  • 11. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture カウアイ研究 1989 1992 2001
  • 12. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Werner,E & Smith,R – 1955年年⽣生まれの698⼈人の⼦子どもを、40年年間にわ たって追跡(1,2,10,18,20,32,40歳の6時点)。 – 698⼈人中210⼈人がハイリスクと判定されたが、こ のうち1/3は18歳時点で、さらにもう1/3の⼈人々 が30代にはいって普通の暮らしをしていた。 – 夜間⾼高校、コミュニティカレッジへの⼊入学、軍隊 への⼊入隊(と、そこでの職業指導)、結婚、⼦子ど もが授かる、宗教への⼊入信などが転機になる。
  • 13. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture どんな⼈人がリジリアント? • 1­−2歳)活発、可愛いと感じられ、友好的、応答的、社交的。 夜泣きや偏⾷食など、育てにくいことは少ない。 • 10歳)クラスメートと仲良良くやれる。読解能⼒力力にすぐれる。ず ば抜けた才能はなくても、うまくやるためのスキルをもつ。性別 にとらわれずに趣味や活動ができる。 • 18歳)⾃自分たちの境遇に流流されず、直⾯面している問題に⽴立立ち向 かえるという感覚をもてる。 • 家庭内や地域に、少なくとも1⼈人は情緒的に安定し、彼(⼥女女)ら の様⼦子に敏感に対応してくれ、信頼関係を結べる⼈人(「代理理両 親」)、相談できる⼈人(例例えば、好きな学校の先⽣生、恋⼈人など) がいる。 • (それぞれの時期に)可能性に開かれていた
  • 14. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Bernard,B. (2004).Resilience:what we have learned. WestEDより
  • 15. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Michael  Ungar • ナラティブ実践に影響をうけた、社会構成主義 的なリジリアンス研究/実践
  • 16. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture リジリアンス概念念が隠すもの • リジリアンス概念念がもつ主たる限界のひとつは、それが特定 の結果についての規範的判断に結びついているということに ある。もし、結果として出てきたものが望ましいものでなけ れば、リスク要因に直⾯面した際にとられる対処⾏行行動はリジリ アンスとはみなされない。社会的に規定された望ましい結果 は主観的には望ましいとはみなされないだろうし、社会的に 規定された望ましからぬ⾏行行動が、主観的には望ましいという こともありえる。つまり、社会的観点からみれば個⼈人は脆弱 性をあらわしているかもしれないが、主観的にみれば、個⼈人 はリジリアンスを表しているかもしれないということだ。 Kaplan,  H.  B.  (1999).  Toward  an  understanding   of  resilience:  A  critical  review  of  definitions  and  models.  In  M.   D.  Glantz  &  J.  L.  Johnson  (Eds.),  Resilience  and  development:  Positive  life  adaptations   (pp.  17-­84).  New  York:   Kluwer  Academic/Plenum.
  • 17. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Ungar,  M.  (2004).  A  Constructionist  Discourse  on  Resilience.  Multiple   Contexts,  Multiple   Realities  among  At-­Risk  Children  and  Youth.  Youth  Society  ,35  (3).  pp341-­365   エコロジカルモデルと構成主義的モデル
  • 18. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Ungar,  M.  (2004).  A  Constructionist  Discourse  on  Resilience.  Multiple   Contexts,  Multiple   Realities  among  At-­ Risk  Children  and  Youth.  Youth  Society  ,35  (3).  pp341-­365  
  • 19. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture リジリアンスを育てる6つの戦略略 1. 若若者の真実を聞く 2. 若若者が⾃自らの⾏行行動を批判的に⾒見見るよう援助する 3. 若若者が必要だというものにフィットする機会を 創造する 4. 若若者が⽿耳を貸し、敬意を払うような仕⽅方で話す 5. 最も⼤大切切な差異異を⾒見見つける 6. やめさせるより代わりをみつける
  • 20. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 社会的にうけいれ られる リジリアンス 問題のある リジリアンス 代わりをみつける リジリアンスを 育てる 5つの戦略略 障害 4つの問題⾏行行動
