新家庭医療ポートフォリオ_緩和ケア
- 1. ADL改善
本当に入院してもいいですか?
ご家族はまだ自宅で粘れると
おっしゃっていますけど。。。
帰るなら今しかないと思う
具合が悪くなったら、いつでも戻って
来てもいいですよ
#消化器症状(嘔気・嘔吐)
原因と対策
・低ナトリウム血症あり→生食点滴+フロセミド20mgで補正
・消化管閉塞の疑い→リンデロン4mg/dayで開始し、維持
・オピオイド副作用→オランザピン5mg内服
・腹水
→腹水穿刺(毎週)
→リンデロン4mg/dayで開始し、維持
→フロセミド20mg
Class of 2023
北足立生協診療所 日向 佑樹
事例選択理由
象のように死にたい
予後や今後の状況を予測した中で、患者家族の希望
を叶え、患者の苦しみを1つ1つ明らかにし、対処
することができた事例であるので報告する。
終末期
20〇〇年に健診で肝腫瘍を指摘され、精査したところ進行膵尾部癌、肝転移の診断。
化学療法(1st)を2ヶ月ほど治療するも効果得られず。二次治療を開始して2ヶ月ほど継
続出来ていたが、徐々に内服継続困難となり、治療開始から4ヶ月経過したところで、
抗がん剤治療中止。緩和ケア外来通院されていた。
来院3日前より腹水貯留によってADL低下し、身の回りのことが自立して出来なくなっ
てしまったため入院加療となり、入院主治医として担当することとなった。
60代女性Mさん 進行膵尾部癌、肝転移
入院時 再入院後
退院 グリーフケア
次女にこれ以上迷惑かけられない
介護の世話がないうちに入院したい
孫の顔はもちろん見たいですよ。
でも、それよりも家族に迷惑かけたくない
#疼痛コントロール
・セレコキシブ200mgを継続
・ヒドロモルフォン塩酸塩2mg
→オキシコドン10mg 持続皮下投与にスイッチング
#倦怠感・食思不振
・低ナトリウム血症治療
・リンデロン内服
#不眠
・ゾルピデム5mg内服
予後
数週間
今なら、帰れそうな気がする(本人)
是非、母を退院させてください(次女)
#黄疸
・ハッカ油塗布
#在宅療養準備
・オキシコドン持続皮下注
→CADDポンプへ変更
・訪問診療医へ情報提供
・訪問看護特別指示
・状態悪化時の頓服
<次女の出産予定日3日前>
次女出産
私の生まれ変わりみたいなものね
先生、孫の顔を見てちょうだい
次女に迷惑だから、体調悪く前の
今のうちに入院させてください
<次女の出産一週間後>
#疼痛コントロール
・オキシコドン流量調整
#内服、食事困難
・内服中止
予後
1-2週間
私は、母にも兄にも娘にも亡くなることを伝えていて、相続も
葬儀も全部伝えて理解してもらいました。孫も産まれるのを見届
けることができて、今は何も悔いがありません。お陰様で痛みも
苦しくもないですし、早く死にたいです。ちょうど良い季節です
し、他の新しいトラブルがない今のうちに死にたいです。
象は集団生活をしながら、自分の死期を悟ると森に行って一人
で誰にも迷惑をかけないように死ぬようです。自分もそんな賢い
動物でありたいと思いました。チーターは最期は餓死のように何
も食べずに亡くなると聞いて、自分もそうやって餓死のようにな
くなりたいなと思っています。でも、私はフルマラソンとかやっ
ていたから、筋肉がついちゃって餓死できないかも。でも、無理
してご飯を食べたり、水分を摂ったりしたくないです。無理せず
に水分だけ飲んで死にたい。
先生、
私の人生のことを聞いてもらえますか
「マラソンが好きでお気に入りのスニーカーとパーカーを一緒に入れ
ます。私と一緒に走ったマラソンが最後でした。
英語のハリーポッターをいつも読んでいて、仕事が気分転換だって言
いながら、ダブルワークをしていた活動的な母でした。病気が見つか
ったのが8ヶ月前で、その時にはもう手遅れで本当に驚きました。」
考察 & Next Step
娘の出産と自分の死期が重なり、最期まで娘に迷惑をかけたくない
という患者の思いを尊重しつつ、医師としてどうしたら患者の役に立
てるのかを考え、患者の苦しみを1つ1つ明らかにしていった。
マクウィニーが、「自分の患者にとっての癒す者になることは、患者
の苦しみに気づき認めることであり、病気が持つ患者にとっての意味
を理解することであり、患者が必要とする時間にそこにいることであ
り、患者に希望を与えることです」と記載があり、本事例によって、
医師である自分が「ただそこにいること(存在)」だけでも良いんだと
感じることができた。医師として、いつでも近くにいる存在であり続
けることの重要性を認識し、患者の苦しみに気づくことができる家庭
医になりたい。課題として、本人を支える次女や長女、母、兄への積
極的なアプローチをすることが出来なかったことが挙げられた。
参考文献:Thomas Freeman.Textbook of family medicine. 4th ed. Oxford University Press, 520p, 2016.