間質性肺炎と遺伝子
一宮西病院 研修医1年目 鵜飼 雄哉
なぜ遺伝子の知識が
重要なのか?
・診断ではなく病態に基づく治療選択
・従来の病理や画像診断では病態の把握は難しい
・ハイスループットな次世代シークエンシングの登場
2007年10億塩基(1 Gb)/回→2011年1000億塩基/回
・遺伝子解析がより身近に
遺伝子による病態把握へ
今回は研究が進んでいる肺線維症を中心に
そもそも遺伝子とは、、、、
実際に機能する道具設計図
遺伝子→タンパク質の設計図
→機能を規定する
遺伝子異常≒機能異常
http://www.drgelo.club/?p=443
IPFに発症に関与する遺伝子
~機能の大まかな分類~
・免疫防御
・Telomere 長の維持
・細胞接着
・サーファクタントの分泌
N Engl J Med 2018 Aug 23;379(8);795
免疫防御の遺伝子
・Mucin 5B(MUC5B)
・ELMO Domain Containing 2(ELMOD2)
・ATPase phospholipid transporting 11A (ATP 11A)
・Toll interacting protein(TOLLIP)
MUC5B
・粘液のグリコシル化高分子成分のムチン5Bをコード
・気道の粘液産生に必須
・肺における宿主免疫でも重要
・IPFの患者では過剰発現の傾向
・rs3505950のSNPがリスク因子とされている
・後ろ向き研究でMUC5B genotype によって予後異なる JAMA 2013 Jun 5;309(21):2232
N Engl J Med 2018; 379:2209-2219
MUC5B-IPF以外でも
線維化に関与の可能性
・RA-ILDにおいてrs35705950はUIP pattern のリスク因子
・強皮症やサルコイドーシスではリスク因子にはならない
・rs35705950の存在=線維化の病態とは言い切れない
N Engl J Med. 2018 Dec 6;379(23):2209-2219.
Thorax. 2013 May;68(5):436-41.
ELMOD2遺伝子
・ウイルスに対する免疫応答に関わる遺伝子
・TLR3経路はELMOD2に依存
・IPF肺でmRNA発現が優位に減少
FASEB J. 2010 Apr;24(4):1167-77.
免疫応答
https://www.natureasia.com/ja-jp/jobs/tokushu/detail/292
Telomere長の
維持に関与する遺伝子
・Telomerase reverse transcriptase(TERT)
・Telomerase RNA component(TERC)
・Polyadenylate-specific ribonuclease(PARN)
・Regulator of telomere elongation helicase 1(RTEL1)
・Olliginucleotide/oligosaccharide-binding fold-containing protein 1(OBFC1)
N Engl J Med 2018 Aug 23;379(8);795
末端複製問題
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/6/62/Telomere_scheme.png
R
N
A
RNA分だけ短縮していく
TERT/TERC
テロメア―ゼ逆転写酵素
・肺線維症患者でテロメア末端の短縮を認める
・家族性間質性肺炎患者の約15%で変異を認める
http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~jnakayam/_src/sc734/pubj12.pdf
・RNA→DNA
・逆転写酵素を用いてTTAGGG配列で伸長する
Int. J. Mol. Sci. 2019, 20(12), 2996
テロメアの短縮により起こる疾患
・先天性角下不全症
(A)舌白板症
(B)爪ジストロフィー
(C)(D)網様皮膚の色素沈着
https://www.uptodate.com/contents/images/PEDS/76566/Dyskeratosiscongenita.jpg
・先天性造血不全症候群
・X連鎖性遺伝形式
・家族性の肺線維症を合併することあり
テロメアの短縮により起きる疾患
・食道狭窄
・歯周病
・免疫不全による繰り返す腸炎
・低身長、性腺機能低下症
・肝線維症、肝硬変
・血管奇形
・骨粗鬆症
・若年からの白髪
・認知発達障害
細胞接着関連タンパク質
・Desmoplakin(DSP)
・A-kinase anchroring protein 13(AKAP13)
・Alpha catenin(CTNNA)
・Dipeptidyl peptidase 9(DPP9)
N Engl J Med 2018 Aug 23;379(8);795
細胞接着関連タンパク質
• 細胞接着により生じるシグナル伝達
• 細胞の生存に必要
• シグナルを得られない細胞はアポトーシス
• 不要な細胞が淘汰される
• 組織秩序が保たれる
サーファクタントに
関与する遺伝子
・Surfactant protein-C(SEPTC)
・Pulmonary-surfactant associated protein A(SFTPA-2)
SP-C遺伝子
・天然サーファクタントのタンパク質成分をコーディング
・膜貫通ペプチド
・サーファクタントの単分子膜を安定化
・成人発症家族性IIPsではSP-C遺伝子SNPが関連の可能性あり
SP-C遺伝子(N138T,N186S)
・家族性間質性肺炎患者 21例中11例に認める
・考えられる機序
前駆SP-C蛋白が細胞内で凝集
↓
肺胞腔への分泌が障害される
小胞体ストレスをもたらしアポトーシスを誘導する
Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi. 2011 Jun;49(6):419-25.
