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NPT による核軍縮・不拡散
平成 28 年 11 月 21 日 月曜 3 限
法学部 法律学科 24014029 畑克哉
2
<目次>
1.はじめに
2.NPT とは
3.NPT の特徴と再検討会議
4.再検討会議
5.NPT が直面する課題
6.最後に
1.はじめに
前回の報告では、核兵器の違法性を原爆判決と ICJ 判決から検討してみた。今回の報告
では現在の核兵器が政治的、軍事的に多大な影響力を持つ社会を秩序付けている NPT(核
不拡散条約)についてその概要と運用プロセスである再検討会議について報告したい。
2.NPT とは
NPT は 1968 年に署名が解放され、1970 年に発効された条約で、「核兵器の不拡散」、「核軍
縮」、「原子力の平和利用」を三本柱として運用している。
条文の構成は、前文と 11 条からなる条約で、前文では条約の目的と原則について触れて
いる。
第 1 条が核兵器国による核不拡散義務、第 2 条が非核兵器国による核不拡散義務、第 3 条
が非核兵器国の核不拡散義務を担保するための保障措置を規定する。保障措置とは、原子力
の平和利用を促進するために、原子力の破壊的利用を査察やその他の手段によって防止す
ることを意味する。これは IAEA の任務として実施されている。ここまでが核兵器国が NPT
の主なる目的とみなす核不拡散を扱う。
第 4 条の原子力の平和利用の奪いえない権利と協力、及び第 5 条の平和的核爆発は、非核
兵器国が原子力の技術を平和目的に利用するに当たっての権利を明文化している。
3
そして第 6 条では締約国が核軍縮のための条約について誠実に交渉を行う約束を規定して
いる。第 7 条では、非核兵器地帯のような地域的な取り決めについて言及している。この 2
条は核軍縮について言及している。
以上の条文が NPT 締約国の権利・義務関係構成する柱となっている。また第 8 条以下は手
続き事項に関する規定であり、第 8 条は条約の改正及び条約の再検討のための会議の開催
について、第 9 条は締約国の批准手続き及び核兵器国と非核兵器国の定義、第 10 条は条約
からの脱退と条約の延長に関する問題、そして第 11 条が条約の寄託を定めている。
3.NPT の特徴と再検討会議
NPT の締約国数は国連憲章に次いで多く、インド、イスラエル、パキスタン、南スーダン
などを除く 191 か国もの国が参加している。にもかかわらずこの条約は、核兵器の保有が
許される国を 1967 年までに核兵器を保有していた 5 カ国(米、露、中、仏、英)のみに限
定し、そのほかの国は核兵器を保有する権利、利益を破棄し、この条約を締結している。
NPT によって核兵器を「持てる国」は「持たざる国」に対して、安全保障戦略面で又は政
治的にも優位を得ている。非核兵器国はこのような不平等性を解消するための措置として、
第 6 条において核兵器国に対して核軍縮を約束させた。また核兵器国は非核兵器国に対し
て原子力の平和的利用に対しての技術の提供など原子力開発に協力的に取り組むことを約
束した。そして核保有国が核軍縮義務を実際に進めているかを定期的に確認するために 5 年
ごとに再検討会議が開催される制度が第 8 条に取り入れられた。
以下、再検討会議について 1995 年に行われたものから 2015 年に行われたものまで見て
いきたいと思う。
4.再検討会議
●1995 年再検討・延長会議
差別的性質を持つため、25 年間の有効という期限が定められていたため、その後どうす
るかを決める延長会議が開かれる。
・条約の無期限の延長を決定
・条約の再検討プロセスの強化—再検討の機会を増やし、再検討の内容の拡大
・核不拡散と核軍縮の原則と目標—条約への普遍的参加の重要性、不拡散のための条約の履
行、核軍縮措置としての①CTBT(包括的核実験禁止条約)の 1996 年中の完成、②FMCT(核
兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の即時交渉開始と早期締結、③核兵器削減の意思を持っ
た追求を勧告、さらに消極的安全保障、IAEA 保障措置の強化と効率化など
・中東決議—中東に核兵器や大量破壊兵器のない地帯を設置する努力を奨励
4
●2000 年再検討会議
過去の 5 年の評価と今後取るべき措置などを含む最終文書の採択に成功。最終文書とは
会議の合意事項をまとめ、全会一致で採択する合意文書である。
第 6 条の運用検討に関して、具体的な核軍縮措置、13 項目に合意
NAC(新アジェンダ連合)が中心的な役割を果たす。NAC の基本的な要求は「核兵器の全
廃を達成するという核兵器国の明確な約束」であり、単なる究極的目標であった核兵器の廃
絶を「明確な約束」として認識させた。これにより核兵器の廃絶から逆算した具体的な措置
を講ずることが可能になったといえる。
13 項目は CTBT の早期発効、FCMT の交渉開始、核軍縮の協議開始、安全保障政策における
核兵器の役割の低減、核兵器の運用状況の低下、非戦略核兵器の一層の削減などの措置を勧
告している。
このように、この会議自体は最終文書を採択し、一般的に成功に終わったと言える。しか
しこの会議後の 2001 年、米国でブッシュ政権が誕生したことにより、核兵器に関する環境
が大きく変化した。ブッシュ大統領により米国は国際協調よりも自国の国益を優先し単独
主義をとり、また国際法を中心とする国際規範よりも、軍事力に依存して問題の解決を図る
方法を好んだ。このため核不拡散を重視し、多国間による協力的な枠組みに基づく核軍縮に
は積極的な取り組みは行われず、2000 年の合意のいくつかが違反、無視されることとなっ
た。
●2005 年再検討会議
条約締結国であるイラク、イラン、リビア、北朝鮮などの条約違反問題、米国の単独主義、
国際規範の軽視などの問題がある中で開催された。
核不拡散だけを議論し核軍縮は議論しないという米国と、核軍縮も議論すべきだとする多
くの国が対立し、会議は決裂し失敗に終わった。
●2010 年再検討会議
2009 年に米国ではオバマ大統領が出現し、ブッシュ大統領とは異なる外交政策を展開し、
核軍縮を重要視し、核兵器のない世界を追求するために各国と協調することを約束した。こ
のような米国の積極的な態度を背景として、各国も極めて協力的に行動したため、最終文書
を採択することに成功し、今後の行動計画として 64 項に合意した。
その内容としては、核軍縮についてはオバマ大統領の主張する核兵器のない世界に向かっ
て努力することが一般に受け入れられ、核兵器禁止条約に注目が集まった。また核兵器使用
への人道的側面からの批判が広く共有され、使用禁止の方向が示され、安全保障政策におけ
る核兵器の役割の低減が勧告された。
しかしながら、これらの内容には 2000 年の再検討会議における合意と同じような内容の
5
ものが多く含まれている。これは 2000 年以降、一定の核兵器の削減を除いて、核軍縮の分
野でほとんど進展が見られなかったことの結果である。例えば CTBT の発効や FMCT の交渉、
安全保障の協議などは 2000 年の合意とほとんど同じ内容である。
今回の会議における新たな潮流としては、核兵器禁止条約が初めて議論され、核兵器の人
道的側面も議論に取り入れられたことが挙げられる。さらには核兵器のない世界という考
えが一般的に受け入れられた。
●2015 年再検討会議
被爆 70 年という節目の年で開催された再検討会議は最終文書を合意採択することができ
ずに失敗に終わった。合意できなかった理由は、中東情勢と核問題の複雑な関係などが挙げ
られる。また 2010 年の再検討会議で議論に挙がった核兵器の人道的影響に対する議論が盛
り上がったが、核兵器国とその核の傘の下にある同盟国が核兵器依存から脱却できない
国々として、それ以外の国々からの不信感が強まった。
5.NPT が直面する課題
現在、NPT が抱えている課題とは
① 核不拡散体制の強化
