反転授業における
学生の事前学習の取り組み方
事前学習時間と成績に着目して
2018年6月10日(日) 13:20-13:40
大学教育学会第40回大会 於 筑波大学
◯京都大学大学院 教育学研究科 修士2年 澁川幸加
京都大学高等教育研究開発推進センター 田口真奈
1
反転授業における事前学習への取り組み方を
検討する必要性
事前学習 対面授業時のディスカッション
反転授業では事前学習時に
知識を習得する内化を行う
反転授業で対面授業を活性化するためには
事前学習の仕方を検討する必要がある(三保ほか, 2017)
反転授業
2
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
事前学習と対面授業あわせて内化と外化を往還させることで
深い理解・深い学習を促進できる(森 2017)
↔反転授業の事前学習の仕方に焦点を当てた研究は少ない
反転授業では対面授業時に
知識を活用する外化を行う
反転授業における
事前学習への取り組み方の内実
大山・根岸・山口(2016)
授業評価アンケート・学生6名へのインタビューをもとにケーススタディ
:事前学習への取り組み方として「ビデオ視聴」に着目
→視聴方法 / 視聴回数 / ビデオ教材を活用するメリット 等報告
→学生の理解に応じて,ただ視聴させるだけでなく,それを用いて
学習するような介入が必要と示唆
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
↔事前学習への取り組み方として「ビデオ視聴」に特化しており,
その他の取り組み方等詳細な学習プロセスは捉えきれていない。
そのため
↔どのような取り組み方が事前学習時の理解に有効であるか,
どのような事前学習への介入を教員がするべきかについては
検討の余地がある。
篠ヶ谷(2013)は
知識の習得や概念理解,学習成績
などを従属変数とした学習研究を
事前学習,本学習,事後学習
という学習フェイズに着目し
次の3つに分類した。
フェイズ不特定型
→学習フェイズを特定せずに,
使用する方略等に着目した研究
フェイズ特定型
→どの学習フェイズに着目している
かが特定できる研究
フェイズ関連型
→事前学習フェイズと本学習フェイズ
の関連について検討した研究
→事前学習フェイズに特化した
先行研究は少ないと指摘している。
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事前学習や予習への取り組み方を検討した研究は少ない
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
研 究 背 景 :
従来授業の「予習」と反転授業の「事前学習」の相違
5
• 篠ヶ谷は予習の効果を「事前に教科書を読む」文脈で行っている
• 知識の習得を行うプロセスは対面授業時に比重が高い
↔反転授業の「事前学習」と特徴が異なる
→反転授業の事前学習ではこれまでの予習研究と異なる取り組み方や
問題点が見られる可能性
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
事前学習フェイズ
本学習フェイズで学ぶ内容と同一,
もしくは関連する学習を行う
本学習フェイズ
テキストや他者の説明を理解し,
知識の習得を行う
反転授業
「事前学習」
講義映像の視聴
教員の解説による知識の習得
「対面授業」
知識の応用
外化
篠ヶ谷
フェイズ特定型
「予習」
教科書を読む
単語の意味を調べる
…等 関連知識の習得
「対面授業」
教員の解説による
知識の習得
研究背景:
事前学習への取り組み方の内実を把握する必要性
• 反転授業の事前学習だけでなく
従来の予習研究でも先行研究は多くない。
• 反転授業は従来の「予習」より多くの学習活動が
求められる一方で取り組ませ方や介入の在り方につ
いて議論は熟していない
↓
• 事前学習時の「取り組み方」の改善を考えるには
まず学生たちがどのように取り組んでいるのか
現状・内実を把握する必要性
• その後,どのような取り組み方や事前学習の
設計手法が有効か検討する必要がある。
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
研究目的
反転授業における事前学習への取り組み方の効果や課
題,求められる介入について示唆を得るべく
学生が反転授業でどのような事前学習を行っていたか
