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組織開発 (OD) の倫理:
現状の理解と今後の展開へ向けて
土屋 耕治 (南山大学)
tsuchiya@nanzan-u.ac.jp
OD Network Japan 2015年次大会
2015/08/23, 14:00-15:15@大妻女子大学 F642
(Appendixなどは,HPを参照のこと)
自己紹介
• 土屋耕治 (南山大学人文学部心理人間学科講師)
• 専門: 社会心理学,グループ・ダイナミックス,    
体験学習。
• 研究: 小集団の力とされる 集団的知能 (collective
intelligence) が発揮される過程に注目し実験を行う
• 実践: Tグループのトレーナーも行いながら,組織開発
の実践も経験し,関心を寄せる。
• 倫理に関するお話をするに至った経緯
本日の内容
• 0. はじめに
• 1. 倫理とは
• 2. ODの倫理
• 3. OD / HSD (Human Systems Development) の
専門家による価値観と倫理の声明
• 4. 倫理的ジレンマ
• 5. ODの価値観と倫理に関する現状と今後に向けて
• 6. まとめと考察
• 7. ディスカッション
0. はじめに
• 組織開発 (OD) の社会的認知度の高まりは,専門家の果たす
責任が大きくなることも意味している。
• 本発表では,日本におけるODの展開を鑑み,ODの倫理
(ethics) に関する現状を報告し,専門家としての質を担保し
たり,社会への説明責任を果たしたりしていくために倫理
について議論する場が必要であることを示す。
• その上で,現在,ODのハンドブックなどに示されている倫
理綱領 (ethical code) を紹介しながら,ODNJが倫理に関
してどのような面で貢献できるのかという点について議論を
したい。
1. 倫理とは
1.1 職業倫理
• 職業倫理 (professional ethics) とは,専門的職業に
就く人が,自ら定め,遵守すべき行動規則。
• ODが実践を伴うものであることを考えると,他の対
人支援職 (e.g., 慶野, 2008) と同様,倫理について考
える場が必要であろう。
1.2 職業倫理の目的
• Sinclar, Simon, & Pettifor (1996) は倫理規定の主要な目
的として,4つを挙げている。
• (a): 集団が専門職としての地位を築くことに寄与する
• (b): 個々の専門職業人の助力となり手引として働く
• (c): 専門職としての地位を保つための責任を果たす
• (d): 個々の専門職業人が倫理的ジレンマを解決する助けとな
る道徳規準を与える
• 専門職の社会的地位がある程度確立されてこそ質量ともに安
定したサービスが提供されると考えると,専門家,サービ
スを受ける双方にとって,倫理規定が必須のものであろう
(慶野,2008)。
1.3 倫理の2つの構成要素
(コウリーら,2004)
• 「命令倫理」:
• 専門家として最低限の基準に従って行動するレベル。「秘
密を守る」など,具体的な行動の基準がこれにあたり,違
反すれば何らかの制裁が加えられる可能性がある。
• 「理想追求倫理」:
• 基本的人権の尊重,専門家としての資質向上など,専門家
として最高の行動基準を目指すレベル。人々の幸福と福祉
に貢献するために,専門家として最高の基準を目指し,熟
練してもなお自分を高めようとする姿勢が求められてい
る。
1.4 倫理綱領 (ethical code,倫理
コード) の目的に含まれるべきもの (1)
• クライエントにとって最善の利益となるものを提供すること
によって,彼らの福祉を保護すること。
• いかなる理由であれ,もし,倫理コードに従わないと決定
する場合には,必ず自分の行為に合理的な根拠がなければ
ならない。
1.4 倫理綱領 (ethical code,倫理
コード) の目的に含まれるべきもの (2)
• さらに,以下の3つの目的を満たすものでなくてはならない
とされる。
• 1. 健全で倫理的な行為について専門家を教育すること
• 2. 専門家としての説明責任 (accountability) を確立する
基盤を提供すること:
• 実践家は,自身の行動だけに気を付けていいのではな
く,同僚に倫理的行動を促すことも一つの義務である。
• 3. 実践の向上を促す触媒になること。
• 単純な答えのでない性質のジレンマについての疑問を考
えることで,自分のスタンスがはっきりと見えてくる。
1.5 倫理綱領の特徴と活用 (1)
• 自分の専門分野の倫理コードに明るくなっておく必要があ
る (コウリーら,2004)。
• ただし,実践でのこれらのコードの適用には困難がつき
ものである。
• 綱領は,詳細で具体的というより,大まかでおおざっぱ。
• こうしたおおざっぱなガイドラインをどう解釈して日々の実
務に適用していくかを決めるのは,次の2つ。
• 「倫理的自覚 (ethical awareness)」
• 「問題解決技能 (problem-solving skills)」
• 専門家としての責任ある行動をとれるようになるマニュアル
ではない。
• 倫理的責任を果たすのに必要であるが,十分ではない。
1.5 倫理綱領の特徴と活用 (2)
• より具体的には,次のような事柄に直面する可能性がある。