インド、イスラエル、パキスタン(非締約国)の核に対応すること。
北朝鮮、イランの核問題の平和的解決
② 核軍縮を具体的に進展させる。
③ 原子力平和的利用を核不拡散と調和させる。
主にこの 3 つであると言える。
—どのような取り組みが必要かー
① インド、イスラエル、パキスタンの 3 国は近い将来 NPT に加入するということは考え
られないので、これらの国が CTBT に署名し批准するように仕向けること、またこれら
の国を含めて FMCT 交渉を早期に開始すること、つまり間接的に核不拡散体制に取り
組むことが必要である。
次に北朝鮮、イランの核問題である。イランに関しては、イランの濃縮活動は平和目的
のものであり、イランは核兵器を保有する意図はないと自ら宣言していたが、IAEA の
情報によれば、イランの原子力活動がすべて平和利用であると確認出来ないと述べられ
ており、核開発疑惑がかけられ、国連の制裁と安全保障理事国とドイツとの交渉が行わ
れていた。そして 2015 年 7 月イランは米国と、制裁を解除する代わりにイランが保有
6
する濃縮ウランや核関連施設を縮小し、核爆弾をすぐには作れないようにすることで合
意を果たした。2016 年 1 月に IAEA はイランの各施設縮小を確認したと発表した。こ
れによりイランの核開発問題は解決に近づいたと言える。
北朝鮮に関しては、近年核実験が頻繁に行われており、早急に対処すべき問題である。
北朝鮮に対しては、個別国家による低レベルでの経済制裁は行われているが、国連によ
る全面的な制裁は中国の賛成が得られないだろうとされている。また北朝鮮が軍事的対
抗措置を講じる可能性もある。そのため、解決策としては 6 カ国協議や米朝 2 国間交渉
などによってイランのように平和的に解決するほかない。
② 核軍縮を具体的に進展させるには⑴核兵器の削減、⑵透明性の向上、⑶核兵器の役割
低減、⑷多国間核軍縮条約の推進といった 4 つのポイントに焦点を当ててみる。
⑴ 核兵器の削減
核兵器の総数は約 15350 発と言われており、その内訳は米国が約 6970 発、ロシ
アが約 7300 発、中国が約 260 発、フランスが約 300 発、英国が約 215 発、イン
ドが約 100〜120 発、イスラエルが約 80 発、パキスタンが約 110〜130 発である
と言われている(2016 年 3 月)
見ての通り米露の保有数は圧倒的であり、この二国が率先して核兵器を削減、廃
棄すべきである。戦略核兵器の削減に関しては 1991 年の START(戦略兵器削減)
条約で 6000 発に、2002 年の SORT(戦略攻撃力削減)条約によって 1700〜2200
発に、そして 2010 年の新 START 条約によって 2018 年までに 1550 発に削減す
ることが求められている。今後もさらに新たな条約によって削減を続けていくべき
である。次に非戦略核兵器あるいは戦術核兵器に関しては削減に消極的で米露双方
とも、各地に非戦略核兵器を配備している。これに関しても削減に向けて条約を成
立させるなどの交渉が必要である。
⑵ 透明性の向上
核兵器の削減について合意が得られても実際に検証措置を実施することが必要で
ある。検証措置を実施するとしても、対象となる核兵器や関連施設などに関する適
切な情報が当事国から提供されなければ、条約の履行に対する信頼性が得られない。
透明性の向上は関係国間の信頼醸成に寄与し、不透明性から生じる安全保障ジレン
マと、それによって生じる軍拡競争を抑制することができる。
現在、核軍縮、核不拡散における実施状況は当事国による定期報告という形が一
般的である。その際に、報告を求める項目を細かくし、さらに具体性を求めたり、
また核兵器や核戦略・政策に関する重要な用語を定義づけることで、核兵器につい
て共通の認識を持たせることによって透明性を向上させていくことが必要である。
7
⑶ 核兵器の役割低減
ここでは役割低減に関して 3 つの項目から考える
・消極的安全保障—核兵器国が非核兵器国に対して核兵器を使わない
