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- 1. 元都立文京盲学校主任教諭 うになってきた。
(現都立葛飾盲学校主任教諭) 2 視覚に障害のある子どもに対す
松島 賢知 る情報教育の支援のあり方
Ⅰ 視覚障害教育における情報化へ
の取組 現在のコンピュータ操作は、グラ
フィカルユーザーインターフェース
1 視覚障害は情報障害 (GUI)が主流となっている。視
認性、操作性に優れ、直感的な操作
視覚障害は、その障害の特性から が可能なため幅広く普及してきた。
「情報障害」とも言われる。一般的 しかしながら、視認性重視の設計の
に目から入る情報量というのは、人 ため、視覚に障害のある児童・生徒
間の得る情報量の80%にも及ぶと にとっては、逆に扱いづらいインタ
いわれる。すなわち視覚障害者は、 ーフェースであ る。それゆえ、マウ
情報弱者なのである。 スポインタが見えない、アイコンが
一般社会で使われる文字(墨字) 見えない、画面に配置されているボ
が、見えない、あるいは見えずらい タンの位置がわからない等、パソコ
盲学校の児童・生徒は、幼児期から点 ンを操作する上での大きなハンディ
字という表記手段の獲得や漢字(部 となりそこに情報格差(デジタルデ
首の形成や筆順など)の習得など、 バイド)も生じている。
日常生活に必要となる紙ベース の情 そのため、視覚に障害のある児童・
報手段を身につける事に、多大なる 生徒の情報活用能力を育成するため
学習時間を費やす。言い換えれば視 には、読み取りにくい画面の情報を、
覚障害のある児童・生徒は、情報障害 画面の拡大や色調の調節などで補い、
を補うための情報教育が必須となり、 視 覚 か ら 得 ら れ な い 情 報 は 、 聴 覚
様々に工夫された情報教育が早期の (音声読み上げ)や触覚(ピンディ
段階から行われていることにな る。 スプレイ等)などの代替え手段を使
それに加え、情報化の進展により、 って補うなど、個々の障害に応じた
従来の紙ベースの情報をデジタル化 工夫の仕方を身につけさせることが
することで、視覚障害者のコミュニ 必要である。
ケーション手段が飛躍的に広がるよ 具体的な支援方策としては、視覚
- 2. 的な画面情報が全く入手できない 率も高くなり、携帯電話やコンピュ
(全盲)場合には、オペーレーティ ータにまつわる様々な犯罪を知り、
ングシステム(OS)やアプリケー 情報弱者として情報犯罪から自分の
ションの情報を、音声リーダーで読 身を守る工夫を、主体的に行う姿勢
み上げさせ聴覚情報として入手した を身につけさせることも大切である。
り、ピンディスプレイなどに出力し それらの結果、教室で学ぶことだ
一過性の音声に対してフィードバッ けでは得られない多くの情報に、よ
クできる触覚情報として入手する方 り能動的にリアルタイムに接するこ
法がある。 とができるようになる。このように、
また、文字データをデジタル化す 適切な支援機器の工夫と情報教育に
ることで、点字と普通文字等との相 より、視覚障害教育においては情報
互変換を行うことができ、点字利用 活用能力を伸ばすことが、情報格差
者でも漢字カナ混じりの文章を書き、 の幅を狭め、情報化社会への参画す
印刷することができる。一方、画面 る態度を育てることにつながる。
が読みとりにくい(弱視)場合には、 ( 参 考 文 献 教育の情報化・・文科
その視覚特性に合わせて、画面の拡 省)
大・白黒反転・色の調節・音声化な
どを行なう。どちらにおいても、マ Ⅱ 視覚障害教育における実践
ウスが使えない、キーボードがうま
く操作できないなどの現象に対応す 盲学校等においては、視覚からの
るために、マウス操作をキーボード 情報の不利を補う手段として、音声
で操作するためのキーの割り当て 読み上げの技術を追求し、マウス操
(ショートカット)を覚える必要が 作に頼らなくともコンピュータの操
ある。 作ができるような工夫を積み重ねて
また、情報化の進展が視覚障害者 きた。また、画面情報をピンディス
の生活に新しい可能性を切り開いて プレイに表示することで、触覚によ
くれる反面、情報化社会が自己の生 り情報を得ることができ、それらの
活環境にどのような影響を与えてい 機器の発達により得られる情報量も
るかを、適切に把握・理解させなけ 増えてきた。
ればならない。近年携帯電話の所持 一方、画面が見づらい弱視の場合
- 3. に は 、 音 声 読 み 上 げ の 技 術 に 加 え て 、 められる。
