mlbのリーグビジネス
- 2. 目次
Ⅰ 問題意識
Ⅱ MLB の20年
・1990年代の MLB
・バドセリグの功績
・総括
Ⅲ NPB の20年
・NPB の発展と読売巨人軍
・球界再編と各球団の企業努力
・NPB コミッショナーの迷走
・総括
Ⅳ 日米の比較
・全体最適と部分最適
・環境の変化への適応
Ⅴ 結論~NPB の課題~
・コミッショナーの権限強化
・新たな収益源の確立
- 6. イアップキャンペーンを行うことが出来るためである。
② MLB international 1986~
海外でのライセンス事業及び野球の世界的な普及を目的とする。中でも日本での事業は
大きな収益をもたらしたおり、日米野球の開催や東京ドームでのMLB開幕戦の開催、
さらに放映権を電通へと一括売却することで、年間40億円以上の収益を得ている。そ
して2000年代の最も大きな功績はWBCの開催である。WBCは結果としてWBC
は多額のジャパンマネーを吸い上げた。なぜなら、日本代表についたスポンサーの収益
は一旦MLBへと入り、NPBへは10%程度しか分配されないシステムであった為で
ある。第 1 回大会で日本が優勝したこともあり、第2回大会でのスポンサー企業は26
社から56社へと倍増した。そしてWBCは海外のスター選手を発掘する場としての意
味も成した。世界中のスター選手がわざわざアメリカで試合をしてくれるのでMLB各
球団にとっては格好のスカウティングの場である。現にWBCで活躍したダルビッシュ
有、田中将大、A.チャップマンなどがMLBで活躍している。
③ MLB advanced media 2000~
バドセリグがコミッショナー在籍中に最も強力に推し進めた事業がオンライン事業で
ある。同社が運営するウェブページ「MLB.com」はスポーツ分野で米国有数の人気サ
イトであり 1 日に600万ページビューを誇る。人気の秘密は第一に、細微にわたる膨
大なデータと豊富なコンテンツ。球場の案内やアクセス、試合結果、選手の個人成績は
当然として、投手が投げた 1 球 1 球の球速、球種、コース、軌道から打球方向まで、試
合を精密に再現できるほどデータは細かい。また、各球団に担当のライターが張り付き、
毎日記事や写真を更新する。ホームページを通してチケットや球団グッズも購入できる。
第二に、統一されたレイアウト。1社がホームページを一括して作成・運営・管理する
為、デザインや情報の表示手順などが全球団共通で、利用者の使い勝手がいい。レイア
ウトの共通化はコストの低減にもつながる。ファンを引き付ける知恵と工夫がヒット数
をさらに押し上げ、ネット広告料金を釣り上げる。ネット広告の世界は、テレビの視聴
率にあたるヒット数が広告額を大きく左右するからである。
(MLB.com より 詳細なデータを閲覧できる) (iphone アプリ「AtBat」より 統一されたデザイン)
- 7. 2002年には「MLB.TV」を開局し年間約8000円、一カ月単位なら約1500円で
公式戦の生中継及び過去の全ての試合を MLB.com で閲覧することができる。さらにチッケ
トの販売では一般のチケット販売にとどまらず米国チケット再販大手のスタブフブと提携
しチケット再販市場にも乗り出した。MLB properties がテレビ局やスポンサー企業を相手
とする BtoB であったのに対し、MLB advanced media は個人の顧客に対して番組やチケ
ットを販売する BtoC のビジネスを開拓した。同社は IT エンジニアやプログラマなどのス
タッフを400人以上抱え、年率30%の収益拡大を誇る高成長企業である。設立から 7
年でメジャーリーグ全体の収入の7%を占めるまでに成長した。
④ MLB network 2009~
24時間放送の MLB 専門チャンネルである。設立はまだ新しく規模は他の事業と比べると
大きくないがすでにスポーツ専門チャンネルでは最大規模の5000万世帯を獲得し、リ
ーマンショックがあったにも関わらず開設以来黒字経営を続けている。今後のさらなる成
長が見込める事業である。
・総括
これらの施策には一貫した MLB の理念を感じることができる。MLB の球団同士はライバ
ルではなく目的を一つにした同志であり、利害の一致した運命共同体であるという考えだ。
MLB の各球団にとっての競合他社は NFL、NBA、NHL といった他のスポーツリーグや、
ハリウッドやディズニーなどのエンターテイメント産業である。それらに国民の関心や興
味を奪われないように徹底した戦力均衡化、各球団が協力してリーグビジネスを行いカル