米国はこの消極的安全保障を宣言しているが、将来的な生物、化学兵器の発展
によってはこの宣言を修正する可能性を留保している。一方、中国では核兵器
国の同盟国に対しても核兵器を使用することを旨の宣言をしている。
・先行不使用—核兵器を最初に使用しない
相互に先行不使用だと核兵器が使われることはない。
しかし、通常兵器や生物、化学兵器による攻撃に対して、核報復の可能性を残
すことで、非核攻撃を抑止するという考えがある。
・警戒態勢の低減
現在、核兵器国が保有する戦略核兵器は敵による核攻撃にすぐに反撃できるよ
う高度の警戒態勢に置かれているものが少なくない。
警戒態勢の解除・低減は事故や未承認、あるいは誤警報、誤判断での核兵器使
用を防止するといった理由に加えて、高度の警戒態勢の維持がもたらす先制攻
撃の懸念と誘因を低下させることで、危機安定性が高まり、また核兵器の削減
が促進されると考えられてきた。しかし逆に警戒態勢の解除によって、逆に敵
による先制攻撃を誘因したり、緊張状態の時に警戒態勢を高める行為が核兵器
使用の強い意思の表れと解釈され得ることから、むしろ安定性を脅かす可能性
があるともされている。
⑷ 多国間核軍縮条約の推進
CTBT は 1994 年に交渉開始され、1996 年に成立、署名のために解放されたが条
約の発効条件が厳しく、未だに発効されていない。インド、パキスタン、北朝鮮は
署名すらしておらず、米国、中国、イスラエル、イランなど署名はしたが批准をし
ていない国もいくつかある。
次に FMCT は 1995 年から交渉開始が決定されたが、当時、CTBT の交渉も行わ
れていたため、先延ばしとなり、現在まで交渉は行われていない。2009 年オバマ
大統領の出現により、交渉開始が提案されたが、パキスタンによる妨害によって合
意されなかった。
CTBT の早期発効、FMCT の早期交渉開始、締結が核軍縮の進展に大きく影響す
るであろう。
③ IAEA は原子力の平和利用の促進を主たる目的として設立されたが、それと同時に
原子力が軍事利用に転用されないように確保し検証するために保障措置を適用する
という重要な義務を持っている。この保障措置は加盟国の申告によるものであり、善
8
意が前提としてある。そのように不完全であったため、追加議定書によって保障措置
の強化が行われてきた。広い範囲での情報提供が義務付けられたり、査察官の立ち入
れる権限などの拡大がなされた。しかし追加議定書は新たな協定でありそれを受諾
する義務はないとし、受け入れない国もある。
保障措置の強化をすべての国に受け入れらせることで、原子力の平和的利用がよ
り促進され、核不拡散との調和もうまくとれるであろう。
6.最後に
以上に見てきた通り、NPT は国際社会の安全保障体制を秩序づけている条約であり、核
廃絶にむけて取り組んでいる。確かに冷戦期の軍拡競争のピーク時には米国は約 32040 発
(1966 年)、ソ連は約 40159 発(1986 年)の核兵器の保有数が推定されており、それに比
べると現在は総数でも約 15350 発と推定されておりその数はかなり減っているように見え
る。しかし、現実的に考えると核廃絶は難しいと思う。やはり核兵器を持っているのと持っ
ていないのとでは、軍事的又は政治的な影響が大きく異なってくる。また現在、核テロなど
の危険性もあり、核兵器国がそれを手放すとは思えない。さらに核兵器の廃棄にもそれなり
の費用と技術を要する。とりあえずは、これまでのように、またはこれまで以上に米露を中
心に核兵器を削減していくことが必要であろう。
参考文献
『NPT 核のグローバルガバナンス』編:秋山信将 岩波書店(2015)
『核軍縮と世界平和』著:黒沢満 信山社(2011)
『核軍縮入門』著:黒沢満 信山社(2011)
外務省 HP 核軍縮,・不拡散
<http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/index.html>

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NPTとは