弱視者用の多機能な専用ソフトウェ
アを活用することにより操作性が向 Ⅲ 実践事例
上し、情報機器の活用の幅を広げて
きた。 1 盲学校における、音声リーダー
文字処理においては、コンピュー の活用と音声対応ソフトによるネッ
タ点訳の技術が進歩し、文字をデジ ト検索(高等部 情報A)
タル化することで飛躍的に点訳の労
力 を 省 く こ と が で き る よ う に な っ た 。 〈ねらい〉
また、音声リーダーの辞書機能の向 ①校内ネットワークと階層構造の理
上により、点字利用者が普通文字の 解
文章を同音異句を遣い分けながら、 ②視覚特性に合わせた画面設定と音
手軽に書くことができるようになっ 声リーダーを用いたワープロソ フト
た。さらに、紙に印刷された普通文 の操作
字をスキャナーで取り込みOCRに ③長文の要約と音声リーダーを用い
かけてデジタル化することで、音声 た漢字カナ混じり文の表記
化したり点字化したりと出力形態を ④音声対応ソフトによる、インター
簡単に変化させることができるなど、 ネット上の辞書・ニュース・路線等
文字のデジタル化により取り扱える の検索
情報量が格段に増加した。
このように、個々の障害の実態に応 〈学習の展開〉
じた適切なアシスティブ・テクノロ 音声リーダーとキーボードのショ
ジーを講じることで、視覚に障害の ートカットを利用し、ネットワーク
ある児童・生徒が一般社会と情報を ハードディスクのフォルダー内にあ
共有することが、幅広くできるよう る問題文にアクセスし開く。その際、
になってきた。それ故に、情報機器 自身の障害特性に合わせた音声設定
の活用は、コミュニケーション手段 と文字サイズ設定・ハイコントラス
を飛躍的に広げ、デジタルデバイド ト(白黒反転)設定を適宜行う。長
を減少させるために必須であり、情 文の社会ニュース(問題文)を音声
報活用能力を伸ばすことが大いに求 リーダーで読み上げさせ、内容を要
- 4. 約してワープロソフトでまとめる。 能的負担を軽減し、さらに は操作性
また、点字利用者にはピンディス プ も向上することを体験する。音声リ
レイを併用させる。ショートカット ーダーを用いることで、印刷物では
の利用により、ソフトウェアの切り 枚数も多くなり生徒にとっては読む
替えやアプリケーションの操作等が 気力が下がってしまうような文章量
素早く的確に行え、操作性が向上す でも、比較的楽に読み進むことがで
る感覚を体験させる。 きる。
問題文に関するニュースや解らな また、点字利用者にはピンディス
い語句、地域等を音声対応ソフトを プレイを併用させることで、一過性
用いてネット検索し、それぞれまと な音声情報だけではなく、 画面情報
める。 を触覚情報に変換させフィードバッ
要約をもとにそれぞれの感想を報 クしながらの繰 り返しの操作が可能
告しあい、ネット検索で調べた関連 になり、情報処理能力が向上する。
記事及び関連事項等を報告する。 音声対応ネット検索ソフトを用いて、
リアルタイムにニュース検索ができ
〈機器の工夫〉 ること、また、ネット上の辞書を利
①マウスレスを基本としたショート 用することにより、書籍としての辞
カットの利用 書より素早く語句検索ができること
②音声リーダー及び音声対応ネット を体験する。
検索ソフト(辞書・ニュース・路線 教材・教具として音声リーダーや
等)の利用 ピンディスプレイ等に頼りがちだが、
③弱視者用画面設定ソフトの利用 それだけではパソコン特有のディレ
④ピンディスプレイ等の触察機器の クトリ等の階層構造やファイル保存
利用 の際の処理の流れなど、現在コン ピ
⑤画面をデフォルメした立体コピー ュタの画面上がどのように表示され、
の工夫 どのように移動しているかといった
内容を知ることは難しい。そこで、
〈ポイント〉 画面をデフォルメした立体コピーを
マウスレスを基本にし、音声とシ 用意し、触察によるイメージ化を図
ョートカットを利用することで 視機 る。(図1)
- 5. (東京都立文京盲学校 高等部
情報A 平成二一年度実践 よ
り)
図1 階層 構 造を 表 した 立 体コ ピ ー
上記一連の操作を統合的に行うこ
とで、情報の享受に関しては受け身
であった視覚に障害のある児童・生
徒たちに、能動的に情報を集め取り
扱う姿勢を身につけさせることが大
切である。
「できないから使わない」ではな
く、「どのようにしたら、活用できる
か」と、知的好奇心を持って情報機
器に向かう力をつけさせる。この観
点が、視覚障害教育における情報教
育の大きな柱になる。