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PEEPや腹臥位に対する反応性と関連する肺リクルータビリティ。その指標となるR/I比の算出方法についてまとめています。動画の部分はリンクをご参照ください。
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Lung recruitability
1.
肺のリクルータビリティを 考える 集中治療科 鉄ノ肺 2021/5/31勉強会
2.
肺のリクルートメントとは • 炎症や気道分泌物による閉塞、重力効果などにより虚脱した肺 領域が、圧により開通して再度膨らむこと。
3.
病気の肺(コンプライアンス小) 気道 肺胞 つぶれている(虚脱肺) 正常肺は小さくなってしまっている ・小さくなった肺を膨らませるのは硬くて大変 ・つぶれた肺を膨らませるのにも相当な力が必要 呼吸仕事量 大 過剰なストレスがかかる部位
4.
PEEPをかけると・・・ PEEP ・膨らませて呼気終末に虚脱しないようにする! ・より小さい力で呼吸が出来る 呼吸仕事量が減る! 膨らんだ! 実際にはこんなに都合よ くいきませんが・・・
5.
いいことばかり? だったら全例に高PEEPかけるか? • 虚脱肺領域が膨らんでガス交換の改善、呼吸仕事量の軽減、 VILIの予防などの効果というメリットが考えられる • 反面、肺がパンパンになって換気が低下する過膨張、高PEEP による右心負荷増大、圧外傷などの悪影響もある
6.
なぜリクルートメントの反応が違う? 圧をかけて膨ら む余地がある 膨らむ余地が少ない
7.
なぜリクルートメントの反応が違う? 圧をかけて膨ら む余地がある 膨らむ余地が少ない リクルータビリティ大 リクルータビリティ小
8.
適切な症例にしっかりPEEPをかけたい • 適切な症例を区別するのがリクルータビリティ • リクルータビリティが小さい肺に高PEEPをかけると有害な側 面が目立つ
9.
また、腹臥位療法に関しても・・・ 大阪大学 吉田先生談 第42回呼吸療法医学会総会 •
リクルータビリティが小さい肺の方が腹臥位にしたときにP/F 比改善効果が大きい • 逆にリクルータビリティ大きい肺では腹臥位でのP/F変化が乏 しい
10.
また、腹臥位療法に関しても・・・ 大阪大学 吉田先生 第42回呼吸療法医学会総会 •
リクルータビリティが小さい肺の方が腹臥位にしたときにP/F 比改善効果が大きい • 逆にリクルータビリティ大きい肺では腹臥位でのP/F変化が乏 しい リクルータビリティ小の方が腹臥位効く?!
11.
リクルータビリティを知るメリット • PEEPをかけるべき/そうでない症例を見極める! • 腹臥位が効く症例/そうでない症例を見極める!
12.
リクルータビリティを知るメリット • PEEPをかけるべき/そうでない症例を見極める! • 腹臥位が効く症例/そうでない症例を見極める! え?
でも、どうやって?
13.
• 45人のARDS患者(P/F≦200、発症10日以内、自発なし) • 複数PV曲線法から算出したリクルータビリティとシングルブレス法 で評価したリクルータビリティとを比較 •
高リクルータと低リクルータにおけるPEEPに対する反応性の違いも 評価 Am J Respir Crit Care Med Vol 201, Iss 2, pp 178–187, Jan 15, 2020
14.
ΔVrecという指標 • PEEPを上げた/下げたときに呼気終末の肺容積が変化 (ΔEELV) • ΔEELVの中には単純に肺が伸びた分と、虚脱した肺が再開通 して膨らんだ分(リクルートメント量:ΔVrec)とが含まれる •
このΔVrecはリクルータビリティに関する重要な数値 • 今回の論文では2つの測定法のΔVrecの相関もみている
15.
ちょっとイメージしにくいですね PEEP up! Lower PEEP
Higher PEEP いずれも呼気終末の状態とします 呼気終末肺容積は増えます ΔEELV
16.
