新問題研究
要件事実
2019/11/17
伊藤克哉
目次
● 要件事実とは
● 売買代金支払請求
○ 売買契約が成立するための要件について
● 消滅時効の抗弁
○ 否認ではなく抗弁することについて
● 履行期限の抗弁
○ 履行期限を定めた場合に、抗弁することについて
● 貸金返済請求
○ 貸金返済を請求する際の要件について
● 弁済の要件
○ 弁済したことを示す際の要件について
● 土地明渡請求
○ 土地明渡しを要求する際の要件について
要件事実とは
法律要件・法律事実・法律効果
要件事実
要件事実とは、一定の法律効果が発生するために必要な具体的事実。
法律要件
● 法律行為
○ 契約・単独行為・合同行為
● 準法律行為
○ 意思の通知・観念の通知
● 事件
○ 相続における人の死亡
○ 除斥期間における時間の経過等
↑それぞれを法律事実という
法律効果
● 権利の発生
● 権利の変更
● 権利の消滅
参考:法律行為・準法律行為・
法律行為とは、
物権や債権を発生・変更・消滅させる私人の行為のうち意思表示を要素とするもの
● 法律行為
○ 契約:2人以上の意思表示の合致を必要条件として成立する法律行為
■ 売買契約(民555条)・賃貸借契約(民601条)
○ 単独行為:1つの意思表示によって成立する法律行為
■ 契約の取り取消し・相殺・遺言
○ 合同行為:一つの方向に向けられた複数の意思表示
■ 社団法人の設立行為
● 準法律行為
○ 意思表示によらないで法律上の効果を発生させる行為
■ 意思の通知:意思内容が行為から発生する法律効果以外に向けられている行為
■ 観念の通知:事実の通知
法律効果
実体法では、権利の発生・障害・消滅・阻止という法律効果の発生要件を規定
● 権利の発生 ○→○

○ ○  過去の一時点において、発生要件に該当して権利が発生
○ →○ この発生した権利は現在も存続する
● 権利の障害 ○☓→☓

○ ○☓ 過去の一時点において、発生要件に該当して権利が発生していても・いなくても
○ →☓ 障害要件に該当する事実があれば、権利が発生しないことになる
● 権利の消滅 ○―☓→☓
○ ○過去の一時点において、発生要件に該当して権利が発生していても
○ ―☓→☓消滅要件に該当する事実が生ずればその段階で権利は消滅し現在も存在しない
● 権利の阻止 ○→△
○ ○過去の一時点において権利が発生し、その権利が存在すると扱われても
○ △阻止要件に該当する事実がある場合には行使ができない
法律効果の例
● 権利の発生:売買契約の締結
○ 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代
金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる 民555 

● 権利の障害:錯誤
○ 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失が
あったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 民95 

● 権利の消滅:弁済
○ 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当
事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。 民474以下 

● 権利の阻止:同時履行の抗弁権
○ 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を
拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。民533 

主張責任と立証責任
主張責任:
当事者が自分に有利な判決を得るために必要な要件事実を主張しなければ、
裁判所からその主張を取り上げてもらうことはできない
立証責任:
当事者が自己に有利な要件事実を立証できなかった場合、
その事実は存在しないという取扱いを受けること
要件事実1
売買代金支払請求
権利の発生
事案
● XがYに対して甲土地の売買代金の支払を求めている
○ 平成23年3月3日に甲土地を Yに引渡した
○ 代金は2000万・支払日は同年4月3日
● Yは代金の折り合いがつかなかったとして争っている
○ 売買に異論はなかったが、代金の折り合いがつかなかった
重要な視点
訴訟物はなにか:XのYに対する売買契約にもとづく代金支払請求権
このような効果を発生させるためには、実体法上の要件を満たす必要がある
売買契約締結の事実・弁済を受けていない・履行期限が到来しているなど
売買契約が成立するための要件とは
民法555
売買は、
当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、(1)
相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することに(2)
よって、
その効力を生ずる。(3)
売買の法律要件を成立させるための事実
売買契約を成立させるための要件を条文から過不足なく書き出す
● 目的物及び代金額 ○
○ 財産権の移転への合意と代金支払への合意が要件
○ ←それがあったと言えるためには、目的物及び代金額が確定している必要がある
● 代金債務の履行期限 ☓
○ 代金債務の履行期限は555から成立要件として必要ではない
● 売主の目的物所有 ☓
○ 所有権の帰属についても要求していない
○ 民560:他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。 