  • 1. 1 NPT による核軍縮・不拡散 平成 28 年 11 月 21 日 月曜 3 限 法学部 法律学科 24014029 畑克哉
  • 2. 2 <目次> 1.はじめに 2.NPT とは 3.NPT の特徴と再検討会議 4.再検討会議 5.NPT が直面する課題 6.最後に 1.はじめに 前回の報告では、核兵器の違法性を原爆判決と ICJ 判決から検討してみた。今回の報告 では現在の核兵器が政治的、軍事的に多大な影響力を持つ社会を秩序付けている NPT(核 不拡散条約)についてその概要と運用プロセスである再検討会議について報告したい。 2.NPT とは NPT は 1968 年に署名が解放され、1970 年に発効された条約で、「核兵器の不拡散」、「核軍 縮」、「原子力の平和利用」を三本柱として運用している。 条文の構成は、前文と 11 条からなる条約で、前文では条約の目的と原則について触れて いる。 第 1 条が核兵器国による核不拡散義務、第 2 条が非核兵器国による核不拡散義務、第 3 条 が非核兵器国の核不拡散義務を担保するための保障措置を規定する。保障措置とは、原子力 の平和利用を促進するために、原子力の破壊的利用を査察やその他の手段によって防止す ることを意味する。これは IAEA の任務として実施されている。ここまでが核兵器国が NPT の主なる目的とみなす核不拡散を扱う。 第 4 条の原子力の平和利用の奪いえない権利と協力、及び第 5 条の平和的核爆発は、非核 兵器国が原子力の技術を平和目的に利用するに当たっての権利を明文化している。
  • 3. 3 そして第 6 条では締約国が核軍縮のための条約について誠実に交渉を行う約束を規定して いる。第 7 条では、非核兵器地帯のような地域的な取り決めについて言及している。この 2 条は核軍縮について言及している。 以上の条文が NPT 締約国の権利・義務関係構成する柱となっている。また第 8 条以下は手 続き事項に関する規定であり、第 8 条は条約の改正及び条約の再検討のための会議の開催 について、第 9 条は締約国の批准手続き及び核兵器国と非核兵器国の定義、第 10 条は条約 からの脱退と条約の延長に関する問題、そして第 11 条が条約の寄託を定めている。 3.NPT の特徴と再検討会議 NPT の締約国数は国連憲章に次いで多く、インド、イスラエル、パキスタン、南スーダン などを除く 191 か国もの国が参加している。にもかかわらずこの条約は、核兵器の保有が 許される国を 1967 年までに核兵器を保有していた 5 カ国(米、露、中、仏、英)のみに限 定し、そのほかの国は核兵器を保有する権利、利益を破棄し、この条約を締結している。 NPT によって核兵器を「持てる国」は「持たざる国」に対して、安全保障戦略面で又は政 治的にも優位を得ている。非核兵器国はこのような不平等性を解消するための措置として、 第 6 条において核兵器国に対して核軍縮を約束させた。また核兵器国は非核兵器国に対し て原子力の平和的利用に対しての技術の提供など原子力開発に協力的に取り組むことを約 束した。そして核保有国が核軍縮義務を実際に進めているかを定期的に確認するために 5 年 ごとに再検討会議が開催される制度が第 8 条に取り入れられた。 以下、再検討会議について 1995 年に行われたものから 2015 年に行われたものまで見て いきたいと思う。 4.再検討会議 ●1995 年再検討・延長会議 差別的性質を持つため、25 年間の有効という期限が定められていたため、その後どうす るかを決める延長会議が開かれる。 ・条約の無期限の延長を決定 ・条約の再検討プロセスの強化—再検討の機会を増やし、再検討の内容の拡大 ・核不拡散と核軍縮の原則と目標—条約への普遍的参加の重要性、不拡散のための条約の履 行、核軍縮措置としての①CTBT(包括的核実験禁止条約)の 1996 年中の完成、②FMCT(核 兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の即時交渉開始と早期締結、③核兵器削減の意思を持っ た追求を勧告、さらに消極的安全保障、IAEA 保障措置の強化と効率化など ・中東決議—中東に核兵器や大量破壊兵器のない地帯を設置する努力を奨励