容積増加分を細かくみると・・・ PEEP up! Lower PEEP
Higher PEEP いずれも呼気終末の状態とします 単純に圧で引き 延ばされた部分 新たに開通 した部分 ΔVrec
17.
ΔVrecを算出する2つの方法 • 既存の複数PV曲線法 • それに対して新しく考案されたシングルブレス法 •
これらを比較していく内容になります
18.
複数PV曲線法(既存の方法) Flow 5L/minでゆっくりと膨らませて圧力と 肺容積変化の関係を描く スタート地点のPEEPを変えて 2つの曲線を作成(各PEEP数分間の呼吸後)
19.
複数PV曲線法(既存の方法) Flow 5L/minでゆっくりと膨らませて圧力と 肺容積変化の関係を描く スタート地点のPEEPを変えて 2つの曲線を作成(各PEEP数分間の呼吸後) あれ?同じ圧なのに 容積が違っている? リクルートメントが一切なければこの差は生まれない 同じ圧で同じコンプライアンスだと同じ容積にしか ならないはず 同じ気道内圧での肺容積の差がΔVrec
20.
複数PV曲線法(既存の方法) Flow 5L/minでゆっくりと膨らませて圧力と 肺容積変化の関係を描く スタート地点のPEEPを変えて 2つの曲線を作成(各PEEP数分間の呼吸後) リクルートメントが一切なければこの差は生まれない 同じ圧で同じコンプライアンスだと同じ容積にしか ならないはず 同じ気道内圧での肺容積の差がΔVrec リクルートされた部分のコンプライアンスが計 算できる Crec=ΔVrec/ΔPaw=143/(15-5)≒14
21.
複数PV曲線法(既存の方法) リクルートされた部分のコンプライアンスが計算できる Crec=ΔVrec/ΔPaw=143/(15-5)≒14 recruitment/inflation比=R/I比=Crec/Crs(lowerPEEP) 換気量が、すでに開いてる肺に使われるのか、虚脱した 肺をリクルートするために使われるのかという比率 例) R/I=1→baby lungの膨張と虚脱肺の膨張が同程度起こる *Crs(lowerPEEP):低PEEPでのコンプライアンス
22.
R/I比のイメージ inflation recruitment R/I比=Crec/Crs(lower PEEP)
23.
R/I比のイメージ inflation recruitment R/I比=Crec/Crs(lower PEEP) R/I比大きい:リクルートメントが起こりやすい R/I比小さい:リクルートメントよりも過膨張が起きやすい
24.
ここでちょっと違うパターン をみる必要があります 完全気道閉鎖の有無に注目する
25.
完全気道閉鎖がある症例 先程と全く同じ方法でPV曲線を作成
26.
完全気道閉鎖がある症例 先程と全く同じ方法でPV曲線を作成 低PEEPの曲線をみると、途中まで 呼吸器回路のPV曲線と一致している PV曲線が途中ま で上昇しない
27.
完全気道閉鎖がある症例 先程と全く同じ方法でPV曲線を作成 低PEEPの曲線をみると、途中まで 呼吸器回路のPV曲線と一致している 完全気道閉鎖がある! ある一定の圧までかからないと気道が開通しない この圧をairway opening pressure(AOP)という
28.
完全気道閉鎖がある症例 先程と全く同じ方法でPV曲線を作成 低PEEPの曲線をみると、途中まで 呼吸器回路のPV曲線と一致している 完全気道閉鎖がある! ある一定の圧までかからないと気道が開通しない この圧をairway opening pressure(AOP)という Crec計算にはPEEPlowではなくAOPを使用
29.
完全気道閉鎖がある症例 完全気道閉鎖がある! ある一定の圧までかからないと気道が開通しない この圧をairway opening pressure(AOP)という Crec計算にはPEEPlowではなくAOPを使用 Crec=ΔVrec/(PEEPhighーAOP)
30.