SFTPA2遺伝子
・肺サーファクタント関連タンパク質をコード
・SFTPA2変異は3例/39例の家族性間質性肺炎患者でみられた
・孤発性間質性肺炎では1例/118例でみられた
Am J Respir Crit Care Med. 2015 Nov 15;192(10):1249-52.
間質性肺炎における
遺伝子発現の変化
トランスクリプトーム解析
・単一の遺伝子のみで起こる疾患は稀
・ヒトには約20000の遺伝子
・発現の組み合わせと量とタイミングの変化が重要
・疾患の遺伝子的な特性が分かる
・治療標的やマーカーとなりうる
転写=transcription
ゲノム=genome(すべてのDNA)
→transcriptome(転写物のすべて)
タンパク質=protein
ゲノム=genome
→proteome
・遺伝子発現ですべてが決まるのではなく
・その先のタンパク質の相互作用が生命現象を引き起こすので理想はプロテオーム解析
・実際は予算とタンパク質自体の扱いの難しさがある
マイクロアレイ
https://lifescience-study.com/2-comprehensive-analysis-of-gene-expression-microarray-method/
家族性IIPsと孤発性IIPsの
トランスクリプトーム解析
共通して発現上昇
・ECMのターンオーバーに関係する遺伝子
・ECM構造構成要素、ECM分解に関係する遺伝子
・細胞接着分子
・ケモカイン(CCL13、CXCL12、CXCL14)と受容体
・補体成分
・凝固
・細胞増殖および細胞死に関わる遺伝子
・Wntシグナル経路の遺伝子
BMC Med Genet. 2017 Aug 18;18(1):88.
IIPsの網羅的遺伝子解析
・98の遺伝子が発現上昇
細胞間接着遺伝子(DSG3,PCDHG49,DDR1)
細胞外マトリックス遺伝子(COL7A1,CNTNAP3B,MUC1)
細胞周期、細胞増殖に関わる遺伝子(CDC25C,GFI1B)
・癌で見られるような遺伝子の発現上昇
Am J Respir Crit Care Med. 2007 Jan 1;175(1):45-54.
がん細胞でみられる遺伝子
癌細胞の分子細胞学的特徴
・細胞の内外から送られる増殖シグナルを無視する
細胞内→細胞周期・アポトーシスに関わる遺伝子
細胞外→細胞外マトリックス、細胞接着に関わる遺伝子
・アポトーシス回避
・複製に伴う老化の回避→テロメア遺伝子
・遺伝的に不安定
・浸潤→細胞外マトリックス、細胞接着に関わる遺伝子
・転移→細胞外マトリックス、細胞接着に関わる遺伝子
肺線維症と遺伝子 まとめ
まとめ
遺伝的感受性 免疫(MUC5B、TOLLIP等)サーファクタント(SP-C)、テロメア(TERT等)
繰り返すダメージ 化学物質、粉塵、自己免疫、感染
活性化 凝固カスケード、抗酸化経路、循環性繊維細胞、マクロファージ
バランスの崩壊 線維化メディエーター(CTGF、TGFβ、PDGF、Fxa、VEGF) 抗線維化メディエーター(PGE2、IFNγ、HGF)
内皮細胞・上皮細胞の
変化
形質転換、細胞増殖、アポトーシス、細胞外マトリックスの代謝亢進
線維化 過剰な細胞外マトリックス沈着・癌細胞化癌化
ご清聴ありがとうございました

IPF and Mutation