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都市災害情報の共有支援のための
ソーシャルメディアGISの構築
○村越拓真(電気通信大学大学院情報システム学研究科博士前期課
程)
山本佳世子(電気通信大学大学院情報システム学研究科)

第22回 GISA学術研究発表Web大会
発表構成
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.

研究背景・目的

研究の位置付け
システム設計
システム構築
運用対象地域の選定
運用試験
結論と今後の研究計画
2
1.研究背景・目的
災害発生時
家族・友人の安否情報や,現在地・居住地域等での被
害状況に関する情報のニーズが高まる
問題点
 テレビ・ラジオ
 地域に特化した情報が少ない
 災害用伝言板
 安否情報のみの確認となる
 SNS
 投稿情報が多くなり,情報過多となる
3

利用者が真に求めている情報を容易に得られない
1.研究背景・目的
各自治体の災害対策
避難所や危険箇所等をまとめ,紙地図やデジタル地図
として,インターネット上で公開している
 洪水ハザードマップ
 防災マップ

問題点
 住民が日常生活で気づいた危険箇所等を投稿できない
 情報を受け取るだけとなり,減災の意識が向上しない
 リアルタイムで情報を反映するシステムではないため,
災害発生時を想定した情報共有は不可能

4
1.研究背景・目的
都市地域を対象とし,地域に特化した災害情報の
共有支援が可能なソーシャルメディアGISを構築する
 SNSを構築し,地域住民からの情報投稿を可能とする
• 地域住民が持つ「暗黙知」を「形式知」として共有する

 行政と地域住民の災害情報をWeb-GIS上においてマッ
シュアップする

 災害発生時の情報過多となる状況でも容易に情報を判
別できる情報の分類機能を持ったシステムとする

5
2.研究の位置付け
災害に関する研究
(1)GISの構築に関する研究

池見ら
(2009)
村山ら
(2010)

GISによる災害情報の共有化手法についての検
討
GISを用いて防災ワークショップを支援
するシステムの開発に関する研究

(3)テキストマイニングに関する研究

(2)ソーシャルメディアGISの構築に関する研究

大熊(2013)

SNS・Web-GIS・Twitterを用いて平常
時の減災対策のために都市災害情報の
蓄積を目的としたシステム構築に関す
る研究

本研究

守屋ら
(2009)
山中ら
(2010)
6

テキストマイニングよって特定の地域に関
するテキストや単語の抽出に関する研究
2.研究の位置付け
大熊(2013)の想定

災害発生前
(平常時)
 ハザードマップ
 被害シミュレーション
システム

本システムの想定

災害
発生時
 被害把握
 情報共有
システム

復旧
復興期
 復旧等の生活
情報
 復興業務支援
システム
 アーカイブ化

通信環境が被害を受けていない状況を想定

7
3.システム設計
災害情報
(経験知)
地域住民

投稿
形式知

暗黙知

SNS
データベース

位置情報

災害情報
(経験知)
地域に特化した情報

危険な場所・安全な場所等

住民の災害情報と
行政の災害情報を
マッシュアップ

SNS

投稿情報
自動分類

専門知
行政

登録
行政の災害情報
これまでのハザードマップ等
避難所・帰宅支援ステーション
火災危険度・医療機関等

Web-GIS
地域に特化した住民の投稿災害情報
行政の災害情報
ソーシャ
GISベースマップ
ル

Web-GIS

メディア
GIS

8
3.システム設計
独自性
 SNS・Web-GISを組み合わせ,投稿情報整理機能と周辺
災害支援施設表示機能を組み込んだ,独自に設計・構築
を行うことで,運用対象地域や災害発生時の状況に適合
した詳細な構成を行う点
 災害発生時における情報ニーズや情報過多となる状況を
想定し,災害情報の抽出,分類を行い,適切な情報提供
を行う点

有用性
1. SNSを通じて,地域に特化した災害情報を収集し,複数
の利用者間で共有することが可能となる
2. 収集した災害情報を分類し,位置情報に基づいた周辺
情報や災害支援施設の推薦表示によって,災害発生時
における利用者の情報検索に関する負担を軽減できる

9
4.システム構築

 ユーザインターフェース

SNS
Web-GIS

ヘッダーメニュー

利用者情報

投稿された情報の最新10件が表示される
クリックすると,詳細ページに遷移する

10

他の参加者

投稿された情報
4.システム構築

 投稿情報の詳細閲覧ページ
背丈以上もあるコンクリートの壁があ
り,しかも傾いていて危険です。避難の
時には,注意が必要でしょう
他の利用者がコメント
を追記することも可能
投稿された場所がマップの中心とな
り,
縮尺も拡大し,場所の詳細が確認可能
11
4.システム構築

 災害情報の投稿

場所
位置情報

タイト
ル
写真

本文

例)
ここは道が狭くて危険で
す
「危険」「危ない」もしくは
「安全」
という単語を抽出,システムが
自動で分類を行う
フラグを追加
危険:flg==1
安全:flg==2

 投稿には「タイトル」「写真」「本
文」「位置情報」を入れることがで
きる

+flg==1

投稿情報
データベー
ス

12
4.システム構築

投稿情報データベースに記録された
緯度経度,フラグを基に描画を行う

 投稿情報整理機能
安全性・危険性のいずれにも関係がない
と,
分類された情報はマーカーのみの表示とな
る
「安全です」等の,投稿情報が安全性に関
する情報であるとシステムが分類した場
合,緑色の半透明の円が描画される
円の大きさは50m

「危険です」等の,投稿情報が危険性に関す
る情報であるとシステムが分類した場合,
赤色の半透明の円が描画される
13

投稿情報が多くなった場合でも,
色の重なりによって視覚的にわかりやすく表示する
4.システム構築

 周辺災害支援施設確認機能
施設カテゴリ
一時滞在施設・避難所・避難場所・
給水拠点・医療機関・帰宅支援ス
テーション・ガソリンスタンド
現在地からの
距離指定
(50~500m)

 カテゴリ別に,現在地や任意の場所周
辺の災害支援施設の確認が可能
場所を指定

14
4.システム構築

 スマートフォン向けサイト

ヘッダーメニューに換わり
メニュー画面を新規作成

マイページ

周辺災害支援確認機能

 レイアウトを縦長に最適化
 PC向けサイトの機能がほぼ利用可能
 GPS情報に基づいた検索結果の表示に対応

15
5.運用対象地域の選定
運用対象地域として東京都調布市を選定
GISの利用

閲覧手段

地域住民
の投稿

システムによ
る情報分類

東京都
防災マップ

あり

デジタル地図

なし

なし

調布市
防災マップ

なし

PDF

なし

なし

本研究

あり

デジタル地図

あり

あり

 地域住民が情報を寄せられる取り組みがない
 システムによる情報の分類は行われていない
16

行政の災害情報と住民の投稿災害情報のマッシュアップによって
調布市における災害情報の共有に関する従来の取り組みを補完
6.運用試験
 運用試験の概要
以下の設定においてシステムの運用試験を行った
対象地域

調布市

運用期間
2013年9月19日
~9月31日

対象者
20歳代
7名

調査方法
ヒアリング調
査

 以下,2点の機能に問題がないかを中心に試験を行った
 投稿情報分類機能が単語を抽出するか
 GPSによる位置情報の取得に問題がないか
17
6.運用試験
 ヒアリング調査における改善策の抽出
周辺災害支援施設確認機能において
• 施設カテゴリの表示が色別のマーカーではな
く,アイコンとした方がわかりやすい
• 現在地が表示されると,よりわかりやすくな
る
• 検索結果を表示する際,現在地を中心とした
マップにしてほしい
18
6.運用試験

 システムの改善

現在地を表示するとともに,
地図の中心となるように変更

各種施設カテゴリを,
アイコンによる表示に変更

19
7.結論と今後の研究計画
 2013年10月14日~11月30日を予定
 アクセスログの記録

本運用

システム
評価
 アクセスログ解析
 アンケート調査
 利用者テスト評価
⇒有用性評価を行う

20
7.結論と今後の研究計画
 利用者テスト評価

投稿情報分類機能あり

投稿情報分類機能なし

 投稿情報が多くなった運用後期・終了後に実施予定
 投稿情報分類機能による円の描画の有無によって,制限時間内に何
カ所の危険・安全な場所を見つけられるかを測定

21
7.結論と今後の研究計画
 災害発生時の情報過多となる状況を想定し,都市地域を対象と
し,地域に特化した災害情報の共有支援のためのソーシャルメ
ディアGISの設計・構築を行った

 本システムの有用性は,以下の2点にある
1. 運用地域に特化した情報を収集し,複数の利用者間で共有
することが可能となる
2. 投稿情報の自動分類や位置情報に基づく情報提供によっ
て,利用者の情報検索における負担を軽減できる

 今後は,利用呼びかけを行い参加者を募り,運用終了後,本シ
ステムの有用性評価を行う

22
参考文献
1) 村上正浩,柴山明寛,久田嘉章,市居嗣之,座間信作,遠藤真,大貝
彰,関澤愛,末松孝司,野田五十樹(2009):「住民・自治体協働による
防災活動を支援する情報収集・共有システムの開発」,日本地震工学会
論文集,Vol.9,No.2,pp.200-220
2) 池見洋明,江崎哲郎,三谷泰浩(2009):「WikiおよびGIS技術による持続
可能な災害情報の共有化手法の検討」,Theory and Applications of GIS,
Vol.17,No.1,pp.93-99
3) 大熊健裕(2013):「都市災害情報の蓄積を目的としたソーシャルメディ
アGIS構築に関する研究」電気通信大学大学院情報システム学研究科社
会知能情報学専攻平成24年度修士論文
4) 守屋敬太,佐々木史織,清木康(2009):「地域情報関連テキストを対象
とした地域状況表示地図の動的生成方法」,DEIM Forum 2009,B1-6
5) 山中努,田中祐也,土方嘉徳,西田正吾(2010):「時空間情報を伴うテ
キストデータを用いた状況把握支援システム」,日本知能情報ファジィ
学会誌,Vol.22,No.6,pp.691-706
6) 「東京都防災マップ」:http://map.bousai.metro.tokyo.jp/,2013年5月13
日参照
7) 「調布市防災マップ」:
http://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1268270174700/files/chofu_bo
usai_map_ALL.pdf,2013年2月18日参照

23
ご清聴ありがとうございまし
た

24

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