• 倫理綱領を拠り所としているだけでは解決できない問題も
ある。
• さまざまな組織の倫理綱領同士だけでなく,一つの倫理綱
領の中でも矛盾が発生する場合がある。
• 一般的に倫理綱領は,過去の事例への反応から生まれるも
のであり,未来に起きるかもしれない問題を予見して作ら
れたものではない。
• 実践家の個人的な価値観が,倫理綱領における特定の基準
と対立する場合がある。
• 同じ職能団体の中であってもさまざまな意見があるため,
倫理基準の全てについて全員が同意見というわけではな
い。
1.6 周辺領域の職業倫理の特徴
(臨床心理実践の例)
• 臨床心理実践における職業倫理の諸原則 (Pope, Tabachnick, &
Keith-Spiegel, 1987; Redlich & Pope, 1980)
• 第1原則: 相手を傷つけない,傷つけるようなおそれのあること
をしない。
• 第2原則: 十分な教育・訓練によって身につけた専門的な行動の
範囲内で,相手の健康と福祉に寄与する
• 第3原則: 相手を利己的に利用しない
• 第4原則: 一人一人を人間として尊重する
• 第5原則: 秘密を守る
• 第6原則: インフォームド・コンセントを得,相手の自己決定権
を尊重する
• 第7原則: 全ての人々を公平に扱い,社会的な正義と公平と平等
の精神を具現する
2. ODの倫理
2.1 ODプロフェッショナルにおける
倫理の位置づけ
• 組織開発の倫理に関して,Gallermann, Frankel, &
Ladenson (1990) は,次のような図 (Figure 1) と共に,
ODの実践家志望者がプロフェッショナルとなっていく過程
を描いた。
• プロフェッショナルになる過程の中心に,価値観と倫理を
置いている。
OD-HSD実践家
または
実践家志望者
倫理
価値観
望ましい実践の
スタンダードの設定
とモニター
望ましい実践へ向けた
公共の関心の教育
知識を開発し,
維持すること
実践と実践家の
モニター
OD-HSD
プロフェッショナル
プロフェッショナルの教育と
トレーニング
ヒューマン・システム
(個人,グループ,組織,コミュニティ,社会)
テクノロジー,経済,文化
 Figure 1. OD/HSD (Human Systems Development) の専門家 (プロセス・モデル)
Note. プロフェッショナル内外でそれぞれの要素が相互作用する
ダイナミックな過程と理解すること。
出典: Gellermann, Frankel, & Ladenson (1990) p16
2.2 価値観と倫理の関係
(Jamieson & Gellermann, 2014)
• ODは,組織を構成する個人や関係,調整を促進する   
価値観に基づいた (values-based) プロセス。
• 価値観 (Values):
• 価値観は, 何を大切にするかという基準となるもの 。  
例えると,磁北。
• 倫理 (Ethics):
• 価値観に基づいて良い行動と悪い行動の基準となるもの 。
例えると,方位磁針。
2.3 OD/HSDの中心的価値観
(NTL Handbook, 2014)
• 1. 基本的価値観:
• a. 人生と幸福の探求,b. 自由,責任,自己コントロール
• 2. 個人・対人的価値観:
• a. 人間の可能性とエンパワーメント,b. 尊重,尊厳,品
位,価値,基本的人権と他の人間システム,c. 信頼性,
一致,正直さ,オープンさ,理解,受容,d. 柔軟さ,変
革と予防的行動
• 3. システムの価値観:
• a. 学習,開発,成長,変容,b. 全てがWinという態度,
協力と協調,信頼,コミュニティと多様性,c. 広がり,
システムの事柄への意味ある参加,民主主義,適切な意思
決定,d. 効果性,効率,連携
• ※価値観とされるものも変遷してきている
3. OD / HSD (Human Systems Development)
の専門家による価値観と倫理の声明
3.1 制定の歴史
• 1980年,倫理綱領がなければプロフェッショナルとは言え
ないであろうと考え,作成が決断される。
• Gellermannが中心となって作成。
• 15カ国から200人を超える人が関与し,様々な意見を元
に,修正がくり返される。
• 関連する情報センター (clearinghouse) も設立
3.2 OD / HSDの専門家による価値観と倫理の声明
• 1. 自分自身への責任
• e.g., 誠実さと信憑性
• 2. プロフェッショナルの開発と能力への責任
• e.g., 自己の行動が引き起こす結果に関する責任,他の専門家との協力体制
• 3. クライエントと重要他者への責任
• e.g., クライエントへの正直さ,責任
• 4. 専門的職業への責任
• e.g., 専門的知識やスキルの共有の促進
• 5. 社会的責任
• e.g., 正義とウェルビーイングの促進
3.3 アメリカ,OD Networkの倫理の利用の仕方
• Organization and Human Systems Development Credo
(July 1996)
• 声明の歴史と声明の一部をCREDO (信条) として明示。
• 1. 専門家としての私たちの目的は、人間と人間のシステムが相互
の利益とウェルビーイングを共に生き,働くプロセスを促進する
ことです。 (以下,略)