完全気道閉鎖の有無にご注意 • 実はCrec(リクルート領域のコンプライアンス)だけでなく、 あらゆる肺メカニクスのパラメータ計算において考慮すべき • PV曲線からR/I比、Crecを計算する場合、PEEPhigh>AOP、 PEEPlowの代わりにAOPを使用するという注意点
31.
複数PV曲線法のまとめ • 複数PV曲線を利用したΔVrec、Crec、ひいては肺リクルータビ リティの指標となるR/I比の求め方について示した • しかし・・・
32.
複数PV曲線法のまとめ • 複数PV曲線を利用したΔVrec、Crec、ひいては肺リクルータビ リティの指標となるR/I比の求め方について示した • しかし・・・ •
とにかくめんどくさい! • PV曲線を描いたり解析したり、専用の機械やソフトが必要
33.
そこで、シングルブレス法を 提唱 普通のレスピレータでベッドサイドで評価できる方法です
34.
シングルブレス法 • やりたいことは複数PV曲線法と一緒 • ただし、一回の換気でCrec、R/I比を測定できる点、どのレスピ レータでも可能で解析ソフトも不要 •
無料サイトでパラメータを入力すれば計算可能 • Step1でAOPを計算、Step2でR/I比計算という流れ
35.
Step1 AOPの計算 • VCで5L/minのかなりゆっくりな換気を一発入れる •
PEEPは5cmH2Oに設定、VTは6ml/kgPBW • 圧勾配が急に変わるところがあれば気道閉鎖がある!(AOP)
36.
Step1 AOPの計算(動画) https://crec.coemv.ca/
37.
Step2 R/I比計測 • VCで換気量は6ml/kgPBW •
PEEP15cmH2O(例)で換気(注:AOPよりも最低5cmH2Oは高い圧が必要) • RR8/minに落としてautoPEEPがないことを確認 • PEEPを10cmH2O下げる(例15→5cmH2O) • 呼気VTが1回ドバっと増えるところがある(ΔEELV) • PEEPlowの時のコンプライアンスからリクルートメントがないと仮定したとき の予測ΔEELVが計算可能。 • ΔEELVー予測ΔEELV=ΔVrec(リクルートされた量)となる
38.
Step2 R/I比計測(動画) https://crec.coemv.ca/
39.
Step2 R/I比計測(動画) https://crec.coemv.ca/ ポイントは、PEEP15→5に下げたときに、VTeが800mlに増加するところ! VT400mlの設定なのになぜ800mlになる? 理由は次ページ
40.
PEEP15→5に下げると・・・ PEEP15 EELVhigh PEEP5 EELVlow 肺はしぼんでEELVは減ります (ΔEELV) VT400ml VT400ml
41.
PEEP15→5に下げると・・・ PEEP15 EELVhigh PEEP5 EELVlow 肺はしぼんでEELVは減ります (ΔEELV) VT400ml VT400ml VTは400mlで一定 ここに肺がしぼんだ分のΔEELVが合わさって、 呼気VTが一回増加してみえる (400ml+ΔEELV) ΔEELV
42.
リクルートメントがないとき・・・ EELVlow PEEPlow PEEPhigh EELVhigh コンプライアンス:Cst Cst=ΔV/ΔPの関係から、ΔEELVは計算値として容易に予測できる 予測ΔEELV=(PEEPhighーPEEPlow)*Cst
43.
リクルートメントがあるとき! PEEPhigh PEEPlow EELVlow EELVhigh 実測ΔEELVはコンプライアンスに従って増加する分(予測ΔEELV)と リクルートメント分の総和 実測ΔEELV=(PEEPhighーPEEPlow)*Cst+ΔVrec コンプライアンス:Cst リクルートメント量:ΔVrec
44.
リクルートメントがあるとき! PEEPhigh PEEPlow EELVlow EELVhigh 実測ΔEELVはコンプライアンスに従って増加する分(予測ΔEELV)と リクルートメント分の総和 実測ΔEELV=(PEEPhighーPEEPlow)*Cst+ΔVrec コンプライアンス:Cst リクルートメント量:ΔVrec ΔVrecが計算可能
45.