を明らかにする
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
京都大学・薬学部2年生を対象に開講された
生理学の授業を対象にケーススタディを行った。
本報告では
研究手法
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
事前学習への取り組み方と成績の関連(調査1:質問紙調査)
→そもそも分析対象とする科目で,事前学習に取り組むことが学習成果に
結びついていたのか捉える
→分析対象科目における事前学習時間と成績の関係を検討した。
事前学習への取り組み方の内実(調査2:学生インタビュー)
→なにを用いてどれくらいの時間を割いて何を意識して事前学習をしてい
たのか,学習プロセスの詳細を捉える
→分類した結果を元に学生5名へ事前学習への取り組み方について尋ねる
インタビュー調査を実施した。
従来の予習への取り組み方との相違点(考察)
→反転授業の事前学習の支援で留意すべき点について検討する
分析対象とする科目
• 京都大学薬学部2年対象の必修授業科目
「生理学2」
• 薬が作用する生体分子に関する膨大な知識を学ぶ。
• 習得型の反転授業
• 10〜15分程度の講義映像,図表等の配布資料,教科
書が
教材として提供されている。
• 事前学習への取り組み方について教員からの指示は
なかった
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
調査1-1:質問紙調査
調査の目的
分析対象とする科目で,事前学習に取り組むことが学習成果に結び
ついていたのか捉える
手続き
期末試験終了後91名の受講者に対して事前学習時間や
授業の感想等を問う質問紙調査を行った。
その結果,73名から回答を得られた。
分析手法
1. 事前学習時間と成績の相関を求め,分析対象とする科目におけ
る受講者全体の傾向を検討
2. 事前学習時間と成績の中央値を参考に学生を分類し,
ミクロな視点で見た受講者の傾向を検討
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
調査1の結果:
事前学習時間と成績の基礎統計量・相関
事前学習時間と成績の間で正の相関が見られた。 (r=.309, p<.01)
→先行研究の知見(Ryan & Raid, 2013)と合致した。
平均 中央値 SD
1週間あたりの事前学習時間 (分) 101.20 90 76.67
中間・期末テストの成績 (90点満点) 57.86 58 16.32
11
基礎統計量(n=73)
相関
一方で…
• 週に6時間以上事前学習に費やし,疲弊したと回答する学生
• 持続可能性を鑑みると,事前学習時間が多すぎることは
必ずしも見過ごせないのでは?
• 全体の傾向として正の相関が見られるだけで十分なのか?
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
調査1の結果:学生の類型
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事前学習時間 成績 N
ゼロ
低 (0〜30) 0
平均 (31〜60) 4
高 (61〜90) 0
短
(5〜60 分)
低 (0〜30) 2
平均 (31〜60) 18
高 (61〜90) 7
平均
(61〜120 分)
低 (0〜30) 1
平均 (31〜60) 12
高 (61〜90) 12
長
(121〜360 分)
低 (0〜30) 2
平均 (31〜60) 4
高 (61〜90) 11
よりミクロな視点で事前学習と成績の関係を捉えるため 中央値をもとに
事前学習→ゼロ・短・平均・長 成績→低・平均・高
に分け,組み合わせた12群に学生を分類した。
学習時間・短〜平均×成績・高
→生産性が高い
事前学習・平均以上×成績・低
→うまく学習成果へ繋がらない
事前学習・長×成績・高
→頑張りすぎて疲弊
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
調査1の結果:学生の類型
事前学習時間と成績の関係をもとに学生を類型した結果,
生産性の低い学生や頑張りすぎる学生の存在が見えてきた。
Critz & Knight (2013)
反転授業の学習効果を高めるために事前学習時間を増やす必要性を指摘
↔事前学習の時間と負荷を増やすだけでいいのか?