• 2. 人間と人間のシステムは,経済的,政治的、社会的、文化的お
よび精神的に相互に依存しており,それらの相互の有効性は,私
たちの実践をガイドする主要な価値観を反映した基本的な理念に
根ざしていると,私たちは信じています。 (以下, 略)
• 3.私たちは,個人のプロフェッショナルとしての効果性の他に,
専門職としての私たちの効果性には,広く共有された特定のモラ
ル-倫理ガイドラインに関与し,それに沿って行動することが求め
られていると信じています。 (以下, 略)
3.4 OD / HSDの専門家による価値
観と倫理の声明 の詳細
• 詳細は,Appendixを参照。
• 下記のHPにPDFファイルがあります。
• →https://kojitsuchiya.wordpress.com/
2015/08/21/20150823odethicstsuchiya/
• SlideShare下記の「概要」にリンクを貼りました。
4. 倫理的ジレンマ
(e.g., White & Wooten, 1983)
• 実際のやりとりの中でも,全ての違いを完全に解消するの
は難しい。
• コンサルタントとクライエントが,違うものを目指し,スキ
ルや価値の発揮が違うゴールを目指して行われてしまうこと
がある。
• そうした際に,倫理的ジレンマ (ethical dilemma) と呼ば
れる問題が起こる。
• ここでは,役割の葛藤や,曖昧さが,引き起こす代表的な5
つのジレンマを紹介する。
• ※倫理綱領の制定と同時期から,話されてきた問題です。
変革者の役割
クライアント・
システムの役割
価値観
目標
ニーズ
スキル/能力
役割に関する
出来事
・役割の葛藤
・役割の曖昧さ
倫理的ジレンマ
・不当表示
・データの誤用
・強制
・価値と目標の葛藤
・技術的な無能さ
帰結プロセス先行要因
 Figure 2. 倫理的ジレンマの役割に関するエピソード・モデル
出典: Wooten, & White (1983)
※ 倫理的ジレンマのプロセス・モデル
(NTL Handbook, 2014)
4.1 不当表示 (Misrepresentation)
• 例,実際の状況に合致しない変革プログラムを提案。目標
とニーズの把握が不正確。
• 例,Tグループを勝手に実施した (「覆面チェンジ・エー
ジェント」)。しかし,社長のリーダーシップのコンセプト
と違い,クビに。
• これらは,最初の契約のところで起こる問題
• →防止のために:
• 改革のエフォートのゴールを明確にする。
• クライアントの期待する効果を共に探す。
• 実践家が介入を遂行する自信 (コンピテンス) を持つ。
4.2 データの誤用 (Misuse of data)
• 例,集められたデータが,懲罰的に使われる
• エントリー,診断のフェイズで起こる問題
• 実践家が勢力 (power) を増大させるのに使ってしまうこと
で起こることもある。
• 不適切なリーク
• →防止のために:
• データを集める際に,どう使われるのかを合意してお
き,適宜ふり返るのがよい。
4.3 強制 (Coercion)- (1)
• ODの働きかけに参加しなければいけない場合に問題となる
• 問題の解決が,自己に依存しているのならば,参加するかど
うかは選べるものである
• 働きかけを受けるかどうかをチームが選べるというのが原則
• マネイジャーが,このチームにはこの働きかけが必要だと 
一方的に決めてはいけない。
• ただ,ODの働きかけを知らないのだから,その特徴,もた
らされるものについて教えていくということが義務だ
4.3 強制 (Coercion)- (2)
• 援助職は,過度の操作・依存の可能性は常に持っている
• 価値の押し付けの潜在的な可能性がある (Kelman,1969)
• (1) 変革しようという試み自体が,変革・操作となる
• (2) 決まった公式のようなものがないのだから,上記の操
作は避けることができるものだ
• →防止のために:
• 選択の自由を確保すること。自由の制限は,倫理的にあい
まいにさせ,悪化させる。
• 自分の価値観を自覚すること,そしてそれが影響するとい
う可能性を知っておくこと。
• 変革のエフォートをできるだけオープンに,そして,個人
が関わるときは,合意に関して自由であること,十分な知
識を与えておくことが大切
4.3 強制 (Coercion)- (3)
• 例,依存してしまう。本当は,知識とスキルを得て,コンサ
ルタントから独立して,自分でマネイジメントしていくこと
が目標。
• 依存しなさ過ぎ,という問題もある。
• →防止のために:
• (1) 依存について,よく話すようにすること。お互いへ 
何を期待しているかも話すこと。
• (2) 問題の発見に,両者で向かうこと。クライアントは解
決策を欲してしまうため,問題の発見に両者で向かうこ
とで,依存から脱し,問題へのマネイジメントの要求に
移っていく。
4.4 価値と目標の葛藤 (Value and goal conflict)
• 改革の試みの目的が不明瞭だったり,ゴールの達成の仕方に
合意がないときに起こる。
• Lippit (1969) の言葉: 「既に変革がどちらにしろ起ころう
としているときに,コンサルタントは最も建設的なやり方
で,変革をガイドしようと責任を持てるのだろうか?」
• 例,すでに行われていることを引き継いだり,内部コンサル
タントだったりするとき。