まとめると • PEEPを一定値上昇させたとき、コンプライアンスから計算し た予測ΔEELVと実測ΔEELVがずれると・・・ • そのずれがリクルートメントされた量ΔVrec •
これをもとにCrec、並びにR/I比を計算する • 手計算は大変なので・・・
46.
親切なサイトがあります (https://crec.coemv.ca/)
47.
ここに値を入力すると自動計算
48.
ここで今回の研究に戻ります 脱線していたわけではないですが・・・
49.
研究プロトコール 16歳以上 P/F≦200のARDS 発症10日以内 持続鎮静でA/Cモード (自発なし) 複数PV曲線法と、 より簡便なシングルブレス法 とでリクルータビリティの評価に おける相関を調べた研究 45人
50.
Characteristics
51.
2つの測定方法によるΔVrecは相関する 線形回帰曲線 Bland-Altman plot 誤差の許容範囲
52.
ΔVrecが同じくらいでも・・・ ΔVrec 143ml Crec 14ml/cmH2O ΔVrec
191ml Crec 60ml/cmH2O
53.
ΔVrecが同じくらいでも・・・ ΔVrec 143ml Crec 14ml/cmH2O ΔVrec
191ml Crec 60ml/cmH2O 完全気道閉鎖の有無による!
54.
R/I比の測定結果 • 測定できたのは41人 • R/I比中央値0.5(範囲:0~2.0)をカットオフにした •
R/I比≧0.5を高リクルータ、R/I比<0.5を低リクルータとした • 高リクルータ:平均R/I比0.9(±0.39) • 低リクルータ:平均R/I比0.3(±0.15)
55.
リクルータビリティ別のPEEP反応性 R/I比≧0.5:高リクルータビリティ、R/I比<0.5:低リクルータビリティ > > <
56.
リクルータビリティ別のPEEP反応性 R/I比≧0.5:高リクルータビリティ、R/I比<0.5:低リクルータビリティ > > < 高リクルータビリティ群でのみ高PEEPで有意に酸素化が改善 一方、低リクルータビリティ群では高PEEPで収縮期圧が有意に低下
57.
低PEEPでのP/Fが低いほどR/I比高い 低PEEPでの死腔換気率が高いほどR/I比高い R/I比が高いほどSpO2の上昇がよい (PEEPへの反応) R/I比が高いほど死腔換気率の減少が大きい (PEEPへの反応) 気道閉鎖あり 気道閉鎖なし A C
58.
分かったこと • 中等症以上のARDSで完全気道閉鎖は珍しくない (肺メカニクスや肺リクルートメントの評価に加味すべき) • シングルブレス法はリクルートメント評価として正確で信頼できる •
R/I比はPEEPに対する反応性が異なる群を見分ける • R/I比は酸素化と死腔換気率と相関する (ベースラインでも、PEEPに対する反応でも)
59.
注意 • R/I比から割り出した高リクルータビリティ群はPEEPに対する 反応がよいということは分かった • ただ、そのような群に高PEEPをかけて過膨張を起こさないと いうことは保証されない
60.
limitation • PEEP変化10cmH2Oでしか評価出来ていない • PEEPhigh<AOPで4人がリクルータビリティ分析出来ず (PEEPhighの設定に注意) •
生物学的、あるいは画像所見による裏付けがない • リクルートメントの局在やポジショニングの効果が未評価
61.
全体のまとめ • 誰に高いPEEPをかけるべきか、あるいは腹臥位をすべきかと いう意味でリクルータビリティは重要 • リクルータビリティは単純な酸素化や画像でみるのではなく、 R/I比でみるのが正確 •
シングルブレス法が便利 • 肺メカニクスも含めてこうした評価にはAOPを意識することが 重要(ミスリードを生む可能性)
62.
完
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