研究室の学生向けに作成した資料です．研究発表スライドの序盤をどのように作っていくかを実際の例を用いて解説しています．

1. 研究発表スライド作成の実際
- 序盤の作り方 -
石原尚
阪大工学研究科 テニュアトラック助教
2017-05-15 研究室グループMTG

2. 2
目的スライドまでの作り方の実際を解説
研究室メンバの山下君の2016年度卒論テーマである，
「柔軟被覆の触感の違いがロボット全体の印象評価に与える影響」
というテーマについて発表する想定で解説します．
各スライドでは，「論点見出し欄」と「スライドメッセージ欄」だけ
埋めて説明します．「サポートデータ欄」は埋めません．
石原の運営する研究基礎技術解説サイトの
「研究発表序盤戦の攻略 -タイトルスライドから目的スライドまで-」
の記事の補足資料です．
http://www.ams.eng.osaka-u.ac.jp/user/ishihara/?p=720
今回の資料の目的

3. タイトルスライドの作り方

4. 柔軟被覆の触感の違いがロボッ
ト全体の印象評価に与える影響
何を実施し（テーマ），何を明らかにしたか（目的）
が分かるタイトルを中央に目立つフォントで配置
する．
長くても４０字以内にする．
一文にまとめるのが難しいときは，テーマと目的
を主題と副題にわけてもよい．
タイトルスライド

5. 柔軟被覆の触感の違いがロボッ
ト全体の印象評価に与える影響
山下裕基, 石原尚, 池田尊司, 浅田稔
研究のアイデア出しや実施，評価やまとめに貢献し
たメンバーを著者欄に記載．著者全員で相談して，総
合的な貢献度が高い方を前にするのが慣例．
中間報告や卒修論では自分の名前だけでよい．
タイトルスライド

6. 柔軟被覆の触感の違いがロボッ
ト全体の印象評価に与える影響
山下裕基1, 石原尚1, 池田尊司2, 浅田稔1
1大阪大学 2金沢大学
所属情報は，名前が見づらくならないように配置する．
どこまで書くかは話す場所や相手次第．
割り付けた番号を使ってもよい．
タイトルスライド

7. 柔軟被覆の触感の違いがロボッ
ト全体の印象評価に与える影響
山下裕基1, 石原尚1, 池田尊司2, 浅田稔1
1大阪大学 2金沢大学
2017-1-23 〇×研究会（石垣島）
発表年月日，発表機会名も書いておく．
いつ使われた資料なのかが後でわからなくなる
と発表した本人も研究室メンバーも困る．
タイトルスライド

8. 柔軟被覆の触感の違いがロボッ
ト全体の印象評価に与える影響
山下裕基1, 石原尚1, 池田尊司2, 浅田稔1
1大阪大学 2金沢大学
2017-1-23〇×研究会（石垣島）
テーマや目的の理解の助けになる図や写真を置いてもよい
が，あまり注意を惹きすぎるものにすると話を聞いてもらえな
くなるので逆効果．
勘違いがないものを選ぶ．この場合だと，人の赤ちゃんと人
が触れ合った実験をしている可能性を感じさせてしまう．
タイトルスライド

9. 柔軟被覆の触感の違いがロボッ
ト全体の印象評価に与える影響
山下裕基1, 石原尚1, 池田尊司2, 浅田稔1
1大阪大学 2金沢大学
2017-1-23〇×研究会（石垣島）
本来は研究テーマにかかわる写真で聞き手の注意
を惹くべきだが，効果的なものが用意できない場合，
会場にいる人の誰もが注目してしまう写真を載せる
技もある．
ただし，「なんで今こんな写真を見せているの？」と混
乱させないようにしなければいけないので難しい．
タイトルスライド

10. 柔軟被覆の触感の違いがロボッ
ト全体の印象評価に与える影響
山下裕基1, 石原尚1, 池田尊司2, 浅田稔1
1大阪大学 2金沢大学
2017-1-23〇×研究会（石垣島）
やはり，研究テーマに深く関連しつつ，
人目を惹く写真が一番．「よい」写真
をたくさん撮っておくようにしましょう．
（この写真ではロボットの頬に触れる
実験をしたのだなと思わせるので，そ
うでないなら使えない）
タイトルスライド

11. 柔軟被覆の触感の違いが
ロボット全体の印象評価に与える影響
山下裕基1, 石原尚1, 池田尊司2, 浅田稔1
1大阪大学 2金沢大学
2017-1-23〇×研究会（石垣島）
意味の切れ目で改行して，短い
時間でも意味が読み取りやすい
ようにしましょう
タイトルスライド

