2017/03/01の三文会で使用したスライドです．

1. 2017-03-01 吉立開途 1
西川アサキ『魂と体、脳』
を読む(ことはできるか)
〜前編〜
吉立開途

2. 2017-03-01 吉立開途 2
魂と体、脳;
計算機とドゥルーズで考える心身問題
● 2011年，講談社
● 著者; 西川アサキ
● テーマ; 心身問題
● アプローチ; シミュレーション

3. 2017-03-01 吉立開途 3
魂と体、脳;
計算機とドゥルーズで考える心身問題
● 2011年，講談社
● 著者; 西川アサキ
● テーマ; 心身問題
● アプローチ; シミュレーション

4. 2017-03-01 吉立開途 4
タイトルとサブタイトル
●
『魂と体、脳』→一般的すぎる用語で？？？
●
「計算機とドゥルーズで考える心身問題」？？？？？

5. 2017-03-01 吉立開途 5
著者について
●
西川アサキ氏
– 1975年生まれ，神奈川県出身
– もともとは複雑系研究者だったらしい
(『魂と体、脳』編集者談)
– 単著は『魂と体、脳』『魂のレイヤー』の二冊のみ
青土社「現代思想」に論文が多数

6. 2017-03-01 吉立開途 6
序:何が本当に存在するのか？
● 心身問題;
脳とクオリア(本書では主観的経験とほぼ同義)の
関係を探る試み
● 心身問題の例;
「私の痛み/喜び」等を，言葉にして「痛い」「嬉しい」
ということは簡単．
しかし，この経験をダイレクトに他者へ伝える方法
はない．

7. 2017-03-01 吉立開途 7
序:何が本当に存在するのか？
● ゲームとして心身問題を捉えうる;
– 出発点として「本当に存在するもの」を選び，
そこから「本当は存在しないもの」を説明するゲーム
– 例; 脳を実体として選び，クオリアを説明
逆も考えられる

8. 2017-03-01 吉立開途 8
序:何が本当に存在するのか？
●
ライプニッツの考えたモナドロジー
– 『モナド』という主体を想定
– それぞれのモナドは夢のようなものを見ている
– しかし，別個のモナドが見る夢は一致している;
神が最初に完璧にモナドを調整したから
– さらに，神は最善の世界を設定したとも主張
●
この後たびたび登場するドゥルーズは
モナドロジーに対しては中途半端な態度

9. 2017-03-01 吉立開途 9
序:何が本当に存在するのか？
● ベルクソン(『魂と体、脳』では「ベルグソン」と表記)
によれば，意識は「不確実性の中心」=動物が外的
な入力を受け取って，それを承けた行動をとるまで
の「迷い」が意識
●
この『不確実性』はベルクソンの文脈でいう
「エラン・ヴィタール」と同義

10. 2017-03-01 吉立開途 10
第一部; 心身問題と中枢
この第一部では，主にライプニッツの「実体的紐帯」
という謎の概念を巡って西川の思考が述べられる．
そして，それがいかにして心身問題へと接続するか，
が解説されていると思われる．
アプローチとしては主に哲学的思弁である．

11. 2017-03-01 吉立開途 11
第一部; 心身問題と中枢
● 登場人物;
ライプニッツ(哲学者)
ドゥルーズ(哲学者)
ベルクソン(哲学者)
ブルックス(ロボット研究者)
川人光男(神経科学者)

12. 2017-03-01 吉立開途 12
モナドロジー

13. 2017-03-01 吉立開途 13
モナドロジー
出来事=クオリアの集合
モナド
強度=クオリアとそのフレーム
世界の分岐=可能世界
西川2011，46ppより発表者作成

14. 2017-03-01 吉立開途 14
モナドロジー
● 発表者(吉立)の解釈では，本来モナドロジーには
ア・プリオリな『世界』はないはずで，前スライドの図
はおかしい．
●
実は，これが後ほどになって出てくる「実体的紐帯」
の重要な導入になっていると思われる．