• コンサルタントは,応急処置を与えられるだけ (コンサルタ
ントの価値観を譲歩するものではい限り)
• 例,KKKでも,自分たちを心から査定し,コミットしたい
というのであれば,助けるべきだ。後に,KKKの目的が,
当初話されていたものよりも正直でないことが分かった
ら,譲歩せずにやめてもいい。
4.5 技術的な無能さ(Technical ineptness)
• スキルがない,または,クライエントの変革の準備のなさ
• 適切な診断による,適切な働きかけができるかということ
による
• 働きかけの選択は,コンサルタントの価値観,スキル,能力
に関連する
• また,組織の力とも関係する
• →防止のために:
• 注意深い診断により,組織が準備段階にあるか,スキル
や知識があるかということも見ていくことができる。
• ODの未来に関する議論 (Worley & Feyerherm, 2003) で
は,現在,ODが,価値観に関する混乱と曖昧さを経験して
いることが示唆されている。
• そうした中,実践家は,一般的に合意された倫理基準より
も,個人の持つ価値や倫理の枠組みに頼っているという見
方もある。
5. ODの価値観と倫理に関する現状と
今後に向けて (1)
5. ODの価値観と倫理に関する現状と
今後に向けて (2)
• 倫理的コンピテンスを伸ばしていくことが大切だ,という議
論がある (DeVogel, 1992)。
• 1. 自分自身の信念,価値観,倫理,倫理的挑戦に関して
明確に理解し,"十分に考えた上での直観" を持つ。
• 2. 経験を反省し,創りあげた知識によって未来の行動を
考えられる。
• 3. 必要であれば,価値観や倫理を利用可能な状態にでき
る,つまり,倫理的意思決定のモデルを提示できる。
• ※倫理綱領がないことで,ODの実践家が,自己の関心にの
み依拠して判断をしてしまうというリスクも指摘されている
(Egan & Gellermann, 2005)。
6. まとめと考察 (1)
• 社会の中で専門職としての地位を築き,よりよい実践のため
に,職業倫理は必要とされている。
• ODは価値観に基づくプロセスを重視しており,ODの倫理
は価値観との関連で位置づけられる。
• ただし,ODの価値観に関しては,様々なものが時代と共に
変遷してきたという経緯もある。
• 倫理綱領の詳細で特徴的であるのは,システム全体に関する
配慮と言え,これは自己の価値観などがあらゆる働きかけ
に表れてくることへの警笛であろう。
• 倫理において言及されることのある「目的は手段を正当化
しない」という言葉と考え合わせると,正確な情報提供に
基づく自己決定権の保証というのは,とても大切になると
考えられる。
6. まとめと考察 (2)
• 実践家同士は,ともすると競合関係であるが,コミュニティ
としての裾野を広げ,相互研鑽をしていくことが,適切な形
でODが社会に根付くことにつながるだろう。
• 例,スーパーバイズ,事例検討会
• 現在日本では明確な資格があるわけではないため,倫理綱領
の設定と運用 (例,倫理違反への対応) に関しては,慎重に
行っていくべきであろう。
• まずは,倫理が議論の触媒として機能し,自分の価値観を知
り,将来のジレンマを回避する助けとしていくということが
よいのかもしれない。
• ODの倫理を考えていくことは,ODの適用範囲の境界線も意
識することになり,それは適切な実践へもつながるだろう。
• 適切なアセスメント,停止条件,方法・プロセスの倫理性
7. ディスカッション
• ODの倫理に関する今後の展開において,何を考慮に入れる
必要があるのか。
• ODNJというコミュニティが果たす役割とは何なのか。
• 具体的には,ODの実践が持つ潜在的な問題,課題,そし
て,そういった事柄への対処や仕組みに,倫理という側面
からODNJが貢献できる可能性はあるか。
主要引用文献など
• Anderson, D. L. (2013). Organization development: The process of leading
organizational change. Sage Publications.
• Corey, G., Corey, M. S., & Callanan, P. (2003). Issues and Ethics in the Helping
Professions, Sixth Edition. Pacific Grove: Brooks/Cole, a division of Thomson Learning.              
(コウリー, G.・コウリー, M. S.・キャラナン, P. 村本詔司 (監訳) (2004). 援助専門家のための倫
理問題ワークブック 創元社).
• Cummings, T., & Worley, C. (2014). Organization development and change (10th
edition). Cengage learning.
• Gellermann, W., Frankel, M. S., & Ladenson, R. F. (1990). Values and ethics in
organization and human systems development: Responding to dilemmas in professional
life. Jossey-Bass.
