9. 典範は 5 章 37 条とスリムになったのである。
また旧皇室典範から受け継がれている点は、男性を基本として条項等が定められている
ことである。憲法改正の「必須要項」として示された 3 つの基本的な点の第一原則には英
語でこのように表記されている。
Emperor is at the head of the state. (天皇は国家の元首の地位にある)
His succession is dynastic. (皇位は世襲される)ii
これは天皇は皇帝 (emperor)であり、女帝 (empress)ではなく、それに応じて皇位継承
も、彼の相続 (His succession)とあるのである。これをうけて起草され、確定された現行
憲法の第 1 章は THE EMPEROR とあり、その第 1 条に英文ではこのように記されてい
る。
The Emperor shall be the symbol of the state and of the unity of the people, deriving
his position from the will of the people with whom resides sovereign power. (天皇は、日
本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総
意に基く。)iii
すなわち、現行憲法は男性天皇の自明性を前提としており、将来的に女性天皇(女帝)が
存在しうるという可能性を全く考慮してないのである。妾制度もなくなったというのに、
なぜそこで跡継ぎがみな女子しかいないという状況を想像できないのか私には疑問でしか
ない。
このように、異なっている点、受け継がれている点があるということを踏まえた上で、
これらの点が女性天皇廃止の経緯にどのように関わってくるのかをこれから述べる。実の
ところ、GHQ 側はやはり、憲法の中にある、男女平等にのっとり、ここは男性天皇だけ
でなく、女性天皇も認められるべきだ、と主張していたのだ。しかし、やはり当時の宮内
庁や、政治家たちは今までの万世一系、男系の流れを崩すことに対し、強い抵抗があった
のである。そこで、臨時法制調査会は報告書に皇位継承について「仮に女性天皇は認めら
れたとしても、女系天皇が認められなければそれではまるで意味がない」ivとし、あくま
でも強気の姿勢で、男系にこだわることを先方に訴え続けた。すると、すんなり GHQ は
了承。こうして結局新皇室典範にも、女性天皇の廃止が記されてしまったのである。よっ
て、女性天皇を認めないことについての弁明をまとめると以下のようになる。
10. ① 系統の始祖たる皇族女子に、皇族ではない夫が存在し、子孫ができると、皇族が皇族
ではない配偶者の家系に移ったとみられかねない
② 他の男子の皇位継承者がなくて女帝を認めることは、天皇制を一世だけ延命させるだ
けにすぎない。
③ 皇位の世襲を定めた日本国憲法第 2 条は、法の下の平等(男女の平等)を規定した憲
法 14 条の例外をなしている
④ 明治時代の旧皇室典範ができた際に書かれた「皇室典範義解」では、皇位継承の原則
について、皇祚を踏むは皇胤に限る、皇祚を踏むは男系に限る、皇祚は一系にして分
裂すべからざることの三点に要約されている。これは歴史上の例外なく続いてきた客
観的な事実に基づく原則であり、女系ということは、皇位の世襲の観念の中に含まれ
ていない
⑤ 歴史上に女帝はいたが、それは概ね皇位継承者が幼年である際の、一時の摂位にすぎ
ない
⑥ 皇位継承者は国民の一部に過ぎない。その一部で不平等があったとしても、必ずしも
男女同権の原則の否定とは言えない
という上記 6 つの点から、女系、女性天皇の廃止を正当化したのである。