  • 21. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 社会的に うけいれられる アイデンティティ 問題の アイデンティティ 代わりをみつける 他者は⾃自分を どうみているか ⾃自分で⾃自分⾃自⾝身を どうみているか
  • 22. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture リジリアンスを導く8つの戦略略 1. (⾃自らのバイアスを意識識しつつ)他者に好奇⼼心を抱く 2. ⽂文脈化した査定を⾏行行う* 3. 脱ー中⼼心化実践 4. 複雑な問題には、複雑な(多次元の)解決が必要だとい うことを認識識する 5. 周辺に⽣生きる⼈人々には、典型的ではない結果(解決)が ⽣生じることを尊重する 6. ⼈人々の⽂文化的妥当性と⽂文化的コンピタンスを証明する 7. ⼈人々が資源にアクセスできるよう「舵取り」する 8. ⼈人々が資源を利利⽤用できるよう「交渉」するのを助ける
  • 23. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture cultural adherence relationships identity power  &   control social  justice access to material resources cohesion Seven  “Tensions”  to  be  Resolved
  • 24. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture A long way gone • 分隊が私の家族で、銃は⾷食いぶちでもあり⾃自分を 守ってくれるものでもあった。殺るか殺られるかと いうことが私のルールだった。・・・私たちは2年年 間にわたって戦闘をくりひろげており、⼈人殺しは⽇日 常茶茶飯事になっていた。 • (武装解除されたのち)⽂文⺠民になにかしろと⾔言われ るのは腹⽴立立たしいことだった。彼らの声を聞くと、 それがたとえ朝⾷食に呼ぶ声であっても、私は怒怒り、 壁であれロッカーであれ、側にあるものなんでも 殴った。ほんの数⽇日前まで、私たちは彼らの殺⽣生与 奪の権をもっていたのだ。・・(⼗十分な⾷食事は与え られたが)私たちは幸せじゃなかった。だって私た ちが必要としたのは銃とヤクだったからだ。
  • 25. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 荒れた中学校の フィールドワークから • ある「荒れ」た中学校の1学年年を3年年間継続 的に実践関与的な観察をおこなった。 • 1年年時、対教師暴暴⼒力力や授業妨害、授業エス ケープなどがあり、騒然とした雰囲気だった が、次第におさまってきた。「気になる」⽣生 徒とされたアキオについてとりあげる。 • 活動理理論論、TEMなどを援⽤用して分析した。
  • 26. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture Engeströmの拡張された 三⾓角形:活動システム 37 香川秀太.  (2011).  状況論の拡大:状況的学習,文脈横断,そして共同体間の「境 界」を問う議論へ.  認知科学,18,604-­623.による アルバイトをはじめたばか りの接客係は、マネー ジャーから、やたらに⼤大き な声をださせられていると 感じる。 レジ係は、フロアをモニ ターする役割があるが、接 客係の声がきこえないと注 ⽂文が通っているかなど確認 にねばならず、業務が滞る。
  • 27. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 境界横断 • 単⼀一のコミュニティだけではなく、SCと学校と いった複数のコミュニティが出会うところに(葛 藤もあるものの)イノベーションが産まれるとい う議論論。 38
  • 28. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 廊下 AKI    often  shit  about  here 39
  • 29. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 「俺、2?」 • (4時間⽬目の数学の時間。アキは散々授業妨害をしたあげく) おもむろに「先⽣生、俺2?」と問いかける。X先⽣生は「それ は最後にならないと…。今はわからない」と、この問いには答 えない。アキは答えをひきだそうと⾷食い下がるが、X先⽣生は無 視をつらぬく。・・・・ついにアキは「俺が授業に出たってる んやゾ」「(授業に)出んでも良良いのか?せっかくでてやって るのに」と毒づきはじめる。・・・X先⽣生は「出るのは当たり 前や。当然やろ」といい「クラスの迷惑になることはやめ て!」と強い⼝口調でいう。「ちゃんと授業に⼊入ってるじゃん」 と主張するアキに、X先⽣生はいい加減うんざりした様⼦子で「今 ⽇日はひどかった。みんなの邪魔をしてるっ」と叱る。「だった ら出てる⽅方がいいのか?」とくいさがるアキにX先⽣生は「邪魔 するくらいだったら(授業から)出てるのと⼀一緒だ」という。 アキはこれを聞くなり「⼀一緒やったら意味ない!」と憮然とし た様⼦子で教室からとび出ていく。
  • 30. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 今⽇日はスキヤキや • アキはA中学校の窓から遠くにみえる背の⾼高い建物を指さ して「あそこの7階でオカンが働いとるんや」と教えてく れる。・・・「昨⽇日な、ボーナスが出たんや。だから昨⽇日 はすき焼きしたんやぞ」と本当に嬉しそうにいう。・・・ (他の先⽣生にその話題をしていると)「あ、それ、私にも ⾔言ってた。皆に聞いてほしいんやな〜~」とM先⽣生。さらに 「100gが400円の⾁肉なんやて」と付け加え「(⾁肉の値段 を知ってるなんて)あの⼦子、買い物にお⺟母さんと⼀一緒に いってるんやろ」という。そして「(以前はアキは⼤大⼈人に 近づかなかったが)最近は⽢甘えてくるようになりました。 以前は⼤大⼈人を警戒しとった」とアキの変化について語った (X年年10⽉月)