15. 2017-03-01 吉立開途 15
モナドと出来事
● 出来事=欲望機械
● 欲望機械でないもの;
コンピュータプログラムで考えると，
プログラムは普通，データとプログラム本体は
厳格に分離されている．
●
欲望機械は逆に，データとプログラムが渾然一体と
なっている(という西川の解釈)

16. 2017-03-01 吉立開途 16
「支配的モナド」
●
モナドロジーにはいくつか問題がある．
●
身体にもモナドがあるが，身体の部分にはあるのか
● (精神の)モナドは身体の「どこ」と予定調和するか
●
そして物質とモナドの関係は？
↓
これらに答えるのが
「支配的モナド」「実体的紐帯」
しかし，滅茶苦茶に難しい

17. 2017-03-01 吉立開途 17
「支配的モナド」の西川による注釈
支配的モナド

18. 2017-03-01 吉立開途 18
「支配的モナド」の西川による注釈
支配的モナド
矢印の起点が曖昧

19. 2017-03-01 吉立開途 19
「支配的モナド」
● この矢印の起点というものを考えてみる;
● このモナド間の支配-被支配の構造は，無限に続く
かもしれない．
● すると，結局「世界」(≒物質？――吉立)のはず
であった曲線は，モナド同士の支配関係に
解消されてしまう．

20. 2017-03-01 吉立開途 20
「支配的モナド」
●
さらに，支配的モナドといえど本来はその他モナド
に比べて特別というわけではない．
●
すると，なぜ支配的モナドは支配的モナドとなる
(西川は「相転移」という言葉を援用する)のか，
も問題となる．

21. 2017-03-01 吉立開途 21
「支配的モナド」
●
支配的モナドにまつまる問題は，
– 精神と物質の区別はどこから発生するか
– 支配関係はどこから生まれるか
●
西川はこれらを踏まえ，シミュレーションによる
創発現象から解答を与えようとする．

22. 2017-03-01 吉立開途 22
(「中枢」をつくるのではなく)
「中枢の出現という出来事」を作る
●
今度は「支配的モナド」に似たものを現実界で
探し，それを抽象化していく
●
「支配的モナド」に似たもの→『中枢』
●
中枢→身体に対しての脳，国家に対しての政府

23. 2017-03-01 吉立開途 23
「中枢の出現という出来事」を作る
●
中枢の仕様
– 複雑なシステムがあり，その中のある要素が
要素でありながら，全体の情報を持つ
– 他の要素に対しては命令を下す．
– (オプションだが)そのような中枢は多くの場合，
一個しかない

24. 2017-03-01 吉立開途 24
「中枢の出現という出来事」を作る
●
あくまでも目標は「中枢の出現」
●
中枢が自己組織化する過程を再現したい
– マルチ・エージェント・シミュレーションで
自己組織化させる

25. 2017-03-01 吉立開途 25
「中枢の出現という出来事」を作る
●
西川はまず，ロボット工学者のブルックスと
脳科学者の川人光男のアプローチを述べる．
– ブルックスは強化学習，
川人は論理記号主義的なアプローチ
– 西川はどちらがより良いかは
まだ言えないとしている
– Deep Learning が全盛期を迎えつつある今，
時代遅れな記述になった印象は否めない

26. 2017-03-01 吉立開途 26
「中枢の出現という出来事」を作る
●
ブルックスのアプローチ
– 何度も試行を繰り返し，その報酬に基づき
ランダムに行動を変える(強化学習)
– 全体として協調が創発する(自己組織化)

27. 2017-03-01 吉立開途 27
「中枢の出現という出来事」を作る
●
川人のアプローチ
– 脳内の計算過程モジュール間で
デッドロックが起きる
– 人間がチューニングしたパラメータを，
それぞれのモジュールに与える
– 上手いパラメータならばデッドロックは解消，
全体が動き出す

28. 2017-03-01 吉立開途 28
「中枢の出現という出来事」を作る
● 川人の仮説;
– 脳自体を学習する脳内モジュールが，
「自我」ではないか？
● 西川はこの川人仮説を元に，自我(=中枢？)を
シミュレーションで創発させられないか，
を試みていく