先行研究の傾向
「事前学習へ取り組まない学生に対していかに取り組ませるか」に
焦点を当てた示唆が多かった。
↔「取り組むようになった」次の段階も検討する必要
→学習効果を高め,負荷をかけすぎず,持続可能性のある
事前学習への取り組み方を支援する必要がある
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
調査2:学生インタビュー
学生がいかに事前学習へ取り組んでいたのか,どのような支援が必要か示唆
を得るべく,次の群に分類される学生へインタビューを依頼した。
→5名から協力を得ることができた。
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どのように事前学習へ取り組んだか・事前学習をした意義を感じたか等を
尋ねるインタビューを30〜45分間行った。
学生P 学生Q 学生R 学生S 学生T
性別 男 女 女 男 男
群
時間0×
成績平均
時間長×
成績低
学習時間長×
成績平均〜高
平均事前
学習時間
0
150
1時間30分
240
4時間
180
3時間
270
4時間30分
成績 平均 低 高 平均* 高
→本報告では事前学習時間の長い学生に焦点を当てる
協力者
手続き
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
* 要旨では学生Sを「成績高」と記述する誤植がありました。お詫び申し上げます。
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上位
カテゴリ
下位
カテゴリ
ラベル
時間長×
成績低
事前学習時間長×
成績中〜高
学生Q 学生R 学生S 学生T
ノートテイク
ノートの
整理
プリントやスライドの図を書き写す ◯ ◯ ◯ -
表を書く ◯ ◯ - -
スライドで色の付いている箇所にマーカーをする ◯ ◯ ◯ ◯
配布された資料をノートに貼り付ける ◯ ◯ - -
口頭で説明された内容を書き取る ◯ ◯ ◯ -
自主的にノートに色を区別して書き込む - ◯ ◯ -
ノートの
まとめ方
スライドと一字一句同じようにノートを取る ◯ - ◯ ◯
大事そうなところだけを要約してノートを作成する - ◯ - -
自分の言葉に言い換えてノートを作成する ◯ - - -
理解
方略
受動的方略 深く考えずにスライドの文字を書き写す ◯ ◯ - -
暗記方略 学習内容を暗記する - - ◯ ◯
推測方略
わからない事項を調べる ◯ - ◯ -
先生の意図を想像しながら取り組む - ◯ - -
事前学習
への認知
意義の認知
事前学習をした意義を感じる ◯ ◯ - ◯
事前学習を無駄だと感じる - - ◯ -
理解の
困難さ
学習内容で大切なことが何かを読み取ることが難しい ◯ - ◯ -
学習内容を理解しようと努力するが,理解できた実感がない ◯ - ◯ -
学習への
姿勢
記憶に残そうと意識して取り組む ◯ - ◯ -
内容を理解しようと意識して取り組む ◯ - ◯ -
自分でしっかり取り組もうと意識をして学習する ◯ ◯ ◯ ◯
調査2 の 結 果 ( 一 部 抜 粋 ) インタビュー結果を第一著者が帰納的に分類。
上位カテゴリ5つ,下位カテゴリ13つが生成された。
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
調査2の結果:
事前学習時間が長いが成績の低い学生の特徴
熱心なノート作り
• 適宜教員の口頭の解説をメモしながら
基本的にスライドの内容と同じようにノートに書き写す
• 急いでいるときは学習内容の理解よりも
スライドの文字を書き写すことを優先
事前学習の意義と実際の理解との乖離
• 学生Qは高校時代,生物を選択していなかった。
→理解に時間がかかった可能性
↔調査1の結果では,同様の学習経験でも好成績な学生もいた。
• 事前学習へ取り組むことは対面授業時の理解を深める点で
「意義がある」と述べた
↔ 事前学習の際に「理解できた実感はなかった」と述べていた。
→意義を感じるだけでなく質の伴った理解も必要 16
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
調査2の結果:
事前学習時間が長く成績が中〜高な学生の特徴
熱心で精緻なノート作り多数
学生Sは「どこを理解しないといけないのかがわからなかった」
ためにスライドと一字一句同じ様にノートをとった。
学生Rは時間がないときは内容の理解よりも書き写すことを優先
学習内容のポイントがわからない学生
学生S「どこをきっちりおさえるかとかどこを理解しないといけないのかってい
うのがわからなかった」
→理解できた実感が持てない
事前学習に対する認識
学生R「5時間は自分が理解するために必要な時間だった」
学生T:負担を感じたが「時間をかける価値はあったなと思う」