  • 4. 4 ●2000 年再検討会議 過去の 5 年の評価と今後取るべき措置などを含む最終文書の採択に成功。最終文書とは 会議の合意事項をまとめ、全会一致で採択する合意文書である。 第 6 条の運用検討に関して、具体的な核軍縮措置、13 項目に合意 NAC(新アジェンダ連合)が中心的な役割を果たす。NAC の基本的な要求は「核兵器の全 廃を達成するという核兵器国の明確な約束」であり、単なる究極的目標であった核兵器の廃 絶を「明確な約束」として認識させた。これにより核兵器の廃絶から逆算した具体的な措置 を講ずることが可能になったといえる。 13 項目は CTBT の早期発効、FCMT の交渉開始、核軍縮の協議開始、安全保障政策における 核兵器の役割の低減、核兵器の運用状況の低下、非戦略核兵器の一層の削減などの措置を勧 告している。 このように、この会議自体は最終文書を採択し、一般的に成功に終わったと言える。しか しこの会議後の 2001 年、米国でブッシュ政権が誕生したことにより、核兵器に関する環境 が大きく変化した。ブッシュ大統領により米国は国際協調よりも自国の国益を優先し単独 主義をとり、また国際法を中心とする国際規範よりも、軍事力に依存して問題の解決を図る 方法を好んだ。このため核不拡散を重視し、多国間による協力的な枠組みに基づく核軍縮に は積極的な取り組みは行われず、2000 年の合意のいくつかが違反、無視されることとなっ た。 ●2005 年再検討会議 条約締結国であるイラク、イラン、リビア、北朝鮮などの条約違反問題、米国の単独主義、 国際規範の軽視などの問題がある中で開催された。 核不拡散だけを議論し核軍縮は議論しないという米国と、核軍縮も議論すべきだとする多 くの国が対立し、会議は決裂し失敗に終わった。 ●2010 年再検討会議 2009 年に米国ではオバマ大統領が出現し、ブッシュ大統領とは異なる外交政策を展開し、 核軍縮を重要視し、核兵器のない世界を追求するために各国と協調することを約束した。こ のような米国の積極的な態度を背景として、各国も極めて協力的に行動したため、最終文書 を採択することに成功し、今後の行動計画として 64 項に合意した。 その内容としては、核軍縮についてはオバマ大統領の主張する核兵器のない世界に向かっ て努力することが一般に受け入れられ、核兵器禁止条約に注目が集まった。また核兵器使用 への人道的側面からの批判が広く共有され、使用禁止の方向が示され、安全保障政策におけ る核兵器の役割の低減が勧告された。 しかしながら、これらの内容には 2000 年の再検討会議における合意と同じような内容の
  • 5. 5 ものが多く含まれている。これは 2000 年以降、一定の核兵器の削減を除いて、核軍縮の分 野でほとんど進展が見られなかったことの結果である。例えば CTBT の発効や FMCT の交渉、 安全保障の協議などは 2000 年の合意とほとんど同じ内容である。 今回の会議における新たな潮流としては、核兵器禁止条約が初めて議論され、核兵器の人 道的側面も議論に取り入れられたことが挙げられる。さらには核兵器のない世界という考 えが一般的に受け入れられた。 ●2015 年再検討会議 被爆 70 年という節目の年で開催された再検討会議は最終文書を合意採択することができ ずに失敗に終わった。合意できなかった理由は、中東情勢と核問題の複雑な関係などが挙げ られる。また 2010 年の再検討会議で議論に挙がった核兵器の人道的影響に対する議論が盛 り上がったが、核兵器国とその核の傘の下にある同盟国が核兵器依存から脱却できない 国々として、それ以外の国々からの不信感が強まった。 