• Jones, B. B., & Brazzel, M. (Eds.). (2014). The NTL handbook of organization
development and change (2nd edition): Principles, practices, and perspectives. John
Wiley & Sons.
• 慶野遥香. (2008). 心理専門職の職業倫理の現状と展望. 東京大学大学院教育学研究科紀要, 47,
221-229.
• White, L. P., & Wooten, K. C. (1983). Ethical dilemmas in various stages of organizational
development. Academy of Management Review, 8(4), 690-697.

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ODNJ2015発表資料「組織開発 (OD) の倫理」土屋耕治

  • 1. 組織開発 (OD) の倫理: 現状の理解と今後の展開へ向けて 土屋 耕治 (南山大学) tsuchiya@nanzan-u.ac.jp OD Network Japan 2015年次大会 2015/08/23, 14:00-15:15@大妻女子大学 F642 (Appendixなどは,HPを参照のこと)
  • 2. 自己紹介 • 土屋耕治 (南山大学人文学部心理人間学科講師) • 専門: 社会心理学,グループ・ダイナミックス,     体験学習。 • 研究: 小集団の力とされる 集団的知能 (collective intelligence) が発揮される過程に注目し実験を行う • 実践: Tグループのトレーナーも行いながら,組織開発 の実践も経験し,関心を寄せる。 • 倫理に関するお話をするに至った経緯
  • 3. 本日の内容 • 0. はじめに • 1. 倫理とは • 2. ODの倫理 • 3. OD / HSD (Human Systems Development) の 専門家による価値観と倫理の声明 • 4. 倫理的ジレンマ • 5. ODの価値観と倫理に関する現状と今後に向けて • 6. まとめと考察 • 7. ディスカッション
  • 4. 0. はじめに • 組織開発 (OD) の社会的認知度の高まりは,専門家の果たす 責任が大きくなることも意味している。 • 本発表では,日本におけるODの展開を鑑み,ODの倫理 (ethics) に関する現状を報告し,専門家としての質を担保し たり,社会への説明責任を果たしたりしていくために倫理 について議論する場が必要であることを示す。 • その上で,現在,ODのハンドブックなどに示されている倫 理綱領 (ethical code) を紹介しながら,ODNJが倫理に関 してどのような面で貢献できるのかという点について議論を したい。
  • 5. 1. 倫理とは 1.1 職業倫理 • 職業倫理 (professional ethics) とは,専門的職業に 就く人が,自ら定め,遵守すべき行動規則。 • ODが実践を伴うものであることを考えると,他の対 人支援職 (e.g., 慶野, 2008) と同様,倫理について考 える場が必要であろう。
  • 6. 1.2 職業倫理の目的 • Sinclar, Simon, & Pettifor (1996) は倫理規定の主要な目 的として,4つを挙げている。 • (a): 集団が専門職としての地位を築くことに寄与する • (b): 個々の専門職業人の助力となり手引として働く • (c): 専門職としての地位を保つための責任を果たす • (d): 個々の専門職業人が倫理的ジレンマを解決する助けとな る道徳規準を与える • 専門職の社会的地位がある程度確立されてこそ質量ともに安 定したサービスが提供されると考えると,専門家,サービ スを受ける双方にとって,倫理規定が必須のものであろう (慶野,2008)。
  • 7. 1.3 倫理の2つの構成要素 (コウリーら,2004) • 「命令倫理」: • 専門家として最低限の基準に従って行動するレベル。「秘 密を守る」など,具体的な行動の基準がこれにあたり,違 反すれば何らかの制裁が加えられる可能性がある。 • 「理想追求倫理」: • 基本的人権の尊重,専門家としての資質向上など,専門家 として最高の行動基準を目指すレベル。人々の幸福と福祉 に貢献するために,専門家として最高の基準を目指し,熟 練してもなお自分を高めようとする姿勢が求められてい る。
  • 8. 1.4 倫理綱領 (ethical code,倫理 コード) の目的に含まれるべきもの (1) • クライエントにとって最善の利益となるものを提供すること によって,彼らの福祉を保護すること。 • いかなる理由であれ,もし,倫理コードに従わないと決定 する場合には,必ず自分の行為に合理的な根拠がなければ ならない。
  • 9. 1.4 倫理綱領 (ethical code,倫理 コード) の目的に含まれるべきもの (2) • さらに,以下の3つの目的を満たすものでなくてはならない とされる。 • 1. 健全で倫理的な行為について専門家を教育すること • 2. 専門家としての説明責任 (accountability) を確立する 基盤を提供すること: • 実践家は,自身の行動だけに気を付けていいのではな く,同僚に倫理的行動を促すことも一つの義務である。 • 3. 実践の向上を促す触媒になること。 • 単純な答えのでない性質のジレンマについての疑問を考 えることで,自分のスタンスがはっきりと見えてくる。