学生S「(事前学習は)本当無駄だった」
無駄だった理由:「知識を構造化できなかった」ことを指摘。
→徒労感で終わる事前学習は回避し,実行可能性を上げる必要性
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
事前学習時間が長い学生から
見えてきた事前学習設計への示唆
事前学習への取り組み方の指示をしない場合
✔授業内容の理解よりも精緻なノート作りを
優先する可能性
✔漫然と学習に取り組み,十分に学習内容を
理解できない可能性
↓
考えられる解決策…
事前学習時の学習目標を提示する
• 学生が理解すべき点が明確になり,学習内容の理解を促
進しうる
• 学生が負担になるほどの精緻な事前学習を防げうる
★これはインストラクショナルデザインの知見とも整合する 18
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
考察:従来授業の「予習」と「事前学習」の相違
事前学習フェイズ
本学習フェイズで学ぶ内容と同一,
もしくは関連する学習を行う
本学習フェイズ
テキストや他者の説明を理解し,
知識の習得を行う
反転授業
「事前学習」
講義映像の視聴
教員の解説による知識の習得
「対面授業」
知識の応用
外化
篠ヶ谷
フェイズ特定型
「予習」
教科書を読む
単語の意味を調べる
…等 関連知識の習得
「対面授業」
教員の解説による
知識の習得
19
冒頭にて
反転授業では事前学習時に 篠ヶ谷(2013)のいう
「本学習フェイズ」で見られるような取り組み方を含むと推測
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
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予習から授業理解に至る情報処理プロセス(篠ヶ谷 2013)をもとに解釈…
→反転学習の事前学習では従来授業の予習時・授業時の学習方略がみられた
考察:従来授業の「予習」と「事前学習」の相違
関連知識の
選択・獲得・
探索
情報の選択
情報の比較・統合
モニタリング
推測・推論
例)わからない
単語を調べる
例)教員の意図を
推測する
例)内容を理解しよう
と意識して取り組む
例)スライドを全て
書き写す
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
←「ポイントがわからない」
困難を感じる学生
↑「スライドを全て書き写す」
統合が非効率
目標の認識
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事前学習の課題として浮かび上がった取り組み方をこのプロセスに基づいて解釈…
→本調査では情報の選択・比較・統合において改善の余地があると示唆
→事前学習時に学習目標を認識することが学習内容の理解に重要だと示唆される
研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
まとめ
• 事前学習時間と成績には正の相関が見られるが,
中には生産性の低い学生や頑張りすぎる学生が存在した
→事前学習へ取り組むようになった次の段階の支援も検討する必要
• 生産性の低い学生・頑張りすぎる学生は漫然と学習したり,
学習内容の理解よりも精緻なノート作りを優先する傾向
• 篠ヶ谷(2013)のプロセスモデルに基づくと,
情報の選択・比較・統合のプロセスを支援する必要が示唆
→学習目標を提示することでより生産的な学習を促進できる可能性
今後の課題
 取り組み方と学習成果の因果関係を検討する
 学習成果へ繋がる教員の介入や授業設計を検討する
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研究背景 研究目的・手法 調査1:質問紙調査 調査1-2:学生の類型 調査2:インタビュー 考察
参考文献
Critz, C. M., & Knight, D. (2013) Using the flipped classroom in graduate nursing
education. Nurse educator, 38(5), pp. 210-213.
三保紀裕, 本田周二, 森朋子, 溝上慎一(2017). 反転授業における予習の仕方とアク
ティブラーニングの関連. 日本教育工学会論文誌. 40, p. 161-164.
森朋子 (2017) 「わかったつもり」を「わかった」へ導く反転授業の学び.森朋
子,溝上慎一(編)アクティブラーニング型授業としての反転授業[理論編],
ナカニシヤ出版,京都,pp.19-35
大山牧子, 根岸千悠, 山口和也 (2016) 学生の理解を深める反転授業の授業デザイ
ンの特徴: 大学における化学の授業を事例に. 大阪大学高等教育研究, 4, 15-24.