5.NPT が直面する課題 現在、NPT が抱えている課題とは ① 核不拡散体制の強化 インド、イスラエル、パキスタン(非締約国)の核に対応すること。 北朝鮮、イランの核問題の平和的解決 ② 核軍縮を具体的に進展させる。 ③ 原子力平和的利用を核不拡散と調和させる。 主にこの 3 つであると言える。 —どのような取り組みが必要かー ① インド、イスラエル、パキスタンの 3 国は近い将来 NPT に加入するということは考え られないので、これらの国が CTBT に署名し批准するように仕向けること、またこれら の国を含めて FMCT 交渉を早期に開始すること、つまり間接的に核不拡散体制に取り 組むことが必要である。 次に北朝鮮、イランの核問題である。イランに関しては、イランの濃縮活動は平和目的 のものであり、イランは核兵器を保有する意図はないと自ら宣言していたが、IAEA の 情報によれば、イランの原子力活動がすべて平和利用であると確認出来ないと述べられ ており、核開発疑惑がかけられ、国連の制裁と安全保障理事国とドイツとの交渉が行わ れていた。そして 2015 年 7 月イランは米国と、制裁を解除する代わりにイランが保有
  • 6. 6 する濃縮ウランや核関連施設を縮小し、核爆弾をすぐには作れないようにすることで合 意を果たした。2016 年 1 月に IAEA はイランの各施設縮小を確認したと発表した。こ れによりイランの核開発問題は解決に近づいたと言える。 北朝鮮に関しては、近年核実験が頻繁に行われており、早急に対処すべき問題である。 北朝鮮に対しては、個別国家による低レベルでの経済制裁は行われているが、国連によ る全面的な制裁は中国の賛成が得られないだろうとされている。また北朝鮮が軍事的対 抗措置を講じる可能性もある。そのため、解決策としては 6 カ国協議や米朝 2 国間交渉 などによってイランのように平和的に解決するほかない。 ② 核軍縮を具体的に進展させるには⑴核兵器の削減、⑵透明性の向上、⑶核兵器の役割 低減、⑷多国間核軍縮条約の推進といった 4 つのポイントに焦点を当ててみる。 ⑴ 核兵器の削減 核兵器の総数は約 15350 発と言われており、その内訳は米国が約 6970 発、ロシ アが約 7300 発、中国が約 260 発、フランスが約 300 発、英国が約 215 発、イン ドが約 100〜120 発、イスラエルが約 80 発、パキスタンが約 110〜130 発である と言われている(2016 年 3 月) 見ての通り米露の保有数は圧倒的であり、この二国が率先して核兵器を削減、廃 棄すべきである。戦略核兵器の削減に関しては 1991 年の START(戦略兵器削減) 条約で 6000 発に、2002 年の SORT(戦略攻撃力削減)条約によって 1700〜2200 発に、そして 2010 年の新 START 条約によって 2018 年までに 1550 発に削減す ることが求められている。今後もさらに新たな条約によって削減を続けていくべき である。次に非戦略核兵器あるいは戦術核兵器に関しては削減に消極的で米露双方 とも、各地に非戦略核兵器を配備している。これに関しても削減に向けて条約を成 立させるなどの交渉が必要である。 ⑵ 透明性の向上 核兵器の削減について合意が得られても実際に検証措置を実施することが必要で ある。検証措置を実施するとしても、対象となる核兵器や関連施設などに関する適 切な情報が当事国から提供されなければ、条約の履行に対する信頼性が得られない。 透明性の向上は関係国間の信頼醸成に寄与し、不透明性から生じる安全保障ジレン マと、それによって生じる軍拡競争を抑制することができる。 現在、核軍縮、核不拡散における実施状況は当事国による定期報告という形が一 般的である。その際に、報告を求める項目を細かくし、さらに具体性を求めたり、 また核兵器や核戦略・政策に関する重要な用語を定義づけることで、核兵器につい て共通の認識を持たせることによって透明性を向上させていくことが必要である。