● 土地の引渡し ☓
○ 要件にない
● 代金の不払 ☓
○ 契約が成立すれば直ちに支払うように求めることができる 

請求原因に対する認否
当事者の一方が一定の事実を主張した場合に相手方は認否を行う
● 自白(認める)
○ そのまま判決の資料として採用される
○ 自白の撤回3要件
○ 刑事上罰するべき他人の行為により自白・相手の同意・自白が真実に反し錯誤によったとき
● 否認(認めない)
○ 証拠調べにより存在を立証する必要がある
● 不知(知らない)
○ 事実を争ったと推定
○ 証拠調べにより存在を立証する必要がある
● 沈黙
○ 全趣旨から争っていると認められるとき以外は自白
否認と抗弁
請求原因の主張に対する被告の争い方は否認と抗弁
否認
● 請求原因事実を否定すること
抗弁
● 主張事実が請求原因事実と両立する
● その主張の法律効果が請求原因から生じる法律効果を妨げる
ココで重要な視点
・訴訟物がなにか
・・XのYに対する売買契約にもとづく代金支払請求権
・このような効果を発生させるためには、実体法上の要件を満たす必要がある
・・売買契約締結の事実555・弁済を受けていないこと・履行期限が到来していることな
ど
要件事実2
売買代金支払請求
消滅時効の抗弁
事案2
事案1に加えて
Y「Xが相続性の支払いに困っていて、人助けのつもりで買ってあげようとした」
Y「仮に売買契約が成立していたとしても、支払債務はすでに時効」
訴訟物:
XのYに対する売買契約に基づく代金支払請求権
否認と抗弁
抗弁とは、ある事実が証拠上認められることを前提とした上で
請求原因と両立しながら発生した法律効果を障害・消滅・阻止するもの。
● 障害の抗弁
○ 錯誤などの事実があればその契約は初めから無効になり、法律効果は発生しない
● 消滅の抗弁
○ 弁済や代物弁済をすればその請求権は消滅する。時効もそれ。
● 阻止の抗弁
○ 同時履行の抗弁を主張すれば、行使を一時的に阻止することができる。
時効消滅の要件事実
代金債権の時効消滅の要件事実は3つある
● 166条1項
○ 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
○ これに当たる要件事実はすでにある
● 167条1項
○ 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
○ 「平成23年3月3日は経過した。」とかく
● 145条
○ 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
○ 「被告は、原告に対し、平成23年9月29日、上記時効を援用した。」とかく
要件事実3
売買代金支払請求
履行期限の抗弁
事案3
● XがYに対して甲パソコンの代金支払いを求めている。
○ H23.7.15日代金20万円・支払期日25日の約定をし引渡した。
● YはXと合意した代金支払い日は未達であるとしている
○ 代金はH23.10.31日に支払う約束でまたその日は来ていません。
法律行為の付款
付款とは法律行為又は行政行為の効果を制限するための定め。
付款の主張責任・立証責任の考え方には2通りある
● 法律行為の成立要件と不可分として、当該請求者が主張・立証責任を負う
○ 売買契約の成立を主張するときに、条件の合意があれば主張する
● 成立要件に当たるとは考えずに、買い主が抗弁をする
○ Yが確定期限の合意に当たる事実を抗弁する
○ Xがその期限の到来に当たる事実を否認・再抗弁する
要件事実4
貸金返済請求
事案4
● XがYに対して2000万円の貸付をし、その返済を求めている
○ 平成22年8月8日に娘の夫 Yの事業の運転資金として融資
○ 利息年1割・返済期日を同年12月1日
● YはXから同額の金員を受け取ったが、それは贈与であるという
○ 選挙に出馬するための資金に当てるようにと贈与されたものであると Yはいう
訴訟物
XのYに対する消費貸借契約に基づく貸金返済請求権  X→Y
消費貸借契約の冒頭規定 民587
消費貸借は、
当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して
相手方から金銭その他の物を受け取ること
によって、
その効力を生ずる。
消費貸借契約の場合の注意
消費貸借契約は一定期間その目的物の返還を請求できない拘束が伴う。
● 当事者間で返還時期の合意がある場合
○ その期限が到達した日に権利が発生する
○ 確定期限の合意があれば、その定めとその到来を主張する
○ 不確定期限の合意があれば、その定めとその期限の到来を主張する 412
● 当事者間で返還時期の合意がない場合
○ 当事者が返還の時期を定めなかったときは、
○ 貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。民591条1項