Ryan, M. D., and Reid, S. A., “Impact of the flipped classroom on student
performance and retention: A parallel controlled study in general chemistry”,
Journal of Chemical Education, 2015, vol. 93, pp. 13-23.
篠ヶ谷圭太(2013). 予習が授業理解に与える影響とそのプロセスの検討:効果的
な予習指導の実現を目指して. 東京大学教育学研究科総合教育科学専攻博士
論文.
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反転授業における学生の事前学習の取り組み方 -事前学習時間と成績に着目して-

Editor's Notes

  • #2 反転授業における学生の事前学習の取り組み方のタイトルで京都大学大学院修士2年の澁川が発表させていただきます。
  • #3 近年、高等教育では反転授業の実践が広まりつつあります。 反転授業では事前学習と対面授業あわせて内化と外貨を往還させていくことで,学習者の深い理解や深い学習が促進できると言われております。 また,この対面授業時の外貨を効果的に行い,活発に展開するには,事前学習の仕方を検討する必要があることが指摘されています。 しかし,これまでは従来授業と反転授業形式による学習成果の比較や対面授業時の学習効果に焦点を当てた研究が多く,反転授業の事前学習に焦点を当てた研究は,実践報告の数に対し少ない課題があります。
  • #4 事前学習の取り組み方して参考となるのが大山らの研究です。大山らは授業評価アンケートやインタビューをもとに反転授業実践のケーススタディを行っており,その中で事前学習への取り組み方として【ビデオの視聴】に着目しております。 そこでは視聴方法や〜などの報告や,学生の理解に応じてただ視聴させるだけでなく,それを用いて学習するような介入が必要と示唆をしていました。,s しかしこの研究では事前学習への取り組み方として〜 インタビュー:無作為抽出した6名の受講学生に,「授業の理解・反転授業のスタイル(ビデオの視聴及び授業内の取り組み)」という内容で30分のインタビュー 事前学習時のビデオ視聴,対面授業時のグループ学習の効果,学習コミュニティの形成,反転授業に対する意識(反転授業形式が自分に合っているか,学習を促進した要因は何か)について検討 ノートをまとめる・暗記するなど,どのような学習方法に時間を割いていたのか,何を意識して学習に取り組んでいたかなど,一人ひとりの詳細な学習プロセスについては捉えきれていない
  • #5 事前学習への介入を考える際に,従来授業でも行われている【予習研究】が参考になると思われますが,反転授業だけでなく従来の予習においても先行研究は少ないです。 篠ヶ谷は,知識の〜という学習フェイズに着目し,フェイズ不特定型,フェイズ特定型,フェイズ関連型の3つに分類しました。予習研究はフェイズ特定型の右図で赤く囲んだところになりますが,事前学習フェイズに特化した先行研究は少ないと指摘されています。
  • #6 さらに篠ヶ谷は予習の効果を「事前に教科書を読む」という文脈で行っており,知識の習得を行うプロセスは主に対面授業時に展開されていました。 一方で反転授業は知識の習得も事前学習に含まれるため,これまでの予習研究で見られたものとは違う取り組み方や問題点が見られる可能性があると推測されます。 この学習フェイズの枠組みに基づくと,反転授業の事前学習は対面授業より前に,「テキストや他者の説明を理解し,知識の習得を行う」本学習フェイズの要素を含んでいます。
  • #7 このように,反転授業のこのように,反転授業の事前学習では従来の予習研究でも先行研究は多くないこと,従来の予習より多くの学習活動が求められる一方で,その取り組ませ方や介入の在り方については議論が熟しておりません。 これらを考えるためには,まずそもそも学生がどのように取り組んでいるのか,その現状と内実を把握する必要があります。その後,どのような取り組み方や介入,設計が有効化検討していく必要があります。
  • #8 そこで本研究では,反転授業における事前学習への取り組み方の〜〜明らかにします。 そのために本報告では,