  • 10. 1.5 倫理綱領の特徴と活用 (1) • 自分の専門分野の倫理コードに明るくなっておく必要があ る (コウリーら,2004)。 • ただし,実践でのこれらのコードの適用には困難がつき ものである。 • 綱領は,詳細で具体的というより,大まかでおおざっぱ。 • こうしたおおざっぱなガイドラインをどう解釈して日々の実 務に適用していくかを決めるのは,次の2つ。 • 「倫理的自覚 (ethical awareness)」 • 「問題解決技能 (problem-solving skills)」 • 専門家としての責任ある行動をとれるようになるマニュアル ではない。 • 倫理的責任を果たすのに必要であるが,十分ではない。
  • 11. 1.5 倫理綱領の特徴と活用 (2) • より具体的には,次のような事柄に直面する可能性がある。 • 倫理綱領を拠り所としているだけでは解決できない問題も ある。 • さまざまな組織の倫理綱領同士だけでなく,一つの倫理綱 領の中でも矛盾が発生する場合がある。 • 一般的に倫理綱領は,過去の事例への反応から生まれるも のであり,未来に起きるかもしれない問題を予見して作ら れたものではない。 • 実践家の個人的な価値観が,倫理綱領における特定の基準 と対立する場合がある。 • 同じ職能団体の中であってもさまざまな意見があるため, 倫理基準の全てについて全員が同意見というわけではな い。
  • 12. 1.6 周辺領域の職業倫理の特徴 (臨床心理実践の例) • 臨床心理実践における職業倫理の諸原則 (Pope, Tabachnick, & Keith-Spiegel, 1987; Redlich & Pope, 1980) • 第1原則: 相手を傷つけない,傷つけるようなおそれのあること をしない。 • 第2原則: 十分な教育・訓練によって身につけた専門的な行動の 範囲内で,相手の健康と福祉に寄与する • 第3原則: 相手を利己的に利用しない • 第4原則: 一人一人を人間として尊重する • 第5原則: 秘密を守る • 第6原則: インフォームド・コンセントを得,相手の自己決定権 を尊重する • 第7原則: 全ての人々を公平に扱い,社会的な正義と公平と平等 の精神を具現する
  • 13. 2. ODの倫理 2.1 ODプロフェッショナルにおける 倫理の位置づけ • 組織開発の倫理に関して,Gallermann, Frankel, & Ladenson (1990) は,次のような図 (Figure 1) と共に, ODの実践家志望者がプロフェッショナルとなっていく過程 を描いた。 • プロフェッショナルになる過程の中心に,価値観と倫理を 置いている。
  • 15. 2.2 価値観と倫理の関係 (Jamieson & Gellermann, 2014) • ODは,組織を構成する個人や関係,調整を促進する    価値観に基づいた (values-based) プロセス。 • 価値観 (Values): • 価値観は, 何を大切にするかという基準となるもの 。   例えると,磁北。 • 倫理 (Ethics): • 価値観に基づいて良い行動と悪い行動の基準となるもの 。 例えると,方位磁針。
  • 16. 2.3 OD/HSDの中心的価値観 (NTL Handbook, 2014) • 1. 基本的価値観: • a. 人生と幸福の探求,b. 自由,責任,自己コントロール • 2. 個人・対人的価値観: • a. 人間の可能性とエンパワーメント,b. 尊重,尊厳,品 位,価値,基本的人権と他の人間システム,c. 信頼性, 一致,正直さ,オープンさ,理解,受容,d. 柔軟さ,変 革と予防的行動 • 3. システムの価値観: • a. 学習,開発,成長,変容,b. 全てがWinという態度, 協力と協調,信頼,コミュニティと多様性,c. 広がり, システムの事柄への意味ある参加,民主主義,適切な意思 決定,d. 効果性,効率,連携 • ※価値観とされるものも変遷してきている
  • 17. 3. OD / HSD (Human Systems Development) の専門家による価値観と倫理の声明 3.1 制定の歴史 • 1980年,倫理綱領がなければプロフェッショナルとは言え ないであろうと考え,作成が決断される。 • Gellermannが中心となって作成。 • 15カ国から200人を超える人が関与し,様々な意見を元 に,修正がくり返される。 • 関連する情報センター (clearinghouse) も設立
  • 18. 3.2 OD / HSDの専門家による価値観と倫理の声明 • 1. 自分自身への責任 • e.g., 誠実さと信憑性 • 2. プロフェッショナルの開発と能力への責任 • e.g., 自己の行動が引き起こす結果に関する責任,他の専門家との協力体制 • 3. クライエントと重要他者への責任 • e.g., クライエントへの正直さ,責任 • 4. 専門的職業への責任 • e.g., 専門的知識やスキルの共有の促進 • 5. 社会的責任 • e.g., 正義とウェルビーイングの促進
  • 19. 3.3 アメリカ,OD Networkの倫理の利用の仕方 • Organization and Human Systems Development Credo (July 1996) • 声明の歴史と声明の一部をCREDO (信条) として明示。 • 1. 専門家としての私たちの目的は、人間と人間のシステムが相互 の利益とウェルビーイングを共に生き,働くプロセスを促進する ことです。 (以下,略) • 2. 人間と人間のシステムは,経済的,政治的、社会的、文化的お よび精神的に相互に依存しており,それらの相互の有効性は,私 たちの実践をガイドする主要な価値観を反映した基本的な理念に 根ざしていると,私たちは信じています。 (以下, 略) • 3.私たちは,個人のプロフェッショナルとしての効果性の他に, 専門職としての私たちの効果性には,広く共有された特定のモラ ル-倫理ガイドラインに関与し,それに沿って行動することが求め られていると信じています。 (以下, 略)