貸金返済請求権の発生要件
● 消費貸借契約の成立
○ 金銭の返還に合意したこと
○ 金銭を交付したこと
● 消費貸借契約の終了(返還期限あり)
○ 返還期限に合意したこと
○ 返還期限が到来したこと
● 消費貸借契約の終了(返還期限なし)
○ 債務の履行を催告したこと
○ 催告後相当の期間が経過したこと
請求原因とその否認
1. 原告は被告に対して平成22年8月8日2000万円を貸し付けた
○ 被告:金銭の返還合意に該当する事実は否認する
■ 贈与であると主張する
○ 被告:金銭の交付に該当する事実は認める
2. 原告と被告は、1に際し、返還時期を平成22年12月1日と定めた
○ 被告:返還合意に該当する事実を否認するので、返還時期についても否認している
3. 平成22年12月1日は到来した。
○ 被告:顕著な事実であるので不要
○ 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。
要件事実4
貸金返済請求
弁済の抗弁
事案5
● XがYに対して100万を貸し付けたとしてその返済を求めている
○ 平成22年6月15日に貸し付けた
○ 返済期日は同年9月1日の約定であった
● YはXから100万を借りたことは間違いないが、すでに弁済している
○ 平成22年9月1日に全額返済している
XのYに対する消費貸借契約に基づく貸金返済請求権  X→Y
弁済の抗弁の要求事実
弁済の抗弁は、給付された事実と債務の履行として支払されたことを要求する
弁済の要件 (最判昭和30.7.15民集9.9.1058)
● 債権者(又は第三者)が債権者に対して給付したこと
● 上の給付がその債務の履行としてされたこ
書き方
「被告は、原告に対し、平成22年9月1日、上記消費貸借契約に基づく貸金返済債務の
履行として1000万円を支払った。」
要件事実6
土地明渡請求
所有権喪失の抗弁
事案
Xが甲土地を専有しているYに対して、所有権に基づいて甲土地の明渡しを求める
● 平成22年4月5日Aから代金1800万円で買い受けて所有している
YはXから甲土地を買って現在は自分で所有している
● 平成22年9月9日Xから代金2000万円で買い受けて所有している
訴訟物
所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権
根拠民206
復習:物権
物権の分類
● 所有権
○ 法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利 民206
● 用益物権
○ 使用や収益のみすることができる物権
○ 賃借
● 担保物権
○ 債務の履行を確保するために、債権の弁済があるまで留置したり・優先弁済をうけたりする
● 占有権
○ ものに対する占有という事実によって当然に発生する物権
所有権に基づく物権的請求権
所有権について物権的請求権が発生する。(占有権があるので所有権にもある)
● 返還請求権
○ 他人の占有によって物権が侵害されている場合の
○ 不法占有
● 妨害排除請求権
○ 他人の占有以外の方法によって物権が侵害されている場合の
○ 勝手に登記
● 妨害予防請求権
○ 物権侵害のおそれがある場合の
○ 隣地が崩れるおそれ
所有権に基づく返還請求権の発生要件
所有権に基づく返還請求権の発生要件
● その物を所有していること
● 相手方がその物を占有していること
所有権に基づく返還請求権の発生障害要件
● 相手方がその物に対する正当な占有権原を有していること
○ 賃借権など
あくまで実体法上の要件は3つ
所有要件の構造・占有要件の構造
Xが所有していることの要件
● 過去のある時点でのXの所有権取得原因を主張する
● それが喪失事由が発生していないので現在においても継続すると考える
Yが占有していることの要件
● 社会観念によるものである
● 所持の具体的事実や代理占有の成立要件に該当する具体的事実を挙げる
● 現在占有している必要があるか・一定時間占有しておればよいかの2説あり
権利自白の成立時点
所有権については権利自白が認められる。それにより請求原因を立証する。
● 所有権喪失の抗弁をした場合
○ Xのある時点での所有を認めた上で、 Yが所有権取得事由を主張している
○ 今回はこの場合
● 対抗要件の抗弁をした場合
○ Yが、「Aがもと所有していた」「 YがAから継承取得した」という場合
所有権喪失の抗弁
X以外のものが所有権を取得することによりXの所有権が喪失したことを主張する
● Yへの売買
○ 売買により買主への所有権移転が認められる 最判昭和 33.6.20
「原告は被告に対し、平成22年9月9日、甲土地を代金2000万で売った」
と主張する。これに対して、Xは
「抗弁は否認する」
として対抗する。

新問題研究 要件事実