  • #9 具体的には,そもそも分析対象とする科目で〜検討しました。
  • #10 分析対象とする科目の詳細です。
  • #12 分析した結果です。基礎統計料はこのようになりました。相関を求めた所,正の相関が見られました。これは先行研究の知見と合致するものでありました。 その一方で授業の感想を見ていると,週に6時間以上… 反転授業は個人の理解に合わせて学習できる特徴がありますが,持続可能性を鑑みると,事前学習時間が多すぎることは必ずしも見過ごせない,全体の傾向として正の相関が見られるだけで十分とは言い難い問題があると思われます
  • #13 そこで,よりミクロな視点で事前学習と成績の関係を捉えるために,事前学習時間を〜〜の4つに,成績を3段階にわけ,その組み合わせである12群に学生を分類してみました。 その結果,事前学習時間が短い〜平均かつ成績が高い学生がおり,このような学生は生産性が高い取り組み方であったといえます。 しかし,事前学習へ取り組んでいるけれども単位を取得できないほど成績の低い学生や,成績は高いけれども「とにかく大変だった」と述べるほど,頑張りすぎて疲弊する学生の存在がいることが見受けられました 事前学習時間がゼロでも単位を取得できているものもいました。
  • #14 反転授業の学習効果を高めるために事前学習時間を増やす必要性を指摘する先行研究もありますが,このような生産性の低い学生や頑張りすぎる学生の存在を踏まえると,ただ時間と負荷を増やすだけでいいのか,いささか疑問です。 また,先行研究の多くは「事前学習をやってこない学生に対していかに取り組ませるか」に焦点を当てていました。もちろん「まずやってくる」ことは大変重要ですが,取り組むようになった次の段階も検討する必要があります。これを検討し,学習効果を高め,不可をかけすぎず,持続可能性のある…必要があります。
  • #15 そこで,特にこの様な特徴のある学生に注目し,いかに事前学習へ取り組んでいたのかを把握するべく,インタビューを依頼しました。今回は生産性の高い学生からは協力を得ることができず,予習をしていない学生1名,生産性の低い学生1名,頑張りすぎる学生3名の計5名から協力を得ることができました。本報告では事前学習時間の長い学生の結果に焦点を当て,予習をしていない学生の特徴は割愛します。 どのように事前学習へ取り組んだか, その結果今回は残念ながら ※要旨のうち,学生Sが学習時間長×成績高でなく成績中の間違いでした。(しきい値に近かったため,見間違えてしまいました。)
  • #16 インタビュー結果を機能的に分類した結果,上位カテゴリ5つ,下位カテゴリ13つが生成されました。詳細は要旨をご参照ください。
  • #17 学習経験の違いだけでは説明しきれない
  • #19 これらの
  • #20 それでは,反転授業の事前学習は従来の予習と何が同じで何が異なるのかを考察したいと思います。
  • #21 篠ヶ谷は予習時の学習方略,授業時の学習方略の関係をもとに,予習から授業理解に至るプロセスを示しています。 今回の調査で見られた事前学習への取り組み方を,篠ヶ谷が示した予習から授業理解に至るプロセスをもとに解釈してみると わからない単語を調べたり,教員の意図を推測したりする,予習時の情報処理プロセスに当てはまる取り組み方もあった一方で 内容を理解しようと意識して取り組んだりスライドを全て書き写すような,情報を選択・比較・統合・モニタリングする学習方略も見受けられました。
  • #22 さらに先程指摘した,事前学習時間の長い学生の課題を当てはめてみると,ポイントがわからないことは注意の焦点化がうまくできていないこと,スライドを全て書き写すというのは情報の比較・統合が非効率であるといえます。これらの方法の元をたどると,先程示唆として提示した「目標の認識」が効いてくるかもしれない,ということがわかります。 つまり,予習から授業理解へ至るプロセスを踏まえても,学習目標を認識することが学習内容の理解に重要であることが示唆されました。
  • #23 今後,事前学習への取り組み方と成績との関係性,教員の介入の効果などを見ていくことで ✔反転授業の事前学習時の学生の学習プロセスを明らかにすること ✔効果的な事前学習を促進するような教員の介入  について検討していきたい。