  • 7. 7 ⑶ 核兵器の役割低減 ここでは役割低減に関して 3 つの項目から考える ・消極的安全保障—核兵器国が非核兵器国に対して核兵器を使わない 米国はこの消極的安全保障を宣言しているが、将来的な生物、化学兵器の発展 によってはこの宣言を修正する可能性を留保している。一方、中国では核兵器 国の同盟国に対しても核兵器を使用することを旨の宣言をしている。 ・先行不使用—核兵器を最初に使用しない 相互に先行不使用だと核兵器が使われることはない。 しかし、通常兵器や生物、化学兵器による攻撃に対して、核報復の可能性を残 すことで、非核攻撃を抑止するという考えがある。 ・警戒態勢の低減 現在、核兵器国が保有する戦略核兵器は敵による核攻撃にすぐに反撃できるよ う高度の警戒態勢に置かれているものが少なくない。 警戒態勢の解除・低減は事故や未承認、あるいは誤警報、誤判断での核兵器使 用を防止するといった理由に加えて、高度の警戒態勢の維持がもたらす先制攻 撃の懸念と誘因を低下させることで、危機安定性が高まり、また核兵器の削減 が促進されると考えられてきた。しかし逆に警戒態勢の解除によって、逆に敵 による先制攻撃を誘因したり、緊張状態の時に警戒態勢を高める行為が核兵器 使用の強い意思の表れと解釈され得ることから、むしろ安定性を脅かす可能性 があるともされている。 ⑷ 多国間核軍縮条約の推進 CTBT は 1994 年に交渉開始され、1996 年に成立、署名のために解放されたが条 約の発効条件が厳しく、未だに発効されていない。インド、パキスタン、北朝鮮は 署名すらしておらず、米国、中国、イスラエル、イランなど署名はしたが批准をし ていない国もいくつかある。 次に FMCT は 1995 年から交渉開始が決定されたが、当時、CTBT の交渉も行わ れていたため、先延ばしとなり、現在まで交渉は行われていない。2009 年オバマ 大統領の出現により、交渉開始が提案されたが、パキスタンによる妨害によって合 意されなかった。 CTBT の早期発効、FMCT の早期交渉開始、締結が核軍縮の進展に大きく影響す るであろう。 ③ IAEA は原子力の平和利用の促進を主たる目的として設立されたが、それと同時に 原子力が軍事利用に転用されないように確保し検証するために保障措置を適用する という重要な義務を持っている。この保障措置は加盟国の申告によるものであり、善
  • 8. 8 意が前提としてある。そのように不完全であったため、追加議定書によって保障措置 の強化が行われてきた。広い範囲での情報提供が義務付けられたり、査察官の立ち入 れる権限などの拡大がなされた。しかし追加議定書は新たな協定でありそれを受諾 する義務はないとし、受け入れない国もある。 保障措置の強化をすべての国に受け入れらせることで、原子力の平和的利用がよ り促進され、核不拡散との調和もうまくとれるであろう。 6.最後に 以上に見てきた通り、NPT は国際社会の安全保障体制を秩序づけている条約であり、核 廃絶にむけて取り組んでいる。確かに冷戦期の軍拡競争のピーク時には米国は約 32040 発 (1966 年)、ソ連は約 40159 発(1986 年)の核兵器の保有数が推定されており、それに比 べると現在は総数でも約 15350 発と推定されておりその数はかなり減っているように見え る。しかし、現実的に考えると核廃絶は難しいと思う。やはり核兵器を持っているのと持っ ていないのとでは、軍事的又は政治的な影響が大きく異なってくる。また現在、核テロなど の危険性もあり、核兵器国がそれを手放すとは思えない。さらに核兵器の廃棄にもそれなり の費用と技術を要する。とりあえずは、これまでのように、またはこれまで以上に米露を中 心に核兵器を削減していくことが必要であろう。 参考文献 『NPT 核のグローバルガバナンス』編:秋山信将 岩波書店(2015) 『核軍縮と世界平和』著:黒沢満 信山社(2011) 『核軍縮入門』著:黒沢満 信山社(2011) 外務省 HP 核軍縮,・不拡散 <http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/index.html>