  • 31. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture ぶつかるよりも 話をきいてやる モニターしつつの 関わり ストレングスへの 注目
  • 32. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 思ってるんやけどな • (アキは廊下にすわって携帯電話をさわり「暇やー」 とつぶやく。昔は廊下にたまる友⼈人がたくさんいたが、 いまは⾃自分だけになってしまったから「つまらない」 という)・・・私はたいしてよい返事が帰ってくると 期待せず「だからさアキも授業に⼊入って勉強したほう がええんと違うか。外にいても暇なだけやんか」とす すめてみる。 アキは⼩小声で「⼊入らなあかんとは思ってるんやけど な・・・」とつぶやく。「・・・思ってるけど。どう なん?」とさらに聞くと「つまらん。教室にはいるの が⾯面倒くさい」といい、再び携帯ゲームに興じ始める。 会話はとぎれる(X+1年年12⽉月) 43
  • 33. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture ぶつかるよりも 話をきいてやる モニターしつつの 関わり ストレングスへの 注目
  • 34. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 就職でもできるやろ • (アキは朝から落落ち着かず、技術室から持ち出したペンチで 廊下の電気のスイッチを壊してしまう)・・・先⽣生⽅方は、 照明スイッチは治すようアキに話す。アキは当初は聞く⽿耳 をもたなかったが、しばらくすると修理理しはじめる。⼿手に 持っていたペンチで器⽤用に作業する。途中で、⼿手持ちの⼯工 具があわないことがわかると「おい、マイナスドライバー がいるんやった!。とってきて!」と⼤大声でいい、周囲の先 ⽣生⽅方が持ってくる。・・・私たちが⾒見見つめるなか、アキは1 ⼈人で作業を続ける。(腕前をほめられると)アキは得意そ うに「これは俺が誰からも習わずにやってんぞ」と⼤大声で いい、「こんな腕前があったら就職でもできるやろ」とい う(X+3年年1⽉月)。 45
  • 35. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture そういう選択肢はないわ • アキは、私が、他の荒れた学校について知ってい るのかと興味津々である。・・・私は学校に来なく なって外で遊んでいる⽣生徒もいるようだと話す。こ れをきいたアキオは「学校にもいかずに遊んでるん だったら働いたらいいのに」「(俺には)そういう 選択肢はないわ」と、こうした⽣生徒のふるまいにつ いて否定的な反応をかえす。そして、「俺は1⽉月か ら⼟土⽅方の仕事につくねん。そやから3⽉月の卒業式に はくるけど、もう学校に来うへんわ」と宣⾔言する。
  • 36. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture
  • 37. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture ぶつかるよりも 話をきいてやる モニターしつつの 関わり ストレングスへの 注目
  • 38. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture 事例例:ええ体験できたな • (2年年⽣生のシゲが、他校⽣生とトラブルになった時、アキ はいろんな情報をもらえた。それがシゲのトラブルの解 決にも役⽴立立った)・・・お⺟母ちゃん、もう涙、涙で。ア キ君に助けてもろてほんまにありがとう⾔言うて、泣きな がらお⺟母ちゃんがアキにお礼を⾔言うてくれはった。・・ (略略)・・アキはもうニコーッとして職員室へ⼊入ってき よって。お前よかったなと。⼈人にこれだけありがとう、 ありがとうと⾔言われて、お前のやっぱりやってたことは 間違いじゃなかったなと。・・・こうやって感謝してく れはったり、⼈人のあの役に⽴立立てるちゅうのが何かすごく よくないか?と、気持ちよくないか?と⾔言うたら「む ちゃ気持ちええ」と。・・・おまえ、中学校これで最後 にして、今までこんなこともなかったやろし、ええ体験 できたなと(G先⽣生へのインタビューから)。 49
  • 39. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture
  • 40. University  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  CultureUniversity  of  Shiga  prefecture.  School  of  Human  Culture まとめ • アキは「疎外感」を感じつつ、廊下で1⼈人でいた。 • 教員の(1)他校⽣生徒との関わりを切切るのではなく、むし ろつながって「モニターしつつついていく実践」によっ て「よいことをして感謝される」体験ができた。また、 (2)  ストレングスに注⽬目した指導によって、将来像が明 確になり、学校にいることの意味の再定義につながった。 そのことで⾦金金髪や違反制服でなくても、パワフルなアイ デンティティを発揮できることが実感された。 • ⾮非⾏行行⽣生徒のリジリアンスは、本⼈人のアイデンティティの 変化だけでなく、教師たちの「抑えられない教師」から 「⼒力力で抑えない教師」というアイデンティティの変化、 ⾮非⾏行行⽣生徒への理理解の深まりといった変化と共起している。