2023年CFMD東京_PF発表会

1. 長男と電話相談
・介護を長男夫婦が担い、支えていることを承認
・介護の限界を感じていることへの理解を表明
・担当医として本人の意思も尊重したいことを共有
・いつでも入院できる準備を進めつつ、本人が納得
するまで、在宅療養が良いだろうと提案
・2-4週以内に動けなくなるだろう(目安を定時)
⇨①在宅療養継続を交渉し、承諾を得た
②入院準備を長女と進めるよう説得
(担当医との関係性を強化)
転帰
症状一時軽快したが
退院はできず
緩和ケア病棟は拒否
徐々に意識状態悪化
飼い犬, 桜の写真
を枕元に置く
院内のベランダ
で飼い犬と面会
食事は長男, 長女
が持ち込み
担当医(自分)
長男 長男嫁
平日夜
(泊まりがけで介護)
病院看護師 訪問看護師/ケアマネ
長女
老犬(17歳)
火・木チーム
もう介護の限界
入院させてくれ
本人の希望を
叶えたい
ひっくり返っても
犬と一緒がいい
買い物担当・土日付き添い
(介護力は乏しい)
月水金チーム
意思統一が困難な家族に巻き込まれながら終末期ケアを提供した事例
Class of 2023
北足立生協診療所 日向 佑樹
事例選択理由
家族関係の中に担当医の自分が巻き込まれる中で自分
自身が葛藤しつつ、奮闘した事例
「犬と一緒にいたい」という本人の希望を叶えられな
かった点で心残りもある事例
事例 80歳代女性 原発不明癌
家族図
2年前に原発不明癌と診断。リンパ浮腫による胸腹水のため
全身浮腫が悪化する度に入院と在宅診療を繰り返していた。
本人は老犬の世話をすることが重要であり、毎回家族や医療者
が説得して入院治療を繰り返していた。徐々に全身状態悪化。
下腿からリンパ液が常に漏れ、酸素需要も増大。犬の世話も出
来なくなり、トイレに行くのも、やっとな状態となってきた。
「絶対入院したくない、犬と一緒に
最期までいたい。桜が見たい。」
「もう自宅ではみられないから、入院
するように先生が説得して下さい」
「本人の好きなようにしてあげたい。
自宅で看取りたいので、長男に伝え
て欲しい」
家 族 面 談 叶 わ ず 個 別 面 談
本人：家族の意思決定やヘルスエキスパートの役割(一家の主)
几帳面で用意周到。
10年前に夫を介護して看取った
「ワンちゃんを看取るまで、私は死ぬ訳にはいかない」
体調悪化後、犬のための部屋で犬と一緒に生活
犬：17歳の老犬、慢性下痢のためオムツが必要
10年前から長女宅→患者本人宅へ
長女：犬を10匹飼育しており忙しい。長時間の介護は困難
「ここで、恩を返さないと」と思っている
自宅の引き継ぎ準備をしていたところ、突然長男が
同居すると言い出し姉弟仲が悪くなっている
長男：同居していたが、姉弟仲・嫁姑問題あり同居解消。現在
平日夜は本人宅に泊まり介護をしながら出勤している。
同居して元気な時は、毎晩本人と晩酌をしていた
長男嫁：火・木は朝から介護のために患者宅へ。義理姉とは不仲で
顔も見たくない。義理母との関係も上手くいかず、同居生活
解消。患者が通院していた時は付き添いもしていた。
「お手伝いはできますが家族のことは決められません。」
最後の療養場所への思いと現状の課題
長 男
本 人
長 女
長女と電話相談
・本人の意思を尊重するという方向性を共有
・安全や環境の面で問題がある現状を指摘
・介護の時間を増やせないか、相談
・在宅療養続けながら入院準備も必要と説得
・入院となった場合の犬の療養確保を依頼
・2-4週以内に動けなくなるだろう(目安を定時)
⇨①入院が必要となった場合の支援を依頼
②ケアの時間の確保を交渉
(コミットメントを高めるよう意識)
⇨犬の世話等自分で動こうとして、
転倒を繰り返し全身にあざが多発
⇨担当医やスタッフが長女の肩を
持って入院させないようにして
いると感じている
⇨実際に介護できる時間は2-3時間
家族面談は長男、長女それぞれから拒否
本人と面談
・入院の方が楽ではないか？と意思確認
・在宅療養のリスクを説明
・在宅療養を最大限支援することを共有
⇨(家族と相談の上)入院の方が明らかに
望ましい場合は、入院になることを共有
⇨在宅への意思固い
蜂窩織炎を発症
せん妄が出現
⇨緊急入院
⇨病院でお看取り
犬は長女の元へ
長男/長女の連携が増え、
関係性が改善した
考察
がん患者と伴侶動物(ペット)の関係
これまでの研究で、ペットは進行がん患者を
癒し、積極的な行動変容を促し、ウェルビーイ
ングを高めることが分かっている。本事例でも
長年連れ添った老犬によって本人の孤立感が緩
和され、他者には弱音を吐けなくとも、老犬に
は率直に感情を表現できるといった感情的支援
を提供していた。また、老犬の世話をすること
が日々の生活の活力にもつながっており、自分
の家族以上の存在であったと推察した。
一方で、その強力な愛着関係は進行がん患者
にとって、分離不安の高まりやニーズを満たせ
ないことによる自分の身体的限界の自覚を高め
るといったネガティブな影響も指摘されてお
り、本事例でも問題を複雑にしていた。これら
の悪影響は社会的支援へのアクセスによって軽
減されることが示されており、患者に何かあっ
たときの老犬の預け先を決定したことは、患者
にとって大きな意味をもった可能性がある。
本人、家族にとってのペットの重要性を認識
し、ACPにおいてもペットを考慮しつつ、必要
なサポートを提供する。
本事例のようなコンフリクトが生じた際は、
多職種で解決できるように、日頃からのケアの
チーム作りを行なっていきたい。
NEXT STEP
参考文献
1) McDaniel SH,松下明監訳,家族志向のプライマリ・ケア，丸善出版，2012
2) McGhee,et.al, The role of companion animals in advanced cancer:
an interpretative phenomenological analysis. BMC Palliat Care 21, 160, 2022.
家 族 志 向 性 ケ ア