29. 2017-03-01 吉立開途 29
「中枢の出現という出来事」を作る
●
デッドロックが発生している
=互いの能力を必要とするモジュールのペアがある
●
互いの能力を「交換」すれば良い
●
ではどう「交換」するか？
→「信用」「一時的コピー」が必要

30. 2017-03-01 吉立開途 30
「中枢の出現という出来事」を作る
● 信用;
– たとえば，企業間取引で売掛金が発生
– これは交換が同時に行われないことに由来
– これを見えないように(=意識せずとも取引できる
ように)するのが「信用」

31. 2017-03-01 吉立開途 31
「中枢の出現という出来事」を作る
● 一時的なコピー;
– あるモジュールの能力を，どの別なモジュールが
必要とするかわからない
– モジュールの能力や要求を，一時的に記憶する
「キャッシュ」=一時的なコピーが必要

32. 2017-03-01 吉立開途 32
「中枢の出現という出来事」を作る
● シミュレーション・モデルの解説;
● 20体のエージェントから構成される
●
各エージェントはそれにしかない能力を持つ
●
各エージェントは別エージェントの能力を要求する

33. 2017-03-01 吉立開途 33
「中枢の出現という出来事」を作る
●
ランダムにエージェント二体を選んで協調させよう
としても，「両思い」になる確率は低いので，
なかなか協調しない．
●
そこで「信用」と「対話」を実装する．
– 「信用」;
一方的に能力を提供し，返礼されることを期待
– 「対話」;
信用に関する「噂話」を取引の前に行う

34. 2017-03-01 吉立開途 34
「中枢の出現という出来事」を作る
●
信用はインフレを起こすと無意味になる
● そのため，総和をエージェント数と同じ20とする
一種の保存則
●
第二部ではこの「保存則」が成立しない
モデルが考察される

35. 2017-03-01 吉立開途 35
「中枢の出現という出来事」を作る
● 噂話=対話から，相手が一定閾値以上の信用を
持つと判断したエージェントは，自分の要求を
叶えてくれずとも，相手の要求を一方的に叶える
→服従
●
この一定閾値は「従属閾値」
●
服従すると，自分はある能力を提供できる，という
情報と，自分の棚上げになった要求を
一時的なコピーとして相手に預ける

36. 2017-03-01 吉立開途 36
「中枢」の創発から
「支配的モナドの二重性」へ
●
以上の条件でシミュレーションする
●
特定のパラメータ条件下では中枢が創発する
●
とくに従属閾値とエージェント数がクリティカル
– エージェント数=50だと，従属閾値が10~13程度
でしか「唯一の中枢」はできない．
それ以下では複数の中枢が，
それ以上では中枢がそもそもできない

37. 2017-03-01 吉立開途 37
「中枢」の創発から
「支配的モナドの二重性」へ
●
支配的モナドに向かう矢印の起点は曖昧
– 支配的モナドの身体;
中枢に服従=従属するエージェントの群
– 身体の部分;
二層構造のシミュレーションなので，再現されず

38. 2017-03-01 吉立開途 38
「中枢」の創発から
「支配的モナドの二重性」へ
●
エージェントの数が多くなると，中枢は創発しない
●
これは中枢とはいえ，プログラムにランダムに
ピックアップされるので，エージェント数が増えれば
その確率が減るため
●
何か，中枢となったエージェントを優先的に選ぶ
仕組みが必要だが，そもそも中枢が「勝手に」
創発するのが目的だったので，とても不自然
●
この問題は第二部以降で展開される

39. 2017-03-01 吉立開途 39
前編(第一部)まとめ
●
西川は心身問題の思弁的アプローチから出発し，
ライプニッツ，ドゥルーズ，ベルクソンらを経由して，
「実体的紐帯」=支配的モナドに答える必要に直面
●
しかし，支配的モナドはあまりに抽象的で，
捉えがたいため，シミュレーションという斬新な
アプローチを採用する
●
全体として難解ではあるが，
丁寧に読めば読めなくはない(第一部に関しては)

40. 2017-03-01 吉立開途 40
To be continued!!