  • 20. 3.4 OD / HSDの専門家による価値 観と倫理の声明 の詳細 • 詳細は,Appendixを参照。 • 下記のHPにPDFファイルがあります。 • →https://kojitsuchiya.wordpress.com/ 2015/08/21/20150823odethicstsuchiya/ • SlideShare下記の「概要」にリンクを貼りました。
  • 21. 4. 倫理的ジレンマ (e.g., White & Wooten, 1983) • 実際のやりとりの中でも,全ての違いを完全に解消するの は難しい。 • コンサルタントとクライエントが,違うものを目指し,スキ ルや価値の発揮が違うゴールを目指して行われてしまうこと がある。 • そうした際に,倫理的ジレンマ (ethical dilemma) と呼ば れる問題が起こる。 • ここでは,役割の葛藤や,曖昧さが,引き起こす代表的な5 つのジレンマを紹介する。 • ※倫理綱領の制定と同時期から,話されてきた問題です。
  • 23. 4.1 不当表示 (Misrepresentation) • 例,実際の状況に合致しない変革プログラムを提案。目標 とニーズの把握が不正確。 • 例,Tグループを勝手に実施した (「覆面チェンジ・エー ジェント」)。しかし,社長のリーダーシップのコンセプト と違い,クビに。 • これらは,最初の契約のところで起こる問題 • →防止のために: • 改革のエフォートのゴールを明確にする。 • クライアントの期待する効果を共に探す。 • 実践家が介入を遂行する自信 (コンピテンス) を持つ。
  • 24. 4.2 データの誤用 (Misuse of data) • 例,集められたデータが,懲罰的に使われる • エントリー,診断のフェイズで起こる問題 • 実践家が勢力 (power) を増大させるのに使ってしまうこと で起こることもある。 • 不適切なリーク • →防止のために: • データを集める際に,どう使われるのかを合意してお き,適宜ふり返るのがよい。
  • 25. 4.3 強制 (Coercion)- (1) • ODの働きかけに参加しなければいけない場合に問題となる • 問題の解決が,自己に依存しているのならば,参加するかど うかは選べるものである • 働きかけを受けるかどうかをチームが選べるというのが原則 • マネイジャーが,このチームにはこの働きかけが必要だと  一方的に決めてはいけない。 • ただ,ODの働きかけを知らないのだから,その特徴,もた らされるものについて教えていくということが義務だ
  • 26. 4.3 強制 (Coercion)- (2) • 援助職は,過度の操作・依存の可能性は常に持っている • 価値の押し付けの潜在的な可能性がある (Kelman,1969) • (1) 変革しようという試み自体が,変革・操作となる • (2) 決まった公式のようなものがないのだから,上記の操 作は避けることができるものだ • →防止のために: • 選択の自由を確保すること。自由の制限は,倫理的にあい まいにさせ,悪化させる。 • 自分の価値観を自覚すること,そしてそれが影響するとい う可能性を知っておくこと。 • 変革のエフォートをできるだけオープンに,そして,個人 が関わるときは,合意に関して自由であること,十分な知 識を与えておくことが大切
  • 27. 4.3 強制 (Coercion)- (3) • 例,依存してしまう。本当は,知識とスキルを得て,コンサ ルタントから独立して,自分でマネイジメントしていくこと が目標。 • 依存しなさ過ぎ,という問題もある。 • →防止のために: • (1) 依存について,よく話すようにすること。お互いへ  何を期待しているかも話すこと。 • (2) 問題の発見に,両者で向かうこと。クライアントは解 決策を欲してしまうため,問題の発見に両者で向かうこ とで,依存から脱し,問題へのマネイジメントの要求に 移っていく。
  • 28. 4.4 価値と目標の葛藤 (Value and goal conflict) • 改革の試みの目的が不明瞭だったり,ゴールの達成の仕方に 合意がないときに起こる。 • Lippit (1969) の言葉: 「既に変革がどちらにしろ起ころう としているときに,コンサルタントは最も建設的なやり方 で,変革をガイドしようと責任を持てるのだろうか?」 • 例,すでに行われていることを引き継いだり,内部コンサル タントだったりするとき。 • コンサルタントは,応急処置を与えられるだけ (コンサルタ ントの価値観を譲歩するものではい限り) • 例,KKKでも,自分たちを心から査定し,コミットしたい というのであれば,助けるべきだ。後に,KKKの目的が, 当初話されていたものよりも正直でないことが分かった ら,譲歩せずにやめてもいい。
  • 29. 4.5 技術的な無能さ(Technical ineptness) • スキルがない,または,クライエントの変革の準備のなさ • 適切な診断による,適切な働きかけができるかということ による • 働きかけの選択は,コンサルタントの価値観,スキル,能力 に関連する • また,組織の力とも関係する • →防止のために: • 注意深い診断により,組織が準備段階にあるか,スキル や知識があるかということも見ていくことができる。
