2023年CFMD東京_PF発表会

1. C r e a t i v
e
S
e
l
f
自転車が拡張自己の一部
になっており、
・自転車に乗って釣り行く
・自転車に乗って買い物に行く
という、日常のルーチンが失われてしまった
ふらついてお風呂も入れない
夜も眠れない
何をやっても楽しくないし、やる気にならない
こんな生活だったら、生きていても意味ない
事例の経過
本人へのアプローチ
自転車に乗れることを目標に設定
・バランス訓練,筋トレを指導
・自転車で通院を推奨
事例：80歳代 男性
事例選択理由 本人の語り
〜めまい,ふらつき,動悸などの多彩な愁訴が高齢者の定形愁訴であると気づき、
失われた日常のルーチンを取り戻すサポートをすることで症状改善を得ることができた事例〜
受診は自転車で来てください Class of 2023
北足立生協診療所 日向 佑樹
身体症状に囚われ、多彩な愁訴で来院された患者に
対し、うつ病として診断治療を行いつつ、自己効力感
やidentityを保つような働きかけをすることが治癒に
繋がった事例。
指導医との振り返りをきっかけに、拡張自己の喪失,
主体の一貫性,老年期の課題を学ぶことができた。
・独居
・要介護1(週1ヘルパー利用)
・都営住宅に住んでいる
・元土建業→元タクシー運転手
自転車で転倒
⇨怖くて乗れなくなった
めまい、ふらつき
⇨救急車要請、異常なし
頭痛、動悸、胸痛も出現
⇨ドクターショッピング繰り返す
6M前
3M前
事例への対応
ケアマネと情報共有
器質的疾患の除外
認知症の評価
うつ病の診断・治療
⇨・デイサービスの利用を勧めても金銭面から拒否
・1週間前と言うことがコロコロ変わる
⇨・Treatable dementiaの評価
・採血(電解質,甲状腺),ホルター心電図,心エコー,頭部CT
⇨・HDS-R 25/30点,MMSE 26/30点
・MCIの可能性あり,今後の経過次第と判断
・抑うつ気分・興味の喪失
・睡眠障害・焦燥感・無価値感
・PHQ-9 20/30点
(カットオフ 10点)
⇨・うつ病(DSM-5より)/大うつ病性障害
2週間以上続く(
既往：高血圧
去年までは,自転車で毎日釣りに行っていた
釣り仲間もいたけど、連絡も取っていない
買い物も自転車で行っていたけど、今は行けない
自転車に乗れなくなってから、おかしくなった
指導医からのアドバイス
「これは不定愁訴ではなく、
高齢者の定型愁訴ですね」
PHQ-9 ：20点→8点まで改善
非特異的な症状の訴えもなくなった
徐々に自転車に
乗れるようになった
考察
月1ペースで定期通院中
本人にとって自転車に乗れないことは自分の足がなくなるのと似たような
感覚であり、それによってsocial capitalも失ってしまったことが、抑うつ症
状の一要因となったと考えた。Robert B.Taylor先生の老年期における課題で
挙げられたもののうち、「楽しみにしていることを維持すること」への課題
が、今回の壁となって立ちはだかったのだと思われるが、今後そう遠くない
未来に自転車に乗れなくなる日が来るため、そこでどのような対応が出来る
のか今後の課題である。これからも老年期のライフサイクル上の課題を構造
的に理解し、老年期を生きる患者の内実にせまるような家庭医になりたい。
<参考文献>・DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院
・池内 裕美,拡張自己の非自発的喪失に関する社会心理学的研究 : 阪神大震災における大切な所有物の喪失に関する実態調査結果より, 人間・環境学会誌, 1998, 5 巻, 1 号
・Diagnostic Principles and Applications: Avoiding Medical Errors, Passing Board Exams, and Providing Informed Patient Care
治療
・デュロキセチン20mgから開始
2週間後、40mgまで増量し継続
(抑うつ症状に加え、全身の痛みや手足の痺れ
の訴えもありデュロキセチンを選択)