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川上裕貴
学生アルバイトのワークモチベーションを上げるリーダーとはどのようなリーダーである
か
はじめに
この研究では学生アルバイトのモチベーションを効率良く高めるリーダーとはどのよう
なリーダーであるかをリーダーシップの観点から考察していく。これまでに様々なリーダ
ーシップに関する研究がなされてきたがここではハウスのパス・ゴール理論を基にして展
開していきたいと思う。学生アルバイトにおいてもその職場環境は多様に変化すると考え
られるため、状況に見合った行動が必要でまたそれが効果的だとされるパス・ゴール理論
から考えを得たいと思う。
今回、モチベーションを上げるリーダーについて考えるためにまず学生のアルバイトに
おける考えについて調べてみた。an report というウェブサイトが学生のアルバイトにおけ
る意識調査を実施していたので、そこからデータを得て、それを基に考察していきたいと
思う。an report が全国の 15~25 歳の男女でアルバイト・パート経験がある人、経験はな
いがやってみたいと思っている人2447 人にアルバイトに期待することを調査したところ、
約半分の人が仕事の経験、人生経験になることを挙げ、次いで自身の成長を挙げているこ
とを報告している。つまり、多くの学生がアルバイトに期待することの一つに自身の成長
を望み、またマナーや経験を身に着け社会的な知識を得ることを望んでいるようである。
もう一つ、大学生がアルバイトを辞めた理由といったデータも調査されている。全国の大
学生の男女で直近一年以内にアルバイトに就業した大学生 532 人に辞めた理由を尋ねてい
る。内 13.5%が長い期間働ける仕事ではないと答え首位であり、次いで 10.8%の人が店員
や社員の雰囲気が悪いからと答えている。今回は一般的に多くの仕事に共通すると考えら
れる、職場の雰囲気といった人間関係に関する要素に焦点を絞って考えてみたいと思う。
これらのデータを基に考えると、今回の論題であるモチベーションを上げるためには前提
として辞めることを防ぐ必要がある。その次の段階としてモチベーションを高める行動が
必要であると考えられる。つまり、常に最低限コミュニケーションを行い、人間関係を良
好に維持し、徐々に学生が期待する成長を促すような課題・仕事を与えること、またはそ
のような環境をつくることでモチベーションを上げることが出来ると推測できる。実際に
これはハーズバーグの二要因説で説明されている。二要因説では就業者の欲求を高次のも
のと低次のものに分け、それらがモチベーションにどのような影響をもたらすのかについ
て考えを示唆している。賃金や作業条件、または上司、同僚、部下などとの人間関係を低
次の欲求要因であると考え、衛生要因と呼んでいる。これは仕事そのものではなく、なけ
れば不満であるが充足されていたとしても満足には至らないようなものである。それに対
して、責任や成長などは高次の欲求要因であり、動機付け要因と呼んでいる。これらは仕
事そのものであることが多く、なくても不満ではないが充足されることでより満足を得る
ものである。つまり、最低限人間関係を良好に築くことが必要で、さらに動機付けをする
ためには責任を与え、成長を促すことが必要であることが説明されている。では、これを
効率良く行いモチベーションを上げるにはどのようなリーダーがいいのかをハウスのパ
ス・ゴール理論(金井 1991 年によると)から考えていく。
パス・ゴール理論ではモチベーションを上げるためのリーダーの行動はタスク特性に依
存しているとしている。ハウスはタスク特性をタスク不確実性とタスク内在満足に分けて
いて、タスクの不確実性が満足度に影響を与えると考えている。タスク不確実性が高いほ
どやりがいがあり満足度が高く、不確実性が低いほどタスク遂行から得られる満足度が低
いと仮定されていて、これらに対応したリーダーの行動を構造づくりと配慮の二次元から
考えている。不確実性が低いほど構造づくりの効果が減少し、配慮の効果が増大する。逆
に不確実性が高いほど構造づくりの効果が増大すると仮定している。アルバイトの初期の
段階では店長や先輩、上司から仕事を教わり、指示を受け仕事を行うので何をすべきかが
明確であると考えられる。そのような環境ではコミュニケーションのような人間関係を良
くする配慮が必要であるということを示している。そして、最初に提示したデータを基に
考えると学生アルバイトは人間関係が良好に保たれると成長を期待すると予測される。し
かし、その自身の成長といった目標を達成するにはどのような行動を行えばよいかが不確
実である。そのような状況下ではリーダーにとっては構造づくりが必要になるということ
である。このように状況や環境、個人の能力、性格次第でリーダーに求められる行動も変
化し、その都度経路を提示し目標を明確にすることがモチベーションを高めるリーダーで
あるということである。配慮とは先述したようにコミュニケーションのような親和関係を
築く行動であるが、構造づくりに関しては少しあいまいなように感じられるかもしれない。
では、構造づくりとは具体的にどのような行動なのか、J・R・ハックマンと E・E・ローラ
ーの職務特性モデル(田尾 2000 年によると)から考えを得たいと思う。
職務特性モデルでは職務における五つの特性がモチベーションを左右する要因であると
考えられている。その五つとは多様性、タスク・アイデンティティ、有意味性、自律性、
フィードバックである。これら五つを与えようとするということは以下のようなことであ
る。単純ではなく様々な仕事を与え、それらは意味のあるものでその人にしかできないと
感じさせることであり、また常に指示を行うのではなく自身の判断に任せその結果に対し
て、適切なフィードバックを行うということである。このような行動が先ほどの構造づく
りに該当し成長を促す具体的な施策であると考えられる。結論としてアルバイトにおいて
学生は最低限良好な職場での人間関係を保ち、自身の成長を望んでいるためリーダーはそ
れらを充足させることでモチベーションを高めることが出来ると考えられる。そしてそれ
は状況に合わせた段階的な配慮と構造づくりである。初期の段階ではコミュニケーション
といった配慮、次の段階として五つの職務特性を満たす構造づくりが必要であるというこ
とである。しかし、ひとつ注意しておかなければならないことは、配慮によってつくりだ
される人間関係は先述したように低次の欲求、つまり衛生要因であるため、なければ不満
に感じられるものである。初期の段階で配慮は重視される必要があるが、その後も永続的
にこれを行う必要があると考えられる。つまり学生アルバイトのモチベーションを上げる
リーダーとは状況と学生の期待を踏まえ、コミュニケーションをとりつつ、成長を促す行
動を行うことが出来るリーダーであると推測できる。
仮説「学生アルバイトのワークモチベーションを上げるリーダーとは仕事が単純である時
はコミュニケーションといった配慮、仕事が複雑である時は成長を促す構造づくりができ
るリーダーであろう。」
引用文献
an report (2012~2013)『アルバイトに期待すること』『アルバイトを辞めた理由』
<http://weban.jp/contents/an_report/repo_cont/trend/20131105.html>
金井壽宏 (1991) 『変革型ミドルの探求』 白桃書房
田尾雅夫 (1999) 『組織の心理学』 有斐閣ブックス
田尾雅夫 (2000) 『モチベーション入門』 日本経済新聞社

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