  • 30. • ODの未来に関する議論 (Worley & Feyerherm, 2003) で は,現在,ODが,価値観に関する混乱と曖昧さを経験して いることが示唆されている。 • そうした中,実践家は,一般的に合意された倫理基準より も,個人の持つ価値や倫理の枠組みに頼っているという見 方もある。 5. ODの価値観と倫理に関する現状と 今後に向けて (1)
  • 31. 5. ODの価値観と倫理に関する現状と 今後に向けて (2) • 倫理的コンピテンスを伸ばしていくことが大切だ,という議 論がある (DeVogel, 1992)。 • 1. 自分自身の信念,価値観,倫理,倫理的挑戦に関して 明確に理解し,"十分に考えた上での直観" を持つ。 • 2. 経験を反省し,創りあげた知識によって未来の行動を 考えられる。 • 3. 必要であれば,価値観や倫理を利用可能な状態にでき る,つまり,倫理的意思決定のモデルを提示できる。 • ※倫理綱領がないことで,ODの実践家が,自己の関心にの み依拠して判断をしてしまうというリスクも指摘されている (Egan & Gellermann, 2005)。
  • 32. 6. まとめと考察 (1) • 社会の中で専門職としての地位を築き,よりよい実践のため に,職業倫理は必要とされている。 • ODは価値観に基づくプロセスを重視しており,ODの倫理 は価値観との関連で位置づけられる。 • ただし,ODの価値観に関しては,様々なものが時代と共に 変遷してきたという経緯もある。 • 倫理綱領の詳細で特徴的であるのは,システム全体に関する 配慮と言え,これは自己の価値観などがあらゆる働きかけ に表れてくることへの警笛であろう。 • 倫理において言及されることのある「目的は手段を正当化 しない」という言葉と考え合わせると,正確な情報提供に 基づく自己決定権の保証というのは,とても大切になると 考えられる。
  • 33. 6. まとめと考察 (2) • 実践家同士は,ともすると競合関係であるが,コミュニティ としての裾野を広げ,相互研鑽をしていくことが,適切な形 でODが社会に根付くことにつながるだろう。 • 例,スーパーバイズ,事例検討会 • 現在日本では明確な資格があるわけではないため,倫理綱領 の設定と運用 (例,倫理違反への対応) に関しては,慎重に 行っていくべきであろう。 • まずは,倫理が議論の触媒として機能し,自分の価値観を知 り,将来のジレンマを回避する助けとしていくということが よいのかもしれない。 • ODの倫理を考えていくことは,ODの適用範囲の境界線も意 識することになり,それは適切な実践へもつながるだろう。 • 適切なアセスメント,停止条件,方法・プロセスの倫理性
  • 34. 7. ディスカッション • ODの倫理に関する今後の展開において,何を考慮に入れる 必要があるのか。 • ODNJというコミュニティが果たす役割とは何なのか。 • 具体的には,ODの実践が持つ潜在的な問題,課題,そし て,そういった事柄への対処や仕組みに,倫理という側面 からODNJが貢献できる可能性はあるか。
  • 35. 主要引用文献など • Anderson, D. L. (2013). Organization development: The process of leading organizational change. Sage Publications. • Corey, G., Corey, M. S., & Callanan, P. (2003). Issues and Ethics in the Helping Professions, Sixth Edition. Pacific Grove: Brooks/Cole, a division of Thomson Learning.               (コウリー, G.・コウリー, M. S.・キャラナン, P. 村本詔司 (監訳) (2004). 援助専門家のための倫 理問題ワークブック 創元社). • Cummings, T., & Worley, C. (2014). Organization development and change (10th edition). Cengage learning. • Gellermann, W., Frankel, M. S., & Ladenson, R. F. (1990). Values and ethics in organization and human systems development: Responding to dilemmas in professional life. Jossey-Bass. • Jones, B. B., & Brazzel, M. (Eds.). (2014). The NTL handbook of organization development and change (2nd edition): Principles, practices, and perspectives. John Wiley & Sons. • 慶野遥香. (2008). 心理専門職の職業倫理の現状と展望. 東京大学大学院教育学研究科紀要, 47, 221-229. • White, L. P., & Wooten, K. C. (1983). Ethical dilemmas in various stages of organizational development. Academy of Management Review, 8(4), 690-697.