12. 山下裕基1, 石原尚1, 池田尊司2, 浅田稔1
1大阪大学 2金沢大学
2017-1-23〇×研究会（石垣島）
完成したタイトルスライドです．
タイトル，名前，所属，発表日時の順で文字が目立つ
ように，フォントの大きさや配置を整えましょう．
タイトルスライド
柔軟被覆の触感の違いが
ロボット全体の印象評価に与える影響

13. １枚目の作り方
発表スライドの１枚目にどんな話題を持ってくるかはとても難しい選択です．
基本は，タイトルで紹介したテーマ設定への疑問を解消するように話を始めるという選択です．
この場合にはどんな話がよいでしょうか？

14. 14
これが発表スライドの基本構成です．
上から，「論点の見出し」「メッセージ」「サポート
データ」を載せる欄になっています．
一番下には，必要であれば「次の論点予告」を
書きますが，基本的には省いて口頭でのみ述
べます．
１枚目

15. 15
現代社会で活躍するロボット
背景
良くない１枚目の例です．
よくありそうな背景ですが，直前に見せたタ
イトルとの話のつながりが見えないので，
「なぜこの話をしているのかわからない」と
いう混乱状態にしてしまいます．
また，聞き手のほとんどが疑問を持たない
であろうこの手の話は基本的に不要です．
もっと説明の焦点を絞るべきです．
１枚目

16. 16
柔らかいロボットを触れる機会はますます増える
背景：なぜ柔軟被覆への接触を扱うか
スライド１枚目の候補です．
タイトルに書いた「柔軟被覆の触感」を扱
うことに疑問を持つ聞き手が多そうなら，
このように始めるのがよいでしょう．
１枚目

17. 17
ロボットの性格印象設計はHRIで重要
背景：なぜ性格印象変化を扱うか
こちらもスライド１枚目の候補です．
タイトルに書いた「性格印象変化」を扱うことに
疑問を持つ聞き手が多そうなら，この解説から
始めるのがよいでしょう．
もちろん，時間が許すなら「柔軟被覆の触感」の
説明に続けてこの説明をおいても構いません．
１枚目

18. ２枚目の作り方
背景でテーマへの疑問を解消できたら，「こうできたらよいのにこれができていないから無理」という
理想と現実のギャップの話を出します．
つまり，研究で解決に取り組んだ課題と，課題を解く意義について説明します．

19. 19
触感が性格印象をどのように変えるかは未解明
課題：狙った性格印象を設計できなくなる？
２枚目の候補です．
「狙った性格印象に設計ができれば理想的」
なのに「触感がどう変えるかわかっていない
ので無理」というセットでギャップを説明して
いる例です．
この例で３，４，５枚目まで紹介します．
２枚目

20. 20
触感と性格印象の間の因果関係を分析した研究がない
課題の根本原因
３枚目では，理想と現状のギャップ
を埋めるために解決すべき根本的
な原因を明確にします．
３枚目

21. 21
触感と性格印象を併せて評価し，因果構造を分析
アイデア
４枚目では，こうやれば課題が解けます，という
アイデアをシンプルに呈示します．
実際どうやるか，という詳細説明は序盤では不要
です．
「詳細はわからないけど，このアイデアで課題は
解けそうだな」と思わせるのが大事です．
４枚目

22. 22
ロボットの触感と性格印象の両評価データを集め，
因果構造を分析し，
触感の違いが性格印象をどのように変えるかを明らかにする
本研究の目的 ５枚目
５枚目では「結局やろうとしていること」を，これまでの話をまと
める形で紹介します．新しい話は出さないようにしましょう．
このように目的までのスライドを用意すれば，「なぜそれをやる
のか」「やった暁にどんな理想に近づけるのか」「先行研究と何
が違うのか」「何に結論を出そうとしているのか」に疑問を持た
れない発表資料を作成することができます．

23. 23今回の話のまとめ
発表の序盤では，
• 相手が抱きそうな疑問を解消し
• なんでそんなことやってるの？そもそも何を話しているの？を防ぐ
• 理想と現状のギャップの指摘による課題を明確化し
• 「これが解ければ嬉しい」を共有する
• 課題の根本原因を指摘し
• 「これを何とかしないと始まらない」を共有する
• 原因を取り払うアイデアを紹介し
• 「こうすればうまく解けるはず」を共有する
• 序盤の話を「目的」としてまとめましょう
• 「だから結局やればいいのはこれ」を納得させる
次回は，発表の中盤（方法から結論まで）の攻略法を紹介します