テルを形成することで収益を伸ばしていると考えられる。
- 8. Ⅲ.NPB の20年
・NPB 発展の歴史と読売巨人軍
「アメリカ野球に追いつき、追い越せ」日本プロ野球の父であり読売ジャイアンツ初代
オーナーである正力松太郎の言葉だ。その言葉の通り日本のプロ野球は先駆者である MLB
の良い部分を取り入れながら発展し、国民的な娯楽としての地位を確立した。しかし日本
のプロ野球を先導してきたのはコミッショナーでもNPBでもなく読売巨人軍であり読売巨
人軍のオーナーだ。かつての野球ファンはほとんどが巨人ファンという時代であったので
巨人の人気に経営を支えられている11球団は巨人に口出しできないという構図ができて
いた。さらに日本に野球を持ち込みプロ野球を創造したのは読売巨人軍の正力松太郎であ
るので、その後に組織された NPB よりも実質的な権限は読売ジャイアンツが握っていた。
それゆえ日本におけるコミッショナーは天下り役人が務めるお飾りで、オーナー会議の立
会人といった側面が強い。そして1996年に渡辺恒雄が読売巨人軍のオーナーに就任し
た。実質上の日本プロ野球のトップに立ったのである。
90年代、セリーグ各球団の主たる収益源は巨人戦の放映権料であり巨人以外の5球団
は巨人の人気にぶら下がる形で利益を得ていた。一方のパリーグは巨人戦がないのでセリ
ーグとの収入格差が大きかったが野茂、清原、イチローといったスーパースターの登場で
かろうじて人気を保っていた。しかし彼らのようなスター選手は断続的に生まれるわけで
はなく、球団の経営としては非常に不安定な状態であった。それにも関わらず巨人はもち
ろん自前で十分な収益をあげられない11球団にも危機感はなく経営努力というものはほ
とんど見受けられなかった。なぜなら当時のオーナー達はプロ野球事業で採算をとる気は
なく、球団の赤字は親会社の広告宣伝費という考えであったからだ。親会社の事業が好調
ならそれでもいいかもしれないが、それでは親会社が傾けば同時に球団も立ち行かなくな
ってしまうだろう。そして90年代後半から生命線である巨人戦の視聴率はみるみる低下
していく。理由は娯楽の多様化などいくつか挙げられるが巨人軍の暴走による部分は大き
いと考えられる。1993年に FA 制度と逆指名ドラフト制度を巨人主導で導入した。これ
を機にアマチュア選手の獲得に裏金が横行、さらに FA で四番コレクションと形容されるほ
ど他球団の主力選手をかき集め戦力バランスを崩壊させたことが巨人、そしてプロ野球人
気凋落の原因だと言えるだろう。巨人は自チームの優勝の為に権力を振り回した結果自ら
の首を絞めることとなったのである。
- 11. Ⅳ.日米の比較
・全体最適と部分最適
冒頭でも述べたように MLB は全体最適、NPB は部分最適に基づいた組織構造になって
いる。ではなぜ部分最適をとってしまうと収益をあげることが難しくなってしまうのか。
もし仮に球界全体の利益の為に明らかに実行したほうが良いことでも、各球団の立場によ
っては不利になる施策は実行されない。しかし全ての球団の利害が一致することは難しい
ので球界をよくする施策がほとんど球団間の摩擦によって実行に移すことができないので
ある。例をあげれば完全ウエーバー制ドラフトの導入や FA 制度の見直しである。一方の全
体最適をとる MLB は良いと思われるものをすんなりと実行することができる。ひとつひと
つの施策は誰もが考えている当たり前のことだが、これらを確実に実行していくことで
NPB と比べて約4倍の収益差を生み出しているのである。
・環境の変化への適応
情報化社会への流れは今に始まったことではないが MLB はその流れを迅速にくみ取り、
対応した。2章でも述べたようにウェブサイト、アプリ、オンラインでの動画配信など最
先端技術を使いこなしている。IT の導入はメディアだけにとどまらずチャレンジ制度(ビ
デオ判定)を導入する際には10億円以上の費用をかけ MLB リプレイセンターの設置によ
って正確無比な判定を実現、さらに pitch f/x という最先端のスピード測定システムを導入
しピッチングをより詳細に分析することが可能になった。一方の NPB は IT 技術の導入に
関してかなり遅れている。動画配信どころか NPB のホームページは情報量が乏しく公式ア
プリすらない。これは日本の球団の親会社がテレビ局と新聞社が多いのでいまだにインタ
ーネットなどの新たなメディアは軽視されることがおおいのであろう。
(MLB リプレイセンター) (NPB 公式